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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

リアクション

「……無駄ですわ」
 リーブラが『アナイアレーション』で周囲にいる生物を倒し伏せた。
「……地面にも気を付けて下さい」
 エオリアが『ヘルファイア』で血の海を燃やしながら注意を呼びかける。燃やしても一時しのぎにしかならない。
 血の海は地面に転がるものを次々と飲み込み、広がり、建物を覆い尽くし、時々しずくが中を飛び跳ね、空を行くものまで捕らえる。
「何なんだこれは」
 シリウスは『ブリザード』で血の海を凍らせ、拡散を遅らせるが、すぐに後から生まれる海によって覆われてしまう。
「……まだかしら」
「すごいでありますよ」
 コルセアは『パイロキネシス』を使い、血の海を炎上させるがすぐに飲み込まれてしまっている。待つのは契約破棄の連絡。吹雪は『グラビティコントロール』で血の海を押し潰し、動きを少しだけ止める。

 老魔女はゆっくりと立ち上がり、血で作り上げた生物に拘束を解かせた。
「……なかなかだな。まぁ、こんなものか」
 老魔女は口元を拭いながら広がる血の海、飛び跳ねる赤い飛沫と歩く生物を愉しげに眺めていた。効きにくい魔法薬を自身の体で実験していたようだ。
「……お遊びはここまでにするか。随分、この体と力にも慣れたからな」
 軽やかにおさらばしようとしたが、そうは行かなかった。
 突然、エオリアにルカルカから任務完了の連絡が入った。急いで受け取り、血の海についても伝えてから皆に報告。
「エース、契約書は全て廃棄されました」
 その言葉と共に光精の指輪で光術を使用し、視界を奪った。
「あぁ」
 エースはそう言い『崩壊の術』を使った。動きに無駄がない。打ち合わせ通り動く。

「……なっ、目が。このような術など」
 老魔女は目が眩みながらも何とかエースの攻撃を堪える。

 光が収まると
「……終わりだ」
 ベルクが現れ、『カタストロフィ』で精神崩壊へと導いた。現場から遠い場所にいたため駆けつけるのに時間が掛かったのだ。
「……悪事はここまでですよ」
「観念するのです!」
 フレンディスとポチの助も一緒だ。

「……終わり、終わりなど……来な……い……あぁぁぁあぁぁ」
 地の底から響いているような叫び声はグィネヴィアの声から元の気味の悪い声に戻って行く。頭を抱え、地面に膝を突くも異界の力と『カタストロフィ』によって肉体は侵食され、精神には亀裂が生じ広がり粉々に砕け散る。全てが元に戻った。老化と魔力の衰弱によりエースとベルクの攻撃に堪える事が出来なかっただけでなく倍以上のダメージを受けてしまった。

「……あぁ…………」
 叫び声は消え去り、醜悪な心の持ち主の存在は消えた。
 その魂は
「……犠牲者が味わった以上の苦しみを味わうんだな」
 ベルクの死龍魂杖に回収された。
「……他者を魔法実験の餌食にした当然の報いさ」
 エースは先ほどまで老魔女がいた場所に向かって言った。
「……マスター、この血の海を何とかする必要がありますよ」
「ご主人様、離れないで下さい。この僕が守ります!」
 動き止まらない血の海にフレンディスはベルクに方法を訊ね、ポチの助はフレンディスを守ろうと前に立ち塞がる。

 ここで
「……話は聞いてるよ。すぐに解決出来るから」
「魔法薬を作りましたわ。これで力を奪う事が出来るはずです」
 エオリアから事情を聞いていた涼介とミリィが現れ、血の海に調合した魔法薬を瓶ごと投じた。『医学』と『薬学』を持つ涼介とミリィが作製した魔法薬は見事に血の海から力奪い、ただの黒く糊のような粘着物に変えた。それから皆は手早く片付けた。
 片付け終了後、
「……しかし、厄介な相手だったな。嘘は付いていないようだったが、肝心な事はのらりくらりとかわされた気がする」
 『嘘感知』を持つマイトは老魔女に対して感じた事を口にした。嘘は付いてない、だからと言って全てを話している訳では無い。嘘を付かれるよりも厄介かもしれない。
「そうですわね」
 リーブラも同感だった。
「まぁ、とりあえずグィネヴィアの所に戻ろうぜ」
 シリウスは深刻な話を打ち切った。今は今で無事であった事を喜べばいいと思っている。
「……そうだな」
 マイトはシリウスに言葉にうなずいた。あれこれ考えても答えが出る訳では無いので。

 老魔女退治を終えた皆は元気になったグィネヴィアと他の仲間達に会うために急いだ。会う前に連絡係のエオリアが他の仲間達に老魔女退治成功を伝えた。

 別の場所では、
 老魔女退治の話を聞いた後、グィネヴィアの元へ向かう道々。
「……終わりましたね。何も力になれませんでした」
 と稲穂。言葉には、フォリンの事だけでなく老魔女の事も含んでいた。このような事件が起きる前になぜ防ぐ事が出来なかったのかと。
「そうだねぇ。全ては人の心しだい、だからねぇ」
 そう言って木枯は元気に茂っている樹木を見上げた。
「人が年老いていくのは木々の葉が枯れていくように自然な事。その時々で素敵な瞬間は必ずあるものだよ。枯れていても満開に咲き誇っていてもね。でも逆らうのも面白いと思うけど。逆らう事で誰かが苦しむのは面白くない」
 と語る木枯。自然だけはない人にもその時にしかない輝きというものはあるはずだ。それに目を向けるかどうかの違いだけ。老魔女は目を背けるばかりか持つ心さえ腐らせていた。
「そうですね。グィネヴィアさんもフォリンさんも悲しんだり苦しんだり」
 と稲穂。巻き込まれたグィネヴィアは当然の事だがフォリンもまた何かに苦しんでいるように見えた。
「……ほんの少しだけ助けを呼ぶ余裕があればいいんですけど」
 稲穂は一言も助けて欲しいという言葉を発しなかったフォリンの事を思い出し、少しでも詳しい事情を話してくれれば力を貸せたのにと少し悲しかった。
「呼ばなくてもこちらから行けばいいんだよ」
 と木枯が能天気な調子で言った。何が起きても何とかなると、何とか出来るはずだと信じているのだ。
 木枯達は話をここまでにしてグィネヴィアと他の仲間の元へと急いだ。