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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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第1章

 クリスタルフォレストという名前が示すのは、森の中に水晶がある、という場所ではない。
 水晶によって森が形成されているのだ。
「……こういうパターンは、あんまり自然なものとは思えないな」
 言わずもがな、ではあるが、確認せずには居られないことを、神崎 優(かんざき・ゆう)は呟いた。
「自然、っていうのは、どういう意味?」
 探索のための装備を調えるルカルカ・ルー(るかるか・るー)が問いかけた。
「つまり、これだけの結晶が土中に含まれてるとしても、木が生えるように露出するとは考えにくいということだ。掘ってみたら出てきた、というのならともかく……」
「同感だな。何か、結晶を作り出すような原因があると考えた方がいいだろう」
 と、言うのは、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。眼前の水晶をじっと見つめる。水晶は様々に光を反射して、美しい幾何学模様を作り出しているが……
「その原因が、水晶化、なのかしら?」
 神崎 零(かんざき・れい)がぽつりと呟く。その隣では神代 聖夜(かみしろ・せいや)が腕を組み、小さく鼻を鳴らしていた。
「生物を取り込んで水晶化させる作用……か。どういう原理なんだよ」
「その原理のほうが、問題ですね。どうやって生物を結晶に変えているのか、というのが分かれば……」
 陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が指を立てた。彼女の知識を総動員しても、この森の事象を明確に説明仕切ることは、今の情報ではできないのだ。
「水晶化したメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)さんを元に戻す方法が分かるかも知れない……」
 思い詰めたような表情で、夏來 香菜(なつき・かな)が言った。
「でも、いいのかしら。調査を提案したのは私だけど、こんなに大規模な調査隊が編制されるなんて……」
「何言ってるのよ。これだけの人数が集まったってことは、この森を調べる必要があるってみんなが思ってたってことよ」
 と、ルカルカ。
「水晶化は、ニルヴァーナにおいてもっとも危険な現象の一つだと俺たちも認識している。その対策のために必要な情報を集めるのは、当然の判断だ」
 ダリルも同様に頷いた。
「メルヴィア大尉の治療は必要だが、それだけじゃない」
「まだ始めないのか?」
 上空のカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、広大な水晶森を見回している。警戒しているのだが、動くものは見受けられそうになかった。
「もうちょっと待てよ! 今、目的の確認中だ!」
 夏侯 淵(かこう・えん)が、ドラゴニュートに負けない声で返す。
「では、一応国軍中尉としてまとめるわね。この隊の目的は、このクリスタルフォレストの調査。同時に深紅海の調査も進められています」
「周辺にイレイザーの巣があるって報告もあったな。そっちにも、武闘派連中が向かってるぜ」
 と、淵が付け足した。
「知りたいことはいくつかある」
 優が進み出て、森のほうを見ながら言った。
「この森の性質について……なぜ生物を水晶化させるのか。そのメカニズムの解析も必要だ」
「ギフトが発見されたこともある。どのような存在がこの森には居るのかは確かめるべきだ」
 と、優に続いてダリル。
「この森の中はどこでもこうなのかも確かめなきゃね。もしかしたら、建物や人工物があるかも」
 零が手を挙げる。
「何か巨大な魔法的な力が働いているかも知れません」
「知られざる物理現象かも知れない」
 刹那とダリルが続けて言い、
「つまり、この森の正体はまだ何も分かっていない、ということだ」
 優が腕を組んで、言った。
「最優先項目は、水晶化現象の原因を調べることね。危険な場所だから、単独で行動しないように」
「俺の目の届く場所から離れるんじゃないぞ」
 ルカルカが結論づけるように示して、カルキノスがばさりと大きく羽ばたいた。
「それじゃあ……」
 ひー、ふー、と大きく深呼吸をする香菜。うん、とルカルカが頷いた。
「現時点から調査を始めるわよ!」


「定時連絡。やっぱり、ずうっと水晶ね。それ以外に目立った発見はなし」
「了解。こちらも異常なしだ。そろそろ疲れてきた」
「愚痴るなよ。確かに、退屈だけどな」
 ルカルカからカルキノスへの通信に、ダリルが一言を添えた。
 クリスタルフォレストの内部は、水晶ばかりだ。木々のように、というのは少し控えめな表現で、時には巨石のように水晶が固まっていたり、長大な壁を形成していることもある。
「ぶっ壊すわけにはいかないのかよ」
 こちらも疲れたようで、淵はいつでも抜けるように準備した剣を意識しながら呟く。
「ダメ。環境を破壊しながらだと正確な調査はできないし、それじゃあ征服になってしまうわ」
 腰に手を当てたポーズで香菜が答える。
「……にしても、耳が痛くなるくらい静かだ」
 獣人としての感覚を研ぎ澄ました聖夜が、ふと歩みを止めた。一同がそれに合わせて歩を緩める。
「動くものは、水晶に映った影くらいね」
 疲労を感じるのは、何も広さだけが原因ではない。どこに行っても同じような、代わり映えのしない風景が続いているのだ。零も漏れそうになるあくびを、なんとかかみ殺す。
「それだけじゃない。調査隊以外には、物音を立てるものは何も感じられない」
 獣の感性を、聖夜が告げる。
「……少なくとも、この周辺には、生物と見なせるものは何もいないみたいだな」
 と、優。
「生物はみんな水晶化した……とか?」
「……まだ森のすべてを調べたわけじゃないわ」
 少し弱気になる零に、ルカルカが首を振る。
「……あまり深く入り込むのは危険かも知れないけど……」
 香菜もやはり不安げに呟いてしまう。
「体調の変化を感じたら、些細なことでもすぐに報告してくれ。……誰に兆候が現れるかで、何か分かるかも知れない」
 と、ダリルは静かに告げた。むっとして、淵がにらむような視線を向ける。
「おい、そういう言い方はないんじゃないのか?」
「人体実験のつもりはない。だが、この森の中ではそういうことが起きるかも知れない、と言ってるんだ」
「……とにかく、森の中の地形が分かるだけでも価値はある。いつでも引き返せる準備をしておこう」
 優はハンドヘルドコンピュータに情報が入力されるのを確かめている。ダリルの言葉を、否定も肯定もしなかった。
「今のところ、大きな動きはなさそうだ。あんまりぴりぴりしないでくれよ」
 と、カルキノスからの通信。香菜は頷いて、
「もし水晶になるんだったら、軽くて運びやすい人のほうがいいわ」
「ルカよりはおまえのほうが運びやすそうだな」
 と、淵が笑う。……低い位置でふさふさ揺れる髪に、一同の視線が集まった。
「……きみのほうが、軽そうに見えるが」
 率直なだけに、聖夜がそれを言った。
「うっせえ!」