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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

リアクション

「……人質がいるのはここか……」
 レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は目の前に他のはだかる白い壁を見上げた。
 そこはグリーンパークで一番の名物とも言われる巨大建物、植物資料館だった。
 全長は45メートルプールが4つは入るという広さ、そして10階建てを誇る大きい物だった。
 レギオンはそれをHスネークアヴァターラ・チェーンを巧みに使い、1階、2階と1階ずつ上っていった。

 
「……私達これからどうなってしまうのかしら」
「大丈夫ですよ! きっと助けが来ますから」
 ぽつりと老婆の女性がつぶやいた。
 狭い館長室の中に彩光 美紀(あやみつ・みき)は老婆を励ました。
 先ほどからずっとこの調子で子供や大人達を励ましたりして、なんとか気分を落ち込ませないようにとつとめていたのだった。
 植物資料館内、館長室では50人近くの人質が缶詰状態になっている。
(どこか、脱出できる道があれば……)
 セラフィー・ライト(せらふぃー・らいと)はどうにか脱出できるところが無いか、あたりを見回した。
 木造の天井、壁。窓は一つ小さいのが開いているが、除けば2階だった。
 さらに、出入り口も一つしか無く、そちらはカギがかかっている。
「はあ……やっぱり助けを待つしか無いですか……でも」
 セラフィーはため息をつきながら、美紀を見ようとしたそのときだった。
「おい! おまえちょっと立て!!」
「ひっ」
 銃を構えた男が部屋に入ってくるなり、若い女性にに銃口を向けた。
「おまえ達を助けようとする輩が入ってきた。世界を救おうとする我らに仇なすとは本当に嘆かわしい」
「よって、おまえを見せしめに連れて行くことになった」
(見せしめ!?)
 美紀は心臓が高鳴るのを感じながら、男をにらんだ。
「……セラフィー」
 美紀はセラフィーを見た。
 セラフィーは微動もせず、ただ男を無心で見ていた。
 ここで、今動き出さなければ目の前の女性は死ぬかもしれない。けど、それ以上に今動けば美紀に被害があるのではないかという考えが頭の中をぐるぐるよぎる。
「大丈夫よ、セラフィー。2人で行けば!」
 元気づけるように美紀はセラフィーを頷いて見せた。
 セラフィーの決意はきまったのだった。

 一方その頃、館長室の外では人質にはならなかったが、資料館に閉じ込められてしまった人も居た。
 戒 緋布斗(かい・ひふと)が廊下、曲がり角から奥を確認する。
「……誰も居ないみたいです」
「では、いきますか」
 上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)も安全を確認すると、1階玄関口へめざしゆっくりと歩き出した。
 その手にはいつ襲われても良いように、掃除用具から拝借した木製のモップが握られている。
 が、突然廊下にゴトーンっという、鈍い音が響いた。
 緋布斗の背中にぞくりと寒気が走った。ゆっくりと2人は後ろの見るとそこには、緋布斗が持っていたはずの「パラミタ植物図鑑」が開いた状態で落ちていた。
 慌て緋布斗はそれを回収するも、左右から声が響いてきた。
「何の音だーっ」
「誰かいるのか!!」
 左右から声が響き渡る。
『どど……どうしましょうか!』
『ん?』
 唯識は背後から、何者かにつつかれ振り向いた。
 そこには、不自然にドアが開いた暗い部屋があった。
『逃げ道はここにしか無い、入りますか……』
『そう……ですね』
 2人は止むえず、真っ暗な部屋へと入り、ドアを閉めた。
「おい! 異常はなかったか!!」
「なかったぜ……たしかに音がした気がするんだが」
「どうせ、展示物か何かが落ち――へびだぁああっ!」
「え、蛇?」
 廊下からドア越しに男達の悲鳴が響いてきた。
「お、おいそっちに行ったぞ!!」
「に、にげろおおおっ!」
 どたばたと激しい足音はすぐに小さくなっていった。
「ふう……なんとか……」
「撒きましたね」
「わ!?」
 突然、横から風宮 明人(かざみや・あきと)の声に、緋布斗は驚きの声を上げた。
 真っ暗部屋には乱雑に段ボールや標本のような物が置かれていることから、倉庫部屋らしかった。
 明人の横ではソニア・クラウディウス(そにあ・くらうでぃうす)が、「おどろかせてはだめですよ」と言いながら、笑みを浮かべ座っていた。
 2人によると、明人とソニアも唯識と同じように事件に巻き込まれ、外に出る方法を模索していらしかった。
「人質がどうやらこの上に閉じ込められているらしいんだ」
 明人が人差し指を天井に向けて現状について説明し始めた。
 どうやら、人質は2階に閉じ込められているらしい。
 さらに、2階は1階よりもテロリスト達が廊下にたくさん配置されているらしく、簡単には助けられないらしかった。
「作戦があるんだ」
 明人は状況説明を終えると、そう続けたのだった。

 同じ頃、資料館の外でも動き始めていた。
「都、この中はどうですか」
 サオリ・ナガオ(さおり・ながお)が資料館の木陰で、目を閉じたまま立っている藤門 都(ふじかど・みやこ)に声をかけた。
 すると都は目を開き、手元に持っている銃型HCを眺めた。
 そこには次々と文字が流れていた。
「入り口……だれもいません。1階は誰も居ないみたいです。どうやら二階に戦力を集中しているようですね」
 次々と資料館内の情報をサオリに話す。
「あと、この資料館周辺はテロリストらしき人物も人質も見当たりません。この辺は残すところここだけのようです」
「ふむぅ。となりますと、ここにリーダーがいなかった場合残すところは事務所だけですなー」
 話を聞いていた藤原 時平(ふじわらの・ときひら)が園内のガイドマップを地面に広げ、センスで一カ所を指す。
 そこには、大きな白い建物が描かれていた。
「……とにかくここにいる人質達を助けるのでございますわ」
 不自由な日本語でサオリは喋りながら、都に、白い建物の情報を調べて、他の契約者達に伝えるようにと頼むのだった。。

「神様を思う心はいいかもしれないけど、行き過ぎるのはだめなのだ!」
 資料館の正面入り口から、両腕を組み建物を見上げながら天禰 薫(あまね・かおる)は高らかに宣言するように言うと
そのまま、玄関口をゆっくりと開けて中に入ろうとする。
 が、慌てて熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)が薫の前に飛び出た。
「待った! 罠が仕掛けられてるかもしれないだろ。俺が、先に行くぜ」
「わかった、頼りにしてるのだ」
 薫はうれしそうに言うと、孝高は顔が熱くなるのを感じ慌てて正面入り口へ入っていった。
 入ってすぐ、孝高は異変に気がついた。
「入り口事態がトラップだったってことかよ……」
「はわわっ!! て、てきさんがいっぱいですぅ!」
 入り口で立ち止まる孝高と同じようにサオリも入り口に入るなり足を止めた。
 資料館内はすでにけたたましい警告音が鳴り響いていた。
 孝高はトラッパーを使い、罠が無いか警戒しながら入った。もちろん、罠は無かったはずだった。
 そして、孝高達の前には軍服を着た2人のテロリスト達が、まってましたとばかりに廊下への道すべてにバリケードを作るかのように立っていた。
 都の式神による偵察によればつい3分前はここは誰も居なかったはずだった。
 妙な静けさが入り口を包む中、2人のうちボロボロの軍服を着た男がしゃべり始めた。
「よく来たな、が……我ら3人兄弟は軍隊のプロフェッショナル。先ほどまでのやつらのようにはいかねぇ」
「入ってきたところ悪いなお兄さんお姉さん方、ここがおまえ達の墓場だよ」
 吸っていたたばこを手に取る、痩せこけた男は吸い殻を床に捨て、落ち着いた様子で言う。
「孝高すまないのだ……気づかなかったのだ」
「はーっははっはーそうだろ! 俺たちは気配も臭いもすべてを消して生活しているからなあ!」
 薫の言葉にボロボロの男は大笑いすると、腰から軍剣を引き抜いた。
 それに対し、孝高も腰から妖刀を取り出した。
「薫、先へ行ってくれ。ここは俺が何とかする」
「でも、それじゃあ孝高が――」
「私も戦います!」
 突然背後の扉から、マリアの声が響いた。
 全員がそちらを向くと、息を切らせたマリアが立っていた。
「秀人……マリアをお願いでございます」
 こっそりと話しかけてくるサオリに藤門 秀人(ふじかど・ひでと)は小さく頷いて返した。
「ここは任せたのです!! 死なないで!」
 サオリ達はそう言うと先にある階段を上っていったのだった。
「……孝高たのんだのだ!」
 薫達も、それに続いて上っていく。

「……なぜあなたも残っているのですか?」
「マリア殿を監視……いえ警護するのが私の役目ですから」
 秀人は平然とした表情でマリアの横に並んで立っていた。
「私が裏切るとでも?」
「……ねえ、一つ聞かせてほしいのだけれど世界統一国家神が国家神と同等又はそれ以上の力を持つというのは本当なの?」
「本当……だと思っています……たぶん」
「はあ、歯切れの悪い答えですね」
 曖昧な答えに秀人は苛立つように言った。
 ただ、マリア達がよそ見をした瞬間、ボロボロの男は剣をマリアに構え襲いかかってくる。
「来ましたよ!!」
 秀人が声を上げた瞬間。鋭い金属音が反響した。
 それを止めたのは孝高だった。
「おまえの相手は俺だ!」