リアクション
終章 花の丘
とある浮遊島の丘の上。
黄色や赤や白といった、色鮮やかな花が咲きみだれるその丘に、ベルネッサはいた。
彼女は花束を抱えていた。目の前には三つの墓がある。
一つはアダム。一つはヘセド。そしてもう一つは――イブの墓だ。
「それにしてもイブがまさか、機晶石で生きていたなんてね」
ベルネッサの後ろにいたフェイがつぶやいた。
「アダムが死んだら、自分も役目を果たしたとかいってぽっくり逝っちゃうんだもん。なんか不思議な感じ……」
「彼女は自分が冷凍睡眠装置で生きながらえてたって言ってましたけど……もしかしたらそれは違うのかもしれませんね」
凶司がフェイに返答するように言った。
「どういうこと?」
「つまりまあ、言い訳というか……本当は機晶石で仮初めの身体を手にしていただけに過ぎなかったけど、それを誤魔化すためというか……そんなところです」
「機晶石には魂があるっていうこと?」
「それは……どうかわかりません。でも、そういう研究レポートもあるので、あながち不思議ではないかな、と」
「ふぅん……ねえ、ベルはどう思う?」
フェイに呼びかけられても、ベルネッサは振り返りはしなかった。
ただじっと、父と、その左右の二つの墓を見つめているだけだ。
「さあ、どうかな……わかんないや」
「まあ、そりゃそうだよね」
「でも、そうだったら少しは救われるのかもしれない。詳しいことはわからないけど、きっとアダムもきっかけは彼女のために戦うことだったんだと思うから」
「…………噂によると、イブさんはクドゥルさんや他の風を操る騎士たちと同様に、機晶石実験の被験者になっていたみたいですね」
「それで、死んじゃった?」
「憶測の域を出ませんけど」
凶司がそう言うと、風が吹いた。
ベルネッサは風に巻かれぬよう髪を片手で抑えながら、花束をお墓の前に置いた。
目を閉じて、激戦を振り返る。