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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

     ◆

 彼等――悲鳴を聞き駆け付けた彼等は、とある部屋の前に来ていた。
「あれ、此処って……」
 東雲はふとそんな言葉を述べて扉を見つめた後、ラナロックの顔を見た。
「思ったんだけどさ、何でこの部屋、他の部屋と違ってこんなに厳重なのかな」
「此処は、私の寝室だからです」
 ああ、なるほどね。と彼は笑った。
「いや、成程ねってなる理由がわからないよ!? 寝室でも此処まで厳重ではないでしょ普通!」
 リキュカリアのツッコミに対して、ラナロックはふふと笑い、首を振りながらに扉の鍵に手をかけた。
「乙女の寝室は神聖な場所だから、あまり人に見せてはいけない、とウォウルさんが仰ってました」
「いやだからって此処まではしなくていいと思うよ! って言うかラナさん何してるのかな!」
 ミシェルが勢いにつられて元気よくツッコんでみるが、その言葉を聞いた面々もそこで初めて、ラナロックの行っている行為に疑問に思うのだ。
彼女が握るのは鍵と、そしてそれにつながった鎖。それを何を思ったのか、彼女は強引に引っ張っているのだ。
「おーいラナロックー。お前さんまさか、鍵をなくしたんじゃあねぇだろうな?」
「え? なくして等はいませんよ?」
 アキュートが呆れた様な目で彼女へと言葉を向けるが、すぐさま否定する。無論、鎖は引っ張っているままだが。
「付属していた鍵はもうとっくに捨てちゃいました」
「……? なんでだよ。それじゃあ開けられないだろ」
「こうやって毎晩開けています!――よ?」
 物凄い音と共に、鍵も鎖も全てを引きちぎった彼女は、満面の笑みを浮かべて一同へと振り返るのだ。
「うわー、ラナさん力持ちなんだねー」
「佑一、棒読み」
「って言うか笑顔が怖い!」
 カメラを構え、一部始終を捉えていた弥弧が思わず後退りする気持ちを、この時一同は切実に理解していた。
 部屋に入った彼等の前にあったのは――。
「え、次の犯行……?」
 体を巨大な剣で貫かれていたハデスの姿。
「しかも……あの雁字搦めの鍵は毎晩ラナロックが強引に引きちぎって開けるよりほかにないんだろ? それに、外から意外鍵が出来ないんだぜ? どうやって」
 これにはさすがに、アキュートも驚いた様子だ。
「ぺ、ペト……ちょっと怖いのです……」
「まさか、こんな事に……」
 ペトと真人も息を呑んだ。と、そこで一人、彼女だけは平然としている。
「っていうか、此処が本当に寝室なんですか?」
 イリス。
「ちょ、ちょっとイリスさん」
「ベッドもない上に……センスがおかしいですよ」
 シャーロットの静止など全く聞かず、彼女は更に言葉を繋げる。
「これじゃあまるで呪いの部屋。あちこちに魔法陣は書いてあるし、よくわからない御札に……それから藁人形。電気は通ってないし」
「あ、それならそこにコンセントが」
「え、あるんですか?」
「はい。一応携帯電話とか充電しなきゃいけないので」
「あー……ね。それ大事」
 どうやらそこは大事らしい。が、再び彼女は続けた。
「兎に角、趣味が悪いったらないですよ」
「駄目ですよイリスさん! 皆さん思ってるけど口に出してないんですから」
「シャーロット……。多分ちょっと一言多い感じね、うん」
「あ、ごめんなさい」
 と、そんな話をしている為か、一同の驚きはやや緩和されたらしい。
「で、これってあの……有名な密室殺人ってやつ、だよね。やっぱり」
 佑一がまじまじと倒れているハデスに近付いて行き、そんな事を呟く。
「触ってはいけませんよ! 現場はそのままに!」
 その前に飛び出たシャーロットが、少し嬉しそうな顔をしている。それを不思議に思った佑一が首を傾げ、彼女にだけしか聞こえない様な小さな声で尋ねた。
「どうしたんですか? なんか嬉しそうだけど」
「いえ、実はちょっとこういう台詞、憧れていたんです……」
 照れながら、佑一に倣って小さな声で返事を返すシャーロット。
「兎に角……密室殺人ってまだ決めるのは早い!」
 真剣に辺りを見回していたローズが声を上げると、顔面蒼白になったままの学人が「その通り」と言いながら現れる。が、立っているのもやっとなのか、扉の淵に手をかけ、肩で息をしている。
「大丈夫なのかな?」
 心配そうに近付いてきた託に対し、細かく数回肯定の意で首を振ってから、小さな声で呟くのだ。
「だ、大丈夫ですから。ちょっとあのほら、徹夜で……あの、僕ほら、色々やってるから」
「そう、なんだ?」
「そうなんですよ決して人が倒れてるのと上て気絶したわけじゃ……あっ」
 言いながらに彼は顔を上げてしまったのだろう。そしてその視界には、完全に血まみれになっているハデスの姿が入ってしまったのだろう。彼は再び気絶した。
「ねぇ、彼――下に連れて行ってあげた方がいいよねぇ? ラナさん」
「あ、そうですわね。お願いしても?」
「うん、良いよ」
「すいません、ウチのパートナー不甲斐なくて……」
 思わず丁寧に謝ってしまうローズさんだった。
「っと、そうそう佑一さん。ボク今気付いたんだけどね……雅羅さんがいないんだ」
「え? あ、本当だ」
 ミシェルに言われて佑一が辺りを見回すも、確かにそこに雅羅の姿はない。
「コア……やっぱりこれは」
「ああ、信じたくはないが、いよいよもって間違いなくなってきた様だ」
 二人が小さく話をすると、顔を見合わせて頷くと一同に聞こえる様に声を上げる。
「皆、落ち着いて聞いてくれ」
 彼の声に、当然全員が振り返った。
「もしかしたら、あたしたち犯人わかっちゃったかもしれないんだよね……」
「あら、それは誰かしら?」
「是非聞きたいものですね」
 プリムラ、イリスがその発言に食いついた。
「わかった。まずは皆一先ず下に降りるとしよう」
 コアの提案を呑む事にした一同が、バラバラとラナロックの寝室から出始める。と、そこで、彼等の横を何かが通り過ぎた。
「やっと見つけたぞ……! 魔王ラナロック」
「え、なぶらさん。まだやっていらしたのですか?」
「何をだ!」
「え、いや……そのだから」
「ふん! いきなり呪いの呪文か! だがな、全てを唱える前に倒してしまえば――」
 ラナロックを除き、全員が寝室から出ていた。その脇を抜けたのは、完全にこの建物を魔王城として認識している彼、なぶらである。
彼はそう言い切りると、立っていたラナロック目掛けて飛びかかる。
「あら………」
「ふっふっふっ! 魔王ラナロックを捕まえたぞぉ!」
 彼が飛びかかった拍子に、ラナロックは後ろへ倒れ込み、彼が馬なりになる形でラナロックの自由を奪っていた。
「なぁ、これは誰にって言う質問じゃあねぇんだがよ。わかる奴で良いから答えてくれ」
 扉が開け放たれている為、中の様子はしっかり外に居る面々に見えている。酒瓶を持っていた彼は思わずそれを落としそうになりながらもキャッチし直し、本人の言う様に誰にでもなく言葉を放った。
「あのなぶら、ってやつ。あれ死ぬんじゃねぇの?」
「ペトはそうは思わないのです。ラナさんは優しい方なので大丈夫だと思うのです」
「んー……僕の知ってるラナロックさんの像で判断したら、おそらくアウトじゃないですかね。どう思う?プリムラ」
「ボクはペトちゃんの意見に賛成かな!」
「甘いわねミシェル。佑一もそうよ。アウトじゃないかな、ではなくて完全にアウト。だって馬なりだもの」
 見ている彼等は本当に、心の底から現れ夢様にその光景を見つめていた。と――おかしな事に、誰も触れていない筈の扉が閉じたのだ。それも随分勢いよく。
「あーあ。執行タイムだな。ありゃ」
「情状酌量の余地はなし、なのです」
「皆で手を合わせましょう」
 シャーロットの発言の後、全員で一分間の黙祷を捧げる。遠くその彼方。扉一枚隔てたところでは、なぶらの悲鳴が聞こえたとか聞こえてないとか。
「さ、では下に行くとしよう」
「いやいや、あんた結構そう言うところドライだな」
 さらっと本題に戻そうとしたコアにアキュートが苦笑しつつ、一同は階段を降りて今までいた大食堂に戻ってくる。
「それで? 犯人が分かった、みたいな事をいってたけど」
「そうだ。ゴンザレスの尊い命を奪った犯人が分かってしまったかもしれない」
「それ、誰なんですか?」
「ずばり……雅羅だ」
「え!?」
 一同が驚く。その中、ローズだけはやっぱり、と小さく呟き、コアとラブの話に耳を傾けていた。
「プリムラの話を聞いていて、確かに納得できる事が多かった。そして考えたところ、犯人は雅羅だったのだ」
「で、でも……話によると雅羅さん、ラナロックさんたちよりも後に入った、って聞いてるけど」
「ええ、確かに私が一番でした。その次にウォウルさん、そして雅羅さんの順番でしたわ」
「そう。入ってきたのはその順番だろう。しかし、必ずしもラナロックが入ってきたときに死んでいた、とは断言できないだろう?」
「………どういう意味よ」
 プリムラの言葉に、僅かな抑揚が籠る。
「倒れていた、と言う事が死んでいた。と言う意味にはならない。ラナロックやウォウルが帰ってきたときはまだ、息をしていたのではないか」
「でもそれって」
「最初は『二人に合流する前が濃厚な線だった』と考えた。しかし、彼の証言を聞いていた思ったのだ。その場に雅羅はいなかった」
「ダリルさん、ですね」
 佑一の言葉に、コアは力強く頷いた。
「その場にいたのは綾瀬とダリルの二名。雅羅の名は出ていない」
「でも、そしたらどうやって――」
「途中まではプリムラさんの説明してくれた通りですよ。ただし、そのまますぐにゴンザレスを殺害したわけじゃない」
 コアでもなく、ラブでもなく。真剣な面持ちで尋ねた沙夢の言葉に返事を返したのはイリス。
「ラナロックさんがゴンザレスを目撃し、泣き崩れているのを見た雅羅さんは、恐らく一度躊躇ってしまったんでしょう。しかし事が至ってしまった以上、この計画を頓挫させるわけにはいかなかった…………」
「それはわかりました。ですが、ならばどうやって犯行に及んだんですか?」
 イリスの説明に対し、真人が掘り下げた質問をした。
「麻痺をしていて動けないでいたゴンザレス、と言う事は、暫くの間は動けないでいる状態が続きました。でも、ラナロックさんはウォウルさん、雅羅さんに言われてすぐにリビングへ向かったと」
「はい……そうです」
「その後ゴンザレスさんは?」
「しまいました」
 想定外の発言に一瞬たじろぐ一同ではあったがしかし、そこは強引に攻めてみるらしかった。
「そこまでの時間は?」
「大体十五分………二十分ってところですかしら」
「身動きが出来ない者を手に掛けるのに、それほどの時間を有する必要はありません。皆がそれぞれ仕度をしたり、悲しみに暮れている最中、彼女はいつでもゴンザレスを殺害する事が出来たのです! って事でももう雅羅が犯人!」
「あ、イリスさん……」
「もう……?」
 最後のフレーズに、真人が眉を顰めた。
「犯行動機は怨恨! 彼女が持つ不幸体質による話の縺れ……雅羅さんは恐らく彼に脅されていた。そしてもう後がなくなり……「殺すしかない」という結論に至ったのでしょう」
 うんうん、と頷いた彼女がそう幕を閉じた。
「いや、でもだったら、他の犯行に関しては…………」
「そこはお任せを!」
 真人の質問に対し、シャーロットがにっこりと笑って返事を返した。
「此処に、神の意志が込められた十字架があります。これでダウジングを」
「此処まで来て神頼みか!」
 エヴァルトが渾身のツッコミを放つ。すかさずを周りを見て、何故か勝ち誇った顔をしているが、その理由は恐らく、誰にもわからないのだろう。
「と、言うのは冗談ですが」
 彼女は笑うと、一同を見回す。
「実はこの犯行は、計画的かつ組織的な犯行なんです」
「組織的犯行……そう来ましたか」
「本来おかしいのです。何故ならば、犯行時刻のばらつきがおかしい。何がおかしいのか。それはずばり時間の間隔です」
「……ふんふん。それはどういう事かな?」
 ラブが興味津々に合いの手を入れる。
「例えば一人の方が犯行を犯すと想定して考えても、それはとても難しいのですよ。計画を練り、それが上手く言ったとしましょう。しかし、パーティには殆ど出れない。それは疑わしいと言う行動になる為に計画としては随分荒いのです」
「うむ……怪しまれずにやらねばならないからな」
 コアの発言に頷き、更に続ける。
「逆に組織班であったとしても、無計画に人を殺した、とあってはほぼ、ただの殺人集団というだけであり、集合体としては機能していません。確かに交換殺人の大規模な物、という考え方でいけば問題ないですが、それこそ囚人のジレンマ。誰が裏切るかもわからない状況下にずっといるのは危ないのです」
「だから統率された組織、しかもかなり綿密に練られた計画犯、と言う訳かぁ……なるほど」
「ごめんよぉ沙夢。ちょっとそこにいるとシャーロットさんと被っちゃうからもう少し右によってもらえるかなぁ……あ、それは行き過ぎ、ちょっと見切れちゃうよ!」
「そしてその組織の中心たる存在が、多分雅羅さんではないでしょうか。初めに扉を開ける必要があったのも、それを合図として全ての物語が動き出す、という筋書きだったら――或いは」
 ぽかんと口を開く一同。
「と、こんな感じでしたっけ? イリスさん」
「ばっバカ! 内緒って言ったじゃないですか!」
 笑顔でイリスに振り返ったシャーロットの言葉に、慌ててイリスが声を荒げた。顔面はもう今にも爆発してしまいそうな程に赤い。
「え、今の、シャーロットさんの推理じゃなかったんですか?」
 真人が尋ねる。
「ち、違いますよ! 私、か……関係ないですから」
「にしても格好良かったぁ! ね! 佑一さん!」
 ミシェルがきらきらとした瞳で、それこそ本当に名探偵を前にしているかの様な喜びようで佑一へと言った。
「うん……未だに僕、ビックリして言葉が出ないや」
「短時間であれだけか……なかなか大したものね、彼女」
 佑一、プリムラもなかなかに、と言うリアクションを見せている、
「で、でもさ! 雅羅さんを主体とした計画犯なのはわかったよ? 複数犯だって言うのも納得した。でも、他の人は一体誰なのか、まだ特定できてないわ!」
 此処でラブが声高に叫んだ。
「そう言えばそうだな。後はめぼしい人は誰なんだい?」
「それは……」
 口ごもる一同。主犯が誰か、はシャーロットの述べた推理がある。が、それ以外はほぼ白紙なのだ。無論、焦点は其処に絞られた。
と、一同が停止している最中、彼女たちはやってくる。
「素敵な推理でした! ちょっと感動したけれど、私達の出番ですね!」
「そうだとも! 何だかわからんがノリでこんな感じではあるがしかし! 私達がいるぞ! 安心しろ」
 衿栖、未散の二人だった。
「今まで何を――」
 ラナロックの質問に対し、二人はふふんと笑った。
「皆さんが上に行っている最中、私達が出来る事を探していたのです。ね!」
「そうだぞ! 此処にいる鳳明刑事の手助けもあってな!」
「や、やめようよ……なんかそこまでハードルあげられるとかえってやり辛いからさぁ」
 強引に未散によって引っ張りだされてきた鳳明が困った様子で言った。