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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

リアクション

 ――『炎龍レンファス』、出現――。
 【下層A】にて『サークル炎塊』を見つけ、地上で補給を行い再び『煉獄の牢』へ戻って来た直後、その事態に直面したキャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)は、{ICN0004822#アウクトール・ジェイセル}で下層部へ急行する道すがら、状況の把握に努める。
「各地で崩落が発生、上層部の入り口が封鎖されてるみたい。地上から別ルートで、数名が救出に向かってるって」
『下層部でも崩落により、数名の契約者が閉じ込められたそうよ。そちらにはイコンが二機、向かってる』
 回線をそれぞれ開き、くまなく情報を精査していく中で二人は、ある重大な事実に気付く。それまで管制を担っていたイコン『ブラックバード』との通信が途絶えてしまったのだ。
「救難信号は出ていない……補給のタイミングで分断されたのかな」
『分からない……でも、このままでは出現した炎龍やマグマフィーチャーに各個撃破される。機能は及ばないけれど、アウクトールで管制を引継ぐ』
「うん、非常事態だもの、仕方ないね。出来る限りベストを尽くそう!」
 決意を固めた二人、そして『アウクトール』は、管制としての役割を果たすべく行動を開始する。
(エネルギー残量は十分……でも、普段より予想稼働時間がかなり短い。炎龍の出現で、環境がより過酷になっている?)
 計器の一つを確認したキャロラインが原因を想像しつつ、行動計画を練る。
 上層部の崩落した入り口の件は、別ルートで向かっている者たちに任せる。下層部での救出も同じ。となれば後は、目の前にそびえ立つ火山の如き『炎龍レンファス』、その周りを飛来する『マグマフィーチャー』への対処と、自分たちが上層部へ脱出するためのルート把握。
「炎龍とマグマフィーチャーの対応、やれる? あたしはここから脱出するためのルートをスキャンしてみる」
『やれる? ではないわ。やるしかないのよ、今はね。
 基本はジェイセル形態で砲撃による側面支援、エネルギー残量が4割を切った所でブラキウム形態へ移行するわ。それまでにメドを付けたい所ね』
 機体の操縦、攻撃等一連の行動に必要な制御系の管理をトーマスに一任し、キャロラインは得られた情報から脱出ルートの選定を始める。いくつか細い道が示されるが、生身の契約者ならともかくイコンでは移動が厳しい。そして、最終的に導き出された経路は一言で言うならば『押し通れ』。
(アレを相手しないと、脱出は難しいか……)
 モニターいっぱいに映る巨体、炎龍。流れてきた情報によれば、炎龍出現のきっかけを作った『サークル炎塊』は中層部でもいくつか見つかっており、今それを持つ者たちがこちらへ向かっているという。彼らが到着すればあるいは、この状況を打破することが出来るかもしれない。
「まずは、その人達が到着するまでこの場を持たせることを考えよう。あたしは他の機体に情報と、今の方針を伝えてみる。
 ジェニファーは引き続き、対処をお願い」
『了解』
 短く返事を返してきたトーマスに機体のことは任せ、キャロラインは調査の際行動を共にしていた機体とコンタクトを図る。内部内では通信に特に支障はなく、これまで下層部で行動をしてきたイコンと連絡を繋ぐことが出来た。
「今、ジェニファーとあたしの機体が管制役を代行してる。ここから脱出するためにはどうしても、『アレ』と戦わなくちゃいけないみたい。
 後方支援と、もちろん管制も担当する。みんなは『サークル炎塊』を持った人が来るまで、持ちこたえて頂戴!」
 了解の意思を聞き届け、通信を終了した所へ、一体のマグマフィーチャーがこちらを標的に定め、向かってくる。
『こちらだと間に合わない。対処、お願い』
「任されたよ!」
 大型のビームキャノンを引き継いだキャロラインが、狙撃者のように両手で構え、向かってくるマグマフィーチャーに向けて引き金を引く。光線は見事マグマフィーチャーの眉間を貫き、マグマフィーチャーは岩の欠片となって溶岩へ落ちていった――。


(そうだ、これは彼を殺すための戦いではない、鎮めるための戦いだ。通信でも言っていた、『サークル炎塊』を持つ者がこちらに向かっていると。
 ならば今私に出来ることは、彼らのために炎龍への道を切り開くことだ。きっと彼らも私と同じように、炎龍を鎮めるためにサークル炎塊の力を使おうとしているのだろうから)
 {ICN0004496#ソーサルナイト?}のモニターが捉えた、活火山を思わせる風貌の『炎龍レンファス』、そしてその周りを飛び交うマグマフィーチャーを見つめ、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が自らの為すべきことを定めると、瞳を閉じて心を落ち着かせ、『ソーサルナイト?』と一体化するイメージを思い描く。『サークル炎塊』の位置を探り当てた時に得られた感覚、それを再現することが出来ればマグマフィーチャーとの戦いにおいても優位に立てるはずだ――。
『おにいちゃん、前から来るっ!』
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の警告が届き、次いで一体のマグマフィーチャーが炎を滾らせ、突撃してくるのを感じ取る。機体を回避させる方向に意識するも、ほんの少しだけ挙動が遅れた『ソーサルナイト?』の左腕に装備していたシールドにマグマフィーチャーが触れ、大きな衝撃が機体を揺らす。自らの身体を用いた突撃は、シールドを一回で使い物にならなくさせる威力があった。
(まだだ、まだ意識が足りない……!
 応えてくれ、ソーサルナイト?。私たちの絆の力で、猛き炎の龍の目を覚まさせてやるんだ!)
 四肢を『ソーサルナイト?』の各部にリンクさせ、見るもの感じるものの全てを一体化させる――。再びマグマフィーチャーが突撃を見舞うも、今度はその挙動を完全に見切り、適切な動作で回避を行う。
(弱点は額……一撃で仕留める!)
 反転し、三度目の突撃を仕掛けようとするマグマフィーチャーの額に照準が合わされ、『ソーサルナイト?』から魔法の弾が発射される。咆哮をあげたマグマフィーチャーの額にそれが突き刺さり、『ソーサルナイト?』の眼前でマグマフィーチャーを無数の岩の欠片に帰す。
『すごい、おにいちゃん! 今のまるで、おにいちゃんが戦ってるみたいだった!』
 クレアからの賞賛を、涼介は達成感をもって受け入れつつも喚起を促す。
「ああ、これならば優位に戦える。後は油断をしないように、仲間が来るまで戦い抜こう」
『うん! 炎龍が出た時は圧倒されかけたけど……今なら大丈夫。
 おにいちゃんもいる、ソーサルナイト?もいる!』
「そうだな。……よし、行くぞ、ソーサルナイト?」
 涼介の声に『ソーサルナイト?』がマグマフィーチャーをさらに一体、無力化することで応える――。


 攻撃を終えた羽根を収納し、流れる汗を拭ったカヤノの眼前に、新たな敵影が数体出現する。
「あんたたち、ちょっとは休みなさいよ! あたしだってずっと戦ってたら、バテるわ!」
 叫びも虚しく、咆哮をあげながらマグマフィーチャーが溶岩を吐きながら突撃してくる。ひとまず溶岩を回避して迎撃体制を取ったカヤノを追い抜き、セタレがすれ違いざま、装備した氷の角で額を突き刺すように斬り付け、マグマフィーチャーに大損害を与える。
『カヤノさん、大丈夫ですか!』
 搭乗する遠野 歌菜(とおの・かな)の声を聞いたカヤノが、険しかった表情を笑顔に変えて答える。
「ありがと、助かったわ! ……あっ、ちょっと待って」
 カヤノが『セタレ』へ近付くと、先程の攻撃で損傷した氷の角に触れる。氷の力を付与された角は、先程より一回り大きくなっていた。
「これでまた使えるようになったわよ!」
『ありがとうございます!』
 礼を言い、『セタレ』が別のマグマフィーチャーの迎撃に向かう。それを見送り、カヤノがん、と伸びをする。
「いい気分転換になったわ。……それじゃ、もうひと頑張りしてあげるわよ!」
 取り囲みかけていたマグマフィーチャーは、展開された羽根から発された氷塊の直撃を浴びて散らされる――。

「歌菜、分かってるとは思うが、今炎龍の元に『サークル炎塊』を持った者たちが向かっている。彼らの持つサークル炎塊は、炎龍を鎮める鍵になるはずだと精霊長も言っていた。彼らの到着までにマグマフィーチャーの数を減らし、彼らの行動を手助けするぞ」
 周囲の仲間や、カヤノ、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)との通信の結果、当面の自分たちの目的を定めた月崎 羽純(つきざき・はすみ)の方針に、歌菜が力強く頷く。ただ無闇に力を振るうのではなく、目的と意思を持たせた力を行使する。それがきっと、今は見境なく暴れている炎龍やマグマフィーチャーを、鎮めるきっかけになると信じて。
「みんな、疲れているだろうけど、頑張って!」
 歌菜の歌う歌の力が『セタレ』によって増幅・変換され、他のイコンの装甲回復とエネルギー回復として届けられる。一度は統制の問題もあって押されつつあったイコン部隊は、ここにきて統制が復活してきたこともあって五分五分の戦いに持ち直していた。