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リアクション
上空でイコン部隊が戦闘を繰り広げている、地上でも『炎龍レンファス』への道を切り拓かんと、契約者たちが奮闘していた。上空の戦闘が魔物との戦いなら、こちらはある意味自然の脅威との戦いである。周囲からは溶岩が絶えず噴出し、前方高々とそびえる炎龍からは獄炎の熱波が吹き付ける。
(今のレンファスは力を無造作に振るう、暴力の根源に等しい。鎮めるには直接、内部に力を注ぐ他ないか)
吹き付ける熱波を食い止めるサラが、レンファスを鎮める一つの策を脳裏に描き、共に戦う契約者に呼びかける。
「皆、まずは外壁を打ち破ることに専念してくれ! 内部に続く穴を穿ち、そこへ皆の力を、意思を送れば、必ず炎龍は応えてくれる!」
その言葉を受け、契約者たちは活火山を思わせる『炎龍レンファス』に楔を打ち込むべく、行動を開始する――。
(お約束は踏襲されたようじゃな。出て来ぬでは詐欺もいい所だの。
……しかし、何とも厄介。正気でなく操られておるとは、龍としての威厳はどうした、炎龍レンファス)
サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)の鋭く細められた眼光は、炎龍レンファスをこのようにした『黒幕』を探り当てんとしてた。しかし巧妙に隠れているのか、それともその場には存在していないのか見つけることは出来ず、代わりに咆哮と衝撃波の洗礼を浴びる。
「お姉様!」
衝撃波がサティナに届く直前、後方からセリシアが蔦で出来た鞭を振るえば、そこから凝縮された風が飛び、衝撃波と打ち消し合って消える。
「おぉ、助かったぞ、セリシア」
「サティナさん、危ないですから一旦戻って来てくださいですー」
『姉』を守れたことに安堵の微笑みを浮かべるセリシア、そしてその横に立つ土方 伊織(ひじかた・いおり)の呼びかけに応え、サティナが退く。
「炎龍さん、大暴れなのですよっ」
「そうですね……サラさんは『外壁を穿て』と言いましたが、近付くだけでも大変ですね。
でも、あまりのんびりしていても、カヤノさんの負担が――」
セリシアが前線で戦うカヤノの心配をした所で、そのカヤノから救援を求める連絡が飛んでくる。
『誰か、水出せる人いる!? いたらあたしにぶつけて! そろそろ切れそうなのっ』
どうやら氷を出すにも、『元』となる水は僅かながら必要らしい(後は魔力でどうにかなるとか)。この地には極端に水が少ないためカヤノは自前で補うしかなく、それが枯渇しそうだとのことであった。
「伊織さん、調査の時に出してくれた水、届けられますか?」
「えっと、思い切りぶつけちゃってもいいんですか?」
『構わないわ! あたしは氷結の精霊長よ、水ならなんでも――いったーい!!」
カヤノの背中に、飛んできた矢状の水が突き刺さる。光輝属性を含んでいるため、そうなったらしい。
「うぅ、セイランの矢を打ち込まれた気分だわ。……でも補給は出来たわ、ありがと!」
感謝を口にして、カヤノが再び戦場へ戻っていく。
「カヤノさんの援護も、って思ってましたけど、こんな形で援護することになるとは思わなかったですよ」
呟きつつ、ともかく援護が出来たことに伊織が笑みを漏らす。
(ほんとにどーしよーもなくなったら、サティナさんと『封印の神子』の力を使うこともしなくちゃいけないかもです。
でも、こんなの保険として策の一つぐらいなのです。僕は皆さんの想いの強さで炎龍さんを正気に戻せると信じてるです。
僕たちの想いがヴァズデルさんやサティナさんの運命を変えれたよ〜に、今回だって炎龍さんの運命を変えちゃえーなのですよ)
その為に必要なことは全部やるつもりだと、伊織が決意を新たにした所で、炎龍レンファスから一際強力な炎が生じる。サラでもその全てを中和することは出来ず、余波が伊織一行へ襲い掛かる。
「お嬢様方は不肖このベディヴィエール、全力を以ってお守りいたします!」
サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が伊織たちの眼前に立ち、盾を掲げ向かってくる炎を受け止める。後ろに居た伊織たちは思わず目を逸らすが、想像したほどの熱気も衝撃も届かなかった。
「……ふぅ。なかなかのお力でございました。ですがこの程度の力に屈する私ではありません。
皆様の思い届くその時まで、倒れるわけには参りませんので」
「はわわ、べディさん煙、煙吹いてますー」
炎を受け切ったものの今にも燃え尽きそうなべディへ、慌てて伊織が消化の意味で雨を降らせ、癒しの力で回復させる。
「サラ、穴を穿てばレンファスに話しかけられるのね!?」
「ああ。内部を流れる溶岩はレンファスの一部、当然意識も共有しているはず。……だがこの炎の中では」
十六夜 泡(いざよい・うたかた)の問いに、サラが押し寄せる炎を逸らしつつ答える。一つ気を許せばたちまち、炎や溶岩の海に飲み込まれてしまいかねない状況であった。
「カヤノ! レライア! ほんの少しの間でいい、この溶岩を直線状に凍らせる事って出来る?」
一つの策を思い浮かべた泡が、レライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)とカヤノの『姉妹』に協力を願う。魔力増幅薬ならここにあるから、と瓶を目の前に並べられて、カヤノが露骨に嫌な顔をする。
「もう飲みたくないんだけど! 1本2本でも嫌なのに、あたし99本飲んだわよこれ!」
「じゃあこれで100本目ね♪ 大丈夫よ、出せば(魔力を放出すれば)まだまだ飲めるわ」
「オニ! アクマ! うぅ、レラはこんな子じゃなかったはずなのに……」
文句を言いつつカヤノも瓶を飲み干し、溶岩の海の前にレライアと立つ。溶岩が波打ち、一部は炎龍レンファスに流れ込んで吐き出されるのが見える。
「あたしと!」
「わたしで!」
「「全てを凍り付かせてみせる!」」
二人が放った魔力に沿って、溶岩の海が凍り付いていく。最も魔力を照射された部分は、炎龍レンファスへ続く一筋の道となっていた。
「氷塊、凝着!
レンファス、今から私が、話をしに行く!」
その道へ、装備した鉄甲とガントレットに氷塊を付着させた泡が爆発的な加速力を以って飛び込む。加速を続けながら氷の上を滑り、そして終着にあった上空へ伸びるカーブからテイクオフ、泡が炎龍レンファスの方向へ飛び出し、纏った氷塊を振りかぶる。
「炎龍レンファス。あなたが意味もなく暴れるとは思えない。そして、龍であるあなたが何者かに支配されて好きな様に動かされるとも思えない。
あなたは何を伝えたいの? 教えて!」
拳を振り抜き、外壁へ穴を穿ちつつ炎龍レンファスに呼びかける。何か言葉が、せめて意思のようなものが返ってくることを期待した一撃は、しかし一点に容易には回復されない穴を穿つに留まる。
「うああっ!」
内部から噴き出す蒸気の力で弾き出された泡の身体が、宙を舞う。そのまま落下することは、他の仲間たちの手によって防がれた。
「ははーん、中を血液のようにマグマが流れてて、それが冷えたのが皮膚代わりってわけか。
いやー、でもこうして見っと、なんかこう、自然を相手にしてるって感じだよなぁ」
仲間が穿った穴から流れ落ちる溶岩を見、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)がレンファスの仕組みを理解した様子で言葉を漏らす。しばらく観察を続けていると、治療を終えたレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が戻って来た。
「お、お疲れさんレイナ。どうだった?」
「はい……大した怪我ではありませんでした。ですが皆さん、精神的な疲労の色が濃い様子で……」
そう告げたレイナの表情に、影が差す。自分の癒しの力が及ばないことに、少なからず責任を感じているようだった。肉体の治療に関しては決して劣ることのない彼女だが、精神的な癒しとなると分野が違う。それはアイドルなどが得意とする分野だろう。
「あー、そりゃこんな暑さだもんな。……おおっと、だからってレイナ、前みたいなことすんなよ? またカヤノが怒りに来るぞ」
「分かっています……二度同じ過ちは繰り返しません。
……そうですね、少々理由が不純ではありますが、セシアさんに登場してもらいましょう。この空間を冷やすことは炎龍さんを落ち着かせるきっかけになるかと思いますし……」
自分自身が冷気魔法を用いることはダメでも、冷気魔法を得意とする存在に来てもらうのは大丈夫でしょう、と判断したレイナが、召喚の力を行使する。
「っと、何か喚び出すんだな。んじゃあたしは護衛に回るか」
直前に仲間を襲った炎が来ないことを祈りつつ、ウルフィオナが時たま飛んでくる岩の欠片を弾いたりしていると、レイナの召喚の準備が整う。
「セシアさん、あなたの力でこの空間を思い切り冷やしてください」
そして喚び出された、雪原を思わせるような衣服、髪をもった存在であるセシアは、右を見て左を見て、まるで子供が駄々をこねるような仕草で不満を漏らす。
「……ちょっと何よここ、暑すぎるんだけど。それに何ですって? そんな理由であたしを喚ばないでほしいわね!」
そう言うと、特に何もせずに姿を消してしまう。
「……あら? えっと……」
喚び出した当のレイナも、確かに理由が不純だったかもしれないが、まさかこれほどあっさり帰られるとは思わなくて、呆然とした顔を浮かべる。
「こういうのを、『飼い犬に手を噛まれる』って言うのか? 向こうはまあ、自分の事をペットだって思ってない素振りだったけど――」
「…………」
(あ、ヤバ)
下を向いて表情を隠すレイナ、ただウルフィオナには「きっと泣いてるんだろうな」というのが分かっていた。
「あー、なんだ、誰だって失敗の一つや二つ、するもんだろ?
まだまだレイナには出来る事がいっぱいある、それを一つずつこなしていけばいい」
ぽふぽふ、と頭を撫でてやりながら、これがもしノワールなら「この私の喚び出しを無視するなんて……いい度胸だわ」と怒りを募らせた後、「……まぁいいわ、次行きましょう」と気持ちを切り替えてしまえるんだろうな、と思う。
(……あたしは何を考えてるんだ? 今はレイナのことだろ)
ぶんぶん、と頭を振って考えを切り替え、そして暫くの間、静かに泣くレイナを慰めるのであった。
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