リアクション
回廊内の戦い 「全艦、回廊内に突入しました。回廊の直径は一キロ、全長は不明です。薄いながらも、大気の反応があります。特記事項として、敵母艦が発生していた特殊空間の特性が観測されています。機晶フローターの出力が大幅に減少。空間特性と敵フィールドの関係から、大出力を持ったイコンか、大型飛空艇でなければ航行は不可能です。また、宇宙用の姿勢制御プログラムがなければ、高機動の飛行も困難と思われます」 一気に送られてくる環境データを、既存のヴィムクティ回廊と比較しながらリカイン・フェルマータが報告した。 「全艦に急ぎ隊列を整えるように伝達しなさい。すぐに敵が追ってきます。それに供えつつ、先行する敵を捉えて殲滅します」 エステル・シャンフロウが命令を発した。 「イコン再配置。強行偵察機発進」 グレン・ドミトリーが、リカイン・フェルマータに命令した。 「各艦、フォーメーションを組み直します。飛行可能なイコンは再発進。その他は、各艦の甲板に固定、砲台として敵を殲滅してください。ファスキナートル、緊急発進」 事前の打ち合わせ通りに、リカイン・フェルマータが各部所に命令を伝えていく。 ★ ★ ★ 「ファスキナートル、先行します」 フリングホルニのフィールドカタパルトに載ったファスキナートルのコックピットで、富永佐那が発進許可のシグナルを確認した。 明滅する光のトンネルの中で、ファスキナートルが急加速して発進する。 「ブラックバードとのリンク確認。進路クリア」 エレナ・リューリクが周囲の観測データを纏める。 「進むわよ」 富永佐那が、スロットルを全開にした。 ★ ★ ★ 「回廊内の戦いか。参ったな。プラヴァーがベースとなっているとは言いえ、アペイリアー・ヘーリオスには宇宙用の航行システムはインストールしていないぞ」 イコンデッキに降り立ったものの、無限大吾がちょっと困ったように言った。 「なあに、こんなこともあろうかと、こっそりと調整してあるのだよ〜」 えっへんと、廿日 千結(はつか・ちゆ)が自慢そうに胸を張った。ニルヴァーナ創世学園からの補給物資と共に早々とフリングホルニと再廻の大地のゲートで合流したときにやってきたわけだが、ずっとイコンデッキに籠もっていたのは、この調整をしていたかららしい。 月基地での戦い以来、宇宙空間での戦闘を想定したイコンの再調整を行っていた天御柱学院は、純粋な天御柱学院製の第二世代機各機と量産型の第二世代機であるプラヴァー用に新規のプログラムを開発していた。 OS部分からのバージョンアップにより、天御柱学院製の第二世代機は宇宙空間への対応と航行プログラムの装備、そして、大気圏の単独離脱のための機体の全体的な調整とリミッター解除が行われている。 これらは順次行われていき、現在ではすべての天御柱学院製イコンベースの機体に適用されている。 プラヴァータイプの場合は、オプションユニットをプラヴァー・ギャラクシーの物と換装することによってそれらを実現していた。そのため、カスタムタイプイコンはやや実装が遅れていたわけである。 「ステルスユニットを取り外して、ギャラクシーユニットを取りつけてあるから〜。ちょ〜っと、今までとは違うかもね」 「これって、なんだか中身がずいぶん変わってない?」 サブパイロット席に乗り込もうとして、西表アリカが、機器の配置がずいぶんと変わってしまったコンソールを見て困惑した。 「ごめん、これじゃボク扱えないかも。千結ちゃん、アペイリアーを任せたよ」 「仕方ないなあ〜。まあ、ピーキーになっちゃったから、調整が難しいんだよね〜。じゃあ、あたいが、アペイリアーちゃんに乗るよ」 そう言うと、廿日千結がサブパイロット席に乗り込んだ。 パンパンと、コンソールの上に載せた神棚のヤシュチェの守りにお祈りする。意外なところが、アナログというか、マジカルである。 「じゃあ、頑張ってねー」 「いってらー」 留守番となった西表アリカとセイル・ウィルテンバーグが手を振る中、イコンリフトに乗ったアペイリアー・ヘーリオスが甲板へと上がっていった。 ★ ★ ★ 「ようし、新型でバンバン飛び回るよ」 クイーン・メリー号のイコン格納庫で、鳴神裁が、嬉々として試作機のでくのぼうに駆け寄っていこうとした。 ニルヴァーナ創世学園から運んできてもらった、新品のほやほやだ。 『――あっ、多分飛べないから。気をつけてね』 意気込む鳴神裁に水を差すようにメフォスト・フィレスが言った。それをテレパシーで受け取った魔鎧状態のドール・ゴールドが、鳴神裁に伝言で伝える。 「ええっ、なんでなんだもん」 それはおかしいと、鳴神裁が聞き返した。 『ええとお、見れば分かると思いますが、過積載です。艦載用の大型荷電粒子砲に、帯域破壊用のミサイルランチャー堕天、その他にも通常のミサイルランチャーと機晶ブレード搭載型ライフル、アンチビームファンという重装備です』 ちょっとすまなそうに、ドール・ゴールドが説明した。 「ええっ、でも、もともと大出力だから、ちゃんとこなせるんじゃ……」 『完成品だと、大丈夫なんですが、今回、無理矢理出撃させてきたので、いろいろと調整がまだなんですよ。先行販売品なんで、むにゃむにゃむにゃ……』 言いにくそうに、ドール・ゴールドが語尾をごまかした。 「とりあえず、強そうだからいいんじゃないんですか?」 「仕方ないんだもん。飛べなくても、バンバン撃ち落としてやるんだからあ」 黒子アヴァターラマーシャルアーツに言われて、鳴神裁がでくのぼうのコックピットに入った。まだ、シートにビニールが被さっている。それをちょっと嬉しそうにビリビリと破ると、サブパイロットシートに座った黒子アヴァターラマーシャルアーツと共に、鳴神裁がクイーン・メリーの甲板に移動して機体を固定した。 ★ ★ ★ ヒンデンブルク号の中でも、似たように光景が繰り広げられていた。 「わーい、新品だー!」 ポントー・カタナブレードツルギが歓声をあげた。 クイーン・メリーが運んできてくれたでくのぼうの同型機がGBCだ。だが、こちらの方は基本兵装に二機のイコンホースを搭載した強襲機のため、重砲撃タイプのでくのぼうとは違って、回廊内でも飛行が可能である。 「ようし、発進するぞ」 シートのビニールを取り除くと、鬼頭翔がGBCをヒンデンブルク号から発進させた。 |
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