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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
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リアクション

 第2章 空京の公園で1 〜結ばれた場所〜

 蒼空学園の校長室は、日曜日でもいつも通りだ。
 そう、いつも通りすぎるくらいに、それ以上の形容が思いつかないくらいに。
 山葉 涼司(やまは・りょうじ)が校長になってから、もう随分経つ。御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の放つ空気に包まれていた部屋も今では馴染み、そこは涼司の仕事場であると同時に緊張を解せる場にもなっている。
 でも。今日は2月14日。バレンタイン。
 火村 加夜(ひむら・かや)と涼司にとって、想いが通じ合った大切な日。
 休日出勤した涼司の手伝いをしながら、加夜はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ不安になった。
(付き合って、一年になるんですよ。忙しいから、涼司くん忘れてるのかも……)
 そんな事を思っていたら、いつのまにか動きが止まっていたらしい。加夜の視線に気付いたのか、涼司はふ、と顔を上げる。
「どうした? 加夜」
「あっ! あの……涼司くん」
 声を掛けられてびっくりして、それから意を決して加夜は言う。
「仕事のお手伝いも一緒に居られるから嬉しいんだけど、今日は……」
 今日は私に時間を下さいって言ったら、わがままですか……?
 どきどきして俯きかけるのを我慢してそう続ける。すると彼は、不意を受けたように動きを止めた。一瞬の後、殊の外照れたように、笑う。
「いや、全然」

「あの日以来、ここに来るのは初めてですね」
 ――数時間後、涼司と加夜は公園に居た。
 バレンタインの空気いっぱいの空京繁華街を通ってしばらく歩くと、人通りの少ない閑静なエリアに出る。そこにある、自然の多い公園だ。
 人々のざわめきから離れた、穏やかで静かな場所。
 1年前、加夜はここで告白して、涼司に好きだと言われた。
「あの時のドキドキを思い出します。凄く嬉しくて、幸せで、忘れられない日です」
「……ああ、そうだな……」
 2人で手を繋いで、涼司は空いた方の手で頬を掻いた。あの日のことは、彼も忘れない。答えを返そうと、好きだと伝えようと自らの意思で加夜を呼び出した日のことを。
 想われているのは知っていた。
 それでも告白をするというのは、男でもやはり緊張するもので。
 これまでに本当に、本当に様々なことがあった。返事をするまで、色々なことを考えた。だけど――去年のバレンタインから1年。彼女と過ごしてきた時間は、彼に確かな暖かさをもたらした。
「だから実は、今日……、俺、どう誘おうかって思ってたんだ。加夜があまりにも普通に仕事してるからさ、忘れられてんじゃないかって焦ってたんだぜ」
「え、そ、そうだったんですか?」
 見上げてくる加夜は意外そうにして、そして嬉しそうな顔になる。
「……私もです」
「ちょっと、座るか」
 歩道脇のベンチに並んで座る。このベンチがどれだけ大切か、何も言わなくても2人はそれを共有している。
「涼司くん、これ……」
 加夜がプレゼントしてくれたのは、手作りのチョコレートケーキだった。
「今日は記念でもあるので、ケーキがいいかなって。バレンタインなので、チョコを使ったケーキにしてみました」
「ああ、ありがとう」
 箱を膝に載せ、用意されていたフォークを使ってケーキを食べる。甘さ控えめのビターな味が口の中に広がった。
「おっ! すげー美味いよ!」
「本当ですか? 良かった……!」
 加夜は安心したように輝いた笑顔を見せる。それから、柔らかく微笑んだ。前は『好き』って伝えたけれど、今、伝えたいのは。
「涼司くん……愛してます」
「……!!」
 2月の冷たい風の中、涼司の手が止まる。硬直したらしい彼に、彼女はそっとキスをした。涼司は加夜にとって、前よりもっと大切で、かけがえの無い存在。
 言葉では伝えきれない分を全て、キスに込めて……。
 チョコレートの香りのする唇が、それを受け容れる。
「私、いつか涼司くんの奥さんとして公私共に支えあっていけるようになりたいです。……でも、仕事ばっかり大切にすると拗ねちゃいますよ?」
「……ああ、ほどほどにするよ」
 笑い合い、2人はまたキスをした。