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第9章 観覧車で大切な貴女と

「はあ、はあ……っ。ちょっと、怖かったですぅ。でも、千百合ちゃんと一緒だったから……」
 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は、パートナーで恋人の冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)と一緒に、遊園地に来ていた。
 急降下する絶叫マシーンに乗った直後。
 日奈々自身は、声も出せないほど怖かったけれど、隣にずっと千百合の存在を感じていたから、大丈夫だった。
「うーん、楽しかった。でも、日奈々が怖いのなら、絶叫系は終わりにしよ」
「お、お化け屋敷も怖かったですぅ」
 目は見えずとも、突如聞こえる悲鳴や、時折吹いてきた冷たい風に日奈々は恐怖を感じていた。
「でも、怖いですけどぉ、楽しいですぅ〜」
 そう言い、日奈々は繋いでいる千百合の手をぎゅっと握って、微笑を浮かべた。
「うん! あ、でももうこんな時間。最後は……」
 千百合は周りを見回して、やっぱり観覧車に乗りたいなあと思う。
 だけど、目が見えない日奈々は退屈だろうから。どうしようかなと、考えていると……。
「最後の締めは……やっぱり、観覧車、ですよねぇ〜」
 日奈々の方から、そう言ってきた。
「いいの?」
「乗りたいですぅ。景色は見えませんけれどぉ……遊園地デートの締めって言ったら……やっぱり観覧車ですからねぇ〜」
「うん、じゃ乗ろう乗ろう!」
 千百合は日奈々の手を引いて、観覧車の乗り場へと急ぐ。

 日奈々と千百合を乗せたゴンドラは、ゆっくりと昇っていく。
 2人は並んで腰かけている。
 自然に手を繋いで、他愛もない話をしながら、最後の乗り物を楽しんでいく。
「日奈々、今日のデート楽しかった?」
 千百合の問いに、日奈々は嬉しそうな笑みを見せた。
「今日は……すごく、楽しかったですぅ〜。実は……私、遊園地に来るのは…はじめて、だったんですぅ……」
 事故に遭って、目が見えなくなってから、日奈々は自分の殻の中に、閉じこもってしまっていた。
 仲の良かった友達も、離れて行ってしまって、頼れるものも、何もなくて。
 多くのことを、あきらめて、夢も希望も失って。
「閉じこもっていた、私の殻を……壊して……連れ出してくれたのが……千百合ちゃん、だったんですぅ……」
 千百合が支えてくれたから、日奈々は色々なことを頑張ってこれた。
 どんなことでも、耐えられた。
 千百合がいなかったら……今も、自分は殻の中にいただろう。
 暗い暗い闇の中にいただろう。
 感謝と、愛情と、それから……もっと別の気持ちも、日奈々の中に芽生えていた。
「ねぇ、千百合ちゃん……今まで……私は、支えられる側、だったけど……これからは……私が……千百合ちゃんを、支えて行くからね」
 目が見えなくても、弱くても、出来ることはある。自分も千百合の支えになれる……なるんだと思って、日奈々は千百合にそう言ったのだった。
「あたしはね、日奈々を守りたいって思ってる」
 千百合は繋いでる手に、少しだけ力を込めた。
「けど、あたしはまだまだ弱いから。……だから日奈々があたしのことを支えてくれるっていうならすごくうれしいよ」
 千百合の声から、喜びの感情があふれている。
 敏感に感じ取った日奈々は首を縦に振った後。
 手を伸ばして、千百合の顔を探し当てて。
 両手で包み込んで、顔を近づけ……キスをした。
「約束……」
 掠れた声でそう言って、深く口づける。
 空京の空で、2人は大人のキスを交わした。