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リアクション
第9章 パートナー
薔薇の学舎の生徒二人が、同じ学舎生徒のシモン・サラディーを探して校舎内を歩いていた。生徒と言っても、年齢二十代と三十代である。
【間違った耽美主義の追求者】明智珠輝(あけち・たまき)と高谷智矢(こうたに・ともや)だ。
「シモンさん、いらっしゃいませんねえ」
「ショックを受けているでしょうから、心配ですね。ヤドカリが襲ってきても、ちゃんと逃げられるか……」
智矢はいざという時のため、目覚まし時計や花火などヤドカリの注意をそらす物を自室から持ってきている。
二人は、シモンをまず避難させようと彼を探していた。
ニシキゴイが群れ泳ぐ池のほとり。
「やはり、ここか……」
シモンを探しに来た、薔薇の学舎生徒の弩永順(いしゆみ・えいじゅん)が言う。たたずんでいたシモンが身を震わせて、永順を見る。
おびえた様子のシモンに、永順は言った。
「ヘルが手を出した生徒が動き出してる。シモンも……?」
シモンはうつむき、泣きそうな声でつぶやいた。
「頭の中で、ヘルの声が聞こえるような気がするんだ……」
永順はゆっくりとシモンに近づいた。肩に手をかける。シモンが身を翻す。そして永順の胸にすがりついた。
ヘルの声が聞こえたと言うが、操られてはいないようだ。
永順はシモンを落ち着けるように、無言でその背をなでる。しだいにシモンの体の震えが消えていく。
それを見定め、永順は聞いた。
「この前の……話、言わないから。それとも言った方がいいか? 多分、誤解されてるだろ。パートナーに」
シモンはしばらく考え、答える。
「バロムには……僕から話すよ」
そこへ薔薇の学舎生徒の【白馬の王子】シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)がやって来る。彼もシモンを探していたのだ。
「ええと……お邪魔ではなかったですか? シモンさんにお話ししなければならない事があって来たのですが」
シャンテは、永順とシモンに聞いた。
「僕に話?」
シモンは小さな声で聞く。シャンテは永順を見た。永順は「大丈夫だ」と言う様に、うなずく。
シャンテはシモンに、砕音が女子高生に手を出しているという噂はデマであったと、その経緯を説明した。そして言う。
「できれば、共に協力して砕音先生を守ってくれないでしょうか。そして、もしその気があるなら、一緒にヘルを説得してはくれませんか? ただ、もしかしたら、また辛い思いをするかもしれませんが……」
その時、池のほとりへ珠輝と智矢がやってきた。
「こんな所に居たのですか、シモンさん。このような庭では、いつ危険が訪れるかわかりません、共に逃避行いたしましょう……! マイプリンセス」
珠輝は優雅にシモンの手を取り、口づけた。シモンはびっくりして目を丸くする。
智矢が優しくシモンに言う。
「あなたに何かあったら、親御さんや、あなたを大事に思う人が悲しい思いをしますよ。安全な場所に避難しましょう」
だが珠輝が「今ふと思いついた」という感じで言う。
「バロムさんは、ヤドカリ退治に行かれたようですが……。そういえば、私のパートナーのリアさんもヤドカリ退治に向かっているのですよね。回復専門っ子なのに。大丈夫でしょうかね、バロムさんとリアさん……」
すると智矢が、珠輝に言う。
「何を言っているんです。誰もが皆、武器を持って戦えるわけではないんですよ」
二人が言い争いそうになるのを察し、シャンテが困惑した様子のシモンに言う。
「君の気持ちに従って行動してもらえればよいのですよ」
シモンは考えてから答える。
「……まず、電話だったら、ヘルと話してもいいよ」
「それでも、助かります。また、それで君が納得できるのであれば」
シモンは自分の携帯電話を取り出し、ヘルに電話をかける。しばらく呼び出し音が鳴って、ヘルが出た。
「やあ、シモン。やっぱり僕が恋しくなったようだね」
朗らかな調子のヘルに、シモンは感情を抑えた声で言う。
「ヘル……、もうこんな事はやめてくれないかな。同じ薔薇の学舎生徒同士で戦わせるなんて……」
「ありゃ? いつから僕に命令するようになったかな、この子は。立場が逆でしょ?」
シモンは懸命に言い返す。
「僕はもう君の言う通りにはしないよ」
「えー。なに、それ。別れるってこと? ちぇー。じゃあ、いいよ。バイバイ」
電話は一方的に切れた。シモンはバツが悪そうにシャンテに言う。
「……ごめん。なんか全然、説得にならなかった」
「いいえ、辛い中のご協力、感謝します」
永順がシモンの表情を見て、聞く。
「これから、どうする? 俺は人食いヤドカリを止めにいくが……来るか? 死ぬかもしれないのに、すれ違ったままって気持ち悪いだろ?」
シモンはうなずいた。
「うん。バロムには話さないといけない事があるから……一緒に戦って力になりたい」
珠輝は妖しく笑い、シモンの背を押す。
「愛も大事ですが、友情もなかなかに気持ち良いものですよね。ふふ。派手に暴れれば、きっとスッキリしますよ……!」
その頃。ヤドカリにトドメを差し、バロムはひと休憩に入った。
そこに【ワルドゥティーン】の参加者として、要治療者を探しに来た守護天使フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)がバロムに目を止める。
可憐ではかなげな美少年のフィルラントだが、その口からは全ての先入観をぶち壊すようなマシンガントークが流れ出す。
「キミ、まだこんなトコにいたんか?! 今、その身を危険にしてヤドカリと戦う事が、パートナーを放ってまで、キミがやらなあかん事なんか?」
バロムはため息をついて答える。
「シモンなら、好きにやってるんじゃないか?」
だがバロムは、さらなるマシンガントークに見舞われる。フィルラントはガツンと言ってやった。
「ヘルがこないな事をしでかして、シモンがショック受けておらんわけがあらへん!
それは自業自得やとでもぬかすっちゅうわけか? もうシモンの傍にいてやれるんは、パートナーのキミだけやのに」
「……どういう意味だい?」
いぶかしむバロムに、フィルラントは勝ち誇ったように言う。
「ほれ、見い。そんな事も知らんと、キミは勝手に結論づけようとしてたっちゅうわけや。怪我してまう前に、シモンと話してきたらどうや?」
バロムは数秒考える。先程グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)に言われた事も脳裏をよぎる。バロムはすっくと立ち上がり、共に戦っていたリア・ヴェリー(りあ・べりー)に言う。
「ごめん。ちょっとシモンを探しに行ってくる」
言うなり、バロムは駆け出して行ってしまう。
「バロムさん?! シモンさんの所なら、珠輝が……。あーあ、行っちゃた」
肩をすくめるリアを、フィルラントがとりなす。
「いいやないの。これで二人がうまい具合にまとまるなら」
おたがいの元へ向かう途中で、バロムとシモンたちが鉢合わせる。
「シモン! 無事だったか!」
「バロムこそ。ヤドカリと戦ってたんじゃ?」
「いや……。おまえとちゃんと話したいって思って。……?!」
近くで、罠が発動した爆音が響き、大気を振るわせる。シモンは言った。
「僕もバロムに話さないといけない事がある。……けど、もっと静かになって落ち着いてから話すよ。今は……僕たちの薔薇の学舎を守ろう!」
バロムは驚きに目を見張り、それから「ああ!」と微笑んだ。
「遅いよ、珠輝。僕は校長のお仕置きなんか受けたくないんだ」
ずっと人食いヤドカリとの戦いに身を投じていたリア・ヴェリー(りあ・べりー)が、ようやくシモンとバロムと一緒に来たパートナーの珠輝に言う。だが心の中では、きっと彼がシモンを連れてくると信じていた。
「ずいぶんと遅くなってしまいましたが、これで存分に暴れられますよ。く、くふ、ふふふ、くはははははは……!!」
珠輝は狂ったかのように笑いながら、ヤドカリを乱打する。リアは闘い狂う珠輝の背中をサポートし、息のあった戦いを見せる。
シモンとバロムも連携はまだまだながら、協力して戦った。その様子に永順は微笑みを見せ、すぐに真面目な表情に戻して、シモンたちを援護するように戦いはじめる。
対ヤドカリ戦に新たな戦力が加わった。
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