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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

リアクション

「事前に話した通り、この穴は崩落によって出来た物だ。壁や天井が脆くなっている危険性もある、くれぐれも注意して進んでほしい」
「はい!!」
 新たな入り口に契約者と共に到着したアメイアは、団員共々採掘するための道具を手に、人が十分通れるだけの道を掘り進めていく。過酷な環境下での肉体労働は常人であれば相当な負担だが、幾多の戦場を潜り抜けた彼らは汗を浮かべつつ黙々と作業に従事する。
「あっつーい! けど、頑張るよー!」
 ループ・ポイニクス(るーぷ・ぽいにくす)も暑さにバテそうになりながらも、精製した魔力増幅薬を口に含み、少しでも付近の温度が下がるように溶岩の流れを抑えようと試みる。力仕事は不得手な分、それがループにとっての『自分に出来ること』であった。
(……そう、ここにいるみんな、自分に出来ることを一生懸命している。
 だから私も、私に出来ることを頑張ろう)
 鷹野 栗(たかの・まろん)が心に呟き、彼女にとってはパートナーも同然の一人、シェリダンに掘るべき場所を指示する。出会った当初はとてつもなく苦労させられた彼も、今では頼もしい戦力として脚爪で壁を蹴り、突き崩していく。今の所アメイアとシェリダンが壁を崩し、溜まった土砂は団員が運ぶという構図が出来上がっていた。

 しばらく作業を進め、現在どの辺りまで掘り進めたかを確認した所で、アメイアは休憩を指示する。栗もループとシェリダンと身体を休めながら、この先に居るであろう『龍』のことを思う。
(……私は、たくさんの龍を知っている。人と共に暮らすものと、別の場所で暮らすもの。人の言葉を話せるものと、話せないもの。人と契約を交わせるもの、交わせなくとも傍に居るもの。
 そして、どの龍とも必ず、分かり合うことは出来る。向き合うためにどれだけの想いが必要か、どれだけの努力が必要か。そこに僅かな違いがあるだけ)
 胸に手を当てる、『ウィール遺跡』で見守ってくれているヴァズデルの温もりを感じる。自分が『龍』と契約を交わすに至って、分かったこと。
 ――龍と人は、必ず分かり合うことが出来る――。
(ヴァズデルも、メイルーンも、ニーズヘッグもそう。みんな始まりは戦いだった。
 けれど今では、とても大切な仲間。それならどうして、炎龍と向き合えないだなんて思えるだろう。
 中にいるみんなも、きっとそう思ってくれている。そうだといいなって、私は思ってる)
 遠くで、作業を再開する声が聞こえた。声に反応して各人が、各々のするべき事を始める。
「ほら、炎龍に負けていられないよ、翼竜のシェリダンさん」
 微笑んで栗がそう口にすると、シェリダンは一声啼き、立ち上がると壁の方へと向かう。
 再び、内部の者たちを救出する作業が開始される。

「……くっ、これは厳しいか……?」
 またしばらく作業を進めた所で、一行は難所にぶち当たった。溶岩が冷え固まった物がまるで鋼鉄の扉のように一行の前に立ちはだかったのだ。アメイアの渾身の一撃も、壁に僅かなヒビを入れるに過ぎなかった。
「打ち続けていればいずれ破壊できるだろうが、崩落が心配だな……。
 強力な一撃を加えられる何かがあれば良いのだが――」
 アメイアが口にした所で、入り口方面から秋月 葵(あきづき・あおい)が息を切らせてやって来た。
「カヤノちゃんに何か起きてるかも、って思って急いで来てみたよ! あたしも力になる!」
 中に入ったカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)や仲間たちを助けたい一心で駆けつけた葵へ、アメイアが状況を説明する。目の前の溶岩が道を塞いでいること、強力な一撃を打ち込めば破壊出来る可能性を知った葵は、自分がその役割を担うと進み出る。
「崩落の危険性はあるが、そちらについては私が抑える。あなたは私の入れたヒビへ、全力で打ち込んでほしい」
「分かった、やってみるよ!」
 頷いた葵が、狙いを定め剣を構える。
「ループもやるよ! ループは魔法少女!魔法少女は、みんなのピンチをたすけるんだもん」
「うん、そうだね! 実はあたしも魔法少女なんだ、一緒に頑張ろう!」
 ループのかざしたロッドへ、増幅された魔力が集まる。それは氷の属性を得て氷塊となり、アメイアの入れたヒビへ突き刺さり、楔と化す。
「全力ぜんかーい!」
 そこへ葵が飛び込み、渾身の一撃を叩き込む。うっすらだったヒビは瞬く間に溶岩全体へ行き渡り、やがて先端まで到達した直後、一枚の岩だった溶岩を無数の欠片へと崩壊させる。それらは葵とループの方へ降り注ぐが、巨大化したアメイアが身体を張って押しとどめる。
「はああぁっ!」
 落石のダメージを受けつつ、アメイアは危険のないレベルまで欠片を処理し、人のサイズへ戻る。数名の団員がアメイアの治療を行い、残りの団員は瓦礫を処理しながら先へと進んでいく。
「ループ、お疲れさま」
「えへへー、鷹野、ループ頑張ったよ!」
 笑顔を見せるループを労い、栗は道の先を見据え、言う。
「さあ、もうひと頑張り」
 ――帰ったらヴァズデルに「仲間が増えました」と伝えられるといいな――。
 そんな事を思いながら、栗は仲間たちと共に先へ進む。


『よぉ、元気してるか? そっちの様子はどうだ?』
 聞こえてきたニーズヘッグの声に、瓜生 コウ(うりゅう・こう)は安堵を覚えつつ現在の状況を報告する。
「オレは今、先に見つけた避難に適した場所に居る。場所は既に通達してあるから、確認できるなら後でしてほしい。
 温度は徐々に上がってきている、氷術で中を冷やしたテントを設置してはいるが、それも数時間もすれば効果を発揮しなくなるな」
『うし、分かった、確認しとくぜ。
 オレの方は先に連絡があったかもしれねぇが、塞がっちまった穴をこじ開けることにした。こいつは誰かの企みらしいんでな、そいつを打ち砕いてやる。
 あぁ、もしヤバくなったら今みたいに連絡しろ、そん時は真っ先に駆けつけてやる』
「……内部の方から手伝えることはあるか?」
 コウが尋ねれば、ニーズヘッグは「気持ちはありがてぇが」と言い、続ける。
『うっかり中まで吹き飛ばして巻き込んじまったらシャレになんねぇからな。もし上に向かおうとしてるヤツがいるなら、事情を話して引き止めといた方がいいかもだぜ』
「分かった。では、また後で」
『おう、気ィつけていけ、コウ』

 ニーズヘッグとの会話を終え、コウは改めて状況を確認する。
(中層Aにて戦闘の形跡あり、怪我人が居る模様。下層Bにて数名の契約者が閉じ込められた、か)
 そのどちらにも、他の契約者が救助に向かっているとの報告も同時に上がっていた。この件に関しては彼らに任せ、自分はこの場をなるべく長い間維持することに力を注ぐことに決める。
「さ、ここならとりあえずは安心だ。大人しく助けを待っていてくれ。
 ……あぁ、話をしている間に付近の獣達をここに集めておいた。済まない、迷惑だったか?」
 数匹の獣たちと共に現れた酒杜 陽一(さかもり・よういち)の言葉に、コウはいいや、と首を横に振る。
「オレはこの場を維持する必要がある以上、離れることが出来ない。怪我人や獣達の確保を頼めるか?」
「あぁ、放っておくわけにはいかないからな。なるべく多くのものを収容できるように努めよう」
 頷き、陽一が漆黒の翼を広げ、移動を開始する。「もし獣達や契約者が何も知らず上に向かっているなら、ニーズヘッグが入り口を開こうとしているから引き止めてほしい」と告げたコウの言葉に従い上を目指すと、頼りない足場を伝って上に行こうとする獣たちの姿があった。
(あれでは上に辿り着く以前の問題だ。助けてやらないとな)
 おそらく混乱しているであろう獣たちを刺激しないよう、陽一はゆっくりと近付き、興奮を鎮める歌を口にして落ち着かせる。最初は警戒して吠えかかろうとしていた獣たちも、歌を歌い終わる頃には大人しくなっていた。
(ここからは俺が、彼らを誘導しよう。熱センサーを展開、崩落の危険がある箇所をサーチ……)
 陽一が獣たちの先頭に位置し、なるべく安全そうな道を選んで進んでいく。途中足場が不安定な箇所は、伸ばした翼を支えにして獣たちを先に通し、コウが維持している場所へ進んでいく。時折湧き出たマグマ溜まりに最短距離を阻まれるものの、別の道が繋がっていそうなことを確認すると、蒸気やマグマが吹き出さないかをマフラーを伸ばして確認した後、進む。
(レモンちゃんと分断されてしまったな……。外の人の手伝いをしていると信じよう。
 案外、入り口を開く手伝いをしているかもしれない)
 入り口に待機させていたレモンちゃんがどうしているのかを想像しつつ、獣たちを無事送り届けるため陽一は先を急ぐ――。

「さて……と。んじゃ、いっちょ気合入れっか」
 首をコキコキと鳴らして、ニーズヘッグが瓦礫と溶岩で塞がれた入り口を見据える。
「まずは溶岩からだな。穴開けても溶岩が流れ込んじまったらまた固められるかもしれねぇし――」
「モンモーン! レモンちゃんにお任せだモーン!」
 そこに、見た目大きな猿の着ぐるみのような姿のレモンちゃんが、協力を申し出る。
「レモンちゃんはすごいビームを打てるんだモーン!」
「へぇ、んじゃ見せてもらおうじゃねぇか。言っとくが――」
 ニーズヘッグの身体が、人から龍の姿へと変化する。力を取り戻してきたのか、その全長は100メートルに到達しようかという所であった。
『オレのよりチャチかったら、この溶岩の海に沈めっからな?』
「ま、負けないモーン!」
 そして、二匹? の龍と猿が同時に大きく口を開け、すごいビームと球状のブレスを放出する。二つは溶岩の海の近くの岩壁を砕き、大量の土砂を流れ込ませ、入り口に溶岩が流れ込まないようにする。
『フン、なかなかやるじゃねぇか』
「モンモーン!」
 見下ろすニーズヘッグの褒め言葉に、レモンちゃんが手を叩いて喜んだ。