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リアクション
★ ★ ★
「はい、ちゃんと脱ぎ脱ぎするのだあ」
「はーい」
大浴場の女子脱衣場で、ビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が、コンちゃん、ランちゃん、メイちゃんたちの服を脱がせていた。三人の首からは、それぞれのマスターが封印された魔法石がペンダントとして提げられている。ビュリ・ピュリティアには、預かっているケンちゃんの欠片の入った魔法石とそのマスターの封印された魔法石が下げられていた。
「にぎやかだよねー」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)から預かったゴーレムのローゼンクライネの脱衣を手伝いながら、フリルのスカートと胸飾りのついたワンピース水着を着た小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、ビュリ・ピュリティアたちの方を見た。
すっかりすっぽんぽんになったメイちゃんたちは、元気よく浴室へと駆け込んでいく。
「こらあ、お前たちも、なんだ、その格好は。風呂に入るときは、ちゃんとパンツを頭に被らないかあ!」
中にいたモヒカン姿の女が、メイちゃんたちを叱りつけた。
お風呂場では走らないという、お風呂のマナーを説いているのかと思えば、その女はタオル一枚も巻かずのすっぽんぽんであるにもかかわらず、頭のモヒカンにピンクのパンティーを被せている。
「ああーん、とってー、とってー」
いきなり強制的にパンティーを被せられたらしいパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)が、なぜか貼りついてとれなくなったパンティーを掴んでジタバタしている。もはや、呪いのパンティー状態だ。
「わーい、Pモヒカン族のお姉さんだあ」
ビュリ・ピュリティアとメイちゃんたちが歓声をあげる。
「さあ、あなたたちも、早くこのお風呂用パンティーを頭に被るんだよ」
そう言うと、Pモヒカン族の女が、用意してあった色とりどりのパンティーを差し出した。
「はーい」
素直に、ビュリ・ピュリティアたちがそのパンティーを受け取ろうとする。
「ちょっと待ったあ! いたいけな幼女に、変なマナーを教えるんじゃないんだもん!」
あわてて、小鳥遊美羽が間に割って入る。お正月に駆除したと思っていたのに、Pモヒカン族はまだ大浴場にはびこっていたのか……。
「正しいマナーじゃんか! むっ、お前も、ちゃんとパンツーハットをかぶんだよ」
そう言うと、Pモヒカン族が持っていたパンティーを小鳥遊美羽に被せようとした。
「そうはさせるものですかあ!」
カウンターで、小鳥遊美羽がPモヒカン族を吹っ飛ばした。
「どうしたんだ。美羽、何かあったのか!?」
小鳥遊美羽の声を聞きつけて、オープンテラスで待っていたコハク・ソーロッドがあわてて駆けつけてきた。
「ぶわっ!?」
間の悪いことに、吹っ飛んできたPモヒカン族に激突してしまう。
「私のコハクに何するの!!」
いや、コハク・ソーロッドに何かしたのは小鳥遊美羽の方である。すぐに、ローゼンクライネがすでに気絶しているPモヒカン族をポイとコハク・ソーロッドの上から投げ捨てた。ゴツンと、何か大きな音をたてつつ、流れるお風呂の方で水飛沫があがる。見れば、流れるお風呂にぷっかりとザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)がPモヒカン族と共に浮かびあがってきた。頭には、大きなコブができている。
「コハク、しっかりして!」
血の海で気を失っているコハクをだき起こしながら、小鳥遊美羽が叫んだ。
「ううーん……」
「あっ、目を覚ましたのじゃ」
小鳥遊美羽にゆさゆさとゆさぶられて気がついたコハク・ソーロッドをビュリ・ピュリティアやメイちゃんたちがのぞき込んで言った。
「ぷっはっあっ!」
目を覚ましたとたん、また目の前にすっぽんぽんの女の子たちをまのあたりにして、コハク・ソーロッドが鼻血を噴いて気を失った。その直前に、そういえばさっきも何かが顔にもろにぶちあたってきて、見てはいけない物を見てしまったような気もする。
「きゃあ、死なないでー」
ブンブンとコハク・ソーロッドの身体をゆさぶって、小鳥遊美羽が叫んだ。そのたびに、辺りに鮮血が飛び散る。そこだけを見れば、なんだか猟奇殺人現場のようだ。それにしても、いいかげん自分以外の女の子を見て鼻血を噴かないでほしいともちょっと考える。
「ううーん」
「よかった、気がついた?」
再び目を覚ましたコハク・ソーロッドに、小鳥遊美羽が喜んでその頭をキュッとだきしめた。
「うん!?」
何か柔らかい感覚に、コハク・ソーロッドのHPが0になって、戦闘不能になる。
「きゃー!」
「はいはいはい、まったく、大浴場は闘技場でも宴会場でもデート会場でもないと何度言えば……。アリアス、救護班を呼んで輸血の準備を。他に被害者は……えっ、また流れて行った? すぐに追いかけるわよ!」
風紀委員たちを率いてきた天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、コハク・ソーロッドのことはアリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)に任せて、流されていったざんすかとPモヒカン族を追って行った。
「まったく、うるさいなあ」
奧の大浴槽でパシャパシャと元気に犬かきをしていたリン・ダージ(りん・だーじ)が、遠くから聞こえてくる悲鳴に、ちょっと鼻の頭に皺を寄せた。
「こばあ」
まったくだと言いたげに、髪を解いたリン・ダージの金髪の上にちょこんと乗った小ババ様が、うんうんとしきりにうなずく。
「あーあ、いい男でも流れてこないかなあ」
「こば、こばあー」
ぼやくリン・ダージの頭を、慰めるように小ババ様がかいぐりかいぐりとなで回した。
★ ★ ★
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
ザンスカールにあるカフェ・ディオニウスの扉をくぐると、カラコロというカウベルの響きと共にシェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)がフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)に声をかけた。
「何にします?」
「いつものをお願い」
カウンターの中から注文を聞いてくるシェリエ・ディオニウスに、フェイ・カーライズがいつものカウンター席に座りながら答えた。すでに慣れてしまっていて、ごく自然な仕種でやりとりを終える。
コポコポと音をたてるサイフォン越しに、フェイ・カーライズがシェリエ・ディオニウスを見つめた。
匿名 某(とくな・なにがし)に内緒でちょくちょくザンスカールにやってきてはコーヒーを飲んでいるのだが、やっぱりここは落ち着く。いや、シェリエ・ディオニウスの顔を見つめているうちに顔が赤くなってきて、心は落ち着かない。
「あまり、見つめていると焦げてしまいますよ」
組んだ両手の上に顎を乗せて、じっと見つめているフェイ・カーライズに、シェリエ・ディオニウスが言った。
サイフォンのアルコールランプの炎を見つめていると思ったのだろう。照り返しで顔が赤くなっていると、ちょっと注意したのだ。
ところが、フェイ・カーライズの方は、一瞬心の中を見透かされたのかと、大あわてした。
「いえいえ、見とれてなんかないわよ」
あわてて、両手をバタバタと振って否定する。
「炎って、ちょっと不思議ですものね」
そう言いながら、温めたカップにシェリエ・ディオニウスがコーヒーを注いでいく。
「今日のケーキは、シフォンですよ」
コーヒーに、ふわふわのケーキを添えながら、シェリエ・ディオニウスがフェイ・カーライズに差し出した。
「いらっしゃいませー」
カウベルが鳴って、新しい客が入ってくる。
「へえ、ここが最近はやっているって言うお店かい」
中に入ってきたお菊さんを、トレーネ・ディオニウス(とれーね・でぃおにうす)が、あいているテーブルへと案内していく。どうやら、お店の見学に来たらしい。
店の隅の方に目をむけると、何やら雑誌の編集者らしい人たちが打ち合わせをしている。
「次の特集は、大図書室なんかいいんじゃないかなあ。謎の大司書さんの正体はとか……」
「じゃあ、また、バイト募集しますか」
地図らしき物を広げているが、いったい、なんの雑誌なんだろうか。
「繁盛してますね」
「ええ、おかげさまで。あなたがいつも来てくれるから。じゃあ、これは、サービスで。お手製なんですよ」
白い小皿の上に載った、三枚のクッキーをシェリエ・ディオニウスがフェイ・カーライズに差し出した。クッキーの上には、アンゼリカと、チェリーと、オレンジのピールが載っている。
「ありがとう。うん、美味しい。大好きだよ」
「それは嬉しいわ。また今度焼いたらお出ししますね」
クッキーを囓ったフェイ・カーライズが、いろいろな意味を込めて言った。もちろん、クッキーのことではなく、クッキーを作ったシェリエ・ディオニウスが大好きという意味なのだが、仕事中の彼女はごく普通に応対するだけだ。
「それにしても、パフュームったら、どこまで遊びに行っちゃったのかしら」
パフューム・ディオニウスがイルミンスールで何をやっているのかも知らないシェリエ・ディオニウスが、溜め息交じりに言う。
「大変だったら、その、手伝おうか? バイトに興味もあるし、それに、もうそろそろ夏休みだし……」
ちょっとチャンスかもと、フェイ・カーライズが申し出た。
「ありがとう。姉さんも妹もいるから大丈夫だとは思うけれど、何かイベントとかのときは、お願いするかも」
「うん、遠慮なく言ってよね」
本当にバイトできたらいいなあっと思いつつ、匿名某は……放っておいても構わないかと思うフェイ・カーライズであった。
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