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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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 校長室でアーデルハイトの要約を聞いた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)が、自身がイルミンスール周辺を回って見てきたものと合わせて考えを深め、パートナーたちに伝える。
「俺達もこの目で確かめたように、世界樹自体に問題はなかった。むしろ、イナテミスに比べたら全く正常だと言えるんじゃないかな」
「そうだよねぇ。あっちは気温50度超えとか酷いことになってるみたいだけど、それと比べたらこっちは平和だ」
 リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)の言葉に頷いて、東雲が話を続ける。
「思ったんだけど……地下に居たっていう女の子、もしかして彼女が世界樹を守っている、ってことも考えられるんじゃないかな?
 近づいてきた生徒を気絶させただけで、命を狙おうとはしなかったみたいだし」
「相手のことは分からぬが……その可能性を否定する要素もないな」
 東雲の判断を支持する立場に回った上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)を見て、東雲が自分の『やってみたいこと』を口にする。
「女の子と、何とか話をしたい。どうやったら警戒されずに近づけるかな……」
 皆が口を閉ざして考え込む中、ンガイ・ウッド(んがい・うっど)が我知らずとばかりににゃぁ、と欠伸をする。それを見た東雲が、あっ、と何かに気付いた顔をする。
「見た目通りじゃないのはパラミタの常識だけど……少女の姿をしているのは意味があるのかも。例えば、可愛い物が好きとか……」
 リキュカリアと三郎景虎の視線を受けつつ、「うん。試してみるのも、損じゃないよね」と呟いた東雲が、リキュカリアとンガイに笑顔を向けて言い放つ。
「そういうわけでリキュカリア、シロ、まずは二人に接触を試みてもらうね。
 大丈夫! シロのもふもふは癒し効果抜群だから!」
「…………え?」

 ――そして、イルミンスール地下にて。
「わ、我はいまはやりの……ポータラカ人で……。
 うわーん! 何故であるか我がエージェント! 我を吊るし上げるほど恨みを抱いていたのであるか!? そのくせ我をもふるのはどういう訳であるか!?
 吊られた男ならぬ吊られた猫状態のンガイが、まさか東雲がこのような振る舞いをしたことに結構ショックを受けながら、東雲がもふるのを為す術もなく受け入れていた。
「うーんもふもふ。女の子がよほどの動物嫌いじゃなければ、興味を持ってもらえると思うんだ。シロ、頑張ってね!」
「ぐぬぬ……そのような顔をされては我、何も言えないではないか……。
 あ、ちょ、ご主人!? 振らないで、我を振らないでー!」
「ほらほら、方針も決まったことだし、元気出して行くよー!」
「やめてーーー! そんなに振ったら我、身体がバラバラになるーーー!」

 状況を鑑みれば少々場違いかもしれない振る舞いを見せる三人(二人+一匹)を、三郎景虎は気持ち安堵した表情で見守る。
(こんな状況ではあるが、東雲が思いのほか気楽そうで良かった。
 逆境に強いのか、気分が高揚していて気づかないのか、どちらかは分からんが……物の怪一匹の犠牲で状況が変わるのなら、安いものだ)
 楽しそうに笑う東雲、そこには泉で見せた憂いは欠片もなかった。
(さて……地下にいるのが件の少女だけとは限らん。東雲が無事少女の元へ辿り着き、話が出来るよう警戒を強めるか)
 少女と話をしたいと言った東雲の思いを叶えるべく、三郎景虎は自ら持つ力を存分に振るう――。


(ニーズヘッグは多くを語らなかったが、世界樹は今こうして見る以上に状態が思わしくないようだ。
 主力が『煉獄の牢』に向かった今が、敵側にとっても好機。備えは必要でしょう)

 エピメテウスと共にイルミンスール地下へ入ったアウナス・ソルディオン(あうなす・そるでぃおん)が、心に表向きの理由を抱いて内部の調査を行う。その意図する所は今後自身が秘めた目的の為に行動するに当たって、エリザベートやアーデルハイトから疑惑の目を向けられるのを逃れ、一定の信頼関係を築くことにあった。
(確かエリュシオンでは、世界樹の世話をするためだけに存在する『樹隷』が居ると聞く。
 イルミンスールの病が何なのか、そもそも病にかかっているのかどうかは私には分からないが、世界樹に関する知識ならば彼らの方が遥かに上だろう。ここでの調査を終え次第、アーデルハイトに彼らの派遣を要請してはどうかと提案してみよう)
 そうすることで、過去に自らが行ったことによる評価を払拭し、自分も一イルミンスール生徒として世界樹のことを考えた行動を取っているのだと印象付ける狙いだった。
(私が胸に一物ある人物だとは、当然理解しているはず。と同時に私は、契約者としては取るに足らない存在。
 放っておいてもよい、そう評価して頂けたならそれこそが最高の評価ですよ、アーデルハイト)
 口元に歪んだ笑みを浮かべながら、アウナスは調査のため、根の奥へと進んでいく。


 ――ほぼ同じ頃。神代 明日香(かみしろ・あすか)はしつこく後を追ってくる根から逃げ回っていた。
「エリザベートちゃんに、私を根で弄ぶ趣味なんてないですからね!」
 世の中にはそういったプレイもあるようだが、明日香とエリザベートには無縁である。先程もテレポートで連れてきてくれたエリザベートをぎゅむっ、としながら「帰ったら遅いお夕飯にしましょう、今日はおばあさまのリクエストに答えてあげますからね」などと言っていた。例えるなら、姑にも夫にも優しいデキる妻、といったところだろうか。……たとえが無理やりすぎるが。

「うわ、すごい。わたし結構本気でやってるのに、全然捕まらない。
 見た時から強そうって思ってたけど、やっぱりだ。契約者ってすごいんだね」

 そうして逃げながら、根を操っている“大本”を目指していた明日香は、操っていたのが自分と同じくらいの雰囲気の子(背はむしろ自分より小さい)に驚くでもなく(そんな、見た目と中身が異なっているのはパラミタでは日常茶飯事だから)、乱れた服装を正して尋ねる。
「あなたは誰? ここで何をしているの?
 ……あなたは、イルミンスールに害為す者なの?」
 最後が重要、とばかりに強調して言う明日香へ、少女――両腕を根と同化させている姿は、明らかに少女が『ヒト』でないと知らしめていた――はふるふる、と首を横に振って答える。
「違う、違うよ。わたしとおにいちゃんは、この時代のみんなに教えに来たの。
 イルミンスールが枯れなくて済む方法をね。イルミンスールが枯れなかったら、たぶんわたしたちも戦わなくて済むと思うから」
 少女の物言いから、明日香は少女の正体にアタリをつける。少女は『イルミンスールが枯れた未来』からやって来た、世界樹に何らかの関わりがある者だ、と。
(一人で全てを聞き出す……のは私には難しいですね。応援を呼びたい所ですが……)
 そうしたかったが、周りの根は自分が少しでも隙を見せれば、たちまち絡め取ってしまうぞという雰囲気を醸し出していた。少女に自分を傷付ける気は感じないが、“遊び”でいいようにされるのもそれはそれで、気に入らない。……それに明日香は気付いていた。自分の頭上に、絡め取られた契約者――望とノート、ルカルカとダリル――が居るのを。
「みんなを傷付けるつもりはないよ。ちょっと、こういう事もあるよねって経験をさせてあげただけだから」
 悪気無く言う少女、しかしそういう子こそ何をするか想像がつかない。
「…………」
 しばらくの間にらめっこが続き、緊張が少しずつ高まっていった時、横から声がかかる。
「お勤めご苦労さん。悪ぃな、イルミンスールの為に頑張って貰って」
 機晶犬を引き連れやって来た皐月が、慎重に選んだ言葉を口にする。
「これからイルミンスールに起こる事と、その為にオレ達は何をすべきか……それを教えて欲しい。
 独りで辛かっただろ? これからはオレ達も力になるさ」
 皐月の言葉に、少女は言葉を返しこそしなかったが、同化させていた腕を元の姿に戻す。とりあえず彼女の言う所の“遊び”は終わったことに、明日香はこっそりと一息ついた。


「い、居る! あそこの根っこの間に、何か居る!」
 しっぽを逆立てながらンガイが声を上げ、確認のために先行した三郎景虎が状況を確認後、東雲に報告する。
「件の少女と思しき人物と、契約者が数名、話をしているようだ。緊張した雰囲気こそあるが、一触即発というわけではない」
「とりあえずは、こっちの話を聞いてもらえてるのかな。俺達が行って刺激しないといいけど」
「大丈夫! そのためのシロじゃん」
「うぅ……我、もう諦めたである……」
 諦念漂わせるンガイを釣り餌……失礼、交流のきっかけに、東雲たち一行が少女と契約者の話し合いの場に加わる。
「あっ、猫さんだ。かわいい〜」
 東雲の読み通り、少女はンガイを見て顔を綻ばせ、早速もふりだす。
「わ、我をもふるなど一万年早い!」
「わ、しゃべった。猫さんすごーい。
 うーん、流石に一万年は生きてないなー。頑張れば生きられるみたいだけどね」
 何気なく発した少女の言葉に、東雲はああ、やっぱりこの子は人じゃないんだな、と思い至る。
「シロのことなら、好きに可愛がってあげていいからね。
 それで……よかったら、イルミンスールをどうしたいのか、教えてほしいんだけど」
 釣り竿からンガイを離し、少女に抱えさせてやりながら尋ねれば、少女は隠すでもごまかすでもなくあっさりと答える。
「わたしとおにいちゃんはね、イルミンスールを守りに来たんだよ。……あー、実際に守るのは契約者のみんなかな? わたしとおにいちゃんは『道を開く』までしか出来ないから。詳しい話は『煉獄の牢』に行ってるおにいちゃんが話してくれると思うよ。向こうが決着ついたらみんなにも教えるから、それまでちょっと待っててほしいな」
 一通り言い終え、あ、そうだ、と少女がイルミンスールの根に片腕を差し込む(するり、と腕は入っていった)。すると上から絡め取られていた契約者、望とノート、ルカルカとダリルが降りてきて、解放される。
「ごめん、遊んじゃった。契約者がどんなものかなってつい、ね。
 みんなが強いのはよく分かったよ。おにいちゃんとわたしのお願いを聞いて、力を貸してもらえると嬉しいかな」
 少女が無邪気な笑みを見せる――。