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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

リアクション

 初っ端からものすごく濃く始まってしまった香鈴の占いだが、普通の相談もちゃんと来た。
「片思いの人は素敵な方ですし、周りにも凄い方ばかりで……」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はおずおずとした感じで、香鈴にそう相談した。
「凄い人がいるから、あきらめるのですアルカ?」
「い、いえそんなことは……」
 ぎゅっとロザリンドが自分の手を握る。
「それでもずっと傍にいたいのですが……」
「ではではお悩みの内容は?」
「告白とかデートのお誘いとか、できそうでしょうか!」
「なるほど、できそうかですアルカ。ちょっとおまちくださいアル」
 香鈴はそう言うと、ポイポイポイっと綺麗な石を何か見たこともない絵が描かれた紙の上に投げた。
「あの、これはどのような占いで……」
「香鈴占いある」
「……」
 その占いは何なんだろうと思ったロザリンドだが、大事な質問なので、香鈴の答えを真剣に待つ。
「……強力なライバルがいますアルネ〜。しかもあなたに近しい方で」
「は、はい……」
「でも、告白もデートのお誘いも出来ると思いますアルヨ。がんばってくださいアル」
「ほ、本当ですか? どうすればいいのでしょうか?」
「タイミングを逃さないことですアル」
「タイミング……タイミング……」
 それが一番難しいとロザリンド考え込む。
「も、もう一つ。もし、よろしければ、これからどうすれば好きな人の傍にいられるような人間になれるか教えてくださいませんか?」
「そばにですアルカ?」
 ポイポイポイっとまた香鈴が綺麗な石を投げる。
「そばにいる時間を多く作ってください、と出ましたアル」
「そばにですか……?」
 何か矛盾してるようなと思うロザリンドだったが、うんうん、と香鈴が頷く。
「仲良くなってからはいろいろあるかもしれないけれど、単純に人は接する時間が多ければ多いだけ、良くも悪くも相手を理解しますアル。だから出来るだけ傍にいて、お相手の多くを理解してくださいアル。人は自分のために一生懸命に時間を割いてくれる人を、そんなに嫌いにはならないですアル」
「時間を多く割く……と」
 ロザリンドはメモをして、香鈴の手を取った。
「ありがとうございます、香鈴さん!」
 可愛らしい笑顔を浮かべ、ロザリンドは紅葉を満喫しながら、山を降りるのだった。


 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は香鈴の言葉にグサッと来ていた。
「レーゼマンさんは、お相手のことを見ていない、考えてないですアル」
「…………」
 クリスマスの前に色々整理したい、気持ちを引き締めたいと思って、やって来た占い。
 片思いの日野明との距離を縮めるために、らしくないと思いながらも、占いに来てみた。
 だから覚悟はしていたのだが……。
「『怖い』ばかり思ってるのが、占いに出ていますアルねぇ」
 石をじーっと見る香鈴を見て、レーゼマンは小さく呟いた。
「そうだな、私は……恐れているのかもしれない。彼女が私の手をすり抜けてどこか遠くへ行ってしまうのではないか……と」
「そんなのレーゼマンさんの都合ですアル。片思いのお相手の知ったことではないですアル」
「……私の都合?」
「そうですアルヨ。過去の呪縛を断ち切り、片思いの相手に対してどうすればいいか、というのがご相談でしたアルが。過去の人は過去の人、今の片思いの相手は今の片思いの相手ですアル。過去が断ち切れないのは『現在の相手をちゃんと見ていないから』ですアル」
「……」
 レーゼマンはしばらく黙りこみ、そして立ち上がった。
「……ありがとうございました」
 一礼し、レーゼマンはテントを出ていった。
 レーゼマンが出ると、次にイライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)がやってきて、同じように占いを求めた。
「気になる相手がいるのです。しかし、その相手は他の誰かを気にしています」
 ポイポイポイっと石を投げた香鈴は、それを肯定した。
「はい、その通りですアルネ。で、どうすればいいか分からないと」
「私にはこのような感情は、プログラムされていません。故にわからないのです。私は一体どうすればいいのでしょうか……」
「方法は二つに分かれてますアル」
 指で香鈴が指し示す。
「相手の幸福をわが身の幸福と思って、幸福になるようお手伝いするか。それとも、自分の望みを叶えるために他の誰かでなく、自分を気にしてもらうか。どちらかアル」
「自分の望み……?」
「他の誰かを気にしてるのが嫌なのでありますアルヨ。イライザさんは」
「え……?」
 香鈴の言葉に、イライザは『独占欲』という言葉を覚えた。

 何か業務に身が入らない皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)も香鈴の占いに来ていた。
「金団長の恋人候補かぁ……」
 そんな風に噂されるけれど、実際に接触する機会もなく、進展もない。
 でも、言われれば、やはり意識するもので、なんとなく団長の顔を見るのが気まずい気分になってしまっている。
 色々とモヤモヤが溜まってしまっていて気にかかるので、それを解消すべく、この占いにやってきたのだ。
 実は伽羅の近くには、光学迷彩と隠れ身を駆使して隠れたうんちょう タン(うんちょう・たん)がいた。
(最近、義姉者の様子が少し変でござる……働きすぎではござるまいか?)
 と心配していたところ、一人でどこかに出かけると急に言われて、慌てて皇甫 嵩(こうほ・すう)に相談して、こうやってつけてきたのだ。
 嵩自身は隠れる技がないし、うんちょう殿の報告を楽しみにしている、気づかれたら取りなしてやると言っていたのだが。
 見に行かなくても、嵩は自分の見合いの計略が上手くいったのを分かっているのかも知れない。
(若い者はいいのぉ……それがしも後添いなど考えるとしようか)
 そんなことを思いながら、嵩はうんちょうタンを送り出した。
(義姉者なら普段はこの程度に尾行すぐに気づくのに)
 こんなに近くにいても気づかないことに、うんちょうタンは逆に不安になった。
 そして、伽羅が占って欲しい内容を口にした。
「恋占いを……」
 その言葉を聞いて、うんちょうタンは驚いた。
(義姉者もまた一人のおなごであったか…)
 それと共に一安心し、うんちょうタンは後で結果を嵩に報告しようと思った。
 一方、伽羅は真剣な様子で、香鈴に相談した。
「教導団のエライ人で手が届かない、多忙な人なんですぅ。目つきや口は悪いけれど、その裏にある思いやりは人一倍な人で……」
 そうやって団長の事を話すうちに、伽羅は自分がこんなに団長の事を見ているのだなあと気づいた。
 前ならこんなに団長の事なんて、出てこなかったのに。
 これが意識しているって言うことなんだろうか、と、自分に自問する。
「それで、これはそもそも恋なのでしょうかぁ? 恋だとしたら、これからどうすればいいのでしょう〜……」
 香鈴は石をポイポイポイっと投げて占った。
「恋かは分かりませんアルね〜想いが熟成するまで時間がかかるようですアル」
「熟成?」
「今は恋とまではいかない感情みたいですアル。でも、興味はある。焦らずにゆっくり考えてみてくださいアル」
「焦らずにですかぁ……」
 多分、恋愛という経験がないから。
 普段、電卓を叩く時のように、早い答えを求めたのかも知れない。
「よし」
 金団長への気持ちが、忠誠か尊敬か思慕か自分でも判らない。
 でも、分からないのを無理に答えを出させる必要はないのだと分かって、香鈴にお礼を言って、伽羅はテントを出た。
 そして……。
「えいえいっ」
 と、いきなり雅刀を素振りをして、隠れてるうんちょうタンを叩いた。
「い、痛い、義姉者!!」
 姿を見せたうんちょうタンは、痛がる振りをしながら、伽羅が普段の伽羅に戻ったことを喜ぶのだった。