First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
■幕間:いちごの記憶
「はい、口をあけて〜」
いちごに催眠療法を試していた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は体調に変化はないか確かめるからといちごの舌に指を伸ばした。専用の道具を使って唾液を採取する。
そのあとは問診のようなことをして二言三言話をする。
「特に問題はないみたいだね」
「まーねー。それでさっきのはなに?」
いちごが言っているのは催眠療法のことだろう。
彼は催眠にかかることすらなかったのだからその疑問も当然かもしれない。
「いちごの記憶探しを手伝おうと思ったんだよ」
九条は言うと壁際で様子を見ていた高崎 朋美(たかさき・ともみ)に視線を送ると「隣が気になるのですか?」と聞いた。
「会議に参加したかったけどしょうがないよね」
「そうだな。今回の件はシャンバラ教導団が主導だ。俺たちはあくまで手伝いだからな。会議が終わるまでは待機ってのも仕方ねえ、なあ?」
ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)が同じように壁に背を預けている高崎 トメ(たかさき・とめ)に同意を求めた。
「そうやけどなあ……」
トメは言うと朋美を見た。
「決心は、止められしまへんはなぁ」
「まだ言ってるのかよ。朋美は一度言い出したら止まらねえんだから覚悟決めろ」
「……シマックに言われるまでもありまへん」
彼女たちの様子を見て九条は苦笑した。
「でも立場上、囮捜査というのは賛成しかねるよ。広明さ…じゃない、長曽禰中佐の許可は下りましたけど危険なことに変わりはありません」
心配も仕方ないと言いたいのかもしれない。
それは朋美たちと同じく捜査協力を申し出た清泉 北都(いずみ・ほくと)とモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)の二人も同意見のようであった。
「僕たちは聞き込みがメインになるからそれほどでもないけどねえ」
「ああ、相手は人喰いだ。わざわざ敵のテリトリーで戦う必要もない」
手にしたバットで地面をコツコツと叩く。
「――事件の早期解決の手段としては効果的、だが」
ふと見ればいちごがじっと朋美を見ていた。
まるで品定めでもしている様子だ。
視線に気づいたのだろう。朋美がいちごに話しかけようと口を開いた。
「なに――」
そのとき扉が開いた。
月摘たちを連れ立って長曽禰が部屋へと入ってくる。
「待たせたな。さあ仕事を始めるぞ!」
朋美たちが部屋を出ていくのを見送って、最後に部屋を出た長曽禰が九条に声を掛けた。
「どうだった?」
「何も……記憶喪失というよりは何も知らないというか――それよりこれを」
彼女はさきほど採取した唾液の入ったシャーレを渡す。
「彼の唾液です。白骨に残されている唾液と比較してもらいたいんですが」
「九条もいちごが気にかかっているのか……月摘も気にかけているようだったな」
長曽禰は「わかった」と答えると近くにいた教導団員に調べるよう指示する。
「心配なんですよ」
何が? というように彼は疑問符を浮かべる。
九条は笑みを浮かべると言った。
「なんでもありません。さあ行きましょう。私もサポートしますから」
九条が前を歩いているいちごの手を見つめた。
気のせいか、さっきよりもしわが増えているように見えた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last