リアクション
● 「でえええぇぇりゃあぁぁッ!」 気合いを叫んだ青白磁の拳がめり込み、ブラックドラゴンはふき飛ばされた。 「ギャオオオオォォォ!」 ズドオオオォォン! 巨大な身体をしているブラックドラゴンが地面に叩きつけられたその直後、 「セルフィーナ! 準備はいい!?」 「いつでもどうぞ。わたくしたちの力を見せてさしあげましょう」 詩穂とセルフィーナの二人が互いの呼吸を合わせて跳躍した。 まずは詩穂が精神を集中させる。と、瞬時に、槍の先に輝きが集まった。 魔法の輝きである。満ちた魔力が、光を放っているのだ。 「くらええぇぇっ!」 グォンッ! 詩穂はその魔法の光を撃ち放つ。 次いで、セルフィーナが槍を振りかぶった。 「――フッ!」 光の魔法がドラゴンに当たるや、セルフィーナの槍が斬撃を放つ。 ズシャアアアアアアアアァァァァ! 輝きと刃の二対が、一瞬にしてドラゴンの身を切り裂いた。 「青白磁!」 詩穂が呼びかける。 「おう、任しとくんじゃ!」 ダメージを受けて動きが鈍っているドラゴンに、青白磁が飛びかかった。 「どおりゃあああぁぁぁ!」 超高度から反転。 ドゴオオオォォォォン! 垂直落下の跳び蹴りが、ドラゴンの背中の鱗に直撃した。 「や、やったか……?」 青白磁たちは伺うような目でドラゴンの様子を見た。 ぐるるるる…… 唸りをあげていたドラゴンは、必死に起き上がろうとするが。 しかし、重傷である。ズドォンッ……と、ドラゴンはそのまま倒れ込み、動かなくなった。 「よっしゃあああぁぁぁ!」 「やったっ! ドラゴンを倒したわっ!」 青白磁と詩穂が喜び、セルフィーナはほっと息をついた。 「これでブラックドラゴンの心配はなくなりましたね。すこし……かわいそうな気もしますが」 「大丈夫よ。命までは奪ってないんだから、きっとしばらくしたら元気になるわ」 「そうじゃな。ドラゴンの治癒能力は半端じゃないんじゃ! こやつなら、しっかり回復するじゃろう!」 そう言って、勝利を喜び合う三人。 「あ、そういえば……クドゥルは?」 「おお、そうじゃ! ルカたちはどうしてるんじゃ!?」 「それが……」 振り返った三人が見たのは、階段の下で対峙しているクドゥルと仲間たちだった。 ● クドゥルの放った剣を、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が受け止めた。 彼の持つブリリアントシューターが剣とぶつかり合ったのだ。 そのまませめぎ合いをしている最中、呼雪がふいに声をこぼした。 「どうした? 太刀筋が鈍ってきているぞ」 「……!?」 クドゥルは動揺して一瞬だけひるんでしまった。 が、その隙を突かせまいと思ったか。黒き風がうなりをあげ、呼雪を襲う。 「チッ!」 二人は互いに弾き合うように離れ、距離を取った。 「大丈夫? 呼雪」 ルカが心配そうに声をかける。 「ああ、大丈夫だ……」 呼雪はそうつぶやきながら、クドゥルを見つめていた。 「クドゥル! あなたは迷いなんてないと言ったわね!」 ルカは剣を切っ先をクドゥルに向けて、言い放った。 「それがどうした……」 「そんなのは嘘よ! あなたは誰よりも迷ってるはず! 今の自分が正しいのかどうか!」 「嘘ではない!」 クドゥルはまるで逆鱗に触れたようにわなわなと震えていた。 「私はアダム様のために生きることを誓ったのだ! それが迷いなど……そんな、くだらぬものをっ!」 「本当にくだらないかどうかは、あなたが一番よく分かってるんじゃないのか?」 言ったのは、毅然とした目でクドゥルを見つめるダリルだった。 「なにっ……?」 「本当にくだらないと思えるのなら、あなたは俺たちの一人ぐらいはすでに致命傷を与えてるはずだ。俺には、あなたが本気で戦ってるとは思えないな。“黒き風”の動きも、鈍っている」 「バ、馬鹿な……っ! そのようなことは……」 しかし、言いながらもクドゥルは動揺を隠せないでいた。 実際、ルカたちは以前戦ったクドゥルの実力の半分程度しか彼の力を感じていなかったのだ。 「あなたは……いや、あんたは本当は望んでいるんじゃないのか? アダムが倒されることを」 呼雪がたずねる。クドゥルは激情して叫んだ。 「ち、違うっ! 私はあの方の理想についていくことを決めたのだ! 倒されることを、望むなど……」 「あんただって、もう本当は分かってるんだろ! アダムがやろうとしているのは理想の世界の創造なんかじゃない! ただの破壊だ! そりゃ、最初は違ったかもしれない! あんたにだって、アダムにだって、自分が信じるものがあったんだろ! だけど、そんなものはもうとっくに消えてしまってるんだ! 無転砲が発射されたら、そこにはもう何も残らない! そうして全部ぶち壊すのが、あんたのいう理想なのかよ!」 「わ、私は…………」 クドゥルは歯を食いしばった。 「クドゥル君、ちょっと見てみなよ」 そのとき、ふと後ろを見ながら言ったのはヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)だった。 彼の視線の先にいたのは、ようやく目を開けるぐらいの意識は取りもどしたブラックドラゴンだった。 介抱する詩穂、青白磁、セルフィーナの三人に囲まれるドラゴンは、穏やかな目で主人を見つめている。 「君の言う理想には、あの子だってきっと含まれているんだろう? 誰もが命を全うしてる。それを奪うことは、本当に素晴らしいことなのかい?」 「誰もが、命を……」 「ねえ、クドゥル……ルカは前にも言ったよね? みんな、少しずつ積み上げてきたものがあるんだって。その結果に、現在(いま)があるんだって」 「…………」 「きっと壊していいものなんて、一つもないよ。だから、少しずつでいいから、一緒に積み上げていこう?」 ルカはそう言って近づくと、そっとクドゥルに手を伸ばした。 クドゥルはその手を掴んだ。初めて触れる感触に、温もりが感じられた。 「浮遊大陸はなくなったけど、浮遊島に生きてる人たちがいることが、なによりの証拠。人って、あんがいしぶといものでしょう?」 くすっと笑ったルカに、クドゥルも同じように微笑んだ。 「そうだな……」 と、そのときである。 パンパンパン! 手が打ち鳴らされて、ダリルが割って入った。 「はいはい、お二人さんその辺で。まだやることは残ってるんだからな」 「あ、そっか! アダムっ!?」 「そうだ。肝心のヤツが残ってる。……クドゥル、いきなりで悪いが、アダムの弱点はわかるか?」 「アダム様のか……」 クドゥルは顎に手をやって考え込んだ。 「アダム様は培養槽で再生を遂げたばかりだ。おそらく、まだ身体機能が完全ではない。そこにつけ込む隙はあるかもしれん」 「身体機能が完全じゃないって……どういうことだ?」 呼雪がたずねると、クドゥルは彼に振り向いた。 「アダム様の身体の再生には機晶石の力を利用している。本来はそれはアダム様と一体化してしまい、形は残っていないはずだが……いまはまだ一体化の前段階のはずだ。あるいはその機晶石を破壊すれば……」 「アダムを、倒せるかもしれないっ!?」 ルカが嬉々として声を張り上げた。 「そういうことだ」 「それじゃあ、急ごう! 詩穂っ! ドラゴンのことは頼むね!」 階段に向かおうとする途中で、ルカはブラックドラゴンを介抱している三人に呼びかけた。 「任せといて、ルカちゃん! それにクドゥルちゃん! ドラゴンは必ず詩穂たちが保護するから!」 そのとき、クドゥルが人知れずほっと息をついたのは言うまでもない。 「さあ、ベルネッサたちのもとに行くぞ!」 ダリルが呼びかけて、彼らは一気に階段を駆け上がっていった。 |
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