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リアクション
第3章 襲撃?
【ティアーズ・ブレイド】から少し距離をおいた所。
蒼空学園からの研修生、セイバー出水紘(いずみ・ひろし)はナイトのバロムと、バロムに協力するプリースト【ピンクの髪の王子様】リア・ヴェリー(りあ・べりー)、シャンバラ人のナイトクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)と共にヤドカリと戦っていた。
「人々を守るためです。頑張りましょう」
紘が共に戦う仲間に呼びかける。
「人食いヤドカリを絶対に学校の外に出さないようにね!」
クリスティーもナイトとして、仲間の防御に気を使いつつランスを振るう。もっとも、その内心は、パートナーのクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)のせいで穏やかではない。ランスをがむしゃらに振るいながら、クリストファーはパートナーへの怒りがこみあげる。
(あんな奴のことなんて、もう知らない! 好き勝手してボクのことなんてどうでもいいんでしょ。なら勝手に遊んでればいいさ。もしこっちの邪魔をするなら、刺し違えて死んでやるんだから)
ヤドカリが向きを変えた拍子に、殻がバロムの槍にぶつかり、彼は転倒する。
「バロムさん、大丈夫かっ?! ヒールするか?!」
リアに助け起こされ、バロムは答える。
「まだ平気だよ。敵は多いから温存していこう」
「そうか……、でも無理はするなよ」
一方で、紘はバーストダッシュでハサミの一撃を危うくかわす。そのヤドカリに向け、紘たちの後方上部からガガガガッと激しい銃撃音と共に無数の弾丸が放たれる。殻もろとも蜂の巣になったヤドカリが、その場につぶれた。
「ありが……先生、なんです、それ?!」
礼を言おうと振り返った紘は、目にしたモノに唖然とする。
低い屋根の上で、砕音が銃座に設置した大型機関銃を構えていたからだ。経験が足らない者が使えば、銃身を操れきれずにケガをしかねない銃だ。
「機関銃〜。水平に撃って、おまえたちに当たるといけないんで、上から失礼。援護射撃なら任せろ」
爆薬の山といい、大型機関銃といい、よく出てくる。
紘はそれ以上、聞くのも馬鹿らしくなって、目の前のヤドカリに注意を戻した。触角がひくひく動いている以外は、もう動く気配も無い。機関銃の破壊力はすさまじく、鋼鉄より硬いヤドカリのカラも、弾丸が突き通っていた。
「こいつら食えるのかね〜」
「この匂いじゃ、食べたくないな」
離れていても匂ってくるヤドカリの体液に、リアが指摘する。
食べられるならパートナーへの土産にしようと思っていた紘は、少々がっかりした。だが確かに、そんな腐ったヘドロのような匂いでは、食欲も吹き飛んでいく。
「……じゃあ次、行きましょーか」
紘がそう言い、彼らは次に倒せそうなヤドカリを探し始める。
一匹対数人で戦うためには、他のヤドカリから離れている個体を、さらに誘い出して戦うしかない。
砕音は手近な一匹に、弾丸を浴びせる。複数に浴びせるのは、それらが一気に生徒に向かっていく可能性もあるので避けた。
攻撃を受けたヤドカリは、弾の飛んできた方にハサミを振りまわすが、そこには誰もいない。その間も容赦なく弾丸が飛ぶ。ヤドカリはたまらずに向きを変え、逃げようとする。しかし、それでも弾が浴びせられ、ヤドカリは動かなくなった。
「あれ、援護どころじゃないよな……」
バロムが思わずボヤいた。
イルミンスール魔法学校のメニエス・レイン(めにえす・れいん)は魔法の箒に乗って、薔薇の学舎に入りこんだ。魔法学園のコートを羽織り、付いているフードを深めにかぶる。
(さすがに制服が女性物とはいえ、こうしてローブで身を隠していれば、一時的にでも女だとは分からないわよね)
メニエスはそんな事を考えるが、今、薔薇の学舎では非常事態につき、特別に女性も入ることが許可されている。
通用門の所にいる生徒が、その事を伝えなかったのだろうか。
もっとも、イルミンスール魔法学校の制服の生徒が入っていくのを見て、見張りの生徒も(きっと応援に駆けつけたんだろうな)ぐらいにしか思わなかったのだろう。
メニエスは砕音を探すが、彼女は彼の外見を知らない。結局、目に付いた生徒に彼がどこにいるか聞く。
そこで聞かれた生徒も、やはり(応援に駆けつけた他校生が、現場の責任者に挨拶に来たんだな)と思って、答えてしまった。
「先生なら、あの屋根の上にいると思うよ。今は僕らと同じ学舎の制服を着てるから、ちょっと分かりにくいと思うけど」
「ありがとう」
メニエスはなるべく低い声で礼を言い、箒で屋根の上へとあがった。
砕音はちょうど携帯電話をヘルにつなごうとしていた。だが出ない。先程から何度か試しているが、ヘルは出ようとしない。
人の気配に振り返る。ついで蒼の禁猟区が危険を知らせる。
メニエスは素知らぬ顔で砕音に近づいて、やはりなるべく低い声で言う。
「見学に来たんだけど、迷ってしまって。校長室への道を教えて欲しいんだけど」
「はあ?」
メニエスの状況に合わない発言に、砕音がよく分からないという顔をする。
砕音に話しかける内容など適当でよかったのだろうが、メニエスは入口から学舎の現状を見ていなかったのだろうか。今、学舎は突然現れた人食い巨大ヤドカリとの戦いで大変な事になっているのだ。
「ジェイダス校長なら今、留守なんだけどねー」
砕音が困った様子で、校長室の方を見る。
メニエスは(チャンス!)と思う。彼女は砕音を捕まえて、ヘルの指示で動く者に渡そうとしていのだ。
メニエスは砕音にタックルをしかけた。
そのまま押し倒して、火術をちらつかせて「動いたら、その綺麗な顔が黒コゲになるぞ」などと言って脅すつもりだった。
だが、メニエスは自分自身を過大評価しすぎ、同時に砕音をあなどりすぎていた。
砕音が顔をそらせたのは、スキと見せかけて呼び込むためだ。メニエスは簡単にその誘いに乗ってタックルをしかけた。
だが彼女は身長143cmで体重46kgと明らかに小柄、なにより腕力、体力、身のこなしなど、体を動かす能力に見るべき点は無い。まさに駆け出しウィザードで、冒険ではナイトやセイバーが守らなければならないような存在だ。
メニエスの視界から砕音が消え、彼女は腕をひねりあげられて、屋根の上にねじ伏せられた。
「いたたたたたッ?! 痛いッ! 痛いぃぃぃッ!」
「確保したぞっ。ロープを頼む」
砕音はメニエスのマントをまくり、何か危険物を仕込んでいないか確かめた。どんな弱者であろうと、爆弾を仕込んでいる可能性もある。砕音は手加減しない。
蒼空学園の椎名真(しいな・まこと)がロープを持って屋根にあがってくると、砕音は手早くメニエスをロープで縛りあげる。真はいぶかしげにメニエスを見て言う。
「こんなに痛がったなら、操られてるなら正気に返っていい頃だと思うけど……」
砕音も困惑顔だ。
「だよなー。しかもイルミンスールの女子生徒だし」
真はメニエスに聞いてみる事にした。努めて優しい調子で聞いてみる。
「ねえ、君、なんで砕音先生を襲ったんだい? ヘルに脅された? それとも何かワケがあるのかい?」
「……ヘ、ヘルに砕音とやらを渡したら、どうなるか気になっただけよ」
真と砕音は呆れて顔を見合わせる。
「椎名、この子は動けないように縛っておいて、後で処置を決めよう」
メニエスは縛られたまま、適当な教室に放り込まれた。
何もできないまま、ころがっていると、そこに【性帝砕音軍】を名乗る南鮪(みなみ・まぐろ)がやってくる。モヒカンに不良らしい外見の、見たまんまのパラ実生だ。
(性帝陛下の次のターゲットは年上の男か! 流石だぜ、俺にはたやすく真似できない。そこに痺れる憧れるッ!! ……ん?!)
鮪は、床に縛られてころがるメニエスに気づいた。
「おおおぉぉ?! 女子校生! そうか。性帝砕音にふんづかまえられた女子校生ってのは、こいつか! これは性帝が俺におこぼれをくださったに違いあるまい!!」
「な、何なのよ、あなた?!」
メニエスは芋虫のように、ジリジリと床を這い下がる。
「性帝陛下の贈り物に遠慮など無礼! 食わせろやーッ!!」
「キャーーーッッ!」
「こら、暴れるんじゃねえ! とって食うだけだろうが!!」
「あたしが襲うならともなく、襲われるのはイヤよー!!」
両者共に、無茶苦茶な事を言う。
「勝手なこと、言ってんじゃねえ。弱肉強食焼肉定食っつーだろうが! いっただきまー!!」
「誰かーッ!!」
鮪がメニエスの脚をひっつかんで彼女の動きを抑えこもうとしていると、教室に悲鳴を聞きつけた真と彼のパートナー、剣の花嫁双葉京子(ふたば・きょうこ)が駆けこんでくる。
「やめないかっ!」
真の体当たりを受けて、鮪が辺りの机を巻き込んで吹っ飛ぶ。京子は、逃走防止に確保していたメニエスの箒を彼女に渡す。メニエスは縛られたまま、ヒザの間で魔法の箒を挟むようにして飛び立ち、京子が開けた窓から外へと飛び逃げていく。
「あああっ、陛下のおこぼれが逃げていく!! 待てい! 食わせろーッ!!」
鮪が跳び起き、バタバタと教室と校舎を出て行く。そしてバイクに跳び乗り、空飛ぶメニエスを追いかけていく。
「食ーわーせーろーおー!!」
「イヤアアアアァァァ!!」
そんな声が遠ざかっていく。
だが、しかし。やはり、これも最後の南鮪(みなみ・まぐろ)ではなかったのである。
唖然とした様子で真が言う。
「……空を飛んでるから、まあ、大丈夫だよね。それにしても女の子を焼肉定食にして食べようなんて、パラ実はムチャな事するな」
京子は、真の天然ボケに困ってしまう。
(真君てば、食うって、そういう意味じゃないんだけど……。べ、別に私の口から説明しなくてもいいよね)
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