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リアクション
●『煉獄の牢』中層部:中層A
「博季!」
かけられた声に、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が顔を上げる。外との入り口が繋がった事で入ることが出来た天ヶ石 藍子(あまがせき・らんこ)の姿がそこにあった。
「藍子さん――っ!」
立ち上がろうとして、負った傷の痛みに博季が顔をしかめる。
「博季……怪我してるのね。その怪我でも、あの子の所に行くのね。
愛する人を護るために。自らの理念を貫き通すために」
この地に呼ばれた時に既に、藍子は博季の状態と彼が心に秘めているものを何となくではあるが理解していた。
――理想を実現させるのは、いつも僕自身だ。僕自身にしか僕の理想は実現できないから。
これは『意地』なんだと思う。だったら……意地を貫くのは、僕自身じゃなきゃいけないから。
僕の手で、リンネさんを護って……護り抜いて見せるよ。僕の一番大切な人だから。僕を愛してくれる人だから。
それに何より……僕が愛する人だから――。
痛みを耐え、強い意志を秘めた瞳を向けてくる博季へ、藍子は言葉を紡いで応える。
「良いわ。私の力を使いなさい。それでこそ『騎士』。私が認めた騎士。魔術を用いて騎士道を貫く『魔術士』。理念と理想に生きる高潔なる魔術士。
貫きなさい、貴方の正義を。貫きなさい、貴方の理想を。貴方の『意地』を。
私は……貴方の力になるわ」
そう告げた藍子の姿が解けながら、博季に寄り添う。一瞬の時を経て、博季の身体に純白の法衣と蒼い胸当てが装着される。
『どうかしら? 多少は怪我の具合も良くなったかしら』
「ええ、これなら行けます。僕のやることはただ一つ、リンネさんと僕の望む結果を、掴み取ることです……!」
同じ頃、治癒に専念していたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)も普通に動けるまでには回復を果たしていた。
(待ってて、フィル君……! 今の私がどれだけ力になれるか分からない、けど、このまま黙って見てるなんて私には出来ない……!)
別れ際にフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)から渡された指輪を握り締め、追うための準備を整える。
「……あんまりやりたくないけど、緊急事態、フリッカのためなら奥の手、いっちゃうよ!」
「! 奥の手とはまさか、レスリー――」
グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)の声に構わず、スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)が『奥の手』、自身が有する知識の全てを活用するいわば『真の状態』へと変化する。
「……マスターの負傷、及び強力な敵性存在を確認。
エマージェンシーモード発動。コード、プロテクション」
スクリプトの瞳から光が消え、代わりに無数の文字のような羅列が走る。まるで機械のような振る舞いを見せるスクリプトの、『プロテクション』という言葉を耳にしてグリューエントが安堵の息をつく。もしこれが『エリミネート』と聞こえたなら、大変なことになっていただろう。
(レスリー、お前がそれほどフリッカのことを思い、それだけの覚悟を見せているのだ。
二度の不覚は、取らん。次こそはフリッカを守り抜いてみせる)
スクリプトの見せた決意に触発され、グリューエントも決意を新たに、フレデリカの魔鎧として装着される。今この瞬間に限り、怪我の影響はほぼ払拭されていた。
「炎龍が本格的に覚醒を果たしたようですが、一人一人が力を合わせればきっと炎龍にも通じるはずです。
行きましょう、まずはフィリップ君とリンネさんと合流を!」
ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)の声に皆頷き、駆け出す――。
「早くしないと、みんなから遅れるんだな! 急ぐんだな!」
前方を走るモップス・ベアー(もっぷす・べあー)が、後ろを行く赤城 花音(あかぎ・かのん)にハッパをかける。彼女が遅れがちになっているのは、彼女が自らの目的の成就のため、作詞活動に入り込んでいるからであった。
「えー……すみません、ですがどうか分かってあげてください。
こちらをお貸しします、携帯とリンクさせれば、リンネさんの位置把握に役立つと思います」
申し訳なさそうな顔のリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)から端末を受け取り、モップスが携帯と繋げる。先に申 公豹(しん・こうひょう)が集めておいた地図情報が登録された端末に、リンネの居場所が表示された。
「何となく、こっちに向かってる感じなんだな」
「点が動いてるってことは、怪我して動けなくなってるってわけじゃなさそうね。それは心配してたけど、良かったわ。
それと、リンネちゃんフィリップ君と合流したら私達、別行動を取らせてほしいんだけど……」
ウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)の言葉に、モップスはため息をついて(彼女たちの行動を責めているわけではなく、単なる癖)答える。
「キミたちがしようとしていることに、ボクが口を挟める余地は無さそうなんだな。好きにするといいんだな。
でも、無事に帰ってきてほしいんだな」
「それは約束しましょう。せっかく入り口が開けて、むざむざ閉じ込められる事態は避けなければなりませんから」
『皆で揃って無事に帰る』を約束するパートナー一行、そして彼らに護られる形で花音が、何かを呟きながら歌詞を考えていた。
やがて程なく、博季とフレデリカ、花音たち一行はリンネとフィリップ、西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)とコード・エクイテス(こーど・えくいてす)と合流を果たす。調査の時に襲って来た漆黒の獣を警戒しての行動だったが、幸運なのかどうか判断はつかないものの襲撃はなく、その他の争い事にも巻き込まれず、無事に辿り着くことが出来た。
「博季くん、大丈夫? 無理してない?」
「僕は大丈夫です、さあ、炎龍の元へ向かいましょう。
『サークル炎塊』が、きっと僕達に力を貸してくれます」
心配するリンネへ、博季が精一杯の笑顔を向けて答える。一方フィリップはというと、何やら思い詰めた顔を浮かべていた。
「……あまり、気にし過ぎないで。それでも気になるのなら……フリッカを支えてあげてください」
「あっ……は、はい!」
傍に寄ったルイーザが告げれば、フィリップの表情も明るさを取り戻す。
「よーし、それじゃ急いで炎龍レンファスの所へ行こう!」
ここで別行動を取ることになっていた花音と別れ、リンネ一行は下層部への道を行く。
「さてと、私達は『チーム花音』の公演に相応しい場所を見つけないと。
花音の歌……『アヴァロン』を完成させるため、頑張るわよ!」
花音を中心とする一行は別ルートで、やはり下層部への道を進む――。
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