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リアクション
大樹攻略作戦 1
「……あれって、どっちのコリマだっけ?」
作戦会議に使われた小屋の片付けを任されたエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)とアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は、全員退室したものだと思っていたが、一つ人影が残っていた。
板で塞がれた窓をじっと眺めており、どうやら入室した二人には気付いていない様子。少し観察すると、観察というほどでもないのだが服装で、残っているのはアナザー・コリマであるとわかった。
「たそがれちゃって、昔の彼女の事でも思い出してるんですか?」
「なっ、おまっ」
「ん?」
そこでやっとコリマは二人に気付いたようだ。エールヴァントはやや後ろで資料を抱えたまま固まっている。
「いや、違う違う。少し気圧されてしまってな」
「気圧されって、何に気圧されたんすか?」
「君達の世界のコリマ・ユカギールにだ。なるほど、本人を目の前にしてみれば、最初君達が私をあれほど警戒したのも頷ける」
アナザー・コリマは苦笑を浮かべると、二人に軽く挨拶をして立ち去った。
残った二人は手早く大事な資料を片付けていく。
「一応、むこうのもこっちも同じ人間なんだろ?」
「は? ああ、コリマさんの話か」
「自分と同じ人間に気圧されるってのも変な話だよな」
「んー」
エールヴァントは作業の手を少し止めて、アルフに向き直った。
「それだけ、契約者であるかどうかってのは、大きな違いなんじゃないかな。たぶん、こっちの世界の僕と出会ったら、やっぱり全く別人だとお互い思うんだろうな」
「ふーん、じゃあ俺も」
「こっちの世界にシャンバラは無いから、こっちのアルフはいないよ」
「マジで? あ、マジだ!」
○
「うじゃうじゃいるでありますなぁ」
モニターの映し出される映像を見て、誰もが思うった事を葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は一番最初に口にした。
彼が居るのは、伊勢のブリッジである。傍らにはコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の姿もある。
「これを一掃したら、さぞ爽快でありますな!」
「敵に大きな動きは無いけど、こちらは補足されてるでしょうね」
「攻撃の射程に入るまでは陣形を固めるつもりなのでありますね。最初の一発を譲ってくれるなんて、随分と余裕があるようでありますね。ビックバンブラスト発射用意、前方の敵を一掃するであります!」
「……了解、後続艦に通達」
まだ十分距離がある。あちらがこちらの動きに気づいたとしても手遅れなのは明らかだった。訓練通りに、ビックバンブラストの発射準備が整う。
「では、まずは一発、盛大にいかせてもらうであります! ビックバンブラスト、発射!」
「ビックバンブラスト、発射します」
発射されたミサイルが真っ直ぐ敵陣に向かっていく。敵に動きがあったのは、ミサイルが発射されて少ししてからだ。
「奇妙な動きね」
モニターの映し出される映像では、大型の怪物達はミサイルを迎撃するでなく、陣形を変更しているようだった。それも、相当奇妙な陣形だ。
盾を持った黒騎士の上に、黒騎士が乗り盾を構え、それが上横と繋がっていって、真っ黒なドームを作る。黒い大樹を中心にした巨大ドームの他にも、小型のドームが次々と作られ、盾を持たない怪物はその中に待機する。
そしてミサイル着弾、地形は抉られるように削れたが、黒いドームはどれも無事なまま残っている。
「砲撃合戦はあまり推奨できないわね」
「報告書の異常に硬い盾というのは、こういう事でありますか」
報告書にあった記載で、異常とまで書かれるのはそれだけの理由があったというわけだ。報告した人間が、少し常識が足りないわけではなかったようだ。
「どうする?」
「どうするもないであります。作戦通り、伊勢はこのまま前進、いくら固いといってもそれは盾が硬いだけ、黒騎士はイコン部隊で対応するであります」
「了解、そっちの準備はどう?」
「問題なし、いつでもいけるで」
シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)がコルセアの通信に返事を返す。伊勢の飛行甲板の上には、計八機のイーグリッドと、ジェファルコン特務仕様が発進準備を整えて待機していた。
「な?」
「酒臭い……」
笠置 生駒(かさぎ・いこま)が眉を潜める。酔いどれヴァルキリーはコックピットにお酒を持ち込んでいるようだ。
「せめてちゃんと蓋は閉めておいてくれ」
「なんでや、蓋しまっとったら飲めんやないか」
「発進する時、零れるから、絶対」
お酒が飛び散って計器類がおじゃんで戦闘不能、なんて事態を避ける為に言った発言だったが、
「おっと、それは勿体無いもんな」
どうも意図は伝わらなかったらしい、がちゃんと蓋を閉めてくれたのでとりあえずよしとする。
「さっきの一撃は見た?」
通信でブリッジのコルセアが二人の声をかける。
「見たで」
「見ました」
「わかってると思うけど、一応確認ね。正面からの戦闘は避けて、回り込んで側面、背後からの攻撃を心がけて。敵の機動力は侮れないわ、連携を重視ね」
「了解」
「この伊勢が無事に帰還できるかどうかは、あなた達にかかってるんだから、お願いね」
「おう、任せとき! な!」
生駒は頷いて返す。
と同時に、敵の陣形に変化が生じる。こちらが敵の警戒網に飛び込んだらしい。
「時間ね」
「艦載機全機発進、部隊の周囲に展開するであります!」
艦長葛城 吹雪の声が、全機に行き渡る。
当然一番最初に発艦するのは、
「ジェファルコン行きます!」
ジェファルコン特務仕様は風を切り裂き、その身を空中に投げ出した。
地上にはこちらに向かって前進する黒騎士の部隊が、一つ、二つ、三つ―――
「かっー、これじゃレーダーが埋まってまうで……とと、来るでっ」
閃光がジェファルコンの横を掠める、敵の射撃の射程の一歩手前のはずだったが、どうやら補足しきれていなかったようだ。
「射手はわかる?」
「当然」
「多弾頭ミサイルランチャーで目暗ましを、後続の機体の発艦を援護する」
「了解や!」
空中にいる間に、ジェファルコンはミサイルをばら撒ききった。弾速の遅いミサイルでは、どうせ盾持ちに防がれる。ここが使い所だ。
「よし、全機無事着地成功や」
「各機、伊勢から離れず敵を迎撃する。敵の足止めを優先、自分の生存を最優先に、状況開始」
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