リアクション
● 螺旋階段を昇っていった先。 広間に出たベルネッサたちを出迎えたのは、白き騎士の集団だった。 「これは……」 「あいつら、以前にも飛空艇に来た……」 湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が過去のことを思い出しながらつぶやいた。 そう。白き鎧のようなものに身を包む彼らは、飛空艇に乗り込んできたときにベルネッサを狙ってきた者とまったく同じなのだ。 と、身構えるベルネッサたちに向けて、白き騎士は一斉に襲いかかってきた。 「くっ……!」 ズガアァァァン! とっさに飛び退いた凶司のいた地面を、騎士の拳がえぐった。 「ひぇ〜! なんちゅう力だよ、こりゃ……」 「キョウジ! どいて!」 「邪魔よ、凶司!」 冷や汗をかく凶司に言って、エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)とディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が飛びだした。 「邪魔ってひどいなぁ……」 不満を口にする凶司を無視して、二人はそれぞれに槍と剣を振りかぶる。 「はあああぁぁ!」 ドゴオオォォォォ! すさまじいパワーと共に、刃は先頭にいた一体の白騎士を襲った。 隙を突いて、別の白騎士たちが襲ってくるが、それを二人は察知する。 シャッ! 騎士の攻撃は、一瞬で飛び退いた二人の空間を切り裂くだけにとどまった。 再び膠着状態に陥るベルネッサたち。 と、そのときである。 「みんなっ!? これを見て!」 叫んだのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だった。 彼女が見下ろしていたのは、先ほどエクスとディミーアが倒した白騎士だった。 しかしいまやその頭部を覆っていた兜は割れ、その顔が明らかになっている。 「これってっ……!?」 ベルネッサたちも白騎士の顔を見て目を見開いた。 その顔はどこからどう見ても、人間のそれだったのだ。 「いったい、どういうこと……?」 「騎士よ……今は亡き、クォーリアの騎士たち……」 「イブっ!?」 呆然とつぶやいたベルネッサたちに答えたのは、哀しみを瞳に宿したイブだった。 「…………どういうこと?」 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が問いつめるようにたずねる。 イブはそれに殊勝な表情で答えた。 「彼らはかつて私たちの仲間だった騎士たち。死してなお、機晶石の力でアダムに操られる存在。それが、白騎士なのよ」 「死してなお……操られている存在……」 セレアナが考えこむようにつぶやく。 「そんな、それじゃあ……あたしたちは父さんの仲間と戦ってたってことなのっ!?」 ベルネッサは愕然とした表情のまま叫んだ。 「…………」 イブはそれに静かにうなずいた。 (白騎士が、父さんの仲間だった人たち……? でも、それじゃあ……) ベルネッサの目は身構える白騎士たちを見つめ、一瞬だけひるんでしまった。 「ベル? ベル、いったいどうし……」 凶司が呼びかけた。その瞬間である。 「まずいっ!?」 ドゴオオオォォォ! 呆然とするベルネッサに狙いをつけた白騎士たちが、一斉に飛びかかってきた。 「セレンっ! エリス! ディミーアっ!」 ベルネッサの傍にひざをついた凶司が、決死の声で叫ぶ。 「分かってるわよ! そう慌てなさんなって」 「そうそう。キョウジってば、ボクたちをもっと信用して欲しいなぁ」 「二人とも、茶化してる場合じゃないわよ!」 三人は凶司の呼び声に応えるように飛びだし、白騎士たちをぶつかり合った。 ガィンッ! ドゴォッ! ザンッ! 槍が、拳銃が、剣が、白騎士の身を切り裂き、貫く。 「ベル! ベル、しっかりっ!」 呆然としているベルの肩を、凶司が揺さぶった。 「ベルっ! ぼうっとしてる暇はないですよ! 戦わないと、こっちがやられる!」 「……でも、相手は元々味方だったんだよ? 父さんの仲間だったのよ!?」 ベルネッサは思いのたけをぶつけるよう叫んでいた。 「父さんの無念を晴らすため。クォーリアの騎士たちの無念を晴らすためにも、ここまで来た……。それなのに……それなのに……天上人たちを守っていたあの人たちと戦えって言うのっ!」 「ベル……」 「そんなこと、あたしには出来ない! あたしは、あの人たちと戦うためにここまで来たんじゃない!」 ベルの目には、白騎士の姿は別のものに見えていた。 兜が破れ、死体の顔をさらす男の姿は――父の亡骸に。 もちろん自分でもそれがおかしいことだとは分かっているが、彼女には父自身を殺そうとしているように思えてならないのだ。 (父さん…………) 父の形見である“アマル”と呼ばれる長銃を、彼女は抱きしめた。 そのときである。 「あーあ、ベルも意外と子どもだったのねぇ」 いきなりそう言ったのは、すぐ横で瓦礫に座り込みほおづえをつくセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)だった。 「な、なんですってっ!?」 ベルネッサは顔を真っ赤にして怒鳴る。 セラフはしかし意に介さなかった。 「だってぇ……こんなこと言ったらナンだけど、向こうはもう死んでるのよ? 薄情かもしれないけど、邪魔するならぶっ飛ばす。それが礼儀ってもんじゃないのぉ? 地球にいた頃のベルなら、そうしてたと思うけど」 「そ、それは……」 「そりゃ、あなたの気持ちも分からないではないけどね。でも、それでも前を目指していくベルのほうが、あたしは好きだったかな」 そう言って、セラフはすっくと立ちあがった。 「やる気があるなら、ついてきなさい。そうじゃないなら、逃げたほうがマシよ? この場にいて戦えない弱虫さんは、邪魔なだけだしね」 セラフは長銃を手に白騎士たちのもとへと駆け出していった。 その長銃はベルネッサと同じタイプのものである。 ベルネッサは震えながら彼女の背中を見つめていた。 (感動してるのかな? セラフもたまには良いこと言うじゃん) 凶司は嬉しそうに微笑んで、彼女に声をかける。 「ベル……」 しかしその顔が、次の瞬間にはぎょっとなった。 「あんのクソ女ぁ〜! 誰が邪魔ですってぇ!」 ベルネッサは感動ではなく、怒りで震えていたのだ。 「………………」 呆然とする凶司。その目の前で、ベルネッサは長銃にガチャッと弾を込めた。 「行くわよ凶司! セラフに目に物見せてやるんだから!」 「は、はいっ!」 ベルネッサに睨みつけられて、凶司は慌てて彼女の後についていく。 その途中、彼はふと思ったのだった。 (コレもある意味……セラフの励まし方なのかな?) |
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