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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

 家の玄関に到着した彼等は、聳える魔王城――もとり、ラナロック邸を見上げる。
「でかいな……これじゃ豪邸、お屋敷って感じじゃないか」
 呆気にとられている大吾を余所に、なぶらが扉に手を掛ける。
「聖騎士ダイゴ……こんなところで足を止めていてはだめだ!俺たちには、役目がある! 重要な役目だ!」
「あ……ああ」
 なぶらが入って行くその後を追って、彼も建物の内部へと足を踏み入れた。
「どこだ……どこに居るんだ魔王!」
「うわ……外も凄いが中はもっと凄いな……俺、場違いになってなければいいが……」
 二人が徐々に足を進め、玄関の中央までやってくる。と、なぶらが不意に何かを見つけて走り出す。酔っている為ににふらふらであり、色々な物にぶつかりながら。
「な! なんだと!? これは『彷徨う甲冑』! まさか此処まで周到に敵を配置してきたか! いよいよもって魔王、恐るべし!」
 ぶつかった拍子に倒れてきた甲冑を敵と勘違いしているのだろう。なぶらは言いながら、手にするホーリーソード(大根)で、何やら必殺技とぼしき名を叫びながら甲冑をひっぱたいている。
「これはこれで絶対にシュールな図だろうな……ははは」
 もう苦笑しか出来ないでいる大吾が甲冑を退かすと、ふらつきながら大吾にしがみつきなぶらが立ち上がる。
「聖騎士ダイゴ……助かったよ。やはり貴方は強い……王を守る騎士だけあるな」
「王はいないけどな」
「さあ、次に進もう! このフロアの敵はいない!」
 もう適当に返事するしかなかった。
一階の奥まった部屋、そこから声が聞こえてくるのがわかった大吾はただひたすらに声のする方向へと足を進め、そして扉を開けた。
「お、やってるやってる」
「何……この祭りは一体なんだろう……まてよ、この光景、俺は何処かで……」
 ほっとした表情の大吾に続き、なぶらが部屋に入った。
「すまんな! ウォウル君、ラナロックさん! みんなも楽しくやっているようだ」
「遅かったですね、デイゴさん」
「大吾、だがな!」
「いらっしゃいませ。何やら愉快な事になっていますけれど、どうぞ楽しんで行ってくださいな」
「ラナロックさん、元気そうで何よりだ」
「ま、待て! わかったぞ! これは魔王の幻影だ! 行っては行けないダイゴ!」
 なぶらの言葉に、思わず一同が首を傾げた。
「なぶらさん、どこに行ってたん!? 心配したんやで!」
 なぶらの謎発言が妙に気になったのか、カノコが何やら含みを持った笑みで声を掛ける。
「負けない! こんな幻影になど呑まれてはいけないんだ! 師匠もきっと、そう言ってらっしゃる!」
「師匠って誰やねん!」
 待ってました! とばかりにツッコむカノコ。
「それよかな! 今殺人事件が起きてん。なぶら君も一緒に推理とかやろや!」
「はぁ?」
 本当に「はぁ?」と言う顔でカノコへ返したなぶら。それには流石に彼女もたじろぐ。
「何言ってんの? 今俺ほら、魔王城攻略とか魔王倒すので忙しいから。ってかそんな事やってる暇ないから」
「え、なぶら君? いや、なぶらさん?」
「殺人事件? 何それ」
「目ぇ据わっとる!」
「まあ頑張れば? さ! 魔王を探しに行くぞ! 待ってろ魔王、ラナロック!」
「はい?」
 ラナロック、と呼ばれたので、ラナロックが返事を返す。
「いや違う。お前違う。魔王じゃない」
「え」
 大混乱のその場。騒ぎが止まってしまう程の混乱っぷりだった。困惑、の方が、正しいのだろう。
「だってお前、魔王の幻覚だもん。魔王が綺麗なお姉さんな訳がない」
「いや……綺麗なお姉さん、に関してはありがとうございますとお礼を述べさせていただきますけど……魔王?」
「さ、幻覚のいう事なんて無視ムシ!」
 くると踵を返し、部屋を出ようとするなぶら。
「とりあえず誰か、喉が渇いたから水が欲し――っと、丁度好い所に水があるもんだ。貰うぞ」
 大吾は目の前にあるボトルのキャップを開けてそれを一気に飲み干した。が、途端に様子が変わる。
「………痛い! 喉が痛い! ってか焼ける! 何この!」
「どうしたんです? ダイオオさん」
「名前が……違……う!」
 言いながら、しかし彼は倒れてしまった。
「まさか……新たな殺人が!?」
 ノリノリで美羽が驚きのリアクションを挙げた。そこで、なぶらが慌ててかけてくるや、彼を抱きかかえた。
「だから言ったんだ! 幻覚に惑わされていけないと!」
「……うぅ……それも、違……う」
「聖騎士ダイゴぉぉぉ! クソ……魔王め! 魔王ラナロックめ! 許さん!」
「だから、何でしょう?」
「だからお前じゃないの! ちょっと黙ってて!」
「あ、はい……ごめんなさい」
「ダイゴぉぉぉ!」
 再び仲間の死(?)を乗り越え、勇者は立ち上がるのだ。
「俺は、俺は負けない! 仲間たちの死は無駄にするものか!」
 今度は勢いよくその場を掛けて行くなぶらを、終始困惑の瞳で見つめる一同。
「なぁ嬢ちゃん、なんだと思う? あれ」
「知らないですよ。大方酔っぱらって現実が見えにくくなってんでしょ?」
 再びドゥングの肩の上に戻っていた来栖が、アイスの棒を口に咥えたままにドゥングに返事を返した。



 一方玄関。なぶらたちが通過した後。
共にやってきたのだろう、堂島 結(どうじま・ゆい)堂島 直樹(どうじま・なおき)白河 つばさ(しらかわ・つばさ)が、天禰 薫(あまね・かおる)熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)天禰 ピカ(あまね・ぴか)と、全員で屋敷内を見回していた。
「凄いねぇ……! 大きいし、なんか色々飾ってあるし……ね!」
「結。あんまり人の家をじろじろ見るのは良い事じゃあないよ。わかってるかい?」
「いいじゃん! だってほんとに凄いんだよ!? 敷いてあるカーペットとかホントふわふわしてるし……凄いよ!」
「だから――」
 結、直樹が言い合いをしている横、薫が近くにあった壺に目をやっていた。
「これ、凄いのだ。なんかこう、魅力的なフォルムをしているのだ……我の感性を鷲掴みなのだ! もしやこのキャベツを此処に置くと――か……完璧すぎるのだ! これは最早運命と言っても過言ではない出会いなのだぁ! ねぇ!? 孝高!」
「んー……地震とかきたら、あのシャンデリアが危ねぇな……ん? なんか言ったか? 天禰」
「人の話をちゃんと聞いてなのだ! もう……」
「悪い悪い、玄関の割には危ない物が多いんだなって思ってさ」
 困った様子を浮かべる彼はしかし、怒られた事に多少なりの反省があったのか、すぐさま薫の近くへと戻ってくる。
「さてさて、それで? お目当ての部屋は何処に行けばいいの?」
「ちょっとそこら辺の扉を開けて様子見とかおもしろそうだけどねぇ」
「お兄ちゃん! そっちの方が失礼だよ!」
「ごめんごめん」
 何とも和やかな会話を繰り広げている六人。と、つばさが一階の奥の方、扉の隙間から薄ら見える光と声に気付いた。
「あ、あそこが怪しいんじゃないかな? まらほら、間違ってても人がいるって事は何処が会場か聞けるしさ」
「そうだね、行ってみよぉ!」
 元気よく、ほんわか笑った結を先頭にまずは三人、結、直樹、つばさが足を進めた。
「あれ? 孝高……? どうしたのだ?」
 薫、ピカも三人の後を追おうとしたがしあかし、その場で足を止めている孝高に気付き足を止めて振り返る。
「……いや、その…」
「なんだ、なんだか今日はちょっと様子が変なのだ……」
「ぴきゅ……?」
「すまん、本当に何でもないんだ」
「そっか、でもでも! このパーティのお誘いを貰った時、ラナさんちゃんと笑ってたのだ。それを見て我はとっても安心なのだ。色々あったから、色々悩んじゃったり、落ち込んじゃったりしてるんじゃないかと心配だったけど……うん! 兎に角よかったのだ」
 満面の笑みを浮かべてそう言う彼女を見て、孝高の顔がにわかに曇った。
暫くの間沈黙が続き、しかし薫はそれに気付いていないのだろう。再び結、直樹、つばさの向かっている方向を体の正面に据えた時である。彼女の腕が自らの意志に反してその場に残る。ふと見れば、それは孝高に握られていた。やはりどこか曇った顔。
「……天禰。今の笑顔、俺にも向けてくれないか……? いや、我儘なのは重々承知だ。でも……だけど欲を言えば、その笑顔を俺だけに、向けて欲しいんだ。他の誰でもなく、俺だけに――」
「ふえ? 孝高?」
 彼は何を言っているのだろうか。それが薫の率直な疑問であり、故にその表情には単純な疑問があった。寧ろ、疑問しかなかった。
が、そんな彼女の事など構いもせず、彼は何かを決意した様に頑なな瞳を向け、そして互いの息がかかる距離までやってきた孝高は、薫の額に手を置いた。
「ぴ?」
「天禰……」
 徐々に顔を近づけ――様としたところで、孝高の意識は遥か彼方へと旅立つ事になる。
突然彼が地面に膝から砕けていったからか、その音に気付いた結たちが慌てて薫たちの元へと戻ってきたのだ。
「どうしたの!?」
 結の言葉を聞いた薫が、おろおろしながら倒れている孝高を指差していた。
「あの、えっと、その……だから、我……」
 何も言わずにその様子を、やや引いた場所から見ていた直樹が一度、誰にも気づかれない様に、黒い笑みを浮かべてからわざとらしく「まさか!」と声を上げた。突然声が合があれば彼女たちも驚く訳であり、皆が直樹の方を向いた。
「ぴかちゃん、まさか君が!?」
「ぴ!? ぴきゅっ! ぴきゅきゅきゅ! ぴきゅううぅぅ……!」
 一生懸命何かを伝えようとしているピカは、しかし直樹が疑いの眼差しで見ている事を認識したのか、わたげうさぎの姿に戻り結の元へと駆けだした。
「ぴきゅう……ぴきゅうぅぅ……」
「はわぁ……モフモフ、もこもこぉ……きもちー……そうですよねぇ、こんな可愛いぴかちゃんがこんな事、するはずがないですもんね…!」
「え、ちょっと……結?」
「お兄ちゃん!」
「…何、かな?」
「根も葉もない言いがかりをつけるのは駄目だよ!」
「いや、結……君のその物言いも立派に根拠がないんだけど……」
 二人がそんなやり取りをしている最中、つばさは真剣に辺りを見回し、何かに気付く。違和感と言っていいのかどうかもわからない違和感、それは恐らく、直感にも近いものなのだろう。
「そう言えば……薫さん。薫さん、確か此処に来たとき、キャベツを持ってなかったかな」
「……もってた、のだ」
「それ、さっき此処に入ってきたときにあそこの壺の上に置いてたよね?」
「そ、そうなのだ! あの壺はキャベツとも相性ばっちりな上、これ以上ない洗練されたフォルムを生み出していたのだ! いやぁ、我の感性を理解してくれる人が一人でもいて、我はとっても嬉しいのだ」
「いや、それが洗練されているかはさて置いて、そのキャベツは今どこにあるのかな?」
「う……」
「更に言うと、気の所為かな、孝高さんの周り、主に足元と、何故か頭にキャベツの葉らしきものが散らばっているんだけど……」
「そ、それはその……ああ! そうだったのだ! いきなり此処を通過して言った自称勇者様がやったのだ! 我のキャベツを持って何処かへ行ってしまったのだ……! 我のキャベツを返せー!」
「そんなのいる訳ないでしょ」
「ねぇお兄ちゃん、一概にはそう言えない、かも」
 結が恐る恐る指を指すと、そこにはなぶらの姿があった。
「ふっふっふ、遂に此処までやってきたと言うのに、魔王城のトラップがあまりに多くで進行に時間がかかってしまうな……」
「完全に自称な……しかも見えてはいけない物が見えてるかもしれない人きちゃった!」
 つばさが思わずツッコんだ。
「はっ! これはもしや! 我がフィアンセ、『ノロロン・ポロン・フロンフォンテフォン・マタルフロロンシェス・ロロフフォンフォロン公』の一人娘、『トルトットルトン・ププルプンポ・ノフェンノヒュオヒュン・オロロオッホホ・ロロフフォンフォロン』様の生前愛していた戯曲の音色では!?」
「え、あの人今なんて言ったの?」
「ふぉんふぉん!」
 意味はないが、直樹のツッコミに思わず結が元気よく答えた。と、謎の名を全く噛むことなく述べていたなぶらは、彼女たちの前を颯爽と過ぎ去り階段を物凄いスピードで昇って行ってしまった。
「多分今の勇者さんは、これには関係ないと思うよ」
 苦笑しながらつばさが言うと、再びその視線を薫に向ける。
「キャベツはどうしたのかな?」
「う……いや、違うのだ。わざとではないのだ……その、なんて言うか」
「ちゃんと言った方がいいよ、そして彼に謝った方がいい」
「………うん、その、急に恥ずかしくなってしまったのだ……それで、ついこう……」
「この倒れ方、もしかして鳩尾でもぶったのかな?」
 つぶさが尋ねた。そして更に続ける。
「そのあと、頭をキャベツで殴打した、って感じだよね。葉っぱが足元と頭の近くにしか落ちてない。っていう事は、これは髪の毛に着いたやつで、これは頭をぶった時にキャベツの玉から取れてしまった。と言ったところでしょうか」
 薫がしゅんと項垂れて、力なく「ごめんなさい」と呟く。
「それにしても直樹さん、なんか見てたら最初からわかってたような感じだったけど……」
「うん、わかってたよ。だって今までキャベツ持ってた子がいきなりキャベツなくして、しかもそのキャベツの葉っぱが彼についてたり、近くに落ちてたら気付くよ。やっぱり」
「……むぅ、不覚にも私のほうが少し遅かった、って事だね、にしても。どういてそんなに意地悪するんだろう」
 つばさの悔しそうな顔は、しかしふと不思議そうな顔になる。直樹の行動その物に、多少と言わずかなり疑問を持ったらしい。
「楽しいから、だよ。きっとこの先にいる人は、僕の何倍も楽しいだけで動く上に、適当にやってもみんなを巻き込んでいくだろうからね。だからウォーミングアップも兼ねて、と言ったところかな」
 へぇ、とつばさが言うと、漸く痛みが薄れて来たのか、孝高が体を起こす。
「孝高……その、ごめんなのだ」
「いや、俺の方こそすまん。ちょっと焦っていたというかなんというか……」
「仲直り出来た見たいだし! 行こうよ!」
「そうだね。気を取り直して」
 結と直樹がすっかり座っていた孝高に手をさしのばし、彼はそれを取って立ち上がった。
「ああ、ありがとう」
「うん!」
「さ、薫さんも。元気出して! 行きましょう!」
 結は今度、薫の手を取り、一同の待つ部屋へと走って向かうのだ。