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リアクション
★ ★ ★
「すでに、状況は始まっているようですな」
送られてくる膨大なデータを見て、巡洋戦艦アルザス艦長フランソワ・ポール・ブリュイ(ふらんそわ・ぽーるぶりゅい)が言った。未だメイン機関は出力が上がらず、かろうじて補助機関で航行している状態だ。
「仕方ないよね。ボクたちはEsprit Mで先行して救助にあたるよ。行こう、おサトちゃん」
「うん」
黒乃 音子(くろの・ねこ)にうながされて、長曽禰 サト(ながそね・さと)が元気よく返事をした。
「この状況を、パラミタにいる国軍にも連絡して。ちゃんと備えてもらおう」
黒乃音子が、フランソワ・ポール・ブリュイに指示をすると、格納庫にあるフィーニクスタイプのEsprit・Mへとむかった。
「アストロラーベ号にも先行してもらいましょう。戦力を無駄にはできませんからな」
そう言うと、フランソワ・ポール・ブリュイが、フラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)にその旨を告げた。同時に、パラミタへの直接通信を試みようとするが、長大な空間を隔てたパラミタとの直接通信手段は存在しない。唯一可能であるのが、ゲート間の超空間通信だが、重力波通信を使っているだろうことしか分からない機器はオーバーテクノロジーで、ゲート以外に搭載されてはいなかった。当然、巡洋戦艦アルザスにもそのような機器は存在しない。開発さえされれば、優先して装備予定という、今のところは絵空事である。
そのため、中継基地との光通信を試みたフランソワ・ポール・ブリュイではあったが、こちらも中継基地に受光機器が存在しないのではまったく役にたたない。なまじ、最新のハードウエアに頼ると、互換性に悩まされることとなる。受ける者のことを考えなければ、何ごとも役にはたたない。そのため、今はアストロラーベ号の通常通信機器に頼るしかなかった。
「了解したわ。本艦は、先行して人命救助を行うよ」
「牽引ロープ排除!」
うなずくフラン・ロレーヌと目と目で会話を交わし、フルリオー・ド・ラングル(ふるりおー・どらんぐる)が巡洋戦艦アルザスとの牽引ロープを外した。そのまま、遺跡へと急行する。
「状況を、中継基地に発信……。なんとか、パラミタへ伝えてもらえるように依頼します」
問題なく中継基地に受信まではしてもらったわけだが、すでに判明しているように、パラミタとの通信は途絶状態にあった。
「ル・アンタレス号に連絡ができないじゃん」
「レーダーに、僚艦の反応? これは、ラ・ソレイユ・ロワイヤルでしょうか?」
フラン・ロレーヌが困っていると、フルリオー・ド・ラングルがレーダーを見て言った。
「どうして、こんな所に……。ちょうどいいわ、合流して作戦に参加するように言って」
渡りに船と、フラン・ロレーヌが言った。
★ ★ ★
「この船は、資料艦であって、実務艦ではないんどすが……」
豪奢な上質のソファに寝そべって紅茶をたしなんでいたルイ・デュードネ・ブルボン(るいでゅーどね・ぶるぼん)が、困ったように言った。きらびやかなシャンデリアにタピストリーなど、まるで船室には見えないが、これでもラ・ソレイユ・ロワイヤルの操舵室である。艦の外装も、無意味に箔が張られてキラキラと輝いていた。
ちょっと気晴らしに、資料艦を動作チェックと称して個人的に乗り回していただけなのであった。
「仕方ないどす。見つかってしもうた以上、やることはやりますえ」
やれやれと肩をすくめると、ルイ・デュードネ・ブルボンが遺跡の方向へと進路を変えた。
★ ★ ★
「まったく、なんでこんなお荷物まで……」
スフィーダタイプのロイヒテン・フェアレーターFの手に乗った国頭 武尊(くにがみ・たける)をモニタ越しに見ながらザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)がぼやいた。
遺跡の北ブロックに突入した新風燕馬を救出に来たはずだったのだが、ついでによけいな物まで助けてしまったらしい。
「まあまあ、そこまで言うな。一応味方だからな」
メインパイロットシートに座った新風燕馬が言った。メインパイロットが新風燕馬だったから、国頭武尊は放り出されないですんでいるのかもしれない。
「とりあえず、リューグナーに連絡だな」
「誰、それ?」
初めて聞くリューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)の名に、ザーフィア・ノイヴィントが聞き返した。
「ええっと、言ってなかったか……。新しいパートナーだ」
「何、それ。全然聞いていないのだよ。新しいパートナーだと言うなら、紹介してくれてもいいんじゃないかい?」
「ダメだ。お前らがあの女と関わったら、間違いなく俺にとってロクでもないことが起きる」
「それは、ぜひ会わなくてはな」
新風燕馬の言葉は、ザーフィア・ノイヴィントにとっては逆効果のようであった。
「今は、その話は後だ」
そう言って、新風燕馬は話をはぐらかせた。その間に、ニルヴァーナ創世学園にいるリューグナー・ベトルーガーに連絡をつけた。さっそく、謎の遺跡のことを聞いてみた。ポータラカ人であるリューグナー・ベトルーガーであれば、何かを知っているかもしれないと思ってのことだ。
「ニルヴァーナにある艦隊基地? はて、聞いたことがありませんわ」
遺跡のことを訊ねられて、リューグナー・ベトルーガーが答えた。ポータラカ人だからと言って、ニルヴァーナに関してなんでも知っているというわけではない。
「とりあえず、何か思い出したら教えてさしあげますわよ。それより、いつになったら、わらわのことを、他のパートナーに紹介してくださるのですか?」
「……この件が終わったら、皆に紹介する。早くてもクリスマスすぎだな。ただし俺の指定した奴だけだからな、それ以外の奴には会いに来るなよ?」
いやに力を込めて、新風燕馬がリューグナー・ベトルーガーに念押しした。
「そなた、わらわをタチの悪い病原菌か何かと思ってませんこと……?」
「さあ」
またもや、とぼけるしかない新風燕馬であった。
「まあ、いいですわ……」
何か悪いことを思いついたらしく、陰でニヤリと笑うリューグナー・ベトルーガーであった。
★ ★ ★
そのころ、国頭武尊は、テレパシーで猫井 又吉(ねこい・またきち)と交信していた。
『――そうか、じきにフリングホルニに着くんだな。脱出する前に連絡しておいてよかったぜ。それで、新型は持ってきているんだろうなあ』
『――任せとけって。俺に抜かりはないぜ!』
からからと笑いながら、猫井又吉が言った。高笑いが国頭武尊の頭の中で響いて、ちょっと頭が痛い。
『で、ブルタの奴も連れてきたんだろうな』
戦力になるからと、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)もついでに拾ってくるようには言っておいたのだ。
『――そ、それがよお、ゲートで通信障害が起こったからってんで、その場に残ったんだ。連絡が必要だろうとか言っててなあ』
『――なんだ、役にたたねえなあ。仕方ねえ、その分は又吉に働いてもらうとするからな』
『――任せとけや!』
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