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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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 順調に敵を寄せつけずにいたフリングホルニ甲板のイコン部隊だったが、突然、フリングホルニがゆれ、射線が大幅に狂った。その隙を突いて、何機かのイコンが、フリングホルニの甲板に乗り込んでくる。
「後方より砲撃。損傷は軽微」
 リカイン・フェルマータが報告した。至近弾が右舷のバリアブルシールド表面で爆発し、フリングホルニの船体が予想外の爆風に押されたらしい。
「ブラックバートから入電。後方より、敵艦隊出現。ゲートを突破してきたものと思われます。数およそ30。さらに増加の可能性あり」
 リカイン・フェルマータが、状況の変化をグレン・ドミトリーに告げた。
「各艦、後部砲塔を開け。足りない分は、長距離砲を装備したイコンを柔軟に運用して迎撃せよ。後方、クイーン・メリー、シュヴァルツガイストに防御シールド展開を指示! 土佐に後方への砲撃を指示」
 艦隊が、前後からの攻撃を防ぐために、円陣に変化し、やや密集隊形をとって前後にバリアを展開し直す。敵にやや攻撃を絞らせることになるが、背後からの攻撃は無視できなかった。
 だが、発見された後続艦隊は、極端に動きが鈍かった。未だに、射程内に入ってきてはいない。
 
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「妙だな。集中して、状況を分析するんだ」
 ブラックバートの佐野和輝が、アニス・パラスに言った。
「こ、これって……。大変ですわ!」
 すぐさま後方に移動した陣風の中で、敵を観測したソフィア・グロリアが呻いた。すぐに、その情報を、アルバート・ハウゼンがブラックバートに転送する。
「うん……。あれれ、敵がゲートに攻撃しているよ!」
「なんだと!?」
 状況を分析したアニス・パラスの報告を受けた佐野和輝が、驚きの声をあげた。
「ゲートの崩壊を確認。同時に、回廊に変化あり。観測不可能領域が増大していきます」
 スフィアホークが、収集したデータを大量にデータリンクに流し込みながら報告した。
 
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「どういうことですか。敵は、この回廊がどうなってもいいと言うのですか!」
「そうでしょうな」
 フリングホルニの艦長席で叫んだエステル・シャンフロウに、デュランドール・ロンバスが冷静に告げた。
「おそらく、ソルビトールとしては、現在の戦力で充分だと勝手に判断したか、あるいは、ニルヴァーナの味方が善戦し、これが残存艦のすべてか……」
 いずれにしろ、ニルヴァーナからの援軍は敵味方共に完全に断たれたと思ってよかった。
 無理をすれば、新造中の艦船を援軍としてパラミタに送り込むという考えもあったのだが、再廻の大地のヴィムクティ回廊をゴアドー島のゲートに再接続するまでは、ニルヴァーナとの大量輸送ができない状態になったわけだ。
「ヴィモークシャ回廊に変化。末端部より回廊が消滅していきます! 敵艦隊加速! 前方敵艦隊、大型ミサイル発射!」
「回廊が消えるだと。敵は、こちらを回廊消滅に巻き込む作戦か!?」
 リカイン・フェルマータの報告に、グレン・ドミトリーが叫んだ。
「現在のスピードを維持すれば、巻き込まれはしませんが……」
「損傷し、足が止まった時点で、消滅か。全艦に、注意をうながせ。逆に、後続の敵艦隊を押し返して回廊の消滅に巻き込ませるんだ」
 グレン・ドミトリーが、艦隊に指示を発した。
 
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「くっ、まずい、乗り込まれただと。エネルギー伝導管を外せ!」
「間にあわんのじゃ!」
 あわや転倒しそうになったパラスアテナ・セカンドの機体を元に戻した御凪真人だったが、身動きがしにくいところへ敵タンガロア・クローンが突っ込んできた。名も無き白き詩篇がフリングホルニからのエネルギー伝導管を強制的に切り離すが間にあわない。
 あわててビームシールドを展開するところへ、タンガロア・クローンがピルムムルスを突き込んでこようとする。だが、その動きが瞬間止まった。
がらあきだよ
 超電磁ネットを被せられた機体の胸部から、レイピアの切っ先が突き出ている。
「やっぱり、少し動きが鈍いねぇ」
 そう言うと、清泉北都がアシュラムのレイピアをタンガロア・クローンから引き抜いた。
「くれぐれも、甲板から落っこちたりしないでくださいませね。そのまま回廊の塵となってしまいますので」
 クナイ・アヤシが、さらりと釘を刺す。アシュラムはパワーはあるが、機体の異界対応が間にあわなかったせいで、甲板上の歩行がかろうじてできる程度だ。それが限界である。
「分かってるってぇ。さっきだって、大丈夫だっただろぉ」
 そう言うと、清泉北都は軽く手を挙げてパラスアテナ・セカンドに合図すると、破壊したタンガロア・クローンを掴んで持ちあげた。動かなくなった敵機体から結晶柱状の突起物がばらばらと甲板に墜ちて銀色の結晶体を振りまいた。
「後で、掃除が大変そうだなぁ」
 そうつぶやきながら、清泉北都がタンガロア・クローンをフリングホルニの外に投げ捨てた。へた破壊して爆発されるよりは、コントロール部を一撃で破壊して停止させ、艦の外へ放り捨てるのが安全だ。
「待ってくださいませ。今落ちた敵の破片から何か出てまいります!」
 クナイ・アヤシが叫んだ。
 
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「陣風より、敵艦座標データ来ました」
 土佐のオペレータ席で、高嶋梓が湊川亮一に告げた。後方偵察に言ったソフィア・グロリアの陣風から、敵の配置データが送られてくる。
「両舷砲塔、下部砲塔を回頭。後部砲塔と共に敵ヴィマーナに攻撃を開始せよ。艦載イコンにも伝達。先頭のヴィマーナを狙え。発射!」
 湊川亮一が、攻撃を指示した。
 多数ある土佐の砲塔が後方をむき、一斉に火を吹く。
「後方に下がって、狙撃するぞ」
 斎賀昌毅が、土佐の甲板上を移動して後方狙撃ポジションに着くと、土佐に合わせてバスターライフルで攻撃を始めた。
 
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「敵イコンより、随伴兵と見られる機晶姫が出現しました」
 状況の報告を受けたリカイン・フェルマータが、グレン・ドミトリーに報告した……のだが、姿が見えずに声だけがする。いつの間にかオペレータ席に座っていたのはシーサイド・ムーンだ。リカイン・フェルマータはいつの間にか席を外してしまっている。御丁寧に、シーサイド・ムーンは、マシンボイス的なちょっと尖った声でリカイン・フェルマータの声質で声真似をしていた。
「私が行こう。フレロビ、ついてこい。ニルスは、ブリッジの守りをかためろ。なあに、艦内に入れませんよ」
 ちょっと心配そうなエステル・シャンフロウに、生き生きとした表情でデュランドール・ロンバスが言った。
「艦内保安要員は、甲板に回って敵を殲滅しろ」
 グレン・ドミトリーが、酒杜陽一やセフィー・グローリィアたちに命じた。
「後方艦、追撃艦隊に火力を集中させろ。敵を押し込め!」