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リアクション
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「待て待て待て! 止めは、俺の物だって!」
このままでは美味しいところを持っていかれると、猫井又吉が敵母艦にむかって渾身の無尽パンチを放った。
機体制御を失っていた敵母艦が、ヤークトヴァラヌス百式に押されて回廊の内壁バリアに追いやられていった。そのまま、バリアに激突する。
「やったぜ、猫吉!」
これで、俺たちが一番手柄だと、国頭武尊が喜んだ。
だが、敵の母艦は、その後、思いもよらない変化を遂げていった。
激しくバリアと接触するうちに、ついにバリアの一部が破れた。外の世界の物質のような黒い影がヴィマーナ母艦をつつみ込む。銀色の円盤型ヴィマーナがみるみるうちに黒く変色していった。各艦の攻撃で受けた損傷部分が、不気味に脈動し始める。
回廊のバリアにこれ以上損傷を与えることを避けたフリングホルニ艦隊が攻撃をいったん控えると、母艦は内壁を離れていった。
「あれは、何をしているのです」
その様子を見たエステル・シャンフロウが、見ている物を信じられずに叫んだ。
母艦が、周囲に漂っているヴィマーナの破片を、黒い触手のような物をのばして集め始めたのだ。
まるで軟体の生き物のように、母艦がヴィマーナの破片を集めると、それを自分の船体に押しあてていく。すると、その破片が黒く変色して母艦に取り込まれていくのだった。まるで、周囲のヴィマーナの死体を捕食して、自らの血肉としていっているかのような、不気味な光景であった。
★ ★ ★
「みんな、何をぼうっとしているのよ」
唖然として一同の攻撃の手が止まっている中、カタパルトに上がったシルフィスティ・ロスヴァイセだけが一人敵意をむきだしにしていた。
「ちょっと工夫すれば、私だって質量兵器の一つぐらい……」
そう言うと、シルフィスティ・ロスヴァイセが、アブソリュート・ゼロで作りだした氷壁の塊を、氷塊の砲弾としてカタパルトに載せた。
「撃ち出しなさい!」
フィールドカタパルトのオペレータを半ば脅して、シルフィスティ・ロスヴァイセがその氷塊を母艦にむかって砲弾として撃ち出させる。
けれども、当然のこととして、そんなあてずっぽうの攻撃にたいした精度があるはずもなく、明後日の方向に飛んでいった氷塊は、加速に耐えきれずに崩壊して消えていった。
だが、この攻撃に、一同が衝撃から立ちなおって攻撃を再開した。
★ ★ ★
「分かりました、この回廊の出口が。ゴアドー島です!」
突然フリングホルニのブリッジに駆け込んできたコレット・パームラズが叫んだ。
急に御神託が下りてくる気がして、ずっと医務室で瞑想していたのだ。その結果、分かったのが、この回廊の出口であった。
「それは、予想の一つではあったが。どうやら、確実だと考えてもよさそうだな」
漠然とした御神託なら疑いもしようが、いくつかに絞られた選択肢の一つを御神託が示したのであれば、これは可能性がかなり高い。
「そこで、俺に提案があります」
コレット・パームラズにつき添ってきた天城一輝が、エステル・シャンフロウに具申した。
先ほどのシルフィスティ・ロスヴァイセの無茶な行動に似てはいるが、天城一輝がフリングホルニのフィールドカタパルトで撃ち出そうとしているのは、自分が乗った小型飛行艇アラウダであった。
「これを使って、弾道軌道で敵艦隊を突破し、ゴアドー島のゲートからパラミタに危機を伝えます。それによって、ゲートの外で攻撃の布陣をすれば、ヴィマーナがパラミタに現れたとしても、即座に撃墜できるはずです」
「それは却下だな」
一言で、グレン・ドミトリーが天城一輝の言葉を退けた。
「危険すぎます。そんな場所に、あなたを行かせる命令は出せません」
エステル・シャンフロウも、許可を出さない。
「回廊は、まっすぐに見えてはいるが、その保証はない。空間自体が湾曲している可能性もあり、弾道軌道で撃ち出したとしても、内壁に接触する可能性の方が大きい」
デュランドール・ロンバスが説明した。
「バリアであれば、高速で接触すれば弾かれるでしょう。ほら、水面に石を投げたときに跳ねる、水切りの要領です」
なんだか、自信満々で天城一輝が答えた。それを聞いたとたん、デュランドール・ロンバスがちょっと呆れた顔をする。
「あれが見えていないのか? バリアに触れた敵の母艦は、あんな化け物に変質してしまったのだぞ。それ以前に、バリアに接触した敵艦はすべて爆沈している。バリアの性質を水と同じなどと考えるのは愚かだぞ。どのような性質のバリアでも、人間が接触してまったく影響がないわけではない。それに、出口が目視できなければ、弾道軌道の軌道計算すら難しいのではないのか?」
ブラックバードを通じて、スフィア・ホークが随時観測している回廊の座標データをリカイン・フェルマータに表示させながらデュランドール・ロンバスが言った。なんにしても、この回廊は未知の部分が多すぎる。
そう言われては、天城一輝としても強行に持論を押し通すことはできなかった。
「ゲートまででなくとも、例えば敵イコンに突撃して乗り込むにしても、小型飛空艇では機体も乗る人間もとても耐えられないだろう」
「なら、イコンならいいのであるな」
デュランドール・ロンバスの言葉を聞いて、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が口をはさんできた。
ブリッジの片隅で裏金融仮営業所貸付窓口を勝手に開設していたのだが、今の話にとても興味を引かれたらしい。
「ちなみに訊ねるが、敵母艦を倒せば特別報償とかが……」
「あるかもしれないな」
断定はせずに、デュランドール・ロンバスが答えた。
言質はとった!
言質は与えん!
思いっきり、両者の思惑がすれ違う。
「ちょっと、出かけてくるのだ!」
そう言うと、リリ・スノーウォーカーがブリッジから走りだしていった。