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第7章 一緒に作ろう

 バレンタインフェスティバルが行われていると知り、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、パートナーで恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を誘って、空京を訪れていた。
 時折吹き抜ける風はとても冷たいけれど、流れている音楽や、歩く人々の顔には、穏やかな暖かさを感じた。
「この間新年を迎えたかと思ったらもうこんな季節……」
 感慨を抱きながら、セレンフィリティはセレアナと一緒に歩いていく。
 長身で美形。そして、露出度が高い格好。彼女達の魅力的な肢体に、街の人々が目をとめていく。
 だけれど高嶺の花に見えるのか、声をかけてくる人まではいない。
 いても、ナンパはお断りだ。
 せっかくのデートなのだし。
 温かい飲み物を買って、商店街を歩き回り、2人でウィンドーショッピングや、イルミネーションを見て楽しんでいく。
 ただ、歩いているだけでも、とても幸せだった。
「ん? お菓子作り体験だって……時間もちょうどいいし、参加してみない!?」
 誘ったのは、セレンフィリティの方だ。
「そうね。ちょっと寄ってみましょうか」
 そして、2人はお菓子作り体験を行っている、お菓子屋さんのドアを潜った。

 2人が挑戦したのは、チョコレートケーキだった。
 大さっぱなセレンフィリティは、卵と砂糖を泡立てたり、ココアと薄力粉を入れて混ぜたり。言われた通り、混ぜることを中心に担当し、細かな作業はセレアナの方が行った。
「結構時間かかるのね。菓子作りって思ったより大変……」
 だけれど、焼き始めてからは、甘くておいしい匂いが部屋に充満していき、知らず知らずのうちに、気持ちが高揚していって、集まった人々は和やかに笑みを浮かべながら作業をしていた。
「デコレーションは任せてね」
 焼きあがったケーキに、セレアナは生クリームとチョコレートで作ったチョコクリームを塗り、ホイップしていく。
「おおー……。売ってるケーキらしくなってきたわね」
「うん、感心してもらうほど、上手くはないけれど」
 完成したケーキは、持ち帰ることも、その場で食べることもできるということで、2人はテーブル席に移動して、食べて帰ることにした。
「ちょっと甘い、かな?」
 一口食べたセレンフィリティはそう感想を漏らした。
「そうね……まあ、思ったよりは悪くないかな」
 そのケーキは、少し甘めで、少し硬かった。
「でも、十分美味しいわね。好みの問題だと思うわ」
「プロほど上手くは出来ないけれど、上出来ってところかしら?」
 セレアナの言葉に、セレンフィリティは首を縦に振った。
「それにこうして一緒に食べていると……心まで幸せな気分になって、とっても美味しく感じるわ」
 セレンフィリティがそういうと、セレアナはくすりと笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、私もそう思っていたところ。もしかしたら、少し甘めに感じているのも、気のせいなのかも」
 一緒に食べていることが、幸せだから。
 より、甘く幸せな味に、感じているのかもしれない。
「なんだか、食べているうちに、もったいなくなってきたわ」
「ホントね……」
 そう言いつつも、2人は談笑しながら全てこの場で平らげるのだった。
 甘い味と、互いの微笑みで、心が満ち足りていく。
 幸せな気持ちを2人で共有できたことで、お互いに非常に充実感を感じていた。
 セレンフィリティとセレアナは幸せいっぱいの笑顔を浮かべながら立ち上がって、レシピをお土産に帰路に着くことにする。
 また、一緒に作ろうと約束をしながら。
 外はやっぱり寒いけれど、心はぽかぽかだった。