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エンジェル誘惑計画(第2回/全2回)

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エンジェル誘惑計画(第2回/全2回)

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第4章 荒ぶる鋏


「いよっしゃ! 見っけたぜ!」
 薔薇の学舎の大きな園芸倉庫の中で、蒼空学園生徒のレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は目的の物を見つけていた。園芸作業で使う大きな鋏(はさみ)だ。
 校内のいたる所に薔薇が植えられた薔薇の学舎だけに、たくさんの園芸鋏がある。レイディスはそれを、グループの仲間の人数分持ち出す。
「悪ぃ、ちょっと使うんだ。コレ借りてくぜっ!」
 表で罠を設置している薔薇の学舎生徒に一声かけると、レイディスは園芸倉庫を後にした。
 彼のグループ名は【荒ぶる鋏】という。


「おお、ちょうどよい鋏が手に入ったようだの」
 友人たちを【荒ぶる鋏】に引き込んだ【獅子の妹君】セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、レイディスが調達してきたハサミを見て、にんまりと笑った。
「これでいいか? できるだけ、でけぇハサミ取って来たつもりだけど」
「十分じゃ。さあ、みんな両手にハサミを持ってレッツダンシングじゃ!」
「えっ、もう作戦開始?!」
 小型飛空艇を改造できないかと四苦八苦していた蒼空学園メイドの【マッドサイエンティスト】朝野未沙(あさの・みさ)があわてる。
 未沙は小型飛空艇を装甲板を貼りつけ、ガトリング砲2門を取り付け、エンジンも改造しようと考えていた。
 もっとも装甲板やガトリング砲などが手に入る訳もなく、仮にあったとしても古代文明の産物である小型飛空艇を下手にいじれば、故障して飛べなくなるだけだ。
 また未沙にはガトリング砲を扱う技能は無い。
 もっとも未沙にも改造(?)できた物がある。セシリアのパートナーで機晶姫のファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)の腹にCDプレイヤーとスピーカーを取り付けたのだ。……接着剤で貼り付けただけだが。
 一方でレイディスからハサミを渡され、シャンバラ教導団の月島悠(つきしま・ゆう)は困惑する。悠は遅れて一行に合流したので、まだ詳しい作戦を聞いていなかった。
「わ、私も踊るのか? それに、これをどうやって踊りに使うんだ?」
 戸惑う悠に、レイディスは朗らかに言う。
「BGMに合わせて、ノリ良く飛んだり跳ねたりすりゃ問題ねぇって! ハサミを天高く掲げてシャキンシャキン、左右に跳ねながらシャキンシャキンってな!」
「そうなのか……?!」
 ハサミを手に悠は考え込む。対して、悠のパートナーで剣の花嫁の麻上翼(まがみ・つばさ)は目をキラキラさせる。
「うわ〜、楽しそうですね。うまくできるか分からないけど、ボクも一緒に踊ってもいいですか?」
 未沙のパートナー、機晶姫の朝野未羅(あさの・みら)が翼に笑顔で答える。
「もちろんだよ、翼さん。みんなで踊った方が楽しそうだもんね」
 セシリアがファルチェのCDプレイヤーに、夏らしいイメージのロックのCDをセットする。
「さあ、準備はすべて終わったのじゃ! そろそろ舞台に移動するとしようかのう」


 沼に、それぞれの小型飛空艇や軍用バイクに乗った【荒ぶる鋏】の面々が入っていく。
 まずは人食いヤドカリから距離を置いた所に乗り物を止めた。
 まだ軍用バイクで入れる水深だ。軍用バイクが水没して動けないような深さでは、人間の動きにも制約が出るので、そこまで深い場所にはいかない。
 悠が冷静にモンスターとの距離を目測し、仲間に言う。
「ヤドカリの攻撃が届かないのはもちろん、前進してきても避けることの出来る位置をキープするよう心がけるんだ。奴らは跳躍もする。12〜15m位まで近づかれたら退避した方がいいだろう」
 唯一、小型飛空艇に乗ったままの未沙が、彼女たちの頭上に来て言う。
「ヤドカリの動きは、あたしが見てるよ。危なくなったら合図するからね!」
「心得た。それでは……イッツショウタイムじゃ!」
 セシリアが、ファルチェのCDプレイヤーのスタートボタンを押す。軽快なロックのリズムが流れだす。
「荒ぶる鋏の踊り、とくと見るのじゃ!!」
 【荒ぶる鋏】の面々は、ハサミを天高く掲げると音楽に合わせてシャキンシャキンと動かす。左右に移動しながら、音楽と共に徐々に動きを大きくしていく。
 ファルチェも腹で音楽を鳴らしながら、真面目に踊る。
(踊りも華麗に、優雅にする事が剣士の務め。特にここ、薔薇の学舎ではそう在らなければならないと聞きました。私も全ての技と経験を使い、最高の舞を致します!)
 人食いヤドカリは、一匹二匹とじわじわ彼らに近づいていく。
 音楽よりも、踊りでバシャバシャと立てられる水音や、踊りのかけ声に反応しているようだ。また人間の匂いも、人食いヤドカリを惹きつけていた。
 ハサミを振り上げて踊りながらレイディスが、隣で踊りまくるセシリアに聞く。
「なぁ、セシリア。ほんっとに、これで大丈夫なのか? 段々空しくなってきたケド……」
「余計な事は考えずに、友達になりたいというオーラを全身で表現して踊るのじゃ!」
 その時、頭上の小型飛空挺の未沙が「来るよ!」と叫ぶ。
 一同は身を翻して、斜め後方に停めておいた飛空挺やバイクに走る。先程まで【荒ぶる鋏】が踊っていた場所を、一匹のヤドカリが盛大に水しぶきを上げて駆け過ぎる。
 すぐには止まれず、あらぬ方向に行ってしまう。しかし次のヤドカリが動き出しそうだ。翼はそのヤドカリに、ガトリングガン型光条兵器を発射し、唯一の軍用バイク乗りの悠を援護する。
 このガトリングガン型光条兵器は、一秒間に数十発〜数百発が発射されるが、連射力が変化しても単位時間当たりの攻撃力は変化しない。
 ヤドカリは遠距離攻撃が理解できないのか、弾の来る方向にハサミを突き出して打ち鳴らした。足止めとしては十分に効果が出ている。翼は余裕で、最後に軍用バイクに合流した。
 未羅が口を尖らせて言う。
「ヤドカリ、踊ってくれないね」
「んー、相互理解には、まだ時間が必要かえ……」
 セシリアが首をかしげる。レイディスが校舎の方を指して言う。
「罠を仕かけてる奴らが準備し終えるまで引っかきまわしてやろうぜ!」
「うむ、ではまた場所を変えて踊るとするかの」

 【荒ぶる鋏】は沼の別の場所に移動して、先程のように両手にハサミを持って踊り始めた。
 彼らが囮となって踊りつづけたため、ヤドカリはあまり沼を出ていかない。
 罠を作る者たちは、その間に大急ぎで作業を進めた。
 砕音は援護射撃を切り上げて、機関銃をしまう。


 玄関ホールでは、砕音から多数の信管や金ダライをを入手した【縞騎士中隊】の青野武(せい・やぶ)が、パートナーの守護天使黒金烏(こく・きんう)と共に作業に熱中している。
 金烏は何気なくパートナーの様子を見に訪ねたところ、このような事態になっていた。その驚きも覚めやらぬまま、野武の指示に従って爆薬に加工を施している。
 やはり【縞騎士中隊】ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)が、師匠と慕う野武を手伝っていた。彼は主に、集めてきた金ダライや木材の加工を担当する。
 ジェイコブは光条兵器での作業を考えていたが、光条兵器は剣の花嫁から離れた状態では一分間にSPを1消費する。この時点での彼のSPは14であり、14分しか使えない。そのためジェイコブは、加工しにくい物を中心に光条兵器を使うようにする。

【荒ぶる鋏】が時間稼ぎしている間に、青たちは罠や武器の作成を急いだ。