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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

 舞台は戻って推理をしている応接室。
突然の登場に一同が唖然としているが、しかしそこは流石に急を要する場面であり、そんな事はお構いなしに彼女たちは口を開いた。
「それじゃあ、鳳明刑事。例の聴取の事を」
「え、ああうん。一応皆が頑張ってる間、私達……って言ってもそこまでべったりって訳じゃあなかったんだけど、色々聞ける事や見れる事をしてみたの。全部を言うと長くなっちゃうし、何より混乱しちゃうだろうからかいつまんで説明するね。えっと……まず犯人は複数って事。これは結論がついたから良いとして。首謀者は雅羅さん、ていう推理。これも本当に惜しいけど、少し違うかな」
「違う、とは?」
 佑一が尋ねた。
「うん。まぁそれも順を追って説明するよ」
「まずは毛むくじゃら、じゃなかった。ゴンザレスだったかな。こいつを殺害した犯人は恐らくダリルで間違いない。と思うんだ」
「ほう」
 扉が開き、ダリル本人が入ってくる。
「聞かせて貰おうか。その詳細を」
 その部屋一帯、そこにいる全員の間に緊張が走った。
「ルカの証言だ。だからある意味確実言って良い。ダリル、お前犯行直前にゴンザレスと口論していたそうじゃねぇか」
「ああ、してたな。していたがしかし、だからと言ってそれが殺した事にはならんだろう?」
「……最後まで聞けよ。んで、ルカは見たらしいんだよ、ダリル。お前がゴンザレスと話をしていて、そしてそれは口論に発展した。
するとどうだ。ゴンザレスが突然小さな電撃を受けて倒れたそうじゃないか」
「……ふん、此処は屋内だぞ? 雷が発生する事など科学的に有り得ん」
「科学! 科学だと!」
 ダリルの後方。気を失っていた学人が目をらんらんと輝かせて入ってくる。どうやら彼の『科学』という発言に反応したのだろう。
「良いから。話がややこしくなるから出てこないでいいから」
 ローズが強引に学人を退場させようと押しやるがしかし、体がかなり大きな彼は頭が針に引っ掛かっている為にびくともしない。
「はっはっは! 君の様な非力な女には、僕を動かす事は出来ない。これぞ科学の力だよ! ロゼ君! どんとこいミステリー!」
「それちょっとブームになった感じだからって多用しないの」
 二人のやりとりを見て、当然この場の全員が硬直していた。ダリルも例外ではない。
「っと! 兎に角話を進めるとだな――」
「どんとこいミステリー! はっはっはっ! 皆さんもご一緒に! ほらご一緒に!」
「話を――」
「どうしたんですか皆さん! ほら、なんかこう、元気になれますよ!」
「……ちょっとどうにかならんかな、それ」
 うんざりだよ。なんて言いたげな顔で学人を指す未散。
「どんとこいミステリー!」
 唯一負けてしまったのは、エヴァルトさんだった。
「うん、退場」
 学人、エヴァルト以外、満場一致だった。途端、後ろの扉が勢いよく開き、どこから現れたのか唯斗が二人のベルトを掴み、引き摺って行く。
「どんとこいミステリー! はっはっは!」
「何故俺まで! は、離せ! 俺は無実だ!」
「はいはい。続きは向こうで盛り上がってる組の前でやろうな」
 随分と大人な対応の唯斗だった。
 彼等を見送った後、咳払いをしてから衿栖が口を開く。
「兎に角、そこでゴンザレスさんが息を引き取ったのでしょう。後に貴方はゴンザレスさん殺害の疑いがかからぬ為に皆さんと行動を共にした。違いますか?」
「仮にそうだとして、しかし俺が殺した。という確証にはならん。口論していた事に関しては認めよう。が、先程も言ったがそれが殺害した、とイコールにはならん。雷? バカげたことを抜かすな。かが……ゴホン、現実的にそんな事があるはずがない。もし合っても、それが死因とはなっていないだろうな」
「でも、お医者さんですよね? 何処に電流を流せば人の命が途切れるか、誰よりもよく御存知でしょう」
「……もう一声であり、もう一越え、と言ったところか。だが残念だ。それでは俺は落ちんよ」
 自嘲気味に彼は笑った。
「……そうですか」
「まあ、それは後でゆっくりつめれば良いとして、次に行っちゃうよ」
 鳳明が手帳をぽんと叩き、片目で一同を見やった。
「カガチさん。彼は包丁で刺殺された、って事だけど、葵さんが不思議な発言を溢していたそうだよ。なんでも『これでバラバラにして料理に混ぜれば証拠は完全に消えてしまうだろうね』だって。これってもう、確定だと思うんだけど」
「そうだな。それはまあいいとしよう。次行こうぜ」
「うん。次に綾瀬さんと正悟さんだけど、綾瀬さんは息を引き取る瞬間、ダイイングメッセージに『ウォ……』と書いた。これってもう、犯人を開示している様なものだよね」
「暗示ですらないですよね」
「順番としては次に……ウーマさんだよね。彼の体には不自然な紙が貼られていた」
「そ、それはペトの領域なのです! ペトの弔い合戦を邪魔する事はアキュートが許さないのです」
「え!? 俺かぁ!? 俺はどっちでもいいよ!」
「駄目なのです」
 慌てるアキュート。が、ペトの中では彼が黙ってはいないらしい。
「あ……じゃあこれは保留ね。次に司さん、イブさんだけど、これはもう、新たな登場人物、って可能性が高いかな。誰――と言う証言はなかったの。ただ特徴から察すると、その線は消える」
「即ち、ドゥングさんって訳です。大柄であり、黒い男。確か皆さんが事情聴取をした時も、此処にいらっしゃるルファンさん、顕景さんから伺ってましたよね?」
「ああ、わしの見た影は確かに黒く、そして大きかった。影は本来黒ではあるが、しかしそれにしてもどこまでも黒だった故、鮮明に覚えておる。不気味と言うか、なんというか」
「ふふ、まあ私から見れば人間なぞ皆平等に不気味であり、生物など須らく邪悪、だろうがね」
「そう。全体的なシルエット、そして残されたシオンさんの証言から見ても、恐らくその犯人はドゥングさんで間違いないと思います」
「うん。最後に大吾さんとハデスさん、なんだけど。これって不思議な事に、手口が一緒なんだ」
 鳳明の突然の発言に、一同が驚いた。
「全然違いましたよ!?」
 イリスの声。本当に驚いたのか、声がひっくり返っていた。
「ああ、そうじゃなくて。うーん、なんて説明していいのかな」
「不可解な事件。と言う事だな。犯行手口がはっきりしない、そして完璧すぎる殺害手段。故に共通、と言う意味だろう」
 コアの補足が入った。鳳明がそうそう、と返事を返し、コアにウインクする。
「確かにそうだったな。大吾にして言えば、水を飲み、突然に倒れた。ハデスは完璧すぎる密室殺人。今にしてみればわかる事は――そう。二人を簡単に殺害し、尚且つ簡単にアリバイを作れる人間が、この場には少なくとも二人いる」
「コア。それって……」
「そうだ。ウォウルとラナロック。このパーティの主催者二人だよ」
「そして――私たちが導き出した組織的犯行、複数犯による計画的な犯行のその首謀者が、その二人のどちらか。って事だ」
 言葉が出なかった。確かに全員、そんな事はないと思う。
綾瀬の完全にわかりやすいヒント。
ゴンザレスの死というわかりやすい悲劇。
その全てをもってしても、その二人を除外するに足るものではない。
「今、その二人は此処にいない――」
 恐る恐る――シャーロットが呟いた。と、此処で。

「あなた方の目は節穴でございますか」

 希鈴の言葉だった。
「な、何を突然に!」
「ふん。茶番も茶番です。これではまるで三流喜劇だ。いや、喜劇にだってなっていない。
それこそ本当に、ご都合主義でしかない」
 彼は淡々と述べる。
「途中まではまだ良いでしょう。しかし、結末があまりにお粗末だ。本当にどうしようもない程に粗末で粗悪が故に、笑ってしまったではありませんか。お嬢様方。あなた方は暫く黙っていてくださいませ」
「なんだと!?」
「まぁまぁ未散君……落ち着きなされ」
「ちょっとどういう事よ希鈴!」
「確かに証言を元にした此処までの推理は良い線でしょう。ですが、それだけなのですよ」
 今にも殴りかかりそうな勢いの未散を抑えながら、二人は。そして手帳を開いたままの鳳明は首を傾げた。
「この中に全てが揃っている、とは誰も何も、言ってもいなければありもしない。という事でございます。例えば第三者の登場。これは実に的を射てらっしゃったのに」
「第三者……だと?」
「詰まる所で、此処にはいない誰か、でございますよお嬢様。部外者ではありませんが全くパーティに参加されていない方の犯行で御座います」
「え、それってどういう意味よ希鈴」
「わたくしめにもわかりませんが……」
「パーティに出席している人間は、それこそ時間の流れをしっかりと体感しましょう。何かが起こった時、その時点でそこにいるのですから。それは即ち、動きの半分以上を制限されている、と言う事に他ならないのでございます。パーティに参加しているからこそ、アリバイがあり、同時に制限を受ける。のでございます。しかし端からパーティ、そのものに参加していないとすれば、どうですか?」
「第三者の介入。でもそれ……言い換えれば反則じゃないかな。それこそ際限なく出て来ちゃうし……」
「ではわたくしから皆様、敬愛の意を込めてヒントを一つ。殺害されたゴンザレス様のみ、以降皆様は見ていらっしゃらない訳ですね」
「………!」
 恐らく皆がはっとした、のだろう。
「おかしなものです。被害に遭われ、全ての始まりとなった筈のゴンザレス様はもう、皆様が確認出来る場所にいない、と言うのは。果たして彼は、亡くなられたのですか? そう、先程皆様が再三弁論されていた事にございますよ。『果たしてゴンザレスは、ラナロックが見つけた時には既に死んでいたのか否か』。これがわたくしから提示できる、全てのヒントでございます」
 言い終るや、彼はすっと身を後ろへと下げた。一礼が何処か憎らしくもあり、何処かわざとらしくもあって、しかし様になっている。
「って事は――」

 誰の物かもわからない言葉。それに被せるようにして、間髪入れず。悲鳴が聞こえた。