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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

 反省した変熊仮面が、後からやってきた鳳明、託たちに取り押さえられ、連行(下に連れて行かれている)されている最中。それは突然に起こった。
「そう言えば変熊さんでも、服着るんだねぇ」
 この言葉は託。
「そうだぞ。俺様とて、『ちゃんと服は着てね』って言われたら、ちゃんと着るのだ。まあ、本音を言えば『着ているだろう! ほら、ちゃんと隠してるし!』といったところなんだがな」
「え、隠してるのって主に顔と背中だけじゃん」
 このツッコミは鳳明。
「そう! そこだけ隠せていれば問題など皆無なのだ! 貴様等もいずれわかる時が来よう」
 と、笑っていた変熊仮面が突然に、その場に倒れ込んだのだ。これにはさすがに一同も驚く。
「ら、ラナさん!?」
「えっ!? 違いますよ! 私は何も――」
「じゃあ誰が……」
 彼等のすぐ後ろを歩いていた六花が辺りを見回した時――である。
「使えない熊ですわね」
 声がした。
「誰だい……?」
 託が尋ねると、声の主はしらとした表情で彼等、彼女等のいる階段の上から現れた。
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)――。
「全くもって使えないですわ。私のサンドイッチ用のスモークサーモンをかっぱらった事を許すから、と自ら犯行を名乗り出たと言うのに……全く以て使えない。使えなさすぎて、思わず撃ち滅ぼしてしまいましたわ」
 さらりと、述べる。
「……そんな、だって彼、ちゃんと反省して――」
 六花の言葉に、アデリーヌはゆると笑った。
「皆様がお許ししたのは別のお話――私へと贖罪はまだ果たされていなかったと言うのに――。だからもう、用済みですわ」
「なんて……なんて言い草するのさ!」
「あら、本当の事ですわよ。鳳明様。それに彼――遅かれ早かれそこのお嬢様に殺害されていたのでしょう? 私が手を下した事など、所詮は遅いか早いかの違い、ですわ」
「………違うな。お前、誰かをかばってるんだろ?」
 竜斗が笑う。
「何を仰っているんです? そんなはずが……」
「お前が持っているのは辞書だ。それは書籍だ。殴打するには至近距離にいなくちゃいけない。でも、変熊仮面の近くには最低でも四人はいた。四人を切り抜けて変熊仮面の頭部だけを正確にその辞書で殴る事なんて、できないんだよ!」
「くっ……」
 口籠るアデリーヌ。一同はそれを見てアデリーヌの言葉を待った。返答を待った。だからその場は沈黙だった。それだけの話である。
「良いわよ。もう無理しなくって」
 一同が不意を突かれ、どころか彼等の、彼女等の目の前に敵対者として現れたアデリーヌその人までもが驚いたのは、彼等の下。階段の下から出て来た綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の言葉が為だった。
「貴方は頭が切れすぎたのよ。竜斗君」
 途端、竜斗の頭部に何かが当たる。
「主殿!」
「竜斗さん!?」
「くっ……クソ……大丈夫、俺はまだ、立てる……!」
「良いわ。全部白状するわよ。私がやったの。そこでゴンザレスを纏っている男も、私がみんなを混乱に貶める為の策なのよ」
「何でこんな事をしたんですか!?」
「随分な物言いね、六花さん。雪住 六花さん、簡単な話よ。マネキンの分際で熊のぬいぐるみ(笑)とか言ってちやほやされるわ、マネキンの分際で足が臭いわ、マネキンの分際でオレオレ詐欺を働くわ、マネキンの分際で一円玉貯金をコツコツとするわ、マネキンの分際で自分よりくびれが良いわ、マネキンの分際でスイーツ(笑)だわ、マネキンの分際で愛と恋の違いを赤裸々な体験談を交えつつ熱弁するわ、マネキンの癖にブログのヒット数が一日で十万を超えるわ、マネキンの分際でかの有名な電子機器メーカーの社長とツーショットの写真を取るわ……あげだしたらきりがないわよ」
「……ゴンザレスってそんなやつだったのか……」
 東雲が恐る恐る変熊仮面を見る。
「それにね――探偵さんたち。忘れてる様だから言っておくわ。登山家が山を登る様に、料理人が料理を作る様に、名探偵が『犯人はお前だ!』と名指しする様にっ! 殺人犯はそこに被害者がいるから殺すのよっ! たまたま殺したのが熊のぬいぐるみ(笑)のマネキンだっただけよ。ただのそれだけ」
「そんなのは間違ってる……」
「主殿……駄目だ、まだすぐに動いては行けない………!」
「意味もなく、ただただそこに標的がいるから殺す、なんてのは絶対に間違ってる!」
「へぇ……立つんだ」
「当たり前だ! 俺が此処で――」
「じゃあそんな物わかりの良い貴方が本当に絶望しか残らない様な事を一つ、教えてあげるわ」
 そう言うと、彼女は手を叩く。手を叩けばアデリーヌの後ろから、彼女たちがやってきた。
「上手くいった、とは言えませんでしたけど。それでも収穫はありましたよ」
 柚。
「人質が二人――まあまあ上出来って感じじゃない?」
 三月。
「私達に掛かればこのくらい造作もないわ。そうでしょう? みんな」
 雅羅。
三人は意識を失っている食人、悔しそうに三人を睨みつけるシャインヴェイダーに武器を向け、一同の前に現れた。
「皆さん、ごめんなさいね。実は私達ぃ、犯人だったんですぅ」
 敢えて、だろう。不気味な口調の柚が、言葉を述べた後に笑う。
「そういう事だよ。それにね、君たちの中にはまだ、裏切者がいるかもしれないね」
 三月の瞳が、まるで猫の様に光る。不気味に光り、一同の中の裏切者を指していた。
「それでぇ、どうするんですかぁ? この人。きゃははっ!」
「彼等はそのままでいいわ。では皆さん、取引といきましょうか」
 さゆみが表情なく、一歩踏み出す。
「何を――取引するんですか……!」
「簡単よ六花さん。貴方達が捉えたその熊。否――熊のぬいぐるみ(笑)。それをこちらに渡して貰えればそれでいいの。全部解決するのよ」
「馬鹿にしているの! そんな卑劣な手にはのらん!」
 コアは一同とさゆみの前に立ち、文字通り身を挺して彼等を庇う。
「なぁ、さゆみ。話をしよう――」
 突然に、コアの横からよろめく竜斗がさゆみに近付きながら口を開いた。
「竜斗さん……この期に及んで交渉は、成立しないですよ! 貴方もわかっている筈です!」
「大丈夫だ。お前は俺のライバルだからな、俺の策をわかってくれてるだろう?」
「策………あなたまさか!」
 一度笑った竜斗が一段、階段を降りてさゆみに近寄る。
「呆れたわ……。いえ、此処は素直に驚いたと言うべきね。あれだけの事をされて置いて すぐに反抗精神を立ち上げる事ができたなんて――」
 対して、なのだろう。さゆみも一段踏み出して、両の手を広げた。
「さゆみ……」
「良いわわかった、わかりました竜斗君――」
 その手を一振りすると――なんと彼女の袖からは無数の裁縫道具が現れたのだ。
ばらばらと音を立てて、さながら極まって兵器が如きその様相――。続け様に、彼女は言う。

「戦争をしましょう」

 そこまで来て、一同は気付いた。気付いたからこそ触れないでいたその空間に、何故かアデリーヌの「良かったですわね」と言う声が響いた。
「ねぇねぇ柚……ちょっと良いかな」
 見ていた三月が柚に耳打ちすると、妖艶な表情をしていた彼女の顔が一瞬だけ元に戻る。
「どうしたの? 三月ちゃん」
「この光景ってさ……どっかで見たことあるよね」
「あはは……確かに、そうですね」
 苦笑を浮かべた彼女は、はっとなって自分の口を掌で覆い、慌てて表情を元に戻した。
「ま、待ってくれよ! 少しは俺の話も――」
 六花はそれを見守っている。とは言っても、見ている先は竜斗とさゆみではない。勿論、背に控える彼等、彼女等でもない。凝視し、注視しているのは自分たちの面々。
「此処まで来たら強引にでも返してもらいます」
「だから――」
 竜斗の言葉などはお構いなしに、彼女はそでから伸びる無数の裁縫道具を振りかぶった、所で――止まる。
「そこまで。はい、良いよ良いよ。もうばれちゃったみたいだからね」
 何処か台詞がかった口調で、彼が呟く。六花が最終的に注視した対象――ウォウル。
「さゆみさん。此処で君の言いに乗るのであれば――本当はこういう感じだったんだろうねぇ……『何だいお嬢ちゃん、元気がいいね。何か良い事でもあったのか?』ってな具合かな」
「うわっ! ウォウルさんも乗っちゃった!」
 静観していた衿栖が思い切り突っ込んだ。
「そう、何を隠そう僕が親玉だよ。僕が黒幕だ。みんな、僕が協力を要請したんだよ。って言っても、此処にいる殆どの人はそれを薄々感づいていたみたいだから、今更なんのサプライズでもなかったけどね」
「……やはりあなたでしたか、ウォウルさん」
「うん。君たちはやっぱり凄いな。うんうん。 ああ、因みにいい事を教えてあげようか。ゴンザレスを殺したのはラナではないよ」
「え……?」
 六花が止まる。
「読みは合っていたけれど、でも彼女にはゴンザレスを殺す動機がない。それ以外はおおむね正解、と言ったところかな」
 カラカラと笑ってから、階段を降り始める。
「や、約束が違うわ! ウォウルさん! 私は心行くままに殺戮が出来ると聞いたから協力したのに……!」
「そうだね。でも、此処までばれてしまったら計画は頓挫だよ。ごめんね……」
 銃声がした。ウォウルを貫く、一発の銃声がした。それは誰のものでもなく、柚が雅羅からひったくった銃の声。
「裏切者には死を――貴方が作った鉄の掟、ですよ――」

 夜風に雲が靡きながら、月を隠しては浮かび上がらせる。

 残酷な一夜は、こうして終焉を迎える。