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ンカポカ計画 第2話

リアクション公開中!

ンカポカ計画 第2話

リアクション


最終章 地獄行き

 キンコーンキンコーンキンコーンキンコーン!
 ブルー・エンジェル2号では、1号から救難信号が送られていた。
 が、誰も動こうとしない。
「みんな、どうしたの? 大変だよ。なんとかしなきゃ!」
 無人島に行きたがってたザカコも、ボケーッとしている。
「ロドペンサ島に先に行っちゃいましょうよ。救助とか、面倒ですよ……」
 ジュリエットと洋兵も賛成する。
「まったくその通り、面倒なことですわ」
「おじさんは島に行くのもめんどくさいぜ。ここでのんびりしようぜ」
「それは素晴らしい提案ですわ。たまにはいいことも仰るのね」
 ジュリエットは操舵室にひょいと顔を突っ込むと、エンジンキーを抜いて、ポイッと海に捨ててしまった。
 ひゅーーーん。
 2号は島にも1号にもあと少しのところで、完全にエンジン停止。
「さあ、沈む船を借景にフィドルでも弾……くのは面倒ね。ただ眺めて楽しみましょう」
「おじさんも、見てるとするかな……」
 マルボロをプカプカとやっていた。
 カレンは、ポケットの中のエンジンキーをギュッと握りしめた。
「ボクが……ボクがなんとかしなきゃだよ!」
 と、トツゼン、
「そーーーーれ!」
 ぴゅーーーーー。ちゃぽん。
 エンジンキーを海に投げていた。
 ブルー・エンジェル2号は終わった。沈みはしないが、島にもどこにも行けなくなってしまった……。

 ――ブルー・エンジェル号(1号)

 甲板では、大騒ぎになっている。
「どうなってんだーーー!」
「なんであいつら助けに来ねえんだッ!」
「見殺しにするつもりかーーーー!」
 船内は浸水が進んで、大パニック。
 ピンクルームにも水が入ってきていて、夏樹とラルクが慌てて出ようとするが、水圧でドアが開かない!
「このまま3人で……というのは如何でしょうか」
 つかさはベッドに腰掛けたままだ。
「わあああ。吸精幻夜が効き過ぎてしまったようです。目を覚ましてください!」
「ラルク様も……如何ですか?」
 つかさは本物だった。
 ラルクはトツゼン、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 既に全裸だったため、服を脱ぐ分のエネルギーもダッシュに当てられた。
 ダダダダダダダダダダダダダダッ……ドッガアン!
 ドアを体当たりでぶち破る。
 どっばーーーっ!
 大量の水が入ってくる。
 夏樹はつかさをお姫様抱っこして、その中を一歩ずつ歩いていく。
「あなたを、死なせやしません……!」
「いやああ〜ん」
 ちょうどいいところで発症していた。
 船内の通路は、非常扉がしまってたり、水で溢れてたり、メチャクチャだ。
 あちこちから叫び声が聞こえる。
「おねーちゃん!」
「お怪我はございませんか!」
「粗茶ですがー!」
「くんかくんか……!」
「マネーロンダリングーーー!」
 大混乱の中、魅世瑠だけはまっすぐ走っていた。
「頼むよ、チュー公。甲板まで案内してくれよッ!」
 ネズミを見つけて、追いかけている。
 が、ネズミは途中で止まった。
 そして、ピョンっと沙幸の肩に乗った。
「きゃあああ!」
 隣の留美は思わず声をあげるが、沙幸は平気だった。
「なつめ? はぐれたの?」
 魅世瑠がネズミだと思ってたのは、総司が飼ってるフェレットのなつめだった。
「キミ、チュー公じゃないのかあ……」
 焦っていて見間違えた自分にショック。
 そして魅世瑠はトツゼン発症し、天井にジャンプしてぶら下がると、
「きーらきーら。ぐーるぐーる」
 人間ミラーボールとなって、キラキラと輝いた。
「見える。見えるよ! なつめ、こっちだね! 一緒に甲板に出ようね!」
 なつめは沙幸にすりすりしている。飼い主がいつも沙幸を見ていたので、親近感があるようだ。
 そうしてるうちにも、大量の水が押し寄せる。
「沙幸さん。彼女には悪いですけど、先を急ぎましょう」
 留美と沙幸は、魅世瑠が奇行から覚めるのを待ってられるほどの余裕はなかった。
「ごめんね! ごめんね! ありがとうー!」
 魅世瑠は1人でぐるぐる回って……覚めた。
「ここ、どこ?」
 初めての発症のため、本当に何が何だかわからなくなっている。
「道なら、あっちでござるよ」
 そこに、もう1人まだ発症してない鹿次郎が現われた。
 また一段と大量の水がやってきて、一緒に大きな棚も流れてくる。
 このままだと、魅世瑠にぶつかる――
 そのとき!
 鹿次郎が棚に体ごとぶつかって魅世瑠を守る。
「ここは拙者に任せて、先に行くでござる」
 カッコつけてはいるが、明らかにセクシーな魅世瑠の身体を舐め回すように棚の影からのぞいている。
「さあ、行くでござる。拙者の屍を乗り越えて!」
「じゃあ、よろしく!」
 魅世瑠はあっさりと鹿次郎を捨てて去っていった。
「あ、今度こそチュー公みっけ。たのむよッ!」
 鹿次郎はトツゼン瞳孔が開き、初めての発症。
 どこにあったのかカナヅチでトンテンカンテン……
 流されてきた棚を直している。
 症状は日曜大工だ。
 次々と流れてくる壊れた棚を直していくその手際はなかなかのものだが、甲板に上がる機会を逃さないことを切に願う!
 別の場所では、歌菜が必死に大和を探していた。
「大和さーん! 大和さーん!」
 そしてトツゼン、
「こんなもん食えるか!」
 ドンガラガッシャーン!
 テーブルをひっくり返すと……そこに、ブルブル震えている捨てられた子犬がいた。
「か……な……さ……ん……!!!」
 大和だ。
「大和さーん!」
 歌菜は、愛おしい大和を抱きしめた。
「ごめんね! 1人にして、ごめんね!」
 大和は歌菜の胸に抱かれて、ようやく震えが止まった。
 2人はじっと見つめ合う。
 その距離、13センチ。
 周囲の喧噪が消えていき、2人の世界は愛と静寂に包まれる――
 そのとき……
 大和がトツゼン、
「……ぎゃあああああああああ!」
 歌菜の守護霊ズメイを見てしまった。
「ぎゃあああああああああ!」
 大和は一気に甲板まで走り抜けた。
 厨房では、竜司の舎弟、ファタと英希が背中一杯に食糧を持たされていた。
「ファタさーん。なんで俺たち、こんな目に遭ってんのかな」
「エーコちゃん。舎弟やめちゃえばいいんじゃ。そうじゃそうじゃ」
 竜司はトツゼン、
「♪はりつめた〜ららら〜 ららららら〜ららら〜 ららららら〜ら〜ら〜ら〜」
 奇跡の美声!
「竜司様! もっと持たせてくださいッ!!」
 そのとき、どこからともなく、りをの声が聞こえてくる。
「おしっこちー」
 と同時に、ドッバーーーッ!
 大量の水が押し寄せる。
 背中の食糧は一気に流されていった。
 りをは奇行発症中のまま、一緒に流されて、
「おしっこちー。おしっこちー」
 そのポケットの中でトラミニくんが必死にしがみついている。
「りをちゃーん! 目ぇ覚ましてくれええ!!! マジたのむーーーっ!」
「生きるべき……だな」
 ウィエルネストは、流されていくりをの腕をガシッと掴むと、しっかりした足取りで甲板へ向かう。
 また別の場所では、カナヅチの和希がすね毛の宅急便にしがみついていた。
「すね毛〜。た、た、たのむ〜」
「すね毛ええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
 甲板に運んでもらえる。
「心の友よぉ!!!」
 あの和希が、思い切り抱きついていた。
 医務室では、大量の水のせいで全注射器と全メスがブッ刺さった警備員のおっちゃんが息も絶え絶え。
 祥子の手を掴んで、最期の言葉を残す。
「佐知子……生きるんだ!」
 情に厚い祥子は、最期くらいと付き合ってやる。
「お……お父さん」
「佐知子……生きて……お母さんに伝えてくれ……ンカポカ様は……」
 声が小さすぎて聞こえない。
 めんどくさい病の祥子もさすがに気になって、耳をおっちゃんの口元に寄せて、なんとか聞いた。
「はあ???」
 くだらないことを聞いたようだ。
 そして、おっちゃんは息を引き取った。
 祥子が出て行こうとすると、そこにはいまだ脳みそがトコロテンの総司がぷかぷか浮いている。
 仕方なく腕を掴んで運ぶが……
「やっぱり、めんどくさい……」
 浮かべておいた。
 珂慧はスケッチブックを必死にビニール袋につめている。
 何重にも重ねて、顔を上げると、総司がぷかぷか浮いている。
 珂慧はトツゼン、総司の額に油性ペンで「死」と書く。
 総司は死んだ。
 そばにはヴィナがいて、額に「若奥様」と書く。
「わんっ。わんわんっ」
 その横を、わんこしいながわんこ掻き。
 ミニガチは必死に頭にしがみついている。
 転んで仰向けになり、
「ぎゃあああああ。落ちる〜〜〜〜」
 なんとか掴まるが、天井を見て、
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」
 幸がエクソシスト状態で猛ダッシュ。
 陣は、カナヅチで気絶していたヴァーナーをかついでやってきた。
 医務室の前で総司を見つけるが、額に「死」の文字。
 レキがトツゼン、
「遊ぼうよ! 遊ぼうよ!」
 総司の腕を引っ張るが、何の反応もない。
「本当に死んじゃったのか……」
 ヴァーナーは目が覚めて、トツゼン、
「あなた、だいすきっ。まるかじり!」
 総司の額の部分をガブッと噛んで、皮膚の文字を削り取る。
「お……おっぱー……ああ……」
 総司が目覚める。
 陣はトツゼン、レキを担いで、
「みみ毛ええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
 一気に甲板へ出る。
 その側を、プレナがすいーすいーっと泳ぐ。
「けろけろーっ」
 ランツェレットが仰向けに寝たまま浮いて、少しずつだが進んでいる。
「ぐーぐー。むにゃむにゃ」
 翡翠はマグカップ片手にランツェレットを見て、驚く。
「どうやって進んでるのでしょうか?」
 ぷっぷっぷっ……。
 もしかして、ねっぺで進んでいるのだろうか……それは永遠の謎である。
 総司はヴァーナーを見て、
「ンカポカ?」
「ヴァーナーです」
「どっちでもいいや、とにかく命の恩人だぜ!!」
「ボク、泳げないんです!」
「オレは泳ぎは得意なんだ。命の恩人を死なせやしないよ」
 ヴァーナーを背中に乗せて泳いでいく。
 甲板では、フィルが木材を使って即席のイカダを作っていた。
「皆さん! 船が沈んだら、これに掴まってください!」
 わあっと群れる人の波。
「どけこら! どけこら!」
 翔が押し退けてイカダに到達。
 しかし、イカダには横になって場所を占領している者がいる。
「え? どかないよ。めんどくさいから」
 めんどくさい病のローザマリアだ。
「どいてくださいい!!」
 フィルが必死に説得するが、
 隣で寝ているウィルフレッドは、チラリと見て、
「……」
 答えるのもめんどうなのだ!
 その側で、にゃん丸はズボンを履く。
「流石に外は寒いねぇ……ふんふんふんふんふんっ」
 チャックをあけしめあけしめ。
 総司がヴァーナーをイカダに案内して端っこに手を掴ませ、そばにいてあげる。命の恩人には、真剣だ。
 樹は、発泡スチロールの即席イカダを作っていた。
「こっちにもあるから使ってくれ!」
 しかし、持ってきたと思ったら、もう誰かが寝ころんで場所を取っている。
「おいおい、どいてくれよ」
「先に言ってくださいよ。今さらもう、動くのめんどくさいですよ」
 虎徹だ。
 めんどくさい病は使えないアルバイトのように、楽できるポジションを見つけることには長けていた。
 隣には、風天もゴロンとしている。
「はあ。めんどくさい。あ! 顔にまだカエルがくっついてましたね。でも、取るのめんどくさいですね……」
「俺が取ってやろうか……いや、やっぱめんどくせえや」
 一もゴロンと横になる。
 それでも、イカダには次々と人が集まってくる。
 が、樹はトツゼン、
「酔い抜くぞー!」
 ガーンガーンガーン!
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!」
 同じく木材イカダのフィルも、トツゼン、
「あはっあはっあははははははは」
 ガーンガーンガーン!
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」
 リカインがイカダの上で大鎌を振り回す。
「地獄行きだッ!」
 波音がトツゼン、壁に頭をゴンゴンゴンッ!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 壁だと思ってたのは、ロザリンドだった。
 ロザリンドは額からだっくだく血が出ていたが……
「めんどくさいなあ……」
 されるがままになっていた。
 静麻が状況を見て、みんなに指示を出す。
「イカダはダメだ! あきらめろ!! 船が傾くぞ! 何かに掴まれ!!!」
 コトノハは、1人で物陰に這っていく。
「あんた! そっちは危ない! 行っちゃだめだー!」
 静麻の制止の声も聞かず、這っていく。
 静麻はトツゼン泣き崩れ、
「おかあさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
 コトノハは隅まで行くと、なにやら大きな布を……バサッ!
 そこには、隠しておいた小型飛空艇がっ!!!
 セオボルトが気づいて、妄言。
「貴様ァァァァァァァァァァ! 上官に差し置いて自分だけが助かろうなど許されると思っておるのか! この下種があっ!!!」
 刀真がダダダダダッと駆けてきて、
「のぞき部のばーか!」
 コトノハにドロップキック!
「ち、ちがいます……」
 ラーフィンが立ち塞がって、カンカンカン!
「ギルティー!」
 それでも1人で乗り込むコトノハ。
 その耳を、ソアが甘噛み。
 はふはふはふはふっ。
 コトノハはゾゾゾッとして、ずり落ちる。
 が、まだ乗ろうとする。
 と、目の前に立ちはだかる周。
「きゃあ、えっち!」
 コトノハは小型飛空艇に乗り込む。
 ショウが立ち塞がる。
 が、トツゼン、
「お掃除お掃除。たっのしいなー」
 ハタキで埃を払う!
 英希がトツゼン、きゅきゅきゅ。
 飛空艇を磨く。
 そして、飛空艇は離陸した。
 が、コトノハの後ろに有沢祐也が乗っていた。
 祐也はトツゼン、肩を揉んで、
「ご立派な方で」
「……」
 2人はそのまま島に向かう――
 そのとき!
「おねーちゃん!」
 唯乃がトツゼン、ジャンピング抱っこ!
 飛空艇に飛び乗った。
 3人はそのまま島に向かう――
 そのとき!
「キンピカッ!」
 マストから落ちてきたエルが、真一郎にカンチョー。
「なんで今?」
 真一郎はトツゼン、服を破って、
「世界一ッ!」
 クロセルは飛び立った飛空艇を見上げてトツゼン、藁人形に五寸釘を打ち、
「落ちろ落ちろ落ちろ……」
 
 船は今、どんどん浸水して、ついに斜めになっていく。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 アリアの前には信者がいっぱい。
 壮太が、アリアにしがみつく。
「アーリーアーリーセーレーセーレースッティサーマー」
 アリアはトツゼン、
「我を愛せよ……我を……愛する者は救われるッ!!!」
「アリア様ぁ〜〜〜〜〜!!!」
 ミレイユがトツゼン、アリアの首にストローを刺して、
 ちゅうううううううううううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 蒼がトツゼン、アリアを自分の胸に埋めて、ぱふぱふぱふぱふっ。
 薫はアリアの隣でワクワク。ぱふぱふの順番を待つ、が……
「これボクのー!」
 円がアリアの手を引っ張ってどこかへ連れていく。
 トコロテンから復活した朔がトツゼン、
「くらえ! 天誅!」
 薫にジャーマンスープレックス。
「髪がないでござるよッ! 髪がーーーっ!」
 地面に激突する直前、ガシッと掴んだのは、如月佑也。
「助かったでござるーー!」
 祐也はトツゼン、
 薫の髪をツインテールに……できなくて固まる。
「こ、こ、こっちが……」
 ひなは集めた顔拓を必死にビニール袋に入れながら、珠輝のそばでペンと紙を用意して、待つ。
 珠輝はトツゼン、
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……全員が助かる方法がわかりました」
「なんですかーーーー!?」
「それはですねえ。ブルー・エンジェル号の甲板で……ひなさん、私に何か? 顔拓ですか?」
「今は違いますーー!」
 がっくり。
 リュースは、リョージー1に肩車してガクガクブルブル。
「責任持ってオレを助けろぉおおおお!」
 リョージー1は水上バイクのように、
「ぶおん。ぶおおおおおん!」
 パーティー会場に入っていく。
 そこには、りゃくりゃく団に追いつめられた巽がいる。
「巽が2人ぃぃぃぃいいいいい!」
 リュースはついに脳みそがトコロテン。
「んぱーんぱー」
 リョージー1は、奇行から覚めてマスクを外し……ガボッ。
 巽の頭に戻した。
「とんだ目に遭ったぜぇ。覚えてろよぉ〜」
 巽の前には、りゃくりゃく団。
「うわあ!」
 と反対に逃げると、そこにはケンリュウガー。
「ソークー1! ヒーロー仲間として助けに来たぞ。こっちだ!」
「武神先輩! 助かるぜ!」
 2人のヒーローが走る。
 が、そこは行き止まり。
「ぐわあああ! 武神せんぱーい!」
 ケンリュウガーは壁に耳を当て、コンコン。
「この壁の厚さは55センチ! この程度のもの、叩き壊してくれる! どりゃあああ!」
 ポロポロ……。
 ヒビが入るだけ。
「ぬううう。56センチあったか……」
「ええええっ! ていうか、先輩。その腹に巻いてあるのは……?」
「ああ、これか。セシリアがどこかに落ちないようにゴムでつないでるんだ……あ。バレたかな?」
「せんぱいぃぃ! グルですかあー」
 そして巽は完全にりゃくりゃく団に囲まれた。
 ルカルカが手を出す。
「変形合体巨大ロボの操縦マニュアル……貸してっ! 貸してくれなきゃ、君の額をぉ〜」
 とちょこちょこ近寄る。
「負けました! どうぞ!」
 巽はあっさり観念して、冊子を差し出した。
 りゃくりゃく団は歓喜。みんなでハイタッチ。
 これで、後はぽに夫の脳みそに衝撃を与えてカスワヤア能力を発動させれば、変形合体巨大ロボが現われるはずだ!
 そして、ロボはきっとブルー・エンジェル号を救ってくれるっ!!
 今や、甲板の上に集まったみんなが注目している。
 シャンバランがみんなに呼びかける。
「みんなも気持ちを1つにしてくれ! 変形合体巨大ロボを呼び出すんだ!」
 りゃくりゃく団は、ぽに夫を真ん中に立たせる。
「ほんとうにやるんですか……?」
 ぽに夫は恥ずかしそうだ。
「もう時間がないッ!」
「ルカルカ、早くやるのじゃーっ!」
 ぽに夫の脳みそに衝撃を与えるため、ルカルカが一歩前に出る。
「ぽにぽに……心の準備はおーけー?」
「どきどきですっ」
「いくよ!」
 ぽに夫の体は、かすかに震えている。
 ルカルカは、ぽに夫をそーーーっと抱きしめる。
 ぽに夫の顔は、その大きな胸にむぎゅうっと埋まっていく。
「んん〜っぷ」
「羨ましすぎる……!!!」
 全男子が悔し血涙を流して見守る中、ルカルカはぽに夫の髪を撫でる。
 いったん離れて、キヲツケの姿勢をとってるぽに夫のかわいい瞳をのぞきこむ。
「ぽにぽに。こうゆう刺激がほしかったのん?」
 ぽに夫はもう顔がまっかっかだ。
「かわいい! じゃあ……もっとルカをあ・げ・る☆」
 とキスの体勢に。
 取り巻きと一緒に見ていた真一郎は、身悶える。
「みんなの命のためとはいえ、んんおおおお」
 ぽに夫は緊張しながらも、
「んっ」
 目をつむる。
 そこで、ルカルカはチラッと横を見る。
 静かに、ケンリュウガーが近づいてきて、頷く。
 キスをするのは、ケンリュウガーの役目だ。
 ぽに夫の前にやってくる。
 少しずつ少しずつ、キスの瞬間が迫る。
 ぽに夫も待ってられないのか、唇をううーっと突き出している。
「むむう……」
 セシリアは、首を振る。
(ええい。ダメじゃダメじゃ。子供たちのヒーローにこんな場面はいらぬうー!)
 てくてく歩いていくと、ぽに夫の脳天にチョップする――
 刹那!
 そのチョップを、ギリギリのところでシャンバランが止める。
 シャンバランは静かに首を振り、セシリアに無言で伝える。みんなの命のため。正義のためなんだ、と。
 そして……ケンリュウガーを見守る。
 が、しかし、すぐそばで見ていると妙なライバル心が沸いてくる。
(ケンリュウガー、すまんっ!)
 シャンバランは思わずぽに夫を抱き寄せて、ぶっちゅううううううううううううううううううううう!!!!!
 空を見ると、何かヒビのようなものが見える!
 カスワヤア能力が発動しかけているのだ!
 ぽに夫はそーっと目をあける。
 目の前には、ルカルカではなく、シャンバランの顔っ!!!
「んぎゅわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 空のヒビがビキビキッと割れていく。
 ケンリュウガーはおいしいところを取られて躊躇いながらも、そこはやはり、正義のヒーロー。みんなに指示を出す。
「みんな! 今だ! 巨大ロボを想うんだ! 願うんだーーーっ!!!」

 一方――

 この船に乗っているもう1人の正義の味方ラヴピースはまだ操舵室にいた。
 トレジャーハンターのあかりと2人、船の傾きにもめげず、“デイ・ダラー・ブッチ”の自爆装置を解除しようとしている。
 といっても、それは陽太が修理していた無線機器の配線だった。
「あかりさん。これは、どっち?」
 もう最後の配線らしく、2人は汗びっしょりだ。
「きっと、この赤い配線を緑に、緑の配線を赤に、差し替えるんだよぉ」
「オーケー。信じていいッスね?」
「わからないわぁ。でも……やってみるしかないよぉ」
「そうッスね! もし失敗だったら……ふっ。あかりさんとはいいパートナー。あの世でまた会えるッスよね!」
 陽太はもう、何も言わなかった。
 2人が飽きてどこかにいなくなってくれるのを待っていた。
「じゃあ、行くッス!」
 ラヴピースは赤い配線を緑に差す。
 汗がマスクの下からポタッポタッと垂れる。
 そして、緑の配線を赤に……差す。
 ジッジッジジッ。
「あ!」
 陽太が飛びついて、メモリを調整する。
 ラヴピースは「危ない」とか「一般人は離れて」とか言ってるが、さすがにかまってる暇はなく、無視した。
 ジーーー。ジジ。
 マイクから聞いたことのある声が聞こえてくる。
「ああ、ら……ぞ……こちら……ぞな……ぞな……」
「もしもし! もしもし!」
 陽太は思わず電話のように話しかける。
「こちら、こちらブルー・エンジェル号!!! 船は今、沈没しかけています! 至急救助に来てくださいっ!」
「ああ? その声は、汁粉ドリンクの男ぞな?」
 繋がったのは、ンカポカ一味の傴僂ジジイ、アルフレードだった。
「まだ……生きてたぞな……」
「うわあああ!」
 これでは救助を呼ぶことができない。陽太は周波数を調整しようとする――
 そのとき、その手をガシッと掴んで止めるのは、美羽だった。
「美羽さん?」
 美羽はマイクに向かって叫ぶ。
「くおらーーーっ! ンカポカーーーっ! 出てこーーーい!!!」
 途切れ途切れにアルフレードの声が聞こえてくる。
「ンカポカ様……はっ。……この交信で位置は……わか……」
 陽太は嫌な予感がして、交信を切ろうとする。
 が、その言葉ははっきりと聞こえてしまった。
「ミサイル一発ですね。はいポチ。今撃ちましたぞな……」
 プツッ。
 交信はようやく切れた。
 しばしの沈黙の後……陽太、美羽、ラヴピース、あかりの4人は、顔を見合わせて叫んだ。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 4人は、急いでみんなのところに駆け出す。
「大変ッス! ミサイルが飛んでくるッスーーーーッ!!!」
 りゃくりゃく団とそれを見守るみんなは、ますます巨大ロボに期待するしかない。信じるしかない。
 その気持ちが空のひび割れをさらに大きくしていく。
「だったらお前らも、巨大ロボを願ええええ!」
「巨大ロボって、どんなのですか!」
「なんでもいいから、好きなの想像して、とにかく願ええええええ!」
 めんどくさい病の祥子も虎徹も、風天も一も、ロザリンドも、みんな願っている。
 船にいるみんなが願っている。
 しかし、なかなか巨大ロボは現われない。

 ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 そうしてる間に、どこからともなくミサイルが飛んできて……
  
 どっがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!

 すぐ近くに落ちた。
 直撃は免れたが、海底は非常に浅い。この衝撃は、大津波となってやってくる!
 すぐ側に停まっている2号も危ない。
 さすがのめんどくさい病の面々も叫んでいる。
 カレンはもうずっと前から、斜めになってる1号を見て、何もできない自分が情けなくて涙をボロボロ流していた。
「うあああああああ! 巨大ロボでも出てきて、助けてよーーーー!!!!」
 それは、めんどくさい病にはぴったりの他力本願だった。
「おーっほっほ。ロボットが出てくればいいのですわ」
「おじさんロボット見てえぞおおお!」
「ロボットさん、お願いします。島まで行かせてください。あと、ほんの少しです。少しだけですから!」

 そして、野武とケイは、ミサイルの衝撃を空から見ていた。
「ぬぉわははは! 派手にやりおるわい」
「おい、見ろ! 霧が晴れてくぜ。ブルー・エンジェル号が2つある!」
 2つのブルー・エンジェル号の間を野武とケイの飛空艇がゆく。
 そして、耐久性ばっちりのバラロープで牽引されて、救命艇のパラミタ・カウボーイズがゆく。
「どわあああ! あとちょっとなのにいいいい!」
「津波が来るぞ!!!!」
「おしまいだあああああああ!!!!」
 そして、ここでも……
「お願いします! 巨大ロボットでも現われて助けてくださーい!!!」
 他のカウボーイズも便乗する。
「それだああああ! もうそれっきゃねえええ!!!」
「たのむーーー! 巨大ロボ!!! みんなを救ってくれーーーーーーーー!!!!」

 ――そして、ブルー・エンジェル号(1号)。

 ぽに夫の上の空のヒビから、何かが出てくる。
 きっと巨大ロボだ!
 が……
 ぴしゅんっ。
 ヒビが元に戻り、現実世界とどこかとの隙間に挟まれた。
 耳を澄ますと、何か聞こえてくる。
「……イショ……ヨイショ……ヨイショ……」
 ヒビがむりやりちょっとだけまた開いて……
 ひゅーーー。とん。
 体長がたった140センチの小さいロボットが落ちてきた。
「ミナサン。コンニチハ。ボクヲヨビマシタカ。ボクハ、ヘンケイガッタイロボットデス」
 ち、ちいさい!
 いや、それ以上に、その見た目が気持ち悪いっ!
 ぽに夫の想像の影響を受けて……両腕に緑のヒレがついている。
 シャンバランの想像の影響を受けて……足が10本ついている。しかも8本は飾り。
 セシリアの想像の影響を受けて……あちこちにピンクのリボンがついている。
 ケンリュウガーの想像の影響を受けて……股間にドリルが装備されている。
 そして、ルカルカが想像の影響を受けて……顔が鷹村真一郎にそっくりだッ!!!
 ぽに夫は、素朴な疑問を投げかける。
「なんで、そんなに小さいんですか?」
「ダッテ……コノイショウガ、キマッテタカラ。オオキイト……コノイショウガ、ヤブレチャウカラ」
 そのとき……
 血だらけの手が、船の手すりに掴まった。
「よいしょっと。はあっ。はあっ」
「ぼっとんちんちん。ぼっとんちんちん……」
 バラのつるで吊されていた陽が、ガートルードを背負って、ようやく、ようやく、ようやく甲板までたどり着いたのだ。
 そして、目の前のミニロボットを見た陽は、今日、はじめて笑った。
 そう。このロボットの衣装とは……女児用スクール水着なのだッッッッッッッ!!!!!
 ロボットは自己紹介を続ける。
「ミナサン、コンニチハ。ボクノナマエハ、プルプルガー。ヨ・ロ・シ・ク・ネ!」
 ルカルカは慌てて操縦マニュアルを見るが、それはただの落書き帳。いろんなロボットの絵が描いてあるだけだ。
「うわあ〜」
 そして、リカインが小さく呟いた。
「地獄行きだっ……」

 どどどどどどどどどどどどどどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーん!!!

 プルプルガーに津波を止められるわけはなく、全ての船がぶっ飛んだ。





 津波からどれだけの時間が経っただろう……





 メイベルは目を覚ました。
「ショッパいですぅ〜」
 自分がうつ伏せに倒れているのがわかった。
 顔を上げると、そこは砂浜だった。
 手には……戦場カメラマン魂だろう。しっかりカメラを握っていた。
「カメラ……撮らなきゃ……」
 録画の赤いスイッチを押して、周囲を見渡した。
 すぐ側に、竜司がいた。
 さすがはタフガイ。
「うぐぐぐ……」
 立ち上がろうとしている。
 カメラをパンすると、同じように砂浜に打ち上げられている者がたくさんいるのがわかる。
 岩に打ち付けられている者や、高い木の上にひっかかってる者もいる。
 そして、2つのブルー・エンジェル号が崖に激突している。
 まだ、メイベルと竜司以外は目を覚ましていないようだ。
 いや、1人……崖の上に立ち上がる姿が見える。
「誰だろぉ〜」
 メイベルがズームで寄る。
 夕日を背にして立ち上がったのは、壮太だった。
 壮太はしっかりと2本の足を広げて立ち、手にはどこにあったのだろうか、1本の向日葵を持っている。
 壮太は、生きていた。
 向日葵も、生きていた。
 オレも、向日葵も、生きている!!
 それを、海に向かって吠えていた。
 竜司の奇跡の美声をバックに、向日葵を股間にあてて、吠えていた。


「オレの光条兵器! オレの光条兵器! オレの光条兵器ッ!!!!!」



【つづく】

担当マスターより

▼担当マスター

菜畑りえ

▼マスターコメント

みなさん。おつかれさまです。
はじめましての方、脳みそトコロテンのんぱんぱシナリオの世界にようこそ。
お馴染みの方、お帰りなさいませご主人様。今宵も楽しんでいただけましたでしょうか。

まず、公開が遅くなって申し訳ありませんでした。
なんの理由も言い訳もありません。すみませんでした。

今回、またしても書きこみすぎました。ボリューム的に。
結局前回よりも長くなってしまいましたが、次からは通常の文章量で仕上げます。
ので、よろしくお願いします。

残念ながらボツになったアクションに関しては、個別コメントでなるべく理由(時には言い訳)を説明しています。
お節介な助言をしていることもあります。
これは、より「蒼空のフロンティア」あるいは私のシナリオを楽しんでもらうために送っています。
参考にしていただければ幸いです。
招待は100人シナリオなので意味あるかわかりませんが、いろんな理由で、ほんの少しだけ送っています。

今後の予告や執筆方針など、ここで書けなかったことをブログ「んぱんぱにっき」で発信してます。
よかったらのぞいてみてください。

なお、次回「ンカポカ計画 第3話」からの新規参加者さんも入りやすいように、今から策を練ります。
また、第1話に参加して第2話に参加しなかった方も、問題なく復帰できますので、お待ちしております。
それでは、『ンカポカ計画 第3話』を乞うご期待!です。

そして、みなさん。よいお年をお迎え下さい。んぱーんぱー。


※誤字脱字、性別、名称、そのほか意味の通りづらい箇所などを修正しました。