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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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    ★    ★    ★
 
『ようし、それじゃあ始めようか
 蒼空学園のイコン訓練場に響き渡る声で、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)バルムングの中から言った。
 バルムングは、最新のデータから作られたスフィーダタイプのイコンだ。現在は人形形態で猪川勇平がたった一人で操縦している。
 模擬戦の相手をするのは、ノーマルタイプのクェイルだ。こちらには、蒼魔 綾(そうま・あや)がパイロット、神崎 荒神(かんざき・こうじん)がサブパイロットとして搭乗している。
「どうだ、いけそうか?」
「うん、なんとか大丈夫だよ」
 神崎荒神に聞かれて、ちょっとおぼつかない口調で蒼魔綾が答えた。とはいえ、イコン関連は神崎荒神の方が苦手としているので、訓練は蒼魔綾に任せている。
 双方とも、なんとも危なっかしいところがあるが、性能30%のピーキーな新型機と、初心者とはいえサポートのついたベーシックな第一世代機と言うことで、なんとなくバランスはとれている。
『それじゃ、まずはそちらの射撃からでどうぞ』
 格闘戦に特化させたスフィーダと、射撃オンリーのクェイルなので、双方違うタイプの敵の攻撃を避けてどうやってこちらの攻撃を当てるのかという訓練をすることになっている。
よっしゃ、行こうか
 神崎荒神が蒼魔綾をうながす。
『じゃ、いきまーす』
 腰撓めにアサルトライフルを構えると、蒼魔綾が敵をターゲットポジションに捉えた。
「えっと、クロスゲージ中央に捉えて、トリガーを引いて……」
 なんとも心許ない感じで、蒼魔綾が攻撃を開始した。
 一方の、猪川勇平の方も万全というわけではない。
「くそ、パワーがありすぎる……」
 地上すれすれをフローターとブースターで浮遊移動する機体を、猪川勇平は必死に制御しようとしていた。
 人形と言っても、スフィーダは華奢すぎて肉弾戦むきとは言えない。そのため、歩行よりは、浮遊移動の方が適している。だが、その分、取り回しの感覚が独特で、操縦が難しい。それを一人で制御しようとするのだからなおさらだ。
「ばらまけ」
 神崎荒神がアドバイスした。
 蒼魔綾がマシンガンを持つマニピュレータを不安定にして、弾を散らす。
『今度はこちらの番だ』
 ブースタージャンプして攻撃を避けた猪川勇平が、スフィーダソードを抜いて振り上げた。
「避けられるかな」
 逃げるしかないだろうと、猪川勇平が勝ったつもりになった。
「嫌ー!」
 蒼魔綾が、スナイパーライフルを振り回してスフィーダソードを弾く。
「それ、銃だから、剣じゃないから!」
 神崎荒神が叫んだが、やっちまったものはしょうがない。
 
「なんなんだ、あの戦いは……」
 訓練場が見渡せる観覧席でオプシディアンが呆れたように言った。
「片方は、見たこともない最新型のようですけれど、いやはや……」
「あんな動きで。ただの見てくれだけの子供だましだろう」
 がくがくした動きのスフィーダを見て、オプシディアンがジェイドに言った。
「いずれにしても、新しいイコンはやっかいですね。情報を集めるとしますか」
「まあ、お前のは派手に壊れたからな」
 肩をすくめるジェイドに、オプシディアンが含み笑いを隠しながら言った。
「怒りますよ……」
 
    ★    ★    ★
 
「ありがとうございましたー」
 竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)が、最後のお客を見送った。
 おんぼろ宿屋を改造して正月三日から始めた雑貨屋『いさり火』ではあるが、近所の人たちが買いに来てくれるので、とりあえずは順調のようだ。
「やれやれ。みんな今日も一日御苦労様でした」
 竜螺ハイコドが、店を手伝ってくれた藍華 信(あいか・しん)たちに言った。
「まだですわ。まだうさぎさんたちのお手入れが残っています」
 のんびり落ち着こうとする竜螺ハイコドたちに、白銀 風花(しろがね・ふうか)が言った。わたげうさぎ獣人の白銀風花にとっては、一緒に暮らしていたわたげうさぎたちは姉妹も同然だ。
「そうだった、そうだった。ちゃんとブラッシングして、んー、そろそろ爪も切ってやらないとな」
 そう言って、藍華信が兎用の爪切りを取りに行く。
「こっちでもふもふ、いや、ブラシでシュッシュすればいいのだな」
 店の隣の兎部屋に移って、エクリィール・スフリント(えくりぃーる・すふりんと)が言った。適当なわたげうさぎを捕まえて、金ブラシで余分な家を取ってやる。もこもこの綿毛兎は、こうやって毛の手入れをしてやらないと、大変なことになってしまう。
「ああ、それにしても、このもふもふ感、たまらぬのう」
 うっとりとしながら、エクリィール・スフリントがわたげうさぎをだきしめた。
「これこれ、だきしめているばかりでなく、ちゃんとブラッシングしなさいよ」
 わたげうさぎをだっこして爪を切りながら、藍華信がエクリィール・スフリントの方を見た。そのおでこが、キランと光る。
「ああ、いつ見てもりっぱなデコ娘だわ。思わず……」
 言うよりも早く、藍華信が本能的にエクリィール・スフリントをデコピンする。
「あいつー。何をするのじゃ! くぉら、信! デコ娘言うのはやめい!!」
 おでこに手を当てて怒るエクリィール・スフリントの腕の中から、だいていたわたげうさぎが逃げだした。その拍子に、藍華信が爪を切っていたわたげうさぎを踏んづける。爪の位置がずれ、深爪で血が出た。
「大変!」
 藍華信が、あわてて止血剤を爪にまぶす。
「みんなー、落ち着いてですわー」
 一匹のパニックが全部のわたげうさぎをまきこんで大変な騒ぎになり、白銀風花が部屋中を駆けずり回って個別にわたげうさぎを落ち着かせようと声をかけていった。
「いったいどうしたんです。なんの騒ぎ……うわあ!」
 部屋中に舞い散るわたげうさぎの抜け毛に、中に入った竜螺ハイコドが超感覚で出しっぱなしにしている尻尾をピンと逆立てて驚いた。それを見たわたげうさぎたちが、同族の侵入者かと、その尻尾めがけて飛びかかってくる。
「こ、こらやめ……。風花、なんとかしてください」
「みんなー、落ち着けー。はい、おでこに注目ですわよー」
「こ、こら、だからデコはやめろと……」
 竜螺ハイコドに言われて、白銀風花がエクリィール・スフリントの前髪をめくり上げて叫んだ。わたげうさぎたちが、一斉にそれに注目して止まる。
「さすがは、おデコですわ。霊験あらたか」
 藍華信が、うずうずと指を動かしながら言った。
 『いさり火』は、今日もにぎやかであった。
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 
 休日シナリオ、お届けします。
 今回はちょっといつもとは違ってましたね。とはいえ、回想は少なく、だいたい当日と設定していた成人式に集中したようです。
 制約の少ない休日シナリオですが、それでも最低限の制約はありますので、ガイドを見てくださいねー。
 他国や別の日の出来事は、基本的に口で語られるだけとなりますので。あと、バトル物は、決着はこっちで判定しますが、ある程度決め手がないと膠着状態になってしまいますから、中途半端になってしまいます。また、細かく作戦が書いてあっても、それがうまく流れるとは限らないので結構難しいです。
 また、他マスターのシナリオは、解説がないとやっぱり厳しいのと、影響が出る形での描写はできませんから、原則休日シナリオ内だけで自己完結する形になりますね。無理に影響が出る書き方しても、他マスターはそれを参照する義務がないので完全に浮いちゃうんです。どちらかというと、別シナリオの感想を寸劇でするというのが一番適しているのかもしれません。ただ、心情の説明が分かりやすくないと、こちらで把握ができないのが難しいところですが。
 今回も、いろいろと今後のシナリオの伏線がチラチラと入っています。適度に妄想してくださいませ。
 
 P.S. PCの呼称修正。誤字脱字の修正。