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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

「犯人は吉見さんだよ」
「え、ごめん誰」
「えぇ!? 吉見さん知らないの?」
「知らねぇよ! いやマジで誰」
「全くもう……これだから東雲は。良い? 吉見さんって言うのは――」
「おいおい。いつまで俺たちはこうしてればいいんだよ」
 説明をしようとしていた彼女の言葉を遮る形で、大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)が口を開く。ふてぶてしくも不服気に、彼は口を開いて座っている背もたれに片腕を掛けた。
「その“吉田”だか何だかはこの際置いといてよ、実際のところ俺たちに疑いがかかってんだろ? だったらとっとと俺たちに話を聞かなくていいのかよ」
「“吉田”じゃないよ! 吉見さんだってば!」
「何でも良いよ。んで? 俺たちは何を応えりゃいいんだ?」
「そうね……まずは何を聞こうかしら」
「集合時間よりも前に来たのは何故か、とかが良いんじゃない?」
 沙夢が考え込んでいると、隣で託が口火を切る。きっかけを作り、それを聞いた沙夢は「じゃあそれで」と付け足した。
「集合時間は集合時間、集まるって言うのは少しゆとりを持って動くのが、マナーと言うか、常識とういうか。でしょう?」
 至極詰まらなそうに天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)がそう言うと、鍬次郎が頷く。
「で、貴方達は先に来た。ですか。まぁそれはわかりました。ならばそれはそれで良しとしておきましょう。じゃあ次にその犯――」
「その犯行には気付かなかったんですか?」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が次の質問に移ろうとした矢先、冬月 学人(ふゆつき・がくと)が変わりにそれを言ってしまったのだ。
「それは私のセリフだぁ!」
「ふん、何を言っているんだ君は。僕はねぇ、君が思っている更に四手先を読んでいるのだよ」
「くっ……」
 言い合いをしている二人を余所に、斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)がおろおろとしながら訥々と言葉を吐き出し始める。
「ハツネたち……可愛らしいお人形さんが見れるって……聞いたの。だから嬉しくなっちゃって……それで、それで!」
 終いには泣き出しそうな程の勢いで呟く。
「いや、あのその……あなたたちが悪いんだ、って言ってるわけじゃないん、ですよ……? その」
「ふん。君はこんなに幼い子を泣かせてしまうなんて。全くもって有り得ない事だよ」
 心なし、学人の言葉が前のめりだった。どころか姿勢まで少し前のめり気味である。
「ねぇ佑一……。あの二人の喋り方、って言うかやり取り……何処かで見たことがあるのだけれど」
「うん? そうかな、気の所為じゃないの?」
 ふとプリムラが二人を凝視しながらそう言うのに対し、佑一が素っ気なく返事を返す。
「では貴方達は、ただ少し早く此処に着いて、その可愛いと評判のぬいぐるみを見に来た、という事でよろしいですね?」
「ああ、違いねぇよ」
 テーブルの上に足を組んで乗せ、のけ反った状態のままに鍬次郎が笑う。
「つ、次の質問です。あなた方は犯行があった時、その場にい――」
「その場に居合わせていましたか?」
「だかれそれは私が今――!」
「馬鹿だな、君は。先程から何度も言っているが、僕の方がこういうのは場馴れしてるのさ。君は僕の名推理でも眺めてハンカチをかみしめていればいいだよ。どんとこいミステリー!」
「ああ! 思い出した」
 プリムラの叫び声が聞こえる。
「何が?」
「あれ、あの二人のやり取り。思い出した。今鮮明に……」
「自分は現場には……居合わせていなかった……」
静かに座っていた東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)が突然淡々と口を開く。
「ねぇベアちゃん! あの熊さん喋ったよ!」
「そ、そうですね………」
「ってか顔が濃ゆいよ! ちょっと怖いよベアちゃん!」
「ほ、ほら美羽さん! そんな大きな声で言ったら失礼ですよ!」
 二人のやりとりが聞えていたのか、新兵衛がすっくと立ち上がり、二人の元にやってきた。
「……いつもお嬢が世話になっている。これからも是非、仲良くして欲しい……頼んだぞ……」
 思いの外、と言うよりは想像以上に無骨な挨拶をし、美羽の頭に手を乗せ、やや強めに彼女の頭を撫でる。
「うわわ、ベアちゃん……っ!」
「あはは………」
 思わず目が回っている感じの美羽と、それを苦笑で見守るベアトリーチェ。すると今度は違う人物目掛けて挨拶を始める彼。律儀である。
「で? 俺たちはもう聞かれる事はねぇのか?」
 鍬次郎の質問に対し、彼等は暫く考えた後、『今は』と言ってから次へと移る事にした。
 続いての事情聴取対象はルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)長尾 顕景(ながお・あきかげ)である。
ルファンはさておき、顕影は随分と『犯人です』な格好をしている。
何せ身に着けているドレス、コート、ブーツのその全てが黒いのだ。ミステリーに出てくる犯人もビックリな犯人セット一式である。
「えっと……どこから聞いたら良いものかしら」
 そんな恰好の顕影を見つめながら、イリス・クェイン(いりす・くぇいん)はやや当惑した表情のままに呟く。
「まずは……やはり犯行があったときの事を伺うとか、ですかね……」
 彼女の隣にいたシャーロット・フリーフィールド(しゃーろっと・ふりーふぃーるど)も、にわかに困った様子で提言し、それを聞いたイリスが頷く。
「犯行時刻……一体何処で何を?」
「歩いていた」
「どこをですか?」
 簡潔過ぎる供述に、すかさず彼女は更に踏み込んで尋ねた。
「この敷地内の何処か」
「何処か、ですか。具体的には?」
「知らないよ。知る由もない。何せ私は今日此処に初めて来たわけだ。具体的に何処か、と言うのは些か不躾な質問ではないかな?」
「……そうですね。ではこの敷地内にいた、という事でよろしいですね」
「如何にも」
 おどおどするでもなく、動揺するでもなく、顕景は淡々と返事を返すだけだ。
「犯行はご覧に?」
「さあな。どうだろう。あの熊のぬいぐるみ(笑)ならば、何度か見はしたが、そのいつ、どの時が犯行時だったかなど知らないからな」
 笑う笑う。薄らと笑う。悪人が如く笑う。
「この人が犯人、じゃないでしょうか……」
「何故そう思うの?」
 僅かばかりの声、シャーロットはイリスに耳打ちした。
「この不遜な態度。服装――どれをとっても犯人のそれだと、神が言っております」
「それはないでしょうね」
「えへっ☆」
「柄にもない事しなくていいですから。それで、そちらのお姉さんはどうですか?」
「お、お姉さんとな! 違うぞ、わしは男だ! 確かにまぁ、見えなくはないかもしれんが、しかし断じて女子ではない」
「あら、そうですか。失礼しました」
「そうだな、わしも敷地内にいたことは確かなのだが、こやつの言う通り、どこが何処だか全くもってわからなんだ。故に明確なアリバイを裏付けるものはない。目撃証言とするのであれば……そうよな、黒き大男を見た」
 顕景とは対照的に協力的な姿勢でもって、彼は懸命に記憶を呼び起こしながら話しだす。
「では、そちらの方は?」
「え、ああ私か。うん、見たな。言われてみれば」
「黒い男、と言う彼ですか」
 シャーロットが付け足した質問に、しかし顕景はゆると首を傾げた。
「さあ? 男かもしれないし女かもしれない。大柄ではあったけど性別までは断定できないね。更にいうなれば、私が見たのは遠くでだよ。体格であれ特徴であれ、それは細微であって微妙であって、詰まる所で曖昧だ」
 のらりくらりと言葉を躱す。否、言葉で躱す。
「ああもう! わかりづらい!」
「まあまあ、イリスさん」
 苦笑ながら懸命にイリスをなだめたシャーロットが次の質問を向ける。
「その人影を見たのはわかりました。では、その後に事件が起こった、と?」
「うむ。流石に声は聞こえなんだが、何やら物々しい音が聞こえた故、予測するにその様かと」
「どうだろうね。家長なくとも物音は立つものさ。残念ながらにそんな常識やらそんな固定観念と言うものは本当にどうでもいいものであって、それをあてにしてかかれば痛い目をみる。ああ、誤解しないで貰いたいが私は嘘は言わないので安心したまえ」
 顕景の発言に、恐らくもう勘弁ならなかったのだろう。イリスがきりっとした顔になって立ち上がり、固める拳を振り上げた段階で隣に立つシャーロット、ローズ、学人に止められた。
 最後に事情聴取を受けるのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。のはずだったのだが、そこに居るのはダリルだけである。
「おや? ルカルカの姿がないぞ、ダリル」
「ああ、彼女は手洗いだそうだ。それより、始めるとしようか」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の問いかけに対し、ダリルはこともなげに言うと、両の掌を合わせ、肘を机に置いて目前の二人言葉を待つ。「聞いてみろ」と言わんばかりの、やや挑戦的な体でもって。
「じゃあ聞かせて貰うわよ。言っとくけど、あたしはみんなみたいに優しい取り調べはしないから、そのつもりでね」
「ほう。それは楽しみだ。なんでも聞きたまえ」
 ラブ・リトル(らぶ・りとる)の自信満々の言葉に対し、更にその上を行く高圧的な態度で彼は返した。
「その勝ち誇った顔、いつまで続くかしらね」
「こ、こらラブ。まだ彼が犯人だと決まった訳ではないぞ」
「何、気にするな。仮に――ああ、本当にもし仮に俺が犯人であったとしても、生憎だが君たちが俺のところに到達する事はない。いいや、この場合は出来ない、と言ってしまった方がいいか」
「ふん! 今の内に吼えているがいいわ! じゃあ最初の質問よ。犯行時間のアリバイは?」
「ふん、此処にいたぞ。隣のリビングにいた。今は亡き綾瀬女史も共にいたな」
「事件があったのは知っていたって訳?」
「ああ、いたのだからな。現場は知らんが、確かに騒ぎがあったのは知っていた」
「くっ……リビングにいて、何をしてたの!?」
「パーティの仕度だよ。当たり前だろう」
 ラブとダリルの攻防。
「では質問の方向性を変えよう。ダリル、君はゴンザレスと面識が?」
「ある。以前此処に来たとき、ラナロックの様子を見に来たときに一度、な」
「その時の印象はどう思ったのだ?」
「随分毛むくじゃらなやつだ、と思ったな」
「そうか――」
 コアが言いかけた時である――突然に悲鳴が聞こえた。響き渡る悲鳴に、その場の一同がはっと顔を上げた。今話しを聞かれているダリル、その人を除いては。
「探偵さん、刑事さん方。新たな犯行の様だ。そしてこれは同時に、俺がこの一連の犯行とは無縁である、という、確固たるアリバイとなった訳だ」
「何……だって……!?」
「そうか、こうなる事をはじめから……」
「ふふ、まあそれはさておき、急いで行った方が良いんじゃないのか?」
 彼を残し、一同が慌てて声のする方へと待合室の扉を開けた。途端――。

「ルカルカ!」

 コアが見つけたのは、その場に横たわるルカルカの姿。ぐったりと項垂れた彼女は不可解に人差し指を立て、階段の方へと向けていた。
「階段の上に何かがあるって事ね!?」
 ラブが一同を置いて一目散に走りだす。一同も慌ててその後を追った。が、
「私達も行こう! って何やってるのさ学人!」
 ルカルカの倒れているのを見ていた筈の学人が動かない事を不審に思ったローズが声を掛けると、突然彼はその場で倒れ込んでしまったのだ。
「気絶してるし! って使えなっ!」
 倒れ込んできた彼を受け止めたローズはしかし、抱えていた彼の上半身をその場に放り、一同の後を追う。
「誰かいるんですか!」
「大丈夫ですかっ!」
「返事をしないと助けられんぞ!」
 真人、シャーロット、エヴァルトが手当たり次第の扉を開き、叫びながら悲鳴を上げた声の主を探す中。今まで着いてきていたカノコが突然に大声を上げ、その場に座り込んだ。
「もう嫌や! こんな事嫌や! 次は絶対カノコの番やん! 寝る! もう部屋に帰って寝るで!」
 頭を抱え込み、そう叫んだ彼女。
「お、落ち着いてくださいカノコさん。犯人を一緒に探せばきっと大丈――」
「犯人なんてわからんやん! なかなか見つけ出せんねやったら、次は絶対カノコの番やない! もう嫌やねん! 堪忍したってやぁ! うわーん!」
 恐る恐る近づき声を掛けたラナロックの手を振り払ったカノコは、そのまま勢いよく立ち上がると一同を背に走りだして行った。
「ラナ! 僕は彼女を追いかける事にするから、君は犯人を!」
「わかりました」
 慌ててウォウルが後を追い、一同が心配そうにその様子を見送っていた。
「ほら、僕たちは早く悲鳴の原因を探さないと。もしかしたら犯人を捕まえられるかもよ?」
 託の言葉に頷いた一同が足を運ぼうとした矢先、ミシェルがふと、そのことに気付いた。
「あれ………雅羅さんがいないよ?」
「ミシェル、ほら早く!」
「ああ、うん!」
 彼の言葉。佑一が全く意識をしていない彼の言葉。そう、この場、この時に置いて雅羅・サンダース三世の姿はない。