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リアクション
第6章 再起動
機関室へは、真一郎が作ったパーフェクト見取図があるから簡単に行くことができる。
が、一番に中に入った本郷翔は愕然とした。
「こ、この船……レトロなのは雰囲気だけかと思ってましたが、本当に古いんですね」
ブルー・エンジェル号は、蒸気船だった。
機関室には、情報通り誰もいない。機関員がサボっているのだ。
そこで、ボイラー室をのぞいてみることにする。翔とともに向かうのは、リカイン、ヴァーナー、そして坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)だ。
「なんということでしょう」
翔たちは異常に暑いボイラー室に入って、愕然とした。20人はいようかという機関員がみんな揃って、無駄に石炭を使っての我慢比べをしていたのだ。
「まったく、涼しいな。いや、俺なんか寒いくらいだぜ」
「けっ。そう言いながら裸じゃねえか。俺は服を着ちまうぜ!」
「なーに言ってやがんだ。そりゃあクールビズじゃねえか。俺はこれ、とっくりよ!」
ふざけた連中に思わず怒りがこみ上げてくる翔だが、ティータイムだろう、いつの間にかお茶を飲んで気を静めようとしていた。
「落ち着かないといけませんからね。彼らは海の男。こちらがカッとなったら、元も子もありません。みなさんもどうぞ」
と仲間たちにも茶を配っていく。
「これで奇行が起きにくくなるかもしれませんしね……」
が、そう言ってるそばから、翔がトツゼン、
「どけこら!」
海の荒くれ男たちに向かって突き進む。
「どけこら! どけこら! どけこら!」
「わわわ。落ち着いて! 翔くんが一番落ち着いてないよー!」
リカインが慌てて止めようとするが、奇行も翔も止まらない。
「どけこら! どけこら! どけこら!」
ただでさえ我慢比べでテンパってるところに、謎の男の闖入だ。荒くれ男たちは怒り心頭。
「なんだとコラッ! ひよっこが!」
「お前がどかんかい、ボケーーッ!」
「こっちはンカポカ様の指示で働いてんだぜえ! わかってんのかい、ガキどもがあああああ!」
リカインは、慌てて荒くれ男たちにパワーブレス!
「わわわ。みなさんに、幸アレ!」
効き目は十分。奇行の覚めた翔も驚き、感心した。荒くれ男たちが優しい笑顔になっているのだ。
「ようこそ、ボイラー室へ」
「どうしたの、みなさん。こんなところまで見学に来たの?」
「変わったお客さんだねー。まあ、好きなだけ見てってよ」
リカインは今がチャンス! とお願いしてみる。
「みなさーん。せっかく船を動かす素晴らしい技術をお持ちなんですから……働いてみませんか!?」
荒くれ男たちがにこにこっとリカインを見る。これは期待が持てそうだ。が……
「お嬢ちゃん。そればっかりはムリな相談だ。やっぱり、ンカポカ様の指示がないとねえ」
ならばと、今度はヴァーナーが立ち上がった。手には眠りの竪琴を持っている。
「さあ、みなさん。ボクの歌を聴いてください」
ヴァーナーは心安らぐ音色の竪琴をポロンポロンと弾きながら、子守歌を歌う。
「♪シープがわーん。シープがつーう。おふねのなかでー。んかぽかさんとおやすみよー」
荒くれ男どもが、うとうと……。
その隙に、ヴァーナーはとっておきの作戦に出る。ンカポカが着ていた制服と同じものを用意していたのだ。
こっそり後ろの方で見ていたヴィナがにこにこっと手を振る。作ったのは、ヴィナだった。
制服はあちこちほつれて糸が出たりしてるが、眠くなった荒くれ男にそんな違いはわかるわけがない。制服を着て黒髪のカツラをつければ、身長の低いヴァーナーはンカポカそっくりだ。
「さあ、みなさん。ンカポカですよー」
眠いからか、反応がない。
「仕方ないですねえ。では……」
と汗まみれの荒くれ男のほっぺに、ササッとハンカチで拭いてから……ちゅう! 吸精幻夜で惑わす作戦だ。
「ンカポカですよー」
「ああ……。ンカポカさま……」
「働いてくださいねー」
「はいい……はたらきます……」
大成功! たった1人だが、立ち上がって機関室へと向かった。
「やったー!」
このままどんどん吸精幻夜をやっていこうと思ったヴァーナーだったが、トツゼン、
「あなた、だいすきっ。まるかじり!」
「え?」
がじがじがじがじがじ。
奇行症を発症して、リカインの頭をかじり始めてしまった。
がじがじがじがじがじがじ……。
この事態に、満を持して鹿次郎が立ち上がった。
「拙者の出番でござるな。ふっふっふ」
鹿次郎は、ケータイを片手にズンズン前に出る。
「拙者、部活仲間のにゃん丸殿に聞いたでござるよ。ンカポカのちんちんは光るってことを」
そう言いながら、ズボンを下ろしていく。
「荒くれ男は裸の付き合いをしてこそ、相手を認めるもの。つまり、ンカポカはちんちんを光らせながら指示を出していたはず。みなさん……あとはもうおわかりでござろう?」
頭をかじっていたヴァーナーが症状から覚め、叫ぶ。
「きゃああああ!」
電波が悪く、ちんちんは光ったり消えたりと点滅を繰り返している。
「しまった。こ、ここは電波の調子が悪い……にゃん丸殿のようにカッコよくキマらないでござるな」
「鹿次郎。実はさぁ、光るちんちんには、まだ秘密があるんだよねぇ」
「なぬ? その声は!」
振り向くと、光るちんちんの本家にゃん丸が立っていた。相変わらず上半身はカッコいいが、縦縞模様のパンツ一丁である。
「ごめんねぇ。内緒にしてて。ンカポカのちんちんはさあ、光るパラミタ真珠が入ってるんだけどねぇ……」
パンツをズルッと下ろして、サササッとちんちんにナニカを結びつける。
キラキラッ!
「にゃん丸殿。そ、それは……!」
「光精の指輪さ。しかも……2コだよぉ!!! ンカポカはねぇ、パラミタ真珠を2コ入れてたんだよぉ!!!!!」
「な、なんと!!!」
食い付いてるのは鹿次郎だけで、他の面々はちょっと引いていた。
「しかし、にゃん丸殿。光精の指輪は1つしか持ってなかったのでは?」
「ふふーん。壮太に借りたのさ。この使用法は、奴には内緒だぜぇ」
キラキラッ!
そして、見事に荒くれ男たちはダブルで光るちんちんに釘付けになっている。
「ンカポカ……様……」
「こんなところに……いらっしゃったの……です……か」
「なんなりと……ご命令……を……」
にゃん丸は腕を組んでポツリと一言。
「船を動かせえ」
機関員はみんな一斉に働きだした。
「お見事ッ!!!」
鹿次郎は感心。感動。ちんちんをぶらぶらさせたまま何度も頷いている。
「さすがは我らがのぞき部の幹部。拙者もまだまだ精進が必要でござる!」
翔やリカイン、ヴァーナーやヴィナも、引きながら喜んだ。方法はなんであれ、とにかく船が動けばいいのだ。
しかし、どうも機関員の動きがよくない。働いてはいるんだが、動きや役割がバラバラで効率的でない。それは、現場で指示を出すはずの機関長がいないからだった。
「このままじゃ、逆に壊れちゃったりするんじゃないかな……」
リカインがあたふたしていると、翔が気がついた。
「あそこを見てください! あの一番暑そうなところに、まだ2人います!」
そう。ダブルで光るちんちんに踊らされない荒くれ男がまだ2人いたのだ。その1人が機関長なのだろう。そしてもう1人は、ズタボロの学帽に学ランを着ている。
「おや?」
鹿次郎とにゃん丸が同時に叫ぶ。
「姫宮和希!!!」
「よお! なかなか面白かったぜえ。ヴァーナーの竪琴には流石の俺も思わず眠っちまいそうになったぜ」
機関長と我慢比べをしていたのは、和希だった。
「へっ。ボロボロの学ランじゃ風を通していけねえ。うー、寒い寒い。おまえら、上着でも貸してくれよ……」
と言いながら、暑さで滝のような汗をかいている。
そして、もう1人。滝汗のおっさんが、和希に肩を組む。
「姫宮ぁ〜。まったく、よく言うぜえ。限界のくせによお。おい、おめえら。上着なら、この俺に貸してくれ!」
このおっさんが機関長で、今のが最後の強がりだったようだ。
「姫宮ぁ……ま……まけ……たぜぇ……」
バッタン。
ついに、機関長が倒れた。
「か……かった……ぜ……」
バッタン。
和希も倒れた。
みんなは慌てて2人を外へ連れ出して、翔がティータイムで冷たいお茶を出したりして介抱する。
目を覚ました機関長は、すっかり洗脳が解けていた。
「姫宮。男の約束だ。負けたからには、なんでもおまえの言うことを聞いてやるぜ」
それを聞いたみんなは、当然和希が機関員をきちんと統率するように言うと思っていたが……
「命令は……ナシだ! 男同士、プライドを賭けた勝負だからな、野暮なことはナシだぜ」
「わあああ! ちょっと待ったでござるー!」
慌ててみんなで和希に事情を説明した。
「機関長。そういうことらしいや。頼めるかい」
「姫宮の頼みならしょうがねえ。任せときな!」
機関長は和希と力強く握手して、去っていった。
汗だくの和希は学ランもシャツも脱いで、体をタオルで拭きながらみんなに説明する。
「実はよお、俺の本当の狙いは、奇行症が発汗で治るか試すことだったんだよ」
「なるほどねえ。体の毒を汗で出しちゃえば、意外とあっさり治るかもしれないねぇ」
と、そのとき和希はトツゼン、自分の姿に反応する。
「いや〜ん」
くねくねして恥ずかしがっている。奇行症は全然治ってなかった……。
さて、機関室が機能するようになった今、大切なのは操舵室だ。
警備員が5人待機している操舵室には、周と真一郎と陽太がダクトから侵入を試みる。そして警備員を全員外に出すために、刀真とアリアが表で囮になるという計画だ。
が、刀真たちが来る前に、既に戦いは始まっていた。
「どおりゃあああああ!」
超ミニスカートの小鳥遊美羽が、外にいる警備員にいろんな物を片っ端からぶん投げている。ミニスカートは動きやすいために着ていると言うだけあって、その身のこなしはかなりのものだ。
そして、格闘技が得意な美羽が次に打った手は……人間投げだ。
「どおりゃああああああああ!!!!」
撮影中のメイベルを、巴投げの要領で警備員に向かって投げつける。
「うわあああ〜。たすけてくださいぃ〜」
メイベルは体ごとぶつかって、警備員はぶっ倒れた。作戦成功だ。
そして、この作戦の凄いところはここからだ。戦う気なんてさらさらなかったメイベルでも、目の前の警備員に向かってこられたらやるっきゃない。
しかも、警備員はメイベルに言ってはならない一言を言ってしまった。
「カメラを渡しなさい! ここは撮影禁止です!」
「それは困りますぅ〜」
一晩で戦場カメラマンばりの精神力を身につけたメイベルが、カメラを手放すわけはない。むしろ、カメラを持っているといつもの1.5倍強くなった。
「えいーっ! カメラはぜったいだめなんですぅーーっ!」
火術をぶっ放し、迫る警備員は相当なダメージを受けた。
「さすが。戦場でカメラを守らせたら誰よりも強いね!」
なんという他力本願。美羽はさらに立ち上がろうとする警備員に対し、今度はたまたま通りかかった男を巴投げで……
「どおりゃああああああああ!!!!」
ぶん投げる。
不意を突かれて見事に投げられてしまったのは、トメトメ一族の葉月 ショウ(はづき・しょう)。
ショウはぶっ飛びながら、モップとホウキの二刀流を構える。
これは警備員撃退に期待が持てそうだ。が……
このとき、ついに初めての奇行症が発症した。ショウはトツゼン、腰に差してたハタキで警備員の顔をパサパサパサ。
「お掃除お掃除。たっのしいなー」
ルンルン気分でハタキをかけている。
「……」
顔をパサパサされてる警備員はしばらくしてから……ボッコーーーッ!
ショウをぶん殴った。
「きゃあああ! お掃除マン、大丈夫?」
美羽が助けに行き、ついでに警備員を巴投げ。ようやくトドメを刺すことができた。
目が覚めたショウはぽつりと呟いた。
「最初から自分でやれよ……」
ごもっともだ。そして、またすぐに発症して、美羽の顔をパサパサしていた。
操舵室の警備員5人のうち、1人が倒れた。残り4人のうち、3人は部屋の中にいる。そして、外にいる1人に向かって走ってくる者がいた。刀真だ。
「だりゃあああ!」
得意のドロップキックをぶちかます!
が……よけられた。腰を激しく打って、いきなりヨレヨレしている。
「いったあああ……」
続けて、ワインボトルを武器にしたアリアがやってくる。ボトルの突きを素速く繰り出すが、警備員はことごとくかわしていく。
「ちょっと〜! これじゃあ中の警備員も出てこないし、全然ダメだよー。刀真さん、しっかりしてー!」
すると、刀真は腰を曲げながらやってくる。
「えーっと、先に謝っておきます。アリアさん、ごめんなさい」
「え? 何がですか? 謝るくらいなら、戦ってください。お願いです」
もにっ。
「もにっ?」
アリアが固まった。
もにもにもにもにもに。
アリアの触覚は自分に起きてることに気がついていたが、その脳が認めるまでにはどうしても時間が必要だった。
「…………………………きゃああああああ!」
刀真が片手でアリアの胸を思いっ切り、もにもにしていたのだ。
操舵室のダクトでは、案内役の周が先頭で顔を出している。小声ですぐ後ろの真一郎と喋りながら、外の様子を見る。
「刀真がなんかやってるけど、え? まさか……?」
「どうしたんですか、急に震えだして。行けるんですか? 行けないんですか?」
「と、とうまあ〜! なにやってんだよ〜!!!」
刀真は落ち着いて、アリアに言う。
「さあ、アリア様モードになってください。神様なら、きっと警備員を手懐けることができるはずです」
「そ、そんな……! 私は神様なんかじゃありませんっ! だめえーーーーっ」
「うーん。もっと刺激がないとダメかなぁ〜。では!」
と今度は目の前に立って、両手でめいっぱい……
もにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもにもに。
「いっやああああああーーーーーーーーーーん!」
周はもう限界だ。愛するアリア様を弄ばれて黙ってはいられない。
が、行こうとする周を背後から真一郎が止める。
「待ってください。何が起こってるのか知らないけど、警備員が3人もいたら確実に倒すことができません」
「むうううううう。でもお……」
周は、嫉妬と怒りで顔が紅潮。血管が破れまくりながらも耐えていた。
そして、ようやくアリアの奇行症が発症する。トツゼン、ワインをじょぼじょぼとこぼして、
「我を愛せよ。我を愛せよ……」
刀真はあっという間に入信する。
「アリア様〜」
そして警備員も、ひれ伏した。
「アリア様〜」
中にいた警備員3人のうち、外を見ていた2人もあっさりひれ伏した。
「アリア様〜」
鍵を開けて、操舵室から出て行ってしまう。
周は泣きながら、ダクトから下りる。
「行くぜ、真一郎。ぐすっ。ぐすっ。中の警備は1人になった。ぐすっ」
しかし、周は悔しすぎて戦えるような状態ではない。あっという間に警備員に殴られ、泣きながらぶっ倒れた。
この警備員は、続いて下りてきた真一郎の敵だ。
ちなみに、陽太は最後にそーっと下りてきて、そっと応援した。
「がんばってくださーい……!」
真一郎は、狭いダクトを通ってきたため武器を持っていない。周は泣き崩れているし、陽太は元々戦闘向きの性格ではない。頼れるのは……自分の拳だけだ。が、
「この警備員……できる!」
最後に残っていただけあって、この警備員は強い。真一郎が周とは違うと判断したのか、不用意に近づいてこない。
真一郎は、一発で終わらせようと顎を狙って拳を振るう。
が、かわされる。
逆に腕を掴まれて、へし折られそうになる。
「うごおおおおお!」
そのとき、アリアたちがいるのと反対側の表に、恋人のルカルカの姿があった。巽を追いかけまわしていて、真一郎のピンチには気づいていないようだ。
しかし、チラッと見えたルカルカの姿が、真一郎にさらなる力と勇気を与えた。
「だらあああああああ!!!!!」
自分の腕が折れるのを承知で、警備員を背負ってぶん投げる。すかさず、脇を固めて肩を外し……勝負あり!!!
陽太が急いで扉の鍵をかける。
「これで作戦成功ですね」
「あとは操船……はたしてうまくいくかどうか」
真一郎は警備員をグルグルに縛って、計器類を見る。
「僕は、無線機の修理をやるだけやってみます」
「はい、頼みます」
こうして、悔しくてただ肩を震わせて泣くことしかできない周を置いて、それぞれがテキパキと動きはじめた。
「ちくしょう……ちくしょう……のぞき部にだってできないことを……!!!」
表では、奇行から覚めたアリアが戸惑いつつも警備員に指示を出していた。
「えっと、ここにいてください。操舵室に入るのは、ダメです。お願いします」
「アリア様〜。お言葉をいただくなんて〜。ありがたや〜」
刀真も一緒になって感動している。
アリアは1人、苦笑するしかなかった。
「こまったなあ……」
そして、真一郎は博識スキルを使ったりしてみるが、どうしても船を操ることはできなかった。
できないままに、トツゼン服をビリビリに破って……
「世界一ッ!」
操舵室から叫んでいた。
そして、そのとき船でもう1人叫んでいる者がいた。
マストの上に上っていた希望の光、エル・ウィンドだ。
「救助船が来たぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
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