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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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「ちょっと遅めのおせちだが、正式なおせちというのもみんなには珍しくていいだろう」
 ほとんど親元を離れてパラミタに来ている者たちや、もともとパラミタにいた者たちなので、おせち料理と言ってもスーパーやコンビニにあるできあいの物がほとんどのはずだ。ここは、気合いを入れて本格的な物をふるまってやろうというのが神崎 優(かんざき・ゆう)の考えである。
「このレシピ通りに作ればいいのですね。頑張ります
 神崎 零(かんざき・れい)が、神崎優がメモしたレシピに従ってそれぞれの最後の仕上げをしていった。
 煮染めに、タコの酢の物、鯛の塩焼き、車エビの焼き物、クワイ、ちょろぎ、栗きんとん、黒豆、紅白なます、きんぴらゴボウ、かまぼこ、伊達巻き、昆布巻き、数の子、田作り、ハム、雀焼き、鬼殻焼き……、様々な物が次々にできあがっていく。
「これをお重とかに詰めるのか?」
 キッチンのテーブルを埋め尽くしていく料理を前にして、神代 聖夜(かみしろ・せいや)が訊ねた。料理は得意ではないので、今日は陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)と一緒に配膳係だ。
「本当はそうなんだが、場所を取りすぎるからな。料理ごとに皿に纏めて運んでくれ。ああ、きんとんと伊達巻きだけは、喧嘩にならないように銘々皿で」
「了解だぜ。おい、刹那これ持ってけ」
「はーい」
 神代聖夜が盛りつけた皿を、陰陽の書刹那がリビングのお正月パーティー会場へと運んでいく。
「この葉っぱと鍋は?」
「それは、お汁粉と七草粥です。おせちの後に仕上げをして出しますから、そのままコンロの上においておいてください」
 神崎零に言われて、神代聖夜がコンロの上の鍋には手をつけないでおいた。
「こんにちはー」
 昼になるころ、パーティーの客が集まってきた。笹野 朔夜(ささの・さくや)の一行と、乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)の一行と、晴れ着姿ラブ・リトル(らぶ・りとる)の六人で、神崎優たちを合わせると十人もの大所帯だ。
「手土産持ってきたぞ。ザナドゥ寿司特製の寿司折りだ」
 そう言って、碓氷 士郎(うすい・しろう)が、ぶら下げてきた寿司折りをテーブルの上においた。
「わあ、美味しそうね」
 さっそくラブ・リトルが寿司折りをあけようとする。
「ちょっと待て、俺があける」
 あわてて、白泉 条一(しらいずみ・じょういち)が先に寿司折りをあけた。もの凄ーく嫌な予感がしたからだ。
 中から出て来たのは、マグロのにぎり寿司のようだが、ケチくさいように薄くむこうが透けて見えるマグロが載っかっているのだが、なぜか赤身が全て違う。ビンチョウマグロとか赤身とかの違いならまだ問題は無いのだが、透けて見えるさびの部分が、どう見ても緑に見えない物が混じっている。緑に、黄色に、クリーム色に、赤に、激赤……。
「これは、なんだ」
「ええっと、なんでもザナドゥ名物ロシアン寿司とかいうんですって」
 白泉条一の顔から目を逸らしながら乙川七ッ音が答えた。
「いやあ、手に入れるのに苦労してねぇ」
「わーい、ごちそうなのね」
 わざとらしく照れる碓氷士郎に、ラブ・リトルが言った。
「ええっと、ちなみに、何が入っている?」
 恐る恐る白泉条一が碓氷士郎に訊ねた。
「ええと、確か、さび抜きと、わさびと、和カラシと、ラディッシュと、粒マスタードと、山椒と、唐辛子と、タバスコと、ハバネロと、ジョロキアのはず……」
「わ、悪い。俺、寿司大好きなんだ。全部くれ!」
 そう言うなり、白泉条一が全ての寿司を口に放り込んだ。こんな物、呼ばれた先の人に食べさせられるわけがない。
「が、がらい!!」
「わー、条一、何やってるのよ。死なないでー! 早く、甘い物甘い物!!」
 突然床に倒れて転げ回る白泉条一を見て、乙川七ッ音がパニックになる。辛い物には甘い物と短絡的に考えて、白泉条一の口に栗きんとんをねじ込んだ。もちろん、そんなもので辛さが中和されるわけがない。
「どうしたんですか。もしかして、おせちに何か……」
 陰陽の書刹那が、あわててやってきた。
「いえ、おせちじゃなくって、お寿司に……」
「お寿司ですか……。って、大変です」
 乙川七ッ音の言葉に一瞬安心した陰陽の書刹那であったが、落ち着いている場合ではないと、急いで神崎零を呼びに行った。
「大丈夫?」
 やってきた神崎零が、白泉条一を清浄化する。
「ふう、助かった」
 白泉条一が礼を言い、ひとまず騒ぎが収まる。
「ええっと、なんかあったようだが、無事おさまったみたいなんで。では、あらためて、新年おめでとうございます。今年もよろしく」
「おめでとうございまーす」
「ことよろー」
 キッチンからやってきた神崎優があらためて挨拶をし、正月パーティーが始まった。
「これが、正月料理……」
「美味しいですー」
「こ、これは食べ物なのか!?」
 いろいろな反応を楽しみながら、おせち料理が各人のお腹の中へと消えていった。
「さて、食後のお楽しみとして、お正月用のゲームの一つを持ってきましたよ。カルタです」
 笹野朔夜が、イルミンスール魔法学校で買ったばかりのカルタを取り出して言った。簡単にルールを説明した後、床に広げていく。
「これ。楽しみにしていたのですわ」
 待ってましたとばかりに腕まくりして、アンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)が早々と戦闘態勢に入った。
 サイコキネシスで、さりげなく自分の右斜め前にカルタを集めて取りやすくする。
「じゃあ、読みあげますよ」
 準備ができたと言うことで、笹野朔夜が読み札を手に取る。
演奏会へようこそ♪
「え、え、え、ええーい!」
 思いっきり身を乗り出したアンネリーゼ・イェーガーが、えの札を見つけてバシッと手を叩きつけた。
「ひええー」
 気迫にびびって、思わずラブ・リトルがのけぞって避ける。
カボチャ風味の恋心♪
「はい!」
 アンネリーゼ・イェーガーが、カボチャの書かれた札をパシッと弾き飛ばした。とっさに、笹野朔夜が必殺座布団返しで防御する。舞いあがった座布団の裏に、トスッとカルタが突き刺さった。
「う、うちのおざぶが……」
 陰陽の書刹那がちょっと引きつる。
九尾狐? でコンコン
「もらった!」
 ずっと身構えていた神崎優が、抜刀術の要領で、素早く札を取る。
「あう、と、取りましたわね……。取りましたわね!」
 なんだか逆恨みするように、アンネリーゼ・イェーガーが神崎優を睨みつけた。
スカート短すぎ
「すっ♪」
「すー!!」
 すかさず「す」のカルタを取りにいった白泉条一の手を叩き潰さん勢いで、アンネリーゼ・イェーガーが手をカルタに叩きつけた。
「うがっ……」
 手を叩き潰された白泉条一がのけぞる。だが、カルタは白泉条一が取ったことになる。
「チッ、ですわ。でも、これで一人は再起不能……」
 なんだか、だんだん怖い人になっているアンネリーゼ・イェーガーであった。
「こんなにカルタに燃える性格だったとは……」
 笹野朔夜としても、意外なアンネリーゼ・イェーガーの一面を見た気がする。
「コホン。続けましょう。つまみ食いじゃないわよ!
「はーい!」
「うわっ!?」
 乙川七ッ音が、碓氷士郎の手を使ってカルタを押さえた。またもや、アンネリーゼ・イェーガーの手が炸裂した。当然、碓氷士郎が再起不能となるが、パートナーの貴い犠牲で乙川七ッ音が一枚ゲットした。
「まだ、二人の手が片方ずつ残っています」
 ちょっとやる気満々の乙川七ッ音に、こいつ本気だと白泉条一と碓氷士郎が部屋の隅に避難する。
風鈴と読書
「召喚! はい!」
「うげっ!」
 無事逃げたと思っていた碓氷士郎が、召喚されて手を使われた。貴い犠牲で、乙川七ッ音が二枚目をゲットする。
「やりますわね」
「あなたこそ」
 なぜか、アンネリーゼ・イェーガーと乙川七ッ音が、長年のライバルのように視線をぶつけ合う。
「でも、もうパートナーの手は全滅ですわ」
「いえ、また一つ残っています」
「おい!」
 いきなり見つめられて、白泉条一がキッチンへと避難した。今ほど、自分が悪魔や魔鎧でなくてよかったと思ったときはない。
目指せ! お祭り屋台全制覇っ! ですわ
「えっ」
 運よくなのか悪くなのか、神代聖夜の目の前に「め」のカルタがあった。
 皆が一斉に神代聖夜を睨みつけて飛びかかってきた。
「やられるかよ!」
 間一髪、カルタを取って神代聖夜が隠れ身で姿を消す。
「はい、最後ですよー。浴衣に身をつつんで
 笹野朔夜が最後の札を読みあげると、たった一枚残ったカルタにほとんど全員が一斉に飛びかかった。衝撃でカルタが舞いあがる。
「ゲット」
 パシッと、笹野朔夜が空中に舞いあがって飛んできたカルタをつかみ取った。
「えー、では、結果を発表します。一位、アンネリーゼさん、二位以下負傷者多数です」
 笹野朔夜が結果を発表した。
 神崎零と陰陽の書刹那が、大忙しで治療を行っている。いやはや壮絶なカルタ取りであった。
「じゃあ、優勝者を讃えて一曲歌います。お正月、ラブラブ♪」
 ラブ・リトルが、自作のお正月ラブソングを歌い出した。
「さあ、落ち着いたところで、七草粥とお汁粉にしよう」
 とりあえず家を壊されなくてよかったとほっとしながら、神崎優が料理を運んできた。