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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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●『煉獄の牢』:下層B

「体調に不備のある者はいないな? あれば言ってくれ、治療しよう」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の言葉に、場を同じくした茅野 菫(ちの・すみれ)パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)ミスノ・ウィンター・ダンセルフライ(みすのうぃんたー・だんせるふらい)夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が大丈夫という意思を返す。菫が接触を果たした少年(の姿をした、おそらくただの少年ではない)によって閉じ込められはしたものの、それ以外は行動に何ら支障はなかった。炎龍の出現の影響で温度は上がっているが、魔法薬の効果で耐えられている。
「状況を確認しよう。私達のおおよその場所は伝えてあるのだな?」
「閉じ込められる前に、ギリギリでね。それからは電波も、テレパシーまで繋がらなくなったわ。どういう力が働いているのか、想像もつかない」
 大佐の問いに、シルフィスティがため息をついて答える。一行の居る空間はどうやら、端末の電波や通信系のスキルを封じてしまう何かが作用しているようだった。後は、菫が置いていった召喚獣もおそらくは、効果が消える前に契約者たちに危機を知らせることが出来たかもしれない。
「なるほど。つまり、ここで大人しくしていれば誰かが助けに来てくれる可能性はゼロではない、という所か。
 ……いや、契約者にはお人好しが多い。情報を知っていれば、可能性はかなり高いと見ていいか」
 そう口にするも、大佐に『何もせず、じっと助けを待つ』素振りは見られない。それは他の者たちも同じであった。
「とりあえず、塞がれた道を確認してみたけど、ダメね。なんかよく分かんないけど、ビクともしない。ちょっと離れた壁は崩せるし掘れるみたいなのが気に入らないわね。こうなったら絶対、閉じ込めたアイツをとっちめてやるんだからっ」
 パビェーダと、少年が塞いだ道の確認をしてきた菫が「絶対泣かす!」と決意を露わにする後ろで、パビェーダはもし万が一の時のためにと、自分がどんな人物に会いどんな話をしたかを身体の一部分にメモしておく。こうすればたとえ、自分の身に何かあったとしてもここで得た情報を伝えることは出来るはずだ。……もっともあの少年のこと、自分から契約者の前に出てきてホイホイ話すかもしれないが。
「わしらで手分けして探したが、他に通れそうな道はないな。こうなったら掘るしかないか? 直ぐ横の壁は崩せるようだしな」
「またそんな無茶なことを……脱出する前にこちらが力尽きてしまうぞ?」
 周囲の調査を終えて戻って来た甚五郎の案に、羽純が呆れた調子で返す。けれども実際、菫とリカイン、大佐も「他に手段がないなら仕方ない」といった様子で、壁を崩し掘る準備を整えようとしていた。
「掘るんですか? うーん、それなら無理しないように、休み休みいきましょう! 水も携帯食も用意してます、必要な時は言ってくださいね」
「ここで皆倒れては、勇敢な行動とならなくなってしまいますからね。少しでも可能性の高い方法にかけるのも一つの術でしょう」
 そしてホリイとブリジットも、特に壁を掘ることに反対意見は出さない。
「……やれやれ。涼でも取ろうと思っでおったのだがな」
 流石に一人だけ休んでいるわけにはいかないと、羽純も協力を約束する。
(無理を承知でここまで来た、だから誰かに迷惑をかけるつもりはない。結果としてそうなったとしても、せめてそれまでに自分で出来ることはやり切っておきたい。多少の犠牲は、覚悟しているわ)
 リカインの決意を感じ取った様子で、シルフィスティもミスノも、これから始まるであろう事に全力を費やす決意を表情に浮かべる。
「……では、壁を掘る、という意見でいいな? ま、こっちから掘っていけば救助も楽になるだろう。
 謎の力が働いているようだが、そうでない箇所もある。そこを狙っていけば無駄な苦労は避けられるはずだ」
 両手にありったけの爆薬を持った大佐が、その一つを壁の隙間にねじ込み、術で無理矢理爆破させる。激しい衝撃と粉塵が舞い、晴れた先の壁は埋め込んだ爆薬の量にしては大きく崩れていた。生物でいえば『急所』と似たような場所が、無機物の塊である壁にも存在しているようであった。
「さて……始めるとするか」
 その声をきっかけとして、各人が各々行動を開始する――。


「わお。入り口が埋まっちゃったわ」
 緊急事態の発生(後にそれが、『炎龍』の出現と判明した)から今まで、随時更新されていく状況のデータに目を通していたグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が、感情のこもっていない言葉を呟き、地図データを応急的に更新する。先程の震動で周囲の地形も変化があったようである。迂闊にここにあるデータ通りに進めば、最悪溶岩の海にダイブなんて事にもなりかねない。
「グラルダ、これを」
 同じく搭乗していたシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)が、術式で可視化されたデータをグラルダに『投げて』寄越す。
(判断が必要、というわけね)
 流れてくる情報を選別・処理していたシィシャが自分にデータを回すということは、自分の判断が求められる情報であるという事。その事を念頭に置きながら内容に目を通せば、ため息を吐きたくなる(というか実際に吐いた)ものだった。
「……自業自得ね」
 一言、グラルダが呟く。内容は『生身で下層に降りた契約者が消息を絶っている。ある場所に閉じ込められた模様』というものだった。既に下層では『炎龍』が出現している。仲間のイコンも状況を把握次第、そちらへの対処に向かっている。本来なら自分も炎龍への対処に当たるべきだった。
「場所は?」
 しかしグラルダは、本来の目的とは異なる言葉を吐く。
「周囲情報をリクエストしておきました、座標データ来ます」
 シィシャが再び寄越したデータを一読する。多少の距離はあるが同じ階層、イコンの速度ならば短時間で辿り着けよう。
『アタシ、トイレ行ってくる。あと頼んだ』
 それだけを他のイコン仲間に言い残し、そしてグラルダの乗るアカシャ・アカシュは炎龍の出現した方角とは逆へと飛び出す。
 そう、それは契約者を救出する為。

「防御術式に使用中の魔力を、一部推進に回します」
 シィシャが周囲をひと撫ですれば、コンソールが呼び出される。出力系の調整を行い、コンソールを消してシィシャは一瞬の思考に耽る。
 ――自分の判断は、グラルダの思考と一致した。だが、それは行動を先読みし助勢しただけであり、思考自体が読めた訳ではない。グラルダは何を考えているのか――。

「アタシ、無駄にリスクを背負い込む人間は嫌いなの」

 シィシャの無言の視線に、グラルダが視線を合わせず答える。
「でもね、人と違った事をするヴァカは好きよ。そのヴァカのツラを拝みに行くの、いい?」
 再び、シィシャが一瞬の思考に耽る。グラルダの言葉の意味を理解しようとして、しかし理解できない。
「はい」
 とりあえず返事だけを返し、周囲の情報に意識を振り向ける。と、後方から一機のイコンが、こちらの速度をかなり上回る速度で飛来したかと思うと、コンタクトを求めてきたのでグラルダに投げる。
『……何? まさかとは思うけどあんた達も、自業自得な契約者を助けに来たって訳?』
『ちょっと! そんな言い方ってないんじゃない!?』
『お、落ち着いてください美羽さんっ。すみません、私達も閉じ込められた人達を助けに来ました。
 もし場所とか分かっている情報があれば、教えていただければ――』
『そんなの必要ないっ! 私のネトゲで鍛えたカンが、こっちだって告げているっ!』
 そこで、相手からの通信が途絶える。シィシャがモニターの映像を目の前に持ってくれば、金色に輝くイコンとドラゴンに乗った少年の姿をした契約者が速度を上げ飛び去っていった。経路予測を立ててみれば何と、自分達が向かっている場所とほぼ一致する。
「……何なのよ、一体」
 グラルダの呟きが聞こえた、シィシャはほぼ反射的に、出力系のコンソールを再び呼び出していた。
「速度を出せるだけ出して頂戴。アタシが行った時に終わってたら、来た意味ないじゃない」
「はい」
 聞こえてきた指示を実行すると、機体の速度が上がる。今のは思考を読んだのだろうか、先行したイコンを検索しながらそんな事を思う。

「ここだよ! この奥に、閉じ込められた人達がいるっ!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が示したポイントを中心に、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がセンサーを起動させれば、内側からしきりに壁を叩くような、削るような音が聞こえてくる。
『多分、内側からも壁を掘っているんだと思う。ということはまだ中の人は無事だってことだね』
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の言葉に、ベアトリーチェも美羽も同意する。閉じ込められた人全員が無事かどうかはこの時点では分からないが、とりあえず一部の人は元気で、自らこの窮地を切り開こうと努力をしているようだった。
「その頑張りを、無駄にはさせない! ダブルビームサーベル、展開っ!」
 グラディウスの両手に装備したサーベルに、エネルギーが注がれる。煌々と輝くサーベルで壁を突けば、壁が崩れ欠片が膨大な熱量を与えられて蒸発する。
「掘る場所を考えないと瓦礫の処理に困ったり、崩れてくるかもしれませんよ。気をつけてください」
「大丈夫! その辺も私のカンでなんとかなるよ!」
 自信満々に宣言する美羽。ビームサーベルの出力制御は美羽が、イコンの姿勢制御はベアトリーチェが主導で行い、『グラディウス』はビームサーベルの絶妙な出力加減と突く位置によって穴を広げ、掘り進めていく。
『ちょっと待って。……うん、音が変わった。もうかなり壁が薄くなってるはず、ここからは慎重に掘り進めて』
 向こうにいる人を傷付けては元も子もないと、コハクの指示で慎重な作業を心がける。そしてついに、繰り出したサーベルが壁を貫通し、穴が繋がったことが証明される。
「繋がった! 後は通れるだけの穴を広げて……完成っ!」
 一時的にイコンの操作をベアトリーチェに任せ、美羽はコハクと共に救出された契約者たちの元へ向かう。
「みんな、大丈夫!?」
 美羽の呼びかけに、粉塵で汚れた姿を見せつつも皆、頷きを返す。
「良かったら、どうしてこんなことになったのか、教えてほしいんだけど」
「それはあたしから説明するわ。経緯はね……」
 閉じ込められた者の一人、菫から話を聞いた美羽とコハクは、彼らを閉じ込めたのが少年(の身なりをした謎の人物)であること、その少年が炎龍の出現に関わっていそうなこと、少年と同じような存在がもう一人いること、自分の存在が明るみになるとマズイから閉じ込めたのだということを知る。
「なんかね、あたしたちに炎龍を鎮めてほしい感じだった。どうしてそうしてほしいのかは全然分かんないけど」
 菫の推測を含んだ言葉に、美羽もコハクも答えは出ない。でも、そうして欲しいというのなら、その通りにすれば理由を教えてくれるかもしれない。
「みんなで、炎龍の所に行こう! 行って、どうしてこんなことをしたのか、教えてもらおう!」
 そう言い、美羽が自分のイコンで助け出した人たちを連れて行こうとする……が、流石に人数が多く全員は乗せられそうになかった。
「炎龍行きの特急便なら、もう一機あるわよ。今なら特別タダにしておいてあげるわ」
 その時、一行に追いついたグラルダが降り立ち、後ろの自機を指して告げる。
「ああっ、さっきの失礼な人!」
「失礼なのはそっちじゃない。アタシは事実を口にしたまでよ」
「なによーっ!」
「お、落ち着いて美羽っ」
 危うく飛び蹴りをかましそうになる美羽をコハクがとりなす横で、閉じ込められていた者たちに歩み寄ったグラルダは一瞥し、言葉を発する。
「そこに明確な意志があれば、貫くだけの気概があれば、自分の力で、自分の身体で、何をするも本人の自由。
 ……でもね、死んだら終わりよ」
 そう言って背を向け、グラルダは自機へと引き返す。シィシャの誘導でコクピットに戻ったグラルダは、冷却機構が強くかけられていることに少しの心地よさを得る。
「……とっとと終わらせて、帰りましょ」
「はい」

 ……そして、救出した契約者を乗せた2機のイコンは、急ぎ『炎龍』の元へと向かう。
 この地で起きたこと、そこに潜む背景を明らかにするために――。