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リアクション
無尽蔵に力を振るう『炎龍レンファス』に、契約者はなかなか近付くことが出来ずにいた。
「……さて、蜥蜴と違って遊んでいられる相手でもないようです」
強大な存在を前に、いつの間にか幼女の姿ではなく元の姿に戻っていた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が淡々と呟く。
「この炎の魔力……流石に速攻で片付ける相手ではなさそうですわね」
『きゃはは。ラズンは変わらず纏われとくよー』
アルコリアの一歩後ろにナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が立ち、ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は対炎モード攻撃強化型魔鎧としてアルコリアに纏われる。
「アル、変わり身早いな……というか、その剣は……。
いいか三人共、『鎮め』にいくんだぞ、分かっているのか?」
その、明らかに『殺る気』を滾らせた(特にアルコリアとラズン)者たちへ、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が釘を刺さんと言葉をかける。
「んー、『私はそこまで強くない』でいい?」
「……そうだと思うなら、せいぜいあの首を落として胴体に開いた穴を修復不能なまでに広げる程度に留めてくれ。
アルがどう思っていようがボクは関与しない。ボクは『生き残る為』に守るが」
最後の方は自分でもよく分からない言葉を送ったシーマへ、アルコリアが分かったか分からないか判別の付かない態度を見せ、剣を抜き呼び寄せた馬へ跨る。
「氷結と龍殺し、どちらが通り易いか……小手調べです」
両手に装備した剣の、片方に氷の力を付与させ、もう片方はそのまま、アルコリアは飛んできた獄炎の影響をものともせず首元へ飛び込むと、まず一刀で首を打ち、さらに一刀でもう一度打つ。後方からは箒の操縦をまるで自動であるかのように行いつつ、ナコトが魔杖から蒼く輝く雷光を胴体に開いた穴目掛けて叩き込む。アルコリアの攻撃は結果として、炎龍の首を三つに切り分けるものになる。コマ送りするとようやく、氷結属性を付与した方が切れ味が良いことが分かるが、もはやアルコリアほどの実力者になると、傍目には大差ない。
だが、炎龍とてこの攻撃だけで沈黙するつもりはなかった。落とされた首が溶岩の海に落ちる、そして新たな首が溶岩によって形作られ、翔けるアルコリアを焼きつくさんと口を開け、炎を吐き出しかける。
「炎龍レンファス! お前の相手は此方だっ」
直後、シーマの投擲した槍が首に突き刺さり、炎龍の注意がシーマへ向く。刺さった槍に構わず炎を吐きかけ、首が爆砕して辺りに溶岩と欠片を撒き散らす。
「ぐっ……! 全方位が対象では、空振りを誘うも無理な話だな」
飛んできた溶岩、そして浴びせられる炎にシーマもアルコリアも相応の損害を負うが、ナコトの癒しの力により回復する。
『きゃはは、シーマ。暇だからからかってやる』
態勢を立て直した所で、ラズンから声が飛んでくる。何が暇だ、と思いながらシーマが相手をする。
『オマエは、生かしてやる事が出来るほど自分が高等と思っているのかい?』
「…………。
ボクが高等かどうかと、生かす事がどう関係している? ボクにはそれが分からない」
シーマの問いに、ラズンは答えること無く自分の言葉を続ける。
『オマエは生き残る為に守るのだろうが、ラズン達は最後まで攻撃を続ける為に守るのだ。
ああ、勘違いするな。オマエやそれに類するヤツラを否定してるわけではない』
無言のシーマへさらに言葉を発する。
『想いや絆があれば勝てる、それが真理なら『我々がやらなくても誰かがやってくれる世界だ』。
そうでなかった場合の為に我々が居る。そうでなかった場合にオマエが居るんだ』
この言葉の意味は、シーマも理解は出来た。決して空想上の話ではなく、『想い』や『絆』という確かでないもので勝利することはこの世界ではままある。むしろ想いや絆があっても勝てない、どうにもならない事態の方が珍しい、というかない。……いや、あったかもしれないがその時はアル達のような存在が勝利を引き寄せたのか? などとシーマは思う。
そして、そこまで理解はしつつも、この場面でどういう言葉を口にすればいいのかは、分からなかった。
『分からない? ラズンはラズンでシーマはシーマだ、だからそれでいいんだ』
答えないのを分からないと取ったラズンが、そう言って話を締めくくる。なおも言葉を考えていたシーマは、それが果たして適切であるかどうか分からない言葉を口にする。
「お前はアルと違うな。アルは言わない、だがお前は言う」
『……そうだね。そうかもしれない』
下層部で戦闘を繰り広げている間、上層部では変化が生じていた。別ルートから救助に向かっていた者たちの努力が報われ、ついに内部と道が繋がったのだ。
外への脱出を援護する者、出来た道を再び崩されないよう守る者が存在する中、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)とそのパートナーたちは生徒たちの援護に、下層部へ降りていった。
「洞窟の方はそれほど慌てなくて良い。何故なら、ありゃ恐らく『試している』からだ。
考えてもみろ、都合よく入り口が塞がって、調査隊の前でタイミング良く龍が復活。その龍は洞窟を崩したりブチ抜いて外へ出るでもなく、律儀に目の前の人間を狙っている。調査隊は数も多くなく、重要人物がいたわけでもないし、龍に先制攻撃をしたわけでもないからな。何かの意図が働いているのは間違いない。
故に、こっちの力を引き出す攻撃が主で、一撃必殺は少ないと見た。……むしろ、洞窟の方に気を取られて世界樹の方で足元をすくわれぬよう、気をつけることだ」
ここに来る前にかけられた、司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)の言葉を思い出しながら到着したアルツールが、状況を確認すれば確かに、炎龍の行動に卑怯な一撃必殺の攻撃は見られなかった。
(……普通の攻撃がそもそも一撃必殺クラスではあるがな)
あの浴びせられる炎を何の対策もなく浴びれば、おそらく骨の芯すら残らないだろう。
「どんなデカブツでも、ファーブニルの様に急所を突かれれば死ぬ。……と言いたいが、あの溶岩の身体じゃあ、それも難しいか。
僕の意見は、確実にダメージを与えられる状況でもない限り、ガードに徹する、かな」
「そうね。世界樹の地下にいる相手は、向かった生徒が皆軽傷だったことから悪意ある者ではない。その仲間と思わしきこちらの人物も、恐らくは。
ただこのように炎龍なんてものを持ち出してくるあたり、覚悟と今やっている事に対する決意は相当なもののはず。生易しい説得より、相手の望む結果を示してやらないとどうにもなりそうにないわよ」
炎龍を目の当たりにしたシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)、エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)がそれぞれ意見を口にする。
「当面の方針はシグルズ様の言う通り、手堅い方法で攻めるしかあるまい。今聞いた話では、炎龍に関係するアイテムを持った生徒がすぐそこまで来ているそうだ。
転機はそのアイテムが揃ってからになるだろう。……問題は、これらの変化を感じ取った『何者か』が余計なことをしないか、だが」
いくら向こうに本気でこちらを相手にする気がないとはいえ、二度も三度も『試されては』たまらない。なるべくならそういった変化が生じる前に、一度で決着を付けたい。
「なら、僕らは何も知らなかったように戦うのが得策じゃないかな」
「わしもその意見だな。こちらの予想の範囲内で動いている限り、脅威にはならん」
シグルズの意見に仲達、エヴァが賛同する。
「じゃあ、僕が前衛に立つ。攻撃を後ろに通さないため、『本気を出させて』もらうよ」
盾と剣を構えたシグルズが、降り注ぐ炎を受け止め、飛んできた岩石を斬撃で切り払って退ける。シグルズの消耗はエヴァが回復させ、仲達は手にした銃で炎龍の撹乱を狙う。
「……どうやらあの穴は、今後の策に用いるため開けてあると見た。ならばその穴を回復されないよう……!」
詠唱を完了したアルツールの、氷の嵐が開いた穴付近で生じる。冷やされ溶岩の動きが固くなったその部分にさらに喚び出した召喚獣が冷気を浴びせ、完全に凍り付いた溶岩は剥がれ落ちるように砕けていった。
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