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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

リアクション

「そんな――」
 マリアは通信機の受話口で愕然としていた。
 通信相手は、グランツ教の上層。その内容は、マリアの期待していた物とは遙かに違っていた。
 マリアは通信機ポケットに直すと、ぼやくようにぽつりとつぶやいた。
「確かに甘い話はないのですね……あの方の仰るとおり……」


 グリーンパーク最奥地にある、L字型、6階建ての管理棟。
 その1階、入り口で騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、10人のテロリストを相手に1人で話しかけていた。
「武力で隣人を恐怖に陥れて、世界を救うなんていうのがグランツ教の教義なのですか?」
「何だおまえ?」
「私はアイシャ様にもっとも近い者……」
 テロリストの1人が不機嫌そうに聞いてくると詩穂は、ブローチを取り出して見せた。
 それがアイシャの者だとわかった男は、態度を一変させ「まさか、女王を連れてきたのか」と興奮気味に聞いてきた。
 しかし、連れてきているはずも無く詩穂は、人質を解放してほしい旨を伝える。
「そもそも、20人近く居る人質をたった10人で監視するより、2人くらいの人質を10人で監視した方が効果的ではないのですか?」

 テロリスト達の背後、玄関口で人質達が怯えながら詩穂達のやりとりをみていた。
 しかし、怯えた人質達の中で、自分たちを監視するテロリスト達を怖がるどころか話しかけてる人が居た。
「あんた達のリーダーは何を考えてこんなのを起こしたんだ?」
「そりゃあ世界を救うた……って、静かにしろ!!」
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は、人質を見張るテロリストを見上げて言った。
 もちろん、手をぐるぐる巻きに縄で固定されたまま、座らされたままだ。
 そんな彼を見るなり、男は怒鳴った。それをみた、シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)は、男を睨み付けた。
「あら、いつ殺されてもおかしくない人質なんだから、ちょっとくらい話相手になってくれても良いじゃ無いの」
「む……それもそうか。そもそもリーダーが起こしたのでは無い、我々が一致団結し英断したのだ」
「じゃあ、おまえ達はやる気満々?」 
「まあな! 俺たちは世界中の人たちを救うという、栄光ある任務があるそのためなら何でもやる次第だぜ」
 男は胸を張り、本当に誇りを持ったように話した。
 そこには、グランツ教信者というよりも、グランツ教信者でありながら世界を救ってみせるという男自身の意思が入ってるのだろうとアルクラントには感じられた。
(やる気満々……とは言うが、単に宗教の信仰のためという感じか……)
「〜♪」
「あら、歌が聞こえない?」
「ん? あっちのほうでだれか歌ってるのか?」
 アルクラントとシルフィアは突然、入り口に聞こえだした歌に気がつく。

「おい! 歌うのをやめろ!」
 テロリスト達は慌てるようにして、入り口でもすみのほうに全員は歌う少女を囲むようにして集まっていた。
 そこには、ロープに縛られたまま立ち歌う五十嵐 理沙(いがらし・りさ)セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の姿があった。
「そんな怒ってないで、歌でも聴いたらどう? 落ち着くわよ?」
 人質達を励ますために歌った歌だったが、テロリスト達にとって人質の自由はリーダーから怒られるため止めなければいけなかった。
 テロリスト達は無理矢理歌うのを押さえさせようと、理沙の体をつかもうとする。
「何をするのよ!!」
「うるせえ。ちょっと黙ってればいいんだ!!」
「理沙に手を出したら怒りますわよ!!」
「いてええええっ! こ、こいつかみつきやがった!」
 自分の口をふさごうとするテロリストの手を理沙は思いっきりかみついた。男の手にはかみついた跡が残る。
「もう許さねぇえ!!」
 男は、頭に血が上り、没収していた理沙の金属バッドを理沙の後頭部殴るため、天井へと振り上げる。
 理沙は衝撃に備えるために反射的に目を閉じた。
「その手をはなせぇえええええっ!!」
 最初に聞こえてきたのは高い叫び声。
 そして、次に聞こえたのはガラスが割れる音、唸ったような悲鳴を思わせるエンジン音。
 仁科 姫月(にしな・ひめき)は乗ってきたバイクで、入り口のドアを突き破るとそのまま金属バッドを持った男へと突進した。
 突進された男はそのままタイヤの下敷きとなり、上目を向いて気絶してしまった。
「う、うてえええっ!」
 あっけにとられたテロリスト達は慌てて、武器を構えると姫月に向けて銃口を向ける。
「うおりゃあああああああっ! なにしとるんじゃあああっ」
 今度は玄関口から、怒濤のように仁義の大太刀を振り回しながら清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が入り込んできた。
 さらにその後ろからはセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)に、詩穂までもが乗り込んでくる、
 青白磁の木刀と、セルフィーナの絶流拳が次々とテロリスト達をなぎ倒していく。
「そこまでです! おとなしく縄についてください!!」
 その後ろからマリアが、銃口を前に向けながら入ってくる。
 テロリスト達はもはや、意気消沈し戦う意思もそがれてしまっていた。
「うう……悪い夢でも見てたか……」
「あ、お兄ちゃん! 見て見て〜デートの敵をとったどー!」
「あ、ああ。よくやったな……」
 突進したバイクの上になぜか気絶していた成田 樹彦(なりた・たつひこ)に、姫月はうれしそうに声を上げた。
 姫月の無謀なバイク突進につきあわされたせいで、樹彦の頭は未だに覚醒していなかった。

「くそっ、我らの英断を邪魔する悪党どもめ」
「あきらめろ……何も無いうちに投降した方が身のためだろう」
「そうよ!」
 詩穂にロープをほどかれたアルクラントとシルフィアは口々に言った。
 なぜかシルフィアの片手には、チェーンソーが握られていたが、アルクラントはあえて気にしなかった。
 テロリストはそれでも恐れることもなく、剣や銃などを構える。

「ふん、統一神様のためならこの命、いや人質など!!」
「させないわ!!」
 男が、人質へと向かおうとするが、1人の女性がそれを邪魔するように間に入り込む。
 そこに立っていたのはシャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)だった。
「投降するなら今のうちよ」
「ふっ……人質という切り札があるのだ、投降なんてできるか」
 意地悪い表情を浮かべ男は、にやりとわらった。
「貴様……罪無き者にまで手を出すのか」
グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)が怒った声を上げた。
「目的……いや、神様のためならしかた――」
「狂信者と謳うのであれば、その身が砕けるまで神を信仰するが良い。」
 グレゴワールが腕を前へ差し出すと、男の体はまばゆい光に包まれた。
 数秒でその光が収まると男はその場に崩れ落ちる。それは、グレゴワールのライトブリンガーによるものだった。
「さあ……まだ戯れ言を言う奴がいるのであれば、私が相手になろう」
「ひっ!!」
 テロリスト達は小さい悲鳴をあげた。
「さあ、グレゴさんを怒らせたら怖いよ!」
「グレゴさん後は頼みます」
 シャノンは小さくグレゴワールに耳打ちすると、グレゴもちいさく「ああ」と答える

「今のうちに人質を外へ」
「ええ!」
「ガラスが落ちてますからお気をつけてですわ」
 詩穂はシャノンとセルフィーナと協力し人質達のロープをほどくと、貴賓への対応で玄関の外へと案内していく。

「させないのじゃ〜!」
「え?」
 シャノンが声に気がつき上を向いた瞬間、大量の粉が上空からおそってくる。
 それは外に出ようとした詩穂達にも同じように風で吹き込んでくる。。
「これは……しびれ粉ですわ!! 吸ってはなりません!」
 セルフィーナが驚いたような声を上げて、警告するが、すでに周りの人質達はみんな咳き込んでいた。 
「むりじゃ! げほっごほっ――こんな大量じゃすうわい!」
 青白磁は手に持っていた木刀を無意識のうちに地面に落とす。
 詩穂は素早く手元に常闇の帳を取り出すと、玄関に強烈な風が吹き荒れる。
 風はしびれ薬を巻き込み、すべて詩穂の手元にある常闇の帳に吸収されていく。
 物の数秒で、しびれ薬は常闇の帳の闇へと消えていった。
「これで……大丈夫ね」
 詩穂はふうっと、ため息をついた。
「あたしは大丈夫じゃないけどね〜」
「ぐっ……不覚」
 シャノンがジト目で、詩穂を見ながら言った。
 どうやら、このしびれ薬は超がつくくらいの即効薬らしく、鎧で空気が入りづらいはずのグレゴワールも、動けなくなっているようだった。

「これは……トラップじゃない……となると」
「ど……ういうこと?」
「誰か……がやったんだ今」
 姫月はすでに、口元までしびれてきており、喋るのもままならなくなってくる。
 樹彦も袖で口元を覆いながらどうにか答えるも、手はすでに動かなくなっていた。

「ふっふっふ、引っかかったのう」
 しびれ薬の主辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、入り口のほうからかんらかんらと笑い声を上げて現れた。
「くっ……」
 マリアはしびれ薬により手足の自由を奪われ伏せていた体は、どうにか起こすと、刹那を見た。
 刹那はマリアに気がつくと、倒れている人質達の脇をすり抜けてゆっくりと歩み寄ってくる。
 が、詩穂は自分の横をすり抜けていこうとする刹那の服の袖を捕まえた。
「あなた……グランツ教じゃない、しかも契約者ね。どうしてこんな事を?」
 詩穂は突然、さっきのようなものを感じ慌てて刹那から離れた。
 先ほどまで詩穂が立っていたところには、角のような物が刃になった槍が地面に突き刺さっていた。
 槍の主ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)は少しおどおどとした表情で、そこに立っていた。
「……むしろ、グランツ教……というよりも彼らのやったことは正しいとは思えないのですか?」
 ファンドラは、テロリストの方向に顔を向けながら言った。
 詩穂もそちらを見ると、すでにテロリスト達はしびれ薬により身動きとれずその場に崩れていた。
「何を言っているかわからないわ」
「女王の力でパラミタの崩壊は現に止められていない。なら、世界統一国家神の力で止めてもらうという考えはあながち間違っていないかもしれないということじゃの」
 刹那はファンドラの向こう側で、にやりと笑みを浮かべる。
 詩穂は、怪訝な表情を向けると刹那は踵を返し再びマリアの元へ向かう。詩穂はそれを追いかけようと前に出た瞬間、それをファンドラの槍が邪魔をした。
「ふう、本当は戦闘は大の苦手なのですが……でも、やらないといけないのなら仕方ありませんね!」
 ファンドラは面倒くさそうに言いながらも、にやりと笑みを浮かべて槍をさらに突き出した。
「アイシャ……友達は絶対に守る!」
 詩穂は体に力を入れ槍を避けると、ファンドラに対峙するのだった。

「さて……あなたには今から石になってもらおうと思うのじゃ」
「!」
「契約者達の救護活動は失敗した……となればさすがの外の奴らもアイシャをつれてくるじゃろ?」
「そんなことは――させません!」
「ま、その辺の段取りは勝手にリーダーがやるじゃろうって」
 刹那は首をすこし傾げながら、天井を指さした。
 それにより、リーダーはきっとこの上にいるということがわかる。
 が、しびれ薬により身動きをとれないマリアはすでにどうすることもできないでいた。
「悪くおもうなじゃ」
 刹那は裾から短刀を取り出すと、マリアの胸元めがけて高く振り上げる。
 短刀がまさに振り下ろされそうになったそのとき、マリアと刹那の間に氷の壁ができあがった。
「なっ……」
「マリア、大丈夫?」
 守るように、天貴 彩羽(あまむち・あやは)が刹那とマリアの間に入り込んでくる。
 刹那は思わぬ邪魔に、驚いていた。
「あなた達の話聞かせてもらったわ。崩壊する世界を救えるのは本当に世界統一国家神なのかしら」
「何が言いたいのじゃ!」
「神様なら、信者が信じれば動いてくれるはず。わざわざこんな事までする必要が無いってことよ!」
 彩羽は片手を広げ、説得するように刹那に話しかける。
 しかし、刹那はそれを受け入れるどころか、笑った。
「はっはっは、たしかにそうじゃの! じゃが世界の崩壊はまってくれるんじゃろか?」
「それは――」
 彩羽は思わず言葉を詰まらせた。それ以上のことは何を言ってもだめだと思ったためだった。
 突然彩羽の横を柳葉刀が空を切った。
「なっ――」
「話をするよりは早いじゃろ?」
 再び柳葉刀が、彩羽の正面を横切りするようにおそってくる。
 彩羽はそれを後ろに下がることでかろうじて避けると零銃を放つ。
 が、それもまた、刹那は軽快なステップと低い身長を生かし避ける。
「別に女王がここに来るくらいならよいじゃろ?」
「……そうね……でも!」
「なにっ?」
 彩羽は飛び上がる刹那の着地地点に向けて零銃を放つと、ついに刹那の足下は氷づけられてしまう。
 軽快な動きをしてまわる刹那の動きを、遙かに超えた彩羽の「行動予測」による勝利だった。

「ちっ、今日はどうも思ったように調子がでませんねえ」
 ちょうど同じ頃、ファンドラは舌打ちをすると吐き捨てるように言った。
 詩穂の猛攻に、ファンドラは始終押され負けてしまっていた。
 破れた服が、詩穂の攻撃がいかに激しい物だったのか物語っていた。

「む……分が悪いのう……ファンドラ!」
「おや……引き時ですか」
 刹那に声をかけられ、ファンドラは詩穂と戦う手を止めると、刹那の元へと歩み寄っていく。
 っと、それ以上は近づくななのじゃ!」
 近づいてこようとする、詩穂と彩羽に刹那は警告した。
「それ以上近づけば、この『毒虫の群れ』を放つのじゃ」
「なっ――」
 瓶に閉じ込められたその虫は猛毒を持つ物だった。
 いま、そんなものが放たれれば自分たちはおろか、人質達の命が危ない。
 そう判断した、詩穂達はその場に立ち止まった。

「また、次回お会いすることがあれば……覚悟しておいてくださいね」
「さらばなのじゃ!!」
 ファンドラと刹那は目にもとまらぬ速さで、玄関を駆け抜け外へ出て行ってしまったのだった。