リアクション
遺跡内の攻防 「なんか、キラキラしていて綺麗だなあ……」 イレイザー・スポーンに寄生され、シームレスなメタリックシルバーの船体のあちこちに銀色の結晶体を生やしたヴィマーナの艦隊にうっとりと見とれながらアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)がつぶやいた。 今、アキラ・セイルーンとアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が乗っているのは、ジャイアントピヨの背中に背負われたランドセルのような操縦ボックスだ。もっとも、操縦と言っても、背中であれこれ命令するだけではあるが。 キラキラと多面体に光を反射して輝くヴィマーナは、異質な幾何学的美しさでアキラ・セイルーンの目を奪っていた。それらが、遺跡の西側から隔壁を越え、アキラ・セイルーンたちの上を通ってゲートの中へと次々に飛び込んでいく。 重低音でジャイアント・ピヨの羽根を振るわせながら、ヴィマーナの巨体が頭上を通りすぎていった。それを追いかけるようにして、味方のイコンからの攻撃が空間を飛び交ってあちこちで爆発を起こしていた。大破したヴィマーナの一隻が、ゲートまで達せずに遺跡内に墜落して大破する。 「何をぼけてるネ。すぐに、攻撃するヨ」 ぼけているアキラ・セイルーンの頭を、アリス・ドロワーズが蹴っ飛ばした。 「ピヨ、攻撃するのデース!」 「ピヨ!!」 ジャイアント・ピヨが一声鳴いて、口からレーザーを発射した。直撃を受けたヴィマーナの結晶体が砕け散る。 「ようし、どんどんいっけー、ピヨ。後は任せた」 ちょっと面倒くさげに、アキラ・セイルーンがピヨに命じた。 ★ ★ ★ 「これ以上、ゲートに入らせるわけにはいかない!」 東格納庫にいた斎賀 昌毅(さいが・まさき)が、叫んだ。 「しかし、どうすれば……。マイア、敵への効率のいい攻撃方法はないか? とにかく、数を減らさないと話にならない!」 フレスヴェルグでむかってくるヴィマーナをビームアサルトライフルで攻撃しながら斎賀昌毅が唸った。戦艦相手にちまちま攻撃していても、なかなか埒が明かない。 「おっきな敵の倒し方ですか? うーん、とりあえず、たくさん巻き込む形で前の方のを攻撃すればいいんじゃないでしょうか。位置は、敵前方が最適です」 「あそこか!」 マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)に言われて、斎賀昌毅がフレスヴェルグを飛翔させた。真一文字にゲートシステムへとむかうと、その表面装甲を足のクローで破壊してガッチリと掴んだ。上下逆さになりながらも、しっかりと機体を固定してバスターライフルを構える。 この位置では、さすがに敵も砲撃はしてこないだろう。ゲートの破壊は、敵も避けるはずであった。 「よし、心の安らぐ呪文を……」 「早く撃ってください!」 スナイプのために心を落ち着かせようとする斎賀昌毅を、マイア・コロチナが急かした。 先頭のヴィマーナの機関部……らしいと思ったところをバスターライフルで狙撃する。なにしろ、ヴィマーナの外観からは、ブースターノズルのような物が確認できない。おそらくは、純粋に機晶エンジンの推進力だけで進んでいるのだろう。 船体後部をバスターライフルの一撃で貫通されたヴィマーナがぐらりと傾いた。推力が落ち、後続のヴィマーナと接触する。大きな衝突音と共に、銀色の結晶体が周囲に飛び散った。 「よし、うまくいったか」 「だめみたいだよ」 やったかと喜ぶ斎賀昌毅に、マイア・コロチナが言った。 直撃を受けたヴィマーナは降下して床に激突したが、接触した後続のヴィマーナは姿勢制御を取り戻し、加速してゲートに突入していった。表面に寄生していたイレイザー・スポーンが緩衝材となって、船体の損傷を最小限に抑えたらしい。 「構わずに、続けて攻撃行くぞ!」 「待って、敵!」 第二射を構える斎賀昌毅に、マイア・コロチナが注意をうながした。ゲート表面に、突如として結晶体の柱が突き出してきたのだ。どうやら、外部装甲板を突き破って、内部から生えてきているらしい。フレスヴェルグの足許からも柱が突き出してきて、ゲートから叩き落とした。 「ゲートにも寄生していたか!」 クルリとフレスヴェルグを回転させると、斎賀昌毅がフローターを制御して床に着地した。 頭上にあるゲートの結晶体のいくつかが砕ける。その中からタンガロア・クローンが飛び出してきた。もともとのタンガロアはかなり巨大なイコンだが、コピーされたこのタンガロア・クローンはMサイズにまで小型化されている。もとは灰色の機体だが、今はあちこちを水晶状の突起物と化したイレイザー・スポーンに寄生されており、銀色にキラキラと凶悪に輝いていた。 「そんなのありか!」 素早くアサルトライフルに持ち替えると、斎賀昌毅は降下してくるタンガロア・クローンにむけてビームを撃ちまくった。 ★ ★ ★ 「そうか、そのヴィジョン、気になるな」 エンライトメント、もといグレートとわのカナタちゃんに送り届けてもらった緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)からサイコメトリの結果を聞かされていた。 「確かに気になるな。確かめるか」 パワードスーツ・フィアーカー・バルの中から、トマス・ファーニナルが答えた。フィアーカー・バルは大きく張り出した肩の間に頭部センサーユニットが埋まったような、重装パワードスーツだ。 先ほどエンライトメントが開けた穴から脱出すると、母艦に変化が現れた。穴の中からイレイザー・スポーンの結晶柱が次々と突き出してきたのである。まるで、傷口をふさぐかのように、それらはあっという間に穴を埋め尽くした。同時に、母艦が浮遊を始める。 「早く中へ!」 トマス・ファーニナルが、緋桜ケイと悠久ノ カナタ(とわの・かなた)をエンライトメントのコックピットに押し込んだ。バランスを崩したエンライトメントとフィアーカー・ベルが母艦から転げ落ちる。 「進入路割り出せるか?」 トマス・ファーニナルが、遺跡の外で待機しているフィアーカーの魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)に連絡をとった。 『そちらの映像からでは、すでに突入口はふさがれて使えませんね。気をつけてください。敵はイレイザー・スポーンに寄生されています。くれぐれも取り込まれないように』 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)の撮影した画像を解析した魯粛子敬が、トマス・ファーニナルたちに無茶はしないようにと釘を刺した。 同タイプのパワードスーツを装着したテノーリオ・メイベアとミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)と共に、トマス・ファーニナルは母艦タイプの円盤型ヴィマーナにとって返そうとした。 「こちらもむかうぞ」 その後を追うように、悠久ノカナタがエンライトメントをジャンプさせた。 「今一度、外壁を破壊して突入口を作るぞ」 悠久ノカナタが、新たに母艦の上に現れた結晶柱を薙刀で薙ぎ払った。砕け散った結晶体が宙を舞う。その破壊跡から突入しようとトマス・ファーニナルたちがパワードスーツで迫った。だが、いったん破壊されたかに見えた結晶柱が、みるみるうちに成長し直してその行く手を阻む。 「待って。再生してる!」 あわてて急制動をかけたミカエラ・ウォーレンシュタットが、パイルバンカーシールドを構えた。制動をかけるかのように、その先端を結晶柱に撃ち込んだ。大穴が穿たれるものの、またそこから結晶柱が生えてきて、再生した敵がより複雑な形となる。 「きりがないぜ!」 ギロチンアームで結晶柱を打ち壊しながら、ミカエラ・ウォーレンシュタットが叫んだ。 「下がってくれ。イコンで大穴を……」 緋桜ケイが、トマス・ファーニナルたちを下がらせて薙刀を中央部に突き入れた。そのとき、母艦がクルクルと回転を始める。薙刀の先端があっけなく折れ、ヴィマーナ表面に乗っていたエンライトメントとフィアーカー・ベルが遠心力で弾き飛ばされた。無理に留まろうとすれば、表面に突き出した結晶柱に、側面から突き刺されてしまいそうだ。 いったん床へと降下したエンライトメントとフィアーカー・ベルに、頭上からヴィマーナ母艦下部に突き出た結晶柱が、ミサイルのように発射された。 『いったん下がってください。撃墜せずに中に入るのは、危険です』 さすがに、魯粛子敬が警告を発する。 「仕方ない、いったん下がるぞ」 マジックカノンで結晶ミサイルを迎撃して自身とパワードスーツ隊を守りながら、悠久ノカナタが言った。敵を遠ざけたヴィマーナ母艦が、味方艦やイコンに守られつつ、ゆうゆうとゲートの中へと姿を消す。 「まだ、中にあの剣の花嫁たちがいるかもしれないのに、助け出せないのか……」 悔しそうに、緋桜ケイが言う。 「うむ。あのブリッジの形状、以前イルミンスールの森にあった巨大イコンに酷似していたが。もしまだ生きていて、助け出せたとすれば、いろいろと聞きたいことがあるのだがな」 「まだ、諦めるには早いさ。撤退命令も出ている。フリングホルニに戻って後を追おう!」 緋桜ケイに言われて、悠久ノカナタがいったんエンライトメントを遺跡から撤退させた。 |
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