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リアクション
第8章 爆破
「できたぞ! とりあえずは、これだけあれば戦闘に耐えられるであろう」
爆薬を元にした爆弾の製造にあたっていた【縞騎士中隊】青野武(せい・やぶ)が宣言する。それを手伝ったジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)も満足げにうなずく。
「よし! これで試射を行ない威力等を見極めれば、供給可能になるな!」
「うむ。よくぞ、ここまで手伝ってくれた!」
「師匠!」
野武とジェイコブは達成感から、固く抱き合った。
タイミング悪く、そこにシャンバラ教導団の比島真紀(ひしま・まき)が作業の進み具合を見に入ってくる。
「そろそろ完成している頃合でありま……??!!」
真紀は、固く抱き合う二人の男の姿にフリーズする。その視線に、野武とジェイコブも気づく。
「いや、これはだな……」
「じっ、自分は何も見ていないであります!!」
真紀はきびすを返して、走り去った。なにやら誤解をしたようだ。
その後、ジェイコブが試射した後、黒金烏(こく・きんう)が完成した爆弾類をヤドカリと戦う生徒に配ってまわる。
金烏は用法、注意事項などを青に教えられた通りに伝達した。
野武が作り上げた爆弾武器は、以下の通りだ。
・爆薬と薄切りにした金ダライを組みあわせて破壊力を増した物。
・上記を長い棒の先にセ弾をくくり付けて、ヤドカリのカラと体の間に差し込みやすくした物。
・推進薬を加えて、いわゆるロケット花火のように使える物。
・上記をくり抜いた丸太に入れ、発射や狙いをつけやすくした物。
これらにより対ヤドカリ戦は、それまでに比べて安全に、また効果的に進められるようになる。
「歓迎委員会出動だ。思いきり可愛がってやれ!」
ジェイコブは気勢をあげて、爆弾を手にヤドカリへと向かう。
一方、真紀は先程見た事を頭から振り払うように、【スナイパー】の二つ名の通りに精神を集中させてヤドカリに弾丸を撃ち込んでいた。
シャープシューターをマスターしている彼女は、遠い距離にいるヤドカリの体部分を狙うことが可能だ。安全な距離から目標に打撃を与え、自分の周囲にヤドカリが近づけば、すぐに軍用バイクで移動する。
一撃必殺にはならないが、ヤドカリの体力(HP)をそいで弱らせるのは、他のヤドカリと戦う者にとっては戦いやすくなる。
(……そう言えばサイモンの姿が見えないような?)
パートナーがいまだに戦場に現れないことに、真紀は少々不思議に思う。
だが、今は自分にできる事に集中しようと、より狙撃をしやすい場所へとバイクを移動させた。
その頃。比島真紀のパートナー、ドラゴニュートのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は20リットル缶のガソリンタンクを探して、薔薇の学舎校内をあてどなくさまよっていた。人食いヤドカリに投げつけ、そのタンクを火術で爆発炎上させるつもりなのだが、肝心のガソリンがみつからない。
(車庫に行けばあるかな?)
サイモンはそう考えて車庫のありかを探したが、薔薇の学舎の生徒が乗るのは白馬だ。大量の白馬が並ぶ馬房で、サイモンは立ち尽くす。
結局、ガソリンタンクは見つからなかった。
【ワルドゥティーン】に所属するパラ実の国頭武尊(くにがみ・たける)は、ロケット花火状の発射するタイプの爆弾を、リヤカーにいくつもくくりつける。そのリヤカーを彼のスパイクバイクで牽引する。
武尊のパートナーの剣の花嫁シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は、いつもは武尊のバイクの後部座席が定位置となっている。だが、この作戦では彼女が運転を担当する。武尊は後部座席に逆向きに乗り、爆弾の操作を担当する。
シーリルは武尊がリヤカーの準備をしている間に、学舎の生徒から校内の建物配置や、どこに罠が仕掛けられるかなどを聞き、頭に叩きこんできている。
「出るわよ。振り落とされないでね」
「おう!」
シーリルはバイクを発進させ、沼へと向かう。武尊は周囲の生徒に叫ぶ。
「こいつぁ、かなりヤバイから、みんな避けろ!」
リヤカーを引いたバイクは校庭の端から沼の水深が浅い場所にかけて、始めはヤドカリの注意を引くように蛇行運転する。人間の匂いやエンジンの熱と振動にヤドカリが反応して、バイクを追いはじめた。
シーリルは方向転換を繰り返し、なるべく多くのヤドカリを引きつけるようにする。
「そろそろ、やるぜ」
武尊がヤドカリの集まりを見て、言う。シーリルはバイクの向きを変え、爆破に人が巻き込まれないように位置どり、スピードを少し落とす。
武尊は爆弾の導火線に火をつけると、リヤカーをバイクから外して自身の手で支えてヤドカリから狙いが外れないようにする。その間、足だけでバイクにしがみつく。脚だけでなく背筋や腕に大きな力がかかる。
「らああぁ! くたばれ!!」
爆弾が続けざまに発射され、すぐ後ろまで来ていたヤドカリたちを巻き込み、大爆発を起こす。
爆発の威力は凄まじく5、6匹の巨大ヤドカリが一気に沈んだ。もっともリヤカーも破壊され、武尊も火傷や傷を負う。
「武尊、大丈夫?!」
「なぁに、こんな傷、計画のうちだぜッ!」
シーリルが一時的にバイクを退避させ、武尊にヒールする。
一発一発当てるのとは異なり、完全には事切れていないヤドカリもいるが、守護天使クナイ・アヤシ(くない・あやし)がホーリーメイスでトドメを差してまわる。攻撃する時以外は上空を移動するので、他のヤドカリに襲われる危険も少なく、効率的だ。
傷が癒えた武尊はシーリルと座席を代わり、ふたたびヤドカリの引きつけを始める。
今度はヤドカリを、薔薇の学舎生徒の清泉北都(いずみ・ほくと)やクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)がはったワイヤーの罠へと誘いこむ。
武尊は頭を低めにし、爆弾を避けてワイヤーの向こうへと走っていく。彼らを追ってきたヤドカリがワイヤーにひっかり爆発が起きた。瀕死になったヤドカリに、クナイがトドメを差す。
「これくらいの大きさがあれば、よいであろう。他にも穴はあるのだからな」
藍澤黎(あいざわ・れい)が掘られた穴を見て言う。彼の白い制服もすっかり泥だらけになっている。
穴の大きさは、ヤドカリ二匹が入るぐらいだ。深さは3m弱程。巨大ヤドカリは3m飛ぶというが、それは助走があってのものと思われるため、若干浅い。
姫神司(ひめがみ・つかさ)は穴の中に、校内から集めてきた食用油をありったけ入れようとする。だが油はどんどん土に染み込んでいってしまい、なかなか溜まらない。
黎は穴を覗きこむと、司に言った。
「油で煮ずとも火が点く程度にあれば、爆薬を投げ入れて点火させるには使えるのではないか?」
「この状況では、そうするしかあるまいな」
司は油の量を見ながら言った。土に染み込まなくとも、ひとつの穴の半分にも油は満たない。物資は無限にあるわけではないのだ。
司は、油の代わりに水を入れて火術を打ち込んで沸騰できないかとも考えたが、彼らの中にウィザードはいない。いたとしても、火術を水に打ち込んでも、火が消えて水が飛び散る以上の事は起こらないと説明されただけだろう。
司は魔法の箒で飛び回り、沼のヤドカリを惹きつける。箒の後方には、肉片をぶらさげて、匂いでより強く挽きつけを狙う。
案の定、ヤドカリは簡単に引っかかって司を追いかけはじめる。うまく二匹が寄ってきた。
「さあ、こちらに来るのだ」
司は妖しい笑みを浮かべ、ゆるやかなスピードでヤドカリを沼から誘い出していく。
魔法の箒は校舎に向かい、その角を曲がる。司を追っていったヤドカリは、そこにあった穴に二匹とも落ちた。スピードを出していれば飛び越えたかもしれない。
黎はヤドカリが穴に落ちたとたん、火の点いた木切れを穴に投げこんだ。穴の中の油に引火する。火に驚いたのか片方のヤドカリが飛び上がり、そのまま穴の端にハサミでつかまった。
「出てくるなって!」
ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)がそのハサミを蹴りつける。周囲の土もすべって、ヤドカリは穴にまた落ちた。
ジェイコブが下がると、黎は爆薬を二つ、穴に投げ入れる。即座に爆発が起こった。穴の中で爆風が外に逃げにくく、なかば土に埋もれたヤドカリは二匹とも即死のようだ。
「空中を移動できる司殿が囮役ならば、角にこだわらず、もっと土の柔らかい所に穴を設けてもよいのではないか? その方が穴を掘る時間も短縮できよう」
黎が言うと、司もうなずく。
「囮役、問題ないぞ。引き受けよう」
「じゃあ、さっそく次の穴を掘りに行こう」
ジェイコブはシャベルをまとめて、ひょいとかつぐ。
多数いた巨大な人食いヤドカリも、罠により一匹一匹と徐々に数を減らしていった。
薔薇の学舎生徒パンティー教団団員一号(ぱんてぃーきょうだん・だんいんいちごう)は、屋上に避難していた美術教師の一人に頼み、ジェイダス校長に電話をしてもらっていた。
しかし、その教師は爆発音に恐怖心をいや増して声を震わせるので、団員一号が電話を代わる事になる。
「もしもし、お電話代わりました。生徒の砂原かけたです」
ちなみに一号は、学舎の普段の生活では「砂原かけた」と名乗っていた。校長が電話の向こうで言う。その背後から、遠く魔法の破裂音や怪物の鳴き声が聞こえる。
「砂原君、そちらの戦況はどうなっているね?」
「砕音先生指揮の下、みんなで協力して戦っています! 先生の指導のおかげで、死傷者とか全然出てませんし、罠を設置するのもうまく行ってます」
(砕音先生にもっと色々なことを教えてもらいたいよ)
かけたはそう思い、砕音の活躍を校長にアピールするため、熱心に話し続けた。
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