First Previous |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
Next Last
リアクション
★ ★ ★
「おお、これがそうか」
やがて星心合体ベアド・ハーティオンでやってきたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)と星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)が、タケノコ要塞の前で立ち止まった。高天原鈿女から、運搬を頼まれてきたのだ。
「おお、いい所にいいイコンが。ちょっと、手伝っていただけません?」
ちょうどいいと、サルガタナス・ドルドフェリオンがほくそ笑む。
「了解した。私は私のできることを全力で行おう。グレート勇心剣!」
コア・ハーティオンが、いきなり大剣を構えた。
「ちょっ、おまっ、何をするのじゃ!!」
「きゃああああ……!」
ルシェイメア・フローズンとヨン・ナイフィードが止める暇もなく、コア・ハーティオンが大剣を横一線に薙ぎつつ周囲を一周して、タケノコ要塞をずんばらりんと輪切りにした。せっかく取りつけていた外部装甲板が、すべてばらばらと剥がれ落ちる。
「部材提供に感謝する。とうっ!」
「回収シュウリョウ」
星怪球バグベアードがユグドラシルの猛き枝で外部装甲板をすべて回収すると、コア・ハーティオンは星心合体ベアド・ハーティオンを急いでアンテナ制作現場へとむかわせた。
「ど、どろぼー!」
呆然とそれを見送るしかないルシェイメア・フローズンたちであった。
★ ★ ★
「あれは、イルミンスールの艦かしら」
マスドライバーの上をレガートに乗って走りながら周囲を警戒していたティー・ティーが、シグルドリーヴァを発見して足を止めた。じっと観察するが、問題ないようなので、源鉄心に一応報告をする。
その事前連絡で、何ごともなくシグルドリーヴァは、宇宙港へと誘導されてきた。
「イルミンスールからの補給物資を持ってきたわよ。これで、マスドライバーの修理が進むはず。いい、イルミンスールからの補給だからね」
シグルドリーヴァに積んで運んできた魔法石をジャジラッド・ボゴルに渡しながら、風森望が念を押すように繰り返した。
「これって、マスドライバーじゃなくって、アンテナの方に使ったら出力アップできるんじゃないのか?」
ノート・シュヴェルトライテがシグルドリーヴァから下ろしているコンテナを見てつぶやいた。
「それは面白い考えであるな。グリムロックの魔道レーダーを利用すれば可能であろう」
それを小耳に挟んだゲシュタール・ドワルスキーが、ジャジラッド・ボゴルに進言した。
「いいだろう。ここで、イルミンスールに貸しを作ることはやぶさかではない」
「ああ。うまくすれば、恐竜騎士団の至宝である極光の琥珀の返還を求めることもできるであろう」
ジャジラッド・ボゴルとゲシュタール・ドワルスキーが、思惑を秘めてうなずき合う。
「何を言ってるのよ。イルミンスールの魔法石を使わせてあげるんだから、感謝してほしいわね」
話が逆だと、風森望が突っ込んだ。
それぞれの思惑はどうであれ、アンテナの設置は急ピッチで行われていった。
高天原鈿女の指揮によって、本来ならルシェイメア・フローズンたちのタケノコ要塞の外部装甲になるはずだった装甲板は、コア・ハーティオンの星心合体ベアド・ハーティオンと源鉄心のマルコキアスによって組み合わされ、大型のオフセット・グレゴリアン・タイプ・パラボラアンテナにされていった。
ティー・ティーが周囲を警戒する中、恐竜要塞グリムロックから外された魔道レーダーと格闘式飛空艇・アガートラームの通信機器などから、ノア・セイブレムとメティス・ボルトがコントロール機器を製作する。風森望たちの運んできた魔法石のおかげで、出力は充分に得られている。そこに、イコナ・ユア・クックブックが組みあげたソフトウエアを走らせて完成だ。
「コッチカナ? コッチカナ?」
星怪球バグベアードがあちこち言う中、コア・ハーティオンが星心合体ベアド・ハーティオンを使って、計算された角度におおよそアンテナをむけた。後は、アンテナ自体の動きで、厳密に微調整がされていく。
準備は整った。
★ ★ ★
「まだ、パラミタの宇宙港との通信はコネクトしないのか?」
「リザルトがありません」
「早く、ニルヴァーナの状況を伝えて、迎撃態勢を整えてもらわねばならないのに……」
月基地では、ニルヴァーナ創世学園からゲートを越えてきた高天原咲耶の情報に基づいて、何度も通信を試みていたが、今のところはすべて徒労に終わっていた。
「仕方ありませんね。やはり、あの方法しかないでしょうか。そこの発明品、さっさと寄生しなさい」
そう言うと、高天原咲耶が、ハデスの発明品に命じた。
こそこそと、ハデスの発明品が、月基地の通信機器に自らを接続して、システムに介入する。いきなり、月基地のエネルギー回路をハックして、出力10倍である。
「さあてと、これでやることはやりました。後は、バレンタインに渡しそこねたチョコでも食べてのんびりしましょう」
そう言って、高天原咲耶はくつろぎ始めた。
★ ★ ★
「ちょっと待ってください……。反応ありました。受信できます」
アンテナの微調整を行っていた高天原鈿女が、月基地からの電波を捉えて、外部スピーカーに流した。
『フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクターハデスだぁ! この宇宙港の通信チャンネルは、我らオリュンポスが乗っ取ったふ! というわけで、十六凪さんよ。現在、ソルビトールどもは、新たなゲートを起動し、その中へと進軍中だぁ。奴らの目的地がどこかは不明だが、我らもオリュンポス・パレスと合流次第、すぐに追撃を行うぞぉ! これでいいかなあ……』
「こ、これは……。あの馬鹿者どもは……」
突如スピーカーから流れてきたドクター・ハデスの口調をまねた高天原咲耶の声に高天原鈿女を始めとする全員が頭をかかえた。うなだれたコア・ハーティオンの首筋で、何やら小さな機械がピカピカと明滅している。
「ううむ、ブルタからの通信では……ないな。いったい、どうしているのやら。それにしても、我ら恐竜騎士団よりも先に宣伝活動を行おうなどとはな……」
油断も隙もないと、サルガタナス・ドルドフェリオンがつぶやいた。
「とにかく、馬鹿は無視して、状況を確認して、各地に伝えるわよ。――月基地、こちら、アトラスの傷跡宇宙港。繰り返す、こちらは、アトラスの傷跡宇宙港……」
ドクター・ハデスのことは無視して、高天原鈿女が月基地との交信を開始した。
★ ★ ★
「あの馬鹿、この非常時に何を言っている……」
コア・ハーティオンに取りつけておいた発信機からの音声を聞いて、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が頭をかかえた。
修理の完了した機動城塞オリュンポス・パレスを、ゴアドー島に移動している途中であった。ゲートを掌握するという利己的な目的であったのだが、先行できるといううまい結果を引き出せたようだ。
続く高天原鈿女のちゃんとした状況説明の通信からは、敵がニルヴァーナ製飛空艇の大艦隊と共にゴアドー島のゲートからパラミタに侵攻を企てているという正確な情報が発信されている。
「こちらへむかっていると言っていますが、どこにちゃっかり便乗していることやら。いずれにしても、アトラスの傷跡の占領支配は今では難しくなりましたから、どさくさに紛れてなんとかゴアドー島のゲートの実効支配を……無理かなあ……」
まあ、なんとかなるだろうと、天樹十六凪は、ゴアドー島にむかって急いだ。
同じ放送は、今回の件に関わっていた者たちにも即時伝わっていた。ゴアドー島にいるリネン・エルフトのアイランド・イーリが中継局となって、関連各艦に情報のリンクを構築している。
「ようし、ゴアドー島だな。まったく、寄り道しすぎたぜ」
イルミンスールの森を探索し、いったんアトラスの傷跡に戻ろうとしていた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が、大型武装ヘリ【鶺鴒】をゴアドー島へとむけて速度を上げた。
同様の情報は、アイランド・イーリとの合流を急いでいるジェニー・バール(じぇにー・ばーる)とジャン・バール(じゃん・ばーる)のル・アンタレス号にも届いていた。パラミタ内海での海賊との会戦で損傷したため、その修理と弾薬の補充をすでに済ませている。その戦いは単なる消耗戦でしかなかったが、今回は敵本隊との決戦である。
「時間がないな。急ぐぞ」
ジャン・バールが、ル・アンタレス号の速度を上げた。
First Previous |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
Next Last