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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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第五章 終わらない疑問と沈黙


 ベンチ。グィネヴィアが回復する少し前。

「まぁ、たくさん買ったのねぇ」
 セリーナは大量の買い物に声を上げた。
「……は、はい。大変でしたけど、楽しかったです」
 リースがセリーナに答えた。
 そしてまたセリーナとグィネヴィアを入れ替えた。
 グィネヴィアの膝には回復係のリイムがちょこんと座っていた。
 ヴァーナーもちょこんとグィネヴィアの隣に座った。
「……早く、グィネヴィアちゃんの声、聞きたい」
 と日奈々。買い物は無事に終わるも浮かない。グィネヴィアがまだ不調だからだ。それはみんなも同じ気持ち。
「だいじょうぶですよ〜」
 ヴァーナーは明るく皆を励ました。
「……そうでふ」
 リイムもグィネヴィアの膝の上で『ナーシング』をしながらうなずいた。
 何気にヴァーナーはリイムを撫で撫でしている。
 そんな時、
「……あっ、はい」
 突然、リースに連絡が入った。ルカルカからの契約書破棄完了の報告。
 それと共に顔色が戻って行くグィネヴィア。
「……もう大丈夫そうねぇ」
 セリーナは嬉しそうにグィネヴィアに微笑む。
「……グィネヴィア」
 宵一は安心顔でグィネヴィアの様子を見つめていた。
「……グィネヴィアちゃん」
 控え目だが嬉しそうな声を上げる日奈々。雰囲気で周囲の状況は分かっている。
「グィネヴィアおねえちゃん、元気になったですか?」
 心配顔のヴァーナーが訊ねた。
「…………はい。あの、大丈夫です。本当にご迷惑をお掛けてして」
 声を取り戻したグィネヴィアは顔を伏せ、迷惑を掛けた事に謝る。みんなの為に何かしようと思ったのに逆にみんなに何かして貰うはめになるとはあまりにも悲しくてたまらない。
「……え、えと、気にしないで下さい」
 励まそうとするリース。何かしたいというグィネヴィアの気持ちはよく分かっているから。
「そうですよ、グィネヴィアおねえちゃん!」
 ヴァーナーはグィネヴィアが目覚めた事に対しての嬉しさと励ましでハグした。リイムは邪魔にならないようにと宵一の元へ。
「リース様、ヴァーナー様」
 グィネヴィアはリースとヴァーナーを見た。
「……リーダー、今でふよ」
 リイムは宵一の側に行き、音量を小さくして告白のチャンスだと促す。
「……他の人がいる中でそれは」
 と宵一。さすがに公衆の面前で告白は難しい。特に断られた時はかなり辛いというかさらし者になる。
 それでも話しかけたい宵一は、
「……声が戻って良かった」
 当たり障りのない事を口にした。
「あの、ありがとうございます。言葉をかけて頂き本当に心強かったですわ」
 グィネヴィアは気遣ってくれた宵一に笑顔で礼を言った。
「……あぁ」
 元気な笑顔を見られただけで十分なのか宵一はうなずくだけで告白をしない。
「本当にありがとうございました」
 グィネヴィアは改めて皆にも礼を言う。
「……当然、の事だよ、グィネヴィアちゃん」
 と日奈々。
「まぁ、無事で何よりだぜ」
 ナディムも気にしていないと軽く言った。

 そこに
「無事のようですね」
「……良かったですよ」
 ブリジットとホリイ。
「……声が戻ったばかりで悪いんだが、教えて貰いたい事があるんじゃが」
 話を切り出す羽純。
「……その前に話すが、いいか」
 甚五郎が今回の事件について話し始めた。その前に事件の話はグィネヴィアが元気になってからと頼んだリースに許可を訊ねた。
「……は、はい」
 リースはこくりとうなずき、許可した。
 甚五郎は事件の詳細についてグィネヴィアに全て話した。
 この間に契約書破棄や老魔女退治に奔走していた仲間達も戻って来てグィネヴィアへ話は事件解決まで話された。

 話し終わってから
「それで犯人と面識はあるかのぅ。犯人はそなたの事を魔法の鏡で見ておった。どす黒い嫉妬の目で。少年についてはどうじゃ。二人もそなたと同じ出身じゃ」
 羽純が聞きたい事を訊ねた。
 黙るグィネヴィア。
「……グィネヴィアちゃん、私達、力になるから」
「そうです。力になります。だから話して下さい。どんな事でも」
 日奈々とホリイが話易くなればと言葉をかけた。
「…………」
 じっと日奈々とホリイの顔を見た後、グィネヴィアは考え込む。
「……面識はありませんわ」
 グィネヴィアは一言で答えた。面識が無くても仕方が無い。同じ出身で相手方が知っているからと言ってこちらに面識があるとは限らない。
「グィネヴィアのお嬢さん、二人が話した内容については?」
 ナディムの追加の質問。
「…………それは」
 先ほどと違って長く沈黙するグィネヴィア。何か知っている事は様子から分かる。それが喜ばしい事でないのは明らか。

「……話せねぇか。また迷惑を掛けてしまうと」
「……そのような気持ちは無用ですわ」
 シリウスとリーブラ。
「私もみんなも今日の事は大変な事だと思っていないよ。確かにいろいろあったけど」
 元気付けるオデット。
「……いえ、そんな事は……」
 言いにくそうに言葉を濁すグィネヴィア。

「今回のところはここまででいいじゃないか。どうぞ、元気になったお祝いに」
 場を何とかしようとエースが回復のお祝いにと花束をグィネヴィアい差し出した。
「……あの、ご迷惑をお掛けしたのに花束なんて」
 グィネヴィアはじっと見つめるだけ。皆に散々迷惑を掛けたのに励まされたり花束を貰ったり優しくされるのが申し訳なくてたまらないのだ。
「気にする事はないよ。彼女達が君の傍らにいたいと言っているんだ。彼女達のためにも頼むよ」
 とエース。
「……はい。あの、ありがとうございます」
 グィネヴィアはそっと花束を受け取り、礼を言った。
「無事で何よりですわ」
 戻って来たイングリットはグィネヴィアの無事な姿にほっとした。
「イングリット様。本当に申し訳ありません」
 グィネヴィアは最初に迷惑を掛けてしまったイングリットに丁寧に謝った。
「次からは気を付けるようにな。悪人が必ずしも一目瞭然の姿をしている訳ではないからな」
 マイトは刑事らしいく注意をした。
「……はい」
 グィネヴィアはこくりとうなずいた。
 この後、グィネヴィアはイングリットと他の百合園女学院の仲間達と学院に戻り、贈り物作りを始めた。その中でヴァーナーの『晩餐の準備』が役に立ったという。マカロンを提案したリース達も加わっていた。もちろん解毒した林檎も材料として使われた。完成後、無事に届ける事も出来た。

 今回の騒ぎは無事に解決したが、グィネヴィアの気持ちは楽しさの他にもう一つあった。ナディムの質問の答え。
 故郷に戻らなければならないと、事情を話し、協力を得なければならないと。少年と老魔女の話を聞いてから嫌な事を考えていたのだ。質問された時に答えられなかったのは、迷惑を掛けたばかりだったからだ。