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リアクション
★ ★ ★
「物量が違いすぎますね。いったい、どれだけのイコンを撃ち出してきているのでしょうか」
パラスアテナ・セカンドで弾幕を張りながら、御凪真人が半ば呆れた。弾幕を張るにしても、限度というものがある。実体弾を中心としたイコンは、補給のために入れ替わり立ち替わりイコンデッキと甲板を往復して敵の迎撃を続けている。
魔道エネルギーを主体とするウィッチクラフトキャノンは豊富な総弾数を誇るが、消費エネルギーは馬鹿にならない。そのため、パラスアテナ・セカンドは完全な固定砲台としてフリングホルニから直接エネルギーケーブルを引き込んでいた。接近戦を仕掛けられたらひとたまりもないが、そのへんは甲板にいる白兵タイプの他のイコンを信頼するしかない。
「エネルギー消費量、エネルギー供給量の範囲内。キャノン砲身の耐久値想定値内。まだまだいけるぞ」
計器とずっとにらめっこをしながら、名も無き白き詩篇が告げた。
それでも、この広い空間すべてを、弾幕でカバーするのは無理がある。
「上方、一時の方向から新たなミサイル群」
E.L.A.E.N.A.I.の機内オペレータ席で、レーダーを監視していたイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が告げた。
「ターゲット、ロックしましたよ」
E.L.A.E.N.A.I.の機体のむきを調整して、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が敵ミサイル群を正面に捉えた。
「エネルギー充填完了ですわ。これで決めますわよ。ヴリトラ砲、発射!」
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が、E.L.A.E.N.A.I.の主砲を発射した。射線上にあったミサイルが爆散して消える。
「まだ残っておられます」
すかさず、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が注意を喚起した。
「マーカー送ります」
イグナ・スプリントがすぐに、データを修正する。
「右はボクが」
「左ですわね」
非不未予異無亡病近遠のツインレーザーライフルと、ユーリカ・アスゲージのマジックカノンが、撃ちもらしたミサイルを迎撃する。
「おみごとです」
「第六波来ます!」
「まったく、しつこいですね」
うんざりしたように非不未予異無亡病近遠が言った。単調な攻撃だが、命中させてはならない攻撃でもある。少数のイコンが乗り込んできても、白兵戦でなんとかなるだろうが、本来旗艦の甲板で戦いを繰り広げるのは負け戦に近い。無傷というわけにはいかないからである。
「敵ミサイル、続いて第七波確認。データを、僚機とリンクさせます」
アルティア・シールアムが、観測した敵データを味方の情報リンクへと流した。
「さながら雲霞のごとくじゃな……」
「艦がヴィマーナを攻撃しているから、こちらは敵イコンを一掃するぞ」
織田信長に言うと、桜葉忍が第六天魔王の嵐の儀式を大型ミサイル群に放った。範囲内にいた敵ミサイルが進行方向を崩し、互いに接触して爆発する。その爆炎の中から、タンガロア・クローンの群れが、フリングホルニにむかって来た。ミサイル外装を盾にして、直前に離脱したらしい。
「甘いわ!」
織田信長が、ミサイルを一斉発射した。敵イコンが、機体から生えた結晶柱をミサイルのように発射して迎撃してくる。
広がる光芒にむかって、桜葉忍が風斬剣を放った。何機かのタンガロア・クローンが巻き込まれたが、まぬがれた敵イコン群が突破してくる。
回廊内でも飛行できる味方イコンが、前に出て敵イコン群と交戦に入った。
その先頭には、ジャイアント・ピヨの姿も見える。
「ヒ゛ヨ゛!」
全身を装甲で被ったジャイアント・ピヨが、翼を広げてクルクルと回転した。
「め、目が回るぅ」
「だ、大丈夫ネ。ちゃんと、コンパスは作動してるヨ」
「そういう問題じゃ……」
盛大に振り回されてシェイクされ、アキラ・セイルーンがアリス・ドロワーズに言い返した。
そんな乗り手のことなどは構わずに、回転したジャイアント・ピヨが、その翼の一撃でタンガロア・クローンを薙ぎ倒していく。さらに突っ走り、飛来してきた敵大型ミサイルをも弾き飛ばした。
進む方向が無茶苦茶になった大型ミサイルが、回廊の内壁であるバリアにぶつかった。その部分のバリアが激しく明滅したかと思うと、スパークのような物があがり、大型ミサイルをつつみ込んだ。妖しげな光と共に、ミサイルを被っている結晶体が、銀色から黒ずんだ物に変化していく。その直後にバリアに弾き返され、へし折れたミサイルが爆発を起こした。
「なんだ、あれは?」
「回廊外周部に接触したようやな。気色悪いなあ。なるべく近寄らん方がええやろ」
奇妙な変化を起こしたミサイルを見て気味悪がる笠置生駒に、シーニー・ポータートルが言った。
「逆に、いざとなったら、バリアに敵をぶつければいいと言うことかな」
「早合点はしない方がいいんとちゃうか」
まだ何が起こったのか分からないのだからと、シーニー・ポータートルが笠置生駒に注意した。
「とにかく、敵をフリングホルニから遠ざけるよ」
ミサイルランチャーとバスターレールガンで側面から敵イコンを攻撃しつつ、笠置生駒のジェファルコン特務仕様が飛び回った。
「一気に叩き落とすよ。フルバースト!」
ジェファルコン特務仕様の攻撃に気をとられかけるタンガロア・クローンを、イーリャ・アカーシのフィーニクス・NX/Fが撃ち落としていく。
ソルビトール・シャンフロウの敵意がフリングホルニに集中しているため、ヴィマーナ艦隊に直接攻撃をかけているイコンや大型飛空艇にむけての艦砲射撃はほとんどない。
ソルビトール・シャンフロウが本来の人間として艦隊を指示していたのであればこうはいかないだろうが、マザー・イレイザー・スポーンに取り込まれた今となっては、人としての正確な判断能力を残しているのかは疑問であった。むしろ、残された悪意が、黒幕たちが仕掛けたヴィマーナの航行プログラム上のバグとして、最適な対応を乱しているとも言える。もしも、完全な計画通りに事が進んでいれば、最大船速で一気にパラミタに移動してしまうか、もっと防衛に気を配った反撃をしてくるはずであった。
前進して敵ヴィマーナに中距離からの砲撃を与えていたバロウズであったが、さすがに敵ヴィマーナの対空防衛網にかかり、パルスレーザー機銃と敵イコンの攻撃を受けていた。
「現在、被弾による損傷2パーセント。エネルギー残量50パーセント。攻撃に問題ないです」
ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が、バロウズの機体各所の状況をモニタして夜刀神甚五郎に定時報告した。
「この程度の攻撃なら、充分バロウズの重装甲で防げる。敵イコンの接近だけ気をつけろ。次、前方でバリアを展開しているヴィマーナを狙う!」
夜刀神甚五郎が、防御を担当しているらしいヴィマーナをさして言った。
「ターゲット、ロック。荷電粒子砲、発射します」
ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が、指示されたヴィマーナにむかって、対艦砲を発射する。バリアの死角からビームを打ち込まれたヴィマーナが装甲表面を溶かされ、貫通したビームによって内部から爆発を起こした。そのまま隊列を離れると、回廊内周バリアに吸い寄せられるように墜ちていき、黒く変色しながら爆散した。
「なんだか、気持ち悪い嫌な壊れ方をしますね。いったい、この回廊はどうなってるんでしょうか」
その様子を観測していた阿部 勇(あべ・いさむ)が、少し不安そうに言った。ニルヴァーナへ来るときに通ってきたヴィムクティ回廊と見た目は変わりないようであったが、その実態は似て非なる物なのかもしれない。だいたいにして、回廊の外の世界はどこなのかは未だ確かめることができないでいる。まして、すべての回廊が同じ世界の中を通っているなどとは断言できないのだ。その先は、ナラカの最深部か、宇宙に浮かぶ恒星の中なのか、まるで別の次元、別の時間、そも、その先に世界などあるのかも不明なのである。
「敵イコン接近!」
妙な感慨に浸っていたためか、阿部勇の索敵が一瞬遅れた。タンガロア・クローンが三機、こちらへとむかってくる。
「落とせ!」
夜刀神甚五郎が、機体をロールさせつつ迎撃を命じた。
突っ込んできた一機がそのまま弾き飛ばされたが、バロウズの機動に合わせてきた残りの二機が機体の上に取りつく。
そのままマシンガンを撃たれるところを、ブリジット・コイルが機銃による近接射撃で一機を吹き飛ばした。夜刀神甚五郎が、さらなる一機を強襲型に変形して振り落とすと、メタルクローを突き入れて破壊する。
「損傷は作戦行動に支障ありませんが、現在位置は突出しすぎです」
ホリイ・パワーズが、素早く損害状況を調べた。
「敵イコンさらに接近してきます」
周囲に気を配りつつ、阿部勇が報告する。一度攻撃を受けると、継続して的にされやすい。
「敵艦にレールガン、イコンにソニックブラスター。交互に射撃しつつ、味方前線まで後退。なるべく落とせよ」
単独行動を避け、夜刀神甚五郎がゆっくりとバロウズを後退させた。