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リアクション
第11章 制圧
「ずいぶん、後れを取っちゃったねぇ」
弥十郎と八雲は、タァを追うはずが、穴の道が違ったり樹の根に邪魔されて迂回したりで、弥十郎の言葉通り、すっかり遅れてしまっていた。幸いだったのは丘の中の下り道はすべて、最終的には同じ場所を目指していることである。
それはつまり、樹の根に目的意識があることを示していた。
「? これ……」
八雲が、足元の樹の根がさらに地中に潜り込んでいるのに気付き、弥十郎の注意を促した。
見ると樹の根がもそもそと動いており、そのために開いた根の周りの穴から覗くと、下に部屋があるのが見えるのである。
「……どうやら、目的の場所の天井に来ちゃってるみたいだね、ワタシたち」
「というか、この樹の根……」
動いている、伸びている。そして……
階下の魔族を襲っている。
いきなり羽音がして、2人が振り返ると、『ブラックダイヤモンドドラゴン』に搭乗した宵一がそこにいた。
やはり、穴の道を通ってここまで辿り着いたのだった。途中で穴が大きくなったので、ドラゴンに乗ることができた。
宵一は2人を見下ろしていたが、おもむろに口を開いた。
「どうやら、樹の根がかなり地中で動いて、そのせいで土がもろく崩れやすくなっているから、ここも長いこと立っていると」
言葉の途中で、土の床が――下の部屋にとっては天井が――崩落した。
ネーブルと画太郎は、敵に気付かれることなく、扉の前に立つ見張りの傍に近寄った。
見張りは1人……
(いくよ…)
事前に【神卸し】をしていたネーブルは、素早く背後に回ると、一瞬で振り返った相手を【千眼睨み】で硬直させた。
相手が室内から増援を呼ぶ前に。室内の幹部に気付かれる前に。
こうして、大転移装置のある室内に、タァと卯雪を含む一同が速やかに入る道が確保された。
「!?」
室内の幹部――この時点で7人――は、そうでなくても謎の樹の根の襲撃で狼狽えていたのに、そこに天井が抜けて、契約者たちが転がり込んできたのだから相当な衝撃である。
弥十郎と八雲は、床に落ちるとすぐに転がるように幹部たちの目から姿を隠したが、ドラゴンに乗った宵一は堂々と降りてきた。
「あんたらの地上の仲間は皆降伏した」
パートナーとのテレパシーでその報を知っている宵一は、呆気に取られる幹部たちに言い放った。
「悪あがきは無駄だ。降伏するのが得策だと思うがな」
だが、幹部たちは聞く耳を持たなかった。宵一に対し、魔力攻撃を加える構えを見せている。
「……仕方ない、力づく、か」
この時、同時に卯雪とタァを含めた一同が、扉から雪崩れ込んできた。
「な…っ、まさか、タァか!」
ぼんやりと可視化しているタァ、そして灰の娘候補だった卯雪。
樹の根のうごめき、大転移装置の上の謎のエネルギー体。
『あぁ……!!』
タァは、何かに打たれたように驚きと……感動の声を上げていた。
「この樹の根……エズネルが……!?」
キオネは目を丸くして、うごめく根を呆然と見る。
卯雪が、小さく声を上げた。
「エズネルは、何が何でもコクビャクを止めようとしている……
そのために、静かに暴走している。
魂のエネルギーをつぎ込んで、これだけの根を操って……
早く止めないと、力を使い果たしてしまう……魂が、消えてしまう!」
「そんな……どうすれば」
『ひたすらよびかけるしかない、キオネ』
タァが振り返って、2人に言った。
「うゆきのいうとおり、エズネルはしんねんのかたさゆえに、しずかにぼうそうしているのだ。
よびかけてもとどくかどうかわらないが、ほかにてはない」
「とにかく、樹のことはとりあえず2人に任せて、ここはまず幹部たちを抑えよう」
契約者たちは誰からともなく、そういう話に決まった。
ここに、先に捕獲した幹部を拘束して無力化し、階段の途中で(地上まで戻って送り届けるのは手間がかかりすぎるから)逃げられないよう(しかし落ちてくる土に押しつぶされないよう)適当な場所を捜して置いてきたために時間を食ったさゆみとアデリーヌも駆けつけてきた。
宵一は、『女神の右手』のシールドで敵の魔法攻撃を防ぎながら、隙を突いて【スカージ】と『神狩りの剣』の効果でスキルを封じた。ドラゴンの上から、
「多少痛い目を見るのはまぁしょうがないと思え。命までは取る気はないさ」
【ソードプレイ】で吹き飛ばした。
ルカルカは【超加速】をダリルとの【連携効果】で3倍速まで上げると、『布都斯魂』と『布都御霊』を手に一気にかかっていった。
幹部たちはそのスピードについていけず、あっという間に倒されていく。
樹の根に囚われていた幹部は、戦闘慣れしていない鷹勢とパレットが、ネーブルたちのサポート受けて根から外して、暴れさせないよう気を付けるだけで労せず捕獲する。
そんな中、司令官ゼクセスだけは、
「近づくな、灰があるぞ!!」
その灰を保管する金属製の入れ物を掲げて見せながら、契約者たちをけん制しつつ、大転移装置にじりじりとにじり寄っていく……
「――往生際の悪い小悪党だ」
呟いたのは、ルカルカの【ロイヤルドラゴン】で守られているキオネと卯雪の傍に念のため控えていたダリルだった。
言うなり、「羅神鞭『断空』」を(【サポートウエポン】により)凄まじい速さで放った。
鞭は宙をびりりと裂くように走り、ゼクセスと装置の間を弾くように打った。その勢いで、ゼクセスは入れ物を抱えたまま横に飛んだ。
「今ね!」
さゆみは装置に駆け寄った。この装置は破壊する必要があると感じていたからだ。が。
「やめて」
静かな、凛とした声が彼女を制止した。
卯雪だった。
「その装置には『最後の役目』がある……それが終わるまで待って」
セッションの感覚が命じるまま、卯雪はさゆみに頼んだ。
さゆみは、不思議そうに卯雪を見たが、結局それに従った。
床に転がったゼクセスだが、諦めたわけではなかった。それでも放さなかった入れ物のふたを開けようとした。
が。
「灰を使ったら有利になると思った? 残念でした」
天井から落ちてきた後、その後の混乱に乗じて部屋の隅に身を隠していた弥十郎が出てきたかと思うと、【メンタルアサルト】で一瞬の隙を突き、【魔力開放】で強化して【暗黒死球】を繰り出した。
灰は……入れ物ごと暗黒死球の中に吸い込まれた。
ゼクセスは、崩れ落ちた。
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