リアクション
遺跡の目覚め 「状況を報告!」 動きだした遺跡をフリングホルニのブリッジから見据えて、艦長のグレン・ドミトリーが命じた。 「南北に防護壁のような物が立ちあがっています。偵察機からの報告では、遺跡上部開閉口、つまり天井が開いた物のようだとのことです。内部には、所属不明の艦船が多数。及び、東側に巨大なリング状の建造物が現れました。おおよその直径は200メートル。ゴアドー島のゲートに酷似しています」 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、上空監視をしていた陣風のアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)などから逐次入ってくる情報を整理しながら報告をした。即時、他の艦船にもデータをリンクさせる。 忙しくコンソールを操作するリカイン・フェルマータの髪の毛が、触手のように動いて機械操作をサポートしていた。普段はカツラとして頭の上に乗っているシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)だ。処理量が多いので、今は目覚めて手伝っている。 「うーん、そろそろフィスの簀巻きを解いて、手伝わせた方がいいかしら……」 自分にと言うよりは、シーサイド・ムーンに聞こえるようにとリカイン・フェルマータがつぶやいた。もう一人のパートナーのシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は、問題を起こさないようにと医務室のベッドの上に布団で簀巻きにして転がしたままだ。 「続報!」 遺跡内から、ブラックバードの佐野 和輝(さの・かずき)が艦隊のデータリンクに情報を送ってきた。 「遺跡内には、ニルヴァーナ製飛空艇ヴィマーナと見られる艦艇が多数。ゲートを通過して、移動を開始しています。予想目的地は……パラミタです! 至急阻止せよと、エステルさんから命令が出ています」 リカイン・フェルマータが、追加報告した。 「集結しつつある艦艇にも命令を伝達。隊列を整えつつ、各艦、敵艦艇に備えよ。突入部隊がまだ中にいる。遺跡内部への直接攻撃はなるべく控えるように。突入部隊には、至急撤退を指示せよ」 グレン・ドミトリーが、リカイン・フェルマータに告げた。 ★ ★ ★ 「やっと遺跡に着くと思ったら、これは、いったいどういう状況ですか。とにかく、燕馬に問い質さないと……」 変形のためによく分からない形の機動要塞と化したシュヴァルツガイストを遺跡にむかって移動させながら、サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)は困惑を隠せなかった。 『敵が動きだしたんだ。このままにはしておけない!』 遺跡の中であたふたと駆けずり回りながら、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)が、サツキ・シャルフリヒターからの通信に叫び返してきた。 「なるほど。つまり、片っ端からデストロイですね」 勝手に納得すると、サツキ・シャルフリヒターはシュヴァルツガイストの射程内へと、遺跡に接近していった。 ★ ★ ★ 「まずいようだの。急がねば」 ニルヴァーナ創世学園から駆けつけたメフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)も、予想外の状況にイコプラ【クイーン・メリー】のスピードを上げた。機動要塞ではあるが、その外観はアニメ調のプラモデルの艦船を模したデザインなので、ちょっとテカテカだ。あまつさえ、もう一つの機動要塞を曳航してきている。 「おうい、頼まれ物は持ってきたのだ」 メフィストフェレスが、遺跡周辺で待機していたヒンデンブルク号のオリバー・ナイツ(おりばー・ないつ)に通信を入れた。 「助かりました。急いで作業をしてしまいましょう」 オリバー・ナイツが急かすと、メフィストフェレスが、曳航してきた機動要塞を開放した。 90度回頭して直立したその機動要塞の上部に、ヒンデンブルク号が着艦する。まるで合体したかのように、そのままヒンデンブルク号が機動要塞の上部指令塔となった。 「全回路接続確認しました。ヒンデンブルク号擬装解除」 ヒンデンブルク号が、飛行船型から本来の機動要塞型に戻ったのを、オリバー・ナイツが確認した。 「こちら、ヒンデンブルク号とクイーン・メリー。H部隊への正式な合流を願います」 オリバー・ナイツが、フリングホルニを中心とした艦隊陣形をとりつつあるHMS・テメレーアに通信を入れた。 「ヒンデンブルク号、及び、クイーン・メリーから入電。部隊に編入の許可を求めているわ」 通信を傍受したローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、ブリッジにいるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)らに告げた。 「うむ」 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーがうなずく。 「編入を許可する。リンクデータと、編制プログラムを転送せよ」 艦長であるホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)が、正式な命令を下した。 すぐさま、ローザマリア・クライツァールが、必要なデータをヒンデンブルク号とクイーン・メリーに送信する。 「ヒンデンブルク号は、フリングホルニを中心として右前方に、クイーン・メリーは左後方に位置されたし」 指示を受けて、ヒンデンブルク号とクイーン・メリーが所定の位置に着く。 HMS・テレメーアはフリングホルニの右舷に位置する。 「攻撃はしないのですか?」 HMS・テレメーアのブリッジで研修中の常闇 夜月(とこやみ・よづき)が、ホレーショ・ネルソンに訊ねた。 「まだ攻撃指示は出ていない。各自が勝手に攻撃してしまっては、同士討ちの危険があるからな。むやみに砲を撃てばいいというものではない」 今はまだ我慢だと、ホレーショ・ネルソンが答えた。あくまでも、艦隊の旗艦はフリングホルニである。 同様に、フリングホルニの左側には、前方にアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)のウィスタリア、中央に葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の伊勢、後方に湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の土佐が移動する。 「予定位置到達。相対位置固定するよ」 「配置完了であります」 操船するコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の言葉で、葛城吹雪が各艦の配置を把握する。同時に、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が主砲に着いたことを確認した。 『全艦、第一級戦闘配備』 ウィスタリアのイコン格納庫にアルマ・ライラックの声が響く。 「いよいよだな」 柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が、これから始まるだろうイコンの補給修理に対して身構えた。 「各艦、イコン発進します。すでに発進している物を含めて、艦隊上空を直掩。主砲射界、オールクリア」 レーダーで味方機の状況を確認して、高嶋 梓(たかしま・あずさ)が湊川亮一に告げた。 すでに、ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)とアルバート・ハウゼンの乗った陣風が土佐上空に、天貴 彩羽(あまむち・あやは)とスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)、夜愚 素十素(よぐ・そとうす)の乗ったマスティマと、岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)と山口 順子(やまぐち・じゅんこ)の乗ったジェファルコン・閃電がフリングホルニの左右に展開していた。 |
||