リアクション
ヴィモークシャ回廊へ 遺跡のヴィマーナ艦隊とフリングホルニの艦隊との間では、激しい砲撃戦が繰り広げられていた。 遺跡の防護壁は、左右の攻撃からヴィマーナを堅固に守っていたが、逆に射界の制限をも与えていた。そこを逆手にとって、フリングホルニの艦隊は、左右への移動を行いつつ、敵の攻撃を避けながら確実に砲撃を与えていった。 数において圧倒的に劣るフリングホルニ側としては、ヒット・アンド・アウエイで的確に数を削っていくしかなかった。何度か斉射で飽和集中攻撃を行うも、ヴィマーナも装甲の厚い戦艦型を前面に押し立てつつ、防御シールドを張って対抗してくる。さすがに、一斉攻撃に耐えられるわけもなく、その都度前面の戦艦は撃破できるものの、密集しているとは言え、都合よく敵艦が連鎖誘爆してくれるはずもなく、時間を味方につけたヴィマーナは次々にゲート内へと突入していった。 「これ以上敵の先行部隊と距離をあけられるのはまずい。これより、ゲートに突入する。――よろしいでしょうか?」 業を煮やしたグレン・ドミトリーが、エステル・シャンフロウに訊ねた。 それに答えようとして、エステル・シャンフロウが微かに頭を押さえて口籠もる。 「いかがなされました?」 少しあわてて、デュランドール・ロンバスが訊ねた。 「いや、突然テレパシーが。激励のつもりらしいので、悪意はないのですが……」 ちょっと困ったように、エステル・シャンフロウが答えた。 「各員に徹底させろ。命令系統は厳守するように。勝手な言動で指揮系統を乱すは厳重処分すると伝えろ。以降、すべての情報は、ネットワークとオペレータを通して行うように。厳命である!」 いいかげん、シャンバラ大荒野での戦闘時のような命令系統への妨害はごめんだと、デュランドール・ロンバスがきつく各部所に伝えるようにとリカイン・フェルマータに厳命した。 「あらためて、ゲートへの突入を命令します」 気を取り直したように、エステル・シャンフロウが言った。 「イコン部隊の回収を急げ。突入する艦は、密集隊形でフリングホルニに続け。支援部隊は、援護射撃の後、残敵の掃討をせよ。突入後は、追撃してくる敵艦を排除しつつ、敵艦隊を追撃する」 グレン・ドミトリーの命令一下、艦隊が陣形を変更する。 ★ ★ ★ 補給に戻ったシフ・リンクスクロウたちのアイオーンと天貴彩羽たちのマスティマが、フリングホルニのリフトでイコンデッキへと下りてくる横で、人間用のリフトからロートラウト・エッカートが飛び降りてきた。 「ああ、いたー。さっきは酷いんだもん!」 フリングホルニのイコンデッキに下りてきたロートラウト・エッカートが、イコンハンガーにフォン・ユンツト著『無名祭祀書』たちのLord−Byakheeや笠置 生駒(かさぎ・いこま)とシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)のジェファルコン特務仕様とならんだ、ハッチをオープンしたままのヴェルトラウムIIのコックピットに、エヴァルト・マルトリッツの姿を見つけて叫んだ。 さっき、エヴァルト・マルトリッツだけがさっさと逃げて、取り残されたことを叱咤する。 「うう、お前にまで怒られるとはな……」 軽く頭を押さえて、エヴァルト・マルトリッツが言った。さきほど、エステル・シャンフロウに直接テレパシーで交信したことをこってりと怒られたばかりだ。 「ちょっとみんなの士気を高めてもらうために、号令かけてくれって言っただけなんだが……」 注意するように言われたリカイン・フェルマータの頭の上にいるシーサイド・ムーンから、テレパシーでとりあえず怒れと言われたシルフィスティ・ロスヴァイセが原因である。シルフィスティ・ロスヴァイセが、わけも分からず戦闘中の指揮官へのテレパシー禁止と言いつつ罵詈雑言を浴びせかけてきたので、未だにエヴァルト・マルトリッツの頭の中で悪口が谺しているのだった。 「指揮官が、兵士一人一人の意見をいちいち聞いてたら、聞いてるだけで命令出す時間なくなっちゃうじゃない。とーぜんなんだもん」 追い打ちをかけるように、ロートラウト・エッカートがエヴァルト・マルトリッツに言った。 ★ ★ ★ 「ありがとなー」 ヒンデンブルク号に送り届けてもらった鬼頭翔たちが、アストロラーベ号に手を振ると要塞内部へと駆け込んでいった。 「わたくしは、ブリッジへむかいます」 カミーユ・ゴールドが、鬼頭翔たちと分かれて、オリバーナイツのいるブリッジへとむかう。 「よし、俺たちはGBCの発進準備だ」 「はい」 人型に戻ったポントー・カタナブレードツルギと共に、鬼頭翔はイコンデッキへとむかった。 ★ ★ ★ 「間もなくゲートに突入します。いったん帰還してください」 「了解。そろそろ補給しないと、エネルギーも心許ないですから」 高嶋梓に指示されて、アルバート・ハウゼンとソフィア・グロリアの乗る陣風が土佐の左舷カタパルトに帰還した。すでに岡島伸宏と山口順子の乗る閃電のいる右舷カタパルトには、敵に射撃しつつ斎賀昌毅とマイア・コロチナのフレスヴェルグが上がってくる。 ★ ★ ★ 「よおーし、ゲート突入作業中に、急いで補給じゃ」 ウィスタリアのイコンデッキに戻ってきた柊真司のゴスホークを、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が柚木桂輔と共に出迎えた。 「アルマ、ゴスホークは収容した」 すぐに柚木桂輔が、ブリッジのアルマ・ライラックに告げる。 「了解しました。ウィスタリア、ゲート突入に備えて強襲モードへ移行します。トランスフォーム、開始します」 アルマ・ライラックが、ウィスタリアをゲートに入りやすいように変形させる。左右の船体が下部へ回転し、全体がV字型からI字型へと変形した。 |
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