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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

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狂信者と人質と誇り高きテンプルナイツ

リアクション

「ねえ、正直私は、グランツ教を信用できないのよ」
 先陣を切っていたマリアに、後ろから宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は話しかけた。
「大体、今回の事もそう。シャンバラと事を構える気がないなら、何故テロに走った彼らを破門にしないの?」
「……グランツ教は誰でも、どんな人でも受け入れるのだと思います!」
「そうとは思えないわ。だって、そんな甘い話あるかしら」
「……」
 マリアは祥子の言葉に何と返せば良いのかわからなくなっていた。
 マリアがグランツ教でテンプレナイツになって日も浅く、教団のことをすべて知っているわけではなかったためだ。

「止まれ!! ここから先、マリア様であろうとも通せません!」
 2人の先に女性テロリストが1人、槍を構え、胸を揺らしながらマリア達の前に立ちはだかる。
 マリアが威嚇のため、借りてきたハンドガンを構えようとしたときだった。
「はいはいー、お姉ちゃんは下がっててねー?」
 のんきな声を上げながら宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)がマリアの前に立った。
 静かに祥子が横に来ると、義弘は刀の形へと変形し祥子の武器へと変わる。
「人質の命がかかってるのだもの、無理でも通してもらうわ」
「!」
 祥子は義弘の超人的精神を用いているおかげで、人一倍早く動き、対応できるようになっていた。
 その目にもとまらぬ速さでテロリストの女の懐に忍び寄ると、義弘こと刀を上向きに切り上げる。
 が、女はそれを軽やかに避けた。
「危ないっ!!」
 思わずマリアが叫ぶ。
 テロリストの女は、避けたと同時に勢いよく槍を祥子に向けて走り込む。
 祥子はその攻撃に反応は出来たが、テロリストの動きはそれ上回るものだった。
 マリアは応援しようとハンドガンを構えるうちに、甲高い金属音が響き渡った。
「む……鎧ですか?」
「助かったわ、朱美」
「間一髪だったわ……」
 祥子は、先ほどまで立っていた場所には居なくなっていた。
 テロリストの女が槍を振り下ろした場所より遙か3メートル先に立っている。
 しかも、その格好は先ほどと代わり、真っ赤なブレストプレートに腰鎧である那須 朱美(なす・あけみ)を身につけた姿となっていた。
「もう、あなたに勝ち目は無いわ。悪いけど通してもらえない?」
 祥子は刀を地面に下ろし、テロリストの女に言った。
 しかし、帰ってきたのは言葉ではなく鉄の鉛だった。
 鉄の鉛は祥子の足元、地面を貫いた。
「動くなっ! お前たちは包囲されている!」
 祥子とマリアをぐるりと囲むように、テロリストたちが銃や剣を構えて立ちはだかっていた。
 テロリストの女の後ろには、男女……アルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)グレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)がそれぞれ一人ずつ縄につながれ連れてこられていた。
「動かないほうが良いですよ? 一歩でも動けばこの人達の胸元に槍がずぶりですよ……ふふふっ」
 女は乾いた笑いを吐きながら、槍を二人に向ける。
 もちろん、今の「肉体の完成」と「神速」を持った祥子なら、おそらく槍を跳ね返し人質を救うことは容易いはずだった。
 が、人質の命がかかってるとなれば、簡単に動くことは軽率だと考えたのだった。

「この状況……迷惑かけないためにも、どうにか打開しないと……」
「今ならどう動いても被害を被る人が居ない。なら動くなら今のうちか」
 縄につながれたままアルマーとグレンは、ひそひそ声で話す。
 幸い、ロープに手をかけている男のテロリストは、マリアたちに集中しているため、足と口は自由だった。
 キーーーーーーーンッ!!
 あたり一体に設置されている放送スピーカーから、ハウリングの音が鳴り響いた。
 その場に居たテロリスト達全員が武器を下ろし、耳を押さえる。
「何事ですか!」
「誰かが放送室をジャックしたみたいだ!!」
 状況が飲み込めない祥子達のそばに、ヴェロニカ・バルトリ(べろにか・ばるとり)がワイバーンと一緒に着陸する。
 ハウリングによってワイバーンが感覚を失ったためそこまで着陸するだけでも一苦労だった。
「どいうことよ?」
 音への驚きに鎧状態から、人型へ戻った朱美が耳を押さえながらかろうじて声を出した。
 ヴェロニカによると、放送室に総帥が着るような黒いコートを翻して入っていく人影をみたということだった。
「まったく……この程度でうろたえるなんて、本当に世界を救えるとでもおもっているのですか……」
 茂みから呆れながら空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が飛び出てきた。
 狐樹廊は見えないフラワシを繰り出し次々とテロリスト達を倒していく。
 それに併せて祥子達も、攻撃に転じたのだった。

「お待たせいたしました……怪我などは……ありませんか?」
「みのり!!」
 黒いコートを翻し、菊花 みのり(きくばな・みのり)がアルマーとグレンのそばにひっそりと現れると、手につながれたロープをほどいた。
 しかし、アルマーは少し不機嫌そうな表情を浮かべた。
「どうして、戻ってきたの!」
「え……」
 アルマーは、自身が体を張って逃がしたはずのみのりが、戻ってきたことに苛立っていた。
 が、みのりにはそれをわかるはずも無く。なぜ怒っているのかわからずに居た。
「おいおい、そんな言い争いしてる場合じゃねぇよ。こいつらに仕返しをしてやらねぇと」
 グレンが縛られていた手首を準備体操とばかりにくるくると回しながら言う。
 もう片方の手には剣が握られている。
「はあ……みのり、後で説教よ。とりあえずあいつらをどうにかするわよ」
「え……あ、はい」
 みのりとアルマー達も、マリア達に加勢する。

「はあはあ……ここはいったん引いて、リーダーの元へ知らせなければなりませんね」
 圧倒的にこちらが不利だと悟った女テロリストは後ろへと振り返り、奥へ向かおうとする。
 が、そこには1人の女性……リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が平然と立っていた。
「自分以外の命を扱うなら、それ相応の覚悟があなたにもあるのでしょう?」
「……さあ、どうでしょう……でも私は、グランツ教のため世界のためならすべてを捨てる覚悟!」
 テロリストの女は槍を構えると、リカインへめがけて突進する。
 それに対してリカインは手のひらを、女の腹部めがけて差し出す。
 リカインの手の平と、テロリストの女の槍が交差する。
 槍はリカインの腕、服から肌まで綺麗に横線を入れる形で傷をつけた。
「がっ……はっ――」
 が、それ以上にリカインの手のひらはヒロイックアサルトにより、テロリストの腹部に息が出来なくなるほどの損傷を与えていた。
「わ……たしが……世界……を救う…………負けるわけには……」
 女は地面に崩れ、息を荒げながら途切れ途切れに言った。
 それを気絶するまでリカインは見下すように見守った。

「あーっ!! 放送室に入っていったのこいつだ」
 みのりを見るなりヴェロニカは、叫ぶように言った。
「……あ……えっと……?」
 困惑するみのりに祥子がまあまあとヴェロニカを止めた。
「助かったわ、おかげで人質が救えたから」
「……その……私の大切な人たち……なので……」
 そう言って、みのりはアルマーとグレンを見た。
 が、どうやらそちらではマリアと狐樹廊がなにやら言い争っていた。

「なんで殺したんですか!!」
「あなたが救いたいのはグランツ教の人たちですか?」
 狐樹廊は悪びれる様子も無く、嘲笑うように言った。
 その場に居たテロリストたちは、ほとんどが息の根が止まっていた。
 原因は狐樹廊のフラワシによるものだった。それをマリアは攻めていたのだった。
 そこに、リカインは割り込むように入ってきた。
「狐樹廊のやったことは私が責任を取ります。しかし、今回の狂信者達の行動……グランツ教が日頃やってることとかわりないと思います」
 そう言うと、リカインはまだやることがあるといい、その場を立ち去ってしまった。

「ふん……お前等グランツ教が何をするかとか、統一神を信じるとか勝手だ」
「だが、俺はそんなのに頼るくらいなら、俺は俺のすべきことをするね」
 マリア達のやりとりを見ていたグレアは、離れる前にマリアにそんなことを言った。
 再び、マリアは深く考えることになるのだった。自分がするべきこと、信じることに。