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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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 エオリアの連絡を受けて麗達、マイト、イングリットも現場に到着していた。エースとエヴァルトとは反対の道。
「イングリット、ここですわ」
「いますわね」
 壁に身を潜めながら様子をうかがう麗とイングリット。
「お嬢様、どうか無茶だけはしないよう」
「分かっていますわ」
 心配するアグラヴェインをさらりと流す麗。
「よし、行くぞ」
 マイトの合図で攻撃開始。

 麗達、マイト、イングリットが駆けつける少し前。
「……ん? わしに何か用か?」
 老魔女はグィネヴィアの声でエースとエヴァルトに言葉をかけた。
「……その声、盗んだものだね」
 エースはすぐに犯人だと見分けた。
「ほう、おぬしらもわしを探している者か。で、どうするつもりだ」
 老魔女はにやりと笑った。エースとエヴァルトが現れた理由を了承しているようだ。
「……盗んだものを返して貰うのさ」
 エースは当然とばかりに答えた。
「あの小娘は名前を書いた。合法な取引さ。まぁ、せっかくのこの姿と力、もう少し楽しもうと思っておるが。炎を作るだけではつまらんし。先ほども実験を存分に楽しんだが」
 老魔女は肩をすくめながらさらりとエースの言葉を流す。
「不愉快だね」
 言葉通り不愉快そうにするエース。
「……合法な取引か。人を騙しておいてよく言えるな」
 エヴァルトは忌々しそうに言葉を洩らすなり『ゴッドスピード』で老魔女の背後に回り、首の後ろに当て身を入れた。

 当然、老魔女は避けようとするが、
「吹雪!」
「今でありますな!」
 コルセアの言葉で吹雪は『グラビティコントロール』で行動を阻害され見事に倒れた。

「……気絶したか。おわっ」
 エヴァルトは老魔女が気絶した事を確かめるも驚きの声を上げた。老魔女がガラス細工のように粉々になり、鋭い破片がその場にいる者達を狙って飛ぶ。
「……魔法か!?」
 エヴァルトは『歴戦の立ち回り』で素速く破片を避けた。
「これは危ないね」
 エースは『ブリザード』で破片を全て凍らせて粉々にする。
「……危ないでありますよ!」
 吹雪は『行動予測』を使い、破片が来る前に『グラビティコントロール』で壁に移動して避けた。
「……簡単にはいかないみたいね」
 コルセアも『歴戦の立ち回り』で軽やかに避ける。
 破片は一カ所に集まり、人の形を成す。老魔女の姿を。
「……美しい髪が一房、減ったか。まぁいい」
 老魔女は絹の如く艶やかな髪の毛を弄りながら言った。エースが粉々にした影響はここに出たようだ。
「……これは本当に契約破棄されないと無理そうだね」
「……動きを封じたいところだな」
 エースは改めて契約破棄が重要である事を感じ、エヴァルトは拘束の必要があると感じていた。
「ふふふふ、面白い。これがわしの戻った力。これからずっとわしの元にある力」
 愉しげに笑う老魔女。心底奪った力を喜んでいる。

 そこに
「許せませんわ!!」
 麗は『羅刹の武術』で老魔女の腹部に一撃を加えた。
「……お嬢様」
 アグラヴェインは麗のおしおきの様子にため息をついた。いくら許せない相手でももう少し立ち振る舞いを考えて欲しかったりする。
「……マイトさん」
「合わせる」
 イングリットはマイトに軽く目で合図した後、麗に続いて飛び出した。
 老魔女が後ろにのけぞったところでイングリットが腕を掴み、投げ飛ばした。
「悪いが……大人しく縛に付いて貰う」
 地面に倒れたところを『行動予測』で所定の位置に移動していたマイトが『逮捕術』と拘束用ワイヤーで完全に動きを封じた。

「……ん」
 目覚める老魔女。
「さて話して貰おうか、目的が何なのかを」
 老魔女が状況把握を完了する前にマイトが事情聴取を始めた。

 ここで
「ちなみにお前の被害者達は全て救ったぞ」
「残念でしたわね」
 シリウスとリーブラが現れ、老魔女にとって残念な事を伝えた。

「……またおぬしらか。まぁ、少しぐらいお喋りに付き合ってやろうか」
 地面に倒れたままの老魔女はシリウス達を忌々しそうに見上げた。
 それから
「……目的、それは一つしかなかろう。力を取り戻し、愉しむ事さ。以前のようにな」
 老魔女は目的を話し始めた。
「グィネヴィア様達を巻き込んだ理由は何ですの?」
 麗が険しい顔で問い詰める。
「世界征服でありますか?」
 と吹雪。
「……世界征服、つまらん。わしは根絶やしにしたいのさ。この戻った力で何もかも。あの小娘もわしを追い出した国もフェリシカ地方も。わし以上の絶望と苦しみを叫び消えていくのを見たいからさ。想像するだけではつまらんからな。その手始めがここさ」
 老魔女は口元を歪め、瞳には醜悪な光を宿しながら語る。グィネヴィアから奪った力を使い、口にした場所を地獄絵図にするのが目的だと言う。本当に腐敗した心の持ち主なのだ。

「そのために少年を利用したのか?」
 とエヴァルト。
「……利用、か。利用し利用されたのさ。つまりは取引さ。馬鹿な坊やさ。信じるものが嘘なんだからな」
 薄ら笑いを浮かべながら老魔女。
「なぜ、グィネヴィアさん何だ?」
 エースがグィネヴィアが狙われた事について問いただす。
「なぜ、愚問だ。あの小娘だからさ。あえて言うならまぶしいぐらい輝いているものを潰すのは楽しいからさ」
 老魔女は悪人として期待通りの返答をした。
「……あえて、か。他にも理由があるという事かな?」
 エースはさらに追求する。
「……さぁてね」
 老魔女は小馬鹿にしたようにグィネヴィアの声で笑うだけ。
「……悲しい人ですわね」
 リーブラは小さく言葉を洩らした。他の理由があったとしてもグィネヴィアのように純粋な心がまぶしくて握り潰したいという事は真実だと分かる。それが悲しいのだ。グィネヴィアに罪が無いとは言え。
「なぜ、今このような派手な事をするのですか?」
 エオリアが甚五郎達が疑問に思っていた事を代わりに訊ねた。
「今、だからさ。大した理由は無い。やりたいからやる。それだけだ。それともこの答えに裏があると考えるか。ふふふふ」
 老魔女は嫌味な笑みを浮かべ、愉しそうである。
「……裏、か」
 そうつぶやき、エヴァルトはじっと老魔女をにらんだ。答えがどこかに隠れていないかと思うが、目に移るのは不愉快な笑みだけ。
「……渡した薬は何ですか。劇薬では無いそうですが何に使わせようとしているのですか?」
 とエオリア。甚五郎からの連絡で判明した事だ。
「……薬。わしの家を調べたのか。まぁいい。だが、言う訳が無いだろう。依頼されたから作ったまでさ。今頃、故郷の空でも見上げてるんじゃなかろうか」
 老魔女、予想通りの答え。
「……えぇ」
 エオリアはうなずいた。先ほど少年を追っていた仲間から連絡が来たのだ。
「ははは、ふふふ。愉しいな。苦しみ消えればいいさ。あとは仕上げだけだ。想像するだけでも愉しい愉しい」
 老魔女は心底愉しそうに笑った。
「……仕上げとは何だ? 話せ!」
 シリウスがきつい口調で問いただす。
「話しただろうが、根絶やしさ。心が死んで体も死んで。叫び累々……もうそろそろ魔法薬も体に回った頃か」
 笑っていたかと思ったら老魔女は舌を歯でたっぷりと血が溢れ出るまでかみしめた。
 滴る血は意志を持っているかのように地面を這い、まさに血の海を作り出し、いくつもの赤い生き物が広がり続ける海から生まれ、正義の人達を襲う。

「……イングリット、警戒だ」
「……えぇ」
 マイトは『庇護者』を使い、襲いかかる赤い生き物からイングリットを守った。