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リアクション
恋の終わりに
「こんなに綺麗な紅葉ですし、カップル達を見てるだけなんて勿体無いです。真菜さん自身も楽しみましょう」
沢渡 真言(さわたり・まこと)に誘われ、水城真菜は真言と三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)と待ち合わせをして、山に入った。
同じ蒼空学園のソウガ・エイル(そうが・えいる)や樹月 刀真(きづき・とうま)、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)なども学校から真菜に同行していて、非常に賑やかな一行となった。
「主催者の真菜ちゃんも一緒に盛り上がりたいと思って、と思ったのだけど、みんなで集まったら予想以上のにぎやかさになったね!」
「そうだね、良かったよ!
のぞみに話しかけられ、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)も笑顔を見せる。
そんなそばで、教導団の佐野 亮司(さの・りょうじ)は居場所なさげに立っていた。
「真菜を励まそうと思って来てみたものの、これだけ人がいれば、俺の出る幕はないな」
「まあ、いいんじゃないかい、グラサン。枯れ木も山の賑わいさ。紅葉の美しい山で言うのは変かもしれないけれど」
林田 樹(はやしだ・いつき)が楽しげに笑うのを見て、亮司もそうかなあと思う。
しかし、亮司以上に浮かない顔の人がいた。
「……私はなぜここにいるんだ?」
レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は何が起こったのか分からないという顔をしている。
「それは私がメガネが山に登ると聞いて、捕まえる算段をしていたから」
「なぜ、捕まえる算段を!?」
「酒を勧める年齢のやつを探してたんだよ。でも、ヤニ男はデートみたいだったから遠慮しておいた」
樹の友人たちは他にも紅葉を見に来ているのだが、どうやら樹はデートらしい人は連れ去りリストから、あらかじめ省いたらしい。
だが、樹の言葉にレーゼマンも亮司もズーンと暗くなった。
「……どうせ一人ですよ」
レーゼマンが呟くそばで、亮司はセオボルトがデートだと知り、溜息をついた。
「相手はまあ……そうだよな」
気になる相手である月島悠とセオボルトのデートを聞き、多少、気になった亮司だったが、だからといって、気持ちがすぐに切り替わりはしなかった。
真菜のあきらめたいという気持ちは分かる。
自分も似たようなことを考えた時期があったから。
でも、気持ちはなかなか変わらなくて、ずっと想ってきた想いを簡単には捨てられず、すぐに気持ちを変えることもできず。
自分がどう思われているか、良く分からなくても。
「クリスマス、さ……」
「ん?」
「学校のみんなと一緒にパーティとかやれるといいな」
「ああ、そいつは楽しそうだね」
亮司の提案に、樹が面白そうに笑う。
「いや、私は……」
「ああ、メガネ。私、最近、『人間モップ』という技を身に付けたんだが」
「…………」
何かを取り出そうとした樹を見て、レーゼマンが青ざめる。
その様子を見ながら、亮司は
(みんなと、の輪の中でもいい。クリスマスパーティーをやって一緒にいられたら……。そして、その中で自分の気持ちに自分で気づけたら)
と、そんな風に思うのだった。
その頃、荒巻 さけ(あらまき・さけ)はルカルカ・ルー(るかるか・るー)という協力者を得て、教導団に入り、水城真菜の彼氏に会っていた。
「いや、さあ〜連絡しないのはそういうことだって分かってくれないかなぁ」
彼氏は頭をかいて困った顔をする。
しかし、さけはそれとは対照的に、厳しい顔をしている。
「それは本心ですか……?」
「そんなもんだろぉ〜。そりゃ蒼空に居た頃は真菜が好きだったけど、距離が離れれば話す時間も触れる時間も減るし。その時間が増える相手の方が大事になっちゃうって当たり前じゃね?」
「……真菜さんは、この恋を諦めようと、今は、あなたとキャンプで行った山に紅葉を見に行っているのですよ」
「ふうん。それで区切りがつくならいいんじゃないかな。俺もうれしいし」
何がうれしいだ、と、さけは言いたくなった。
同時に、振る側……いや、捨てる側の言葉とは、こんなにも空虚で軽いものなのかと思った。
真菜と彼だって、永遠の愛を誓った時もあっただろう。
あなた以外いらないなんて言って、抱きあったりもしただろう。
でもそれは今やそれは消え去り、傷ついた女の子と、適当に終わらせようとしている男だけがいる。
人は付き合うときでなく、振る時に、その人間性が出るという。
だとしたら……。
「こんな自然消滅を選ぶような男……別れて正解ですわ」
さけは文字通り、石を蹴った。
「行きましょう、ルカルカさん」
ルカルカは目に涙をためて泣くのを我慢しつつ、黙ってさけと共に彼氏の前から立ち去った。
そして、さけが信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)に連絡する間に、ルカルカもクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)に連絡した。
互いの連絡が終わると、さけはルカルカに「紅葉の山、行きましょうか?」と誘った。
しかし、ルカルカは首を振った。
「ごめんね、もう一つ、連絡したいところがあるから!」
「分かりました。それではまた」
さけが手を振って去っていくと、ルカルカは婚約者のところに電話した。
「んん。ただ声が聞きたくなったの」
電話に出た彼の問いかけに、ルカルカはそう答える。
声を聞くだけでホッとして、同時に胸を締め付けられるほどに切ない。
恋する乙女は、いつでも不安で。
『最終兵器彼女』なんて呼ばれていて、どんなに身体的に強くとも。
真一郎を信じると決めていても、ルカルカはちっとも強くないと自分で思っていた。
(会いたい会いたい、こんなに心細い)
一度誓いあったはずの恋が無残にも消えるのを目の当たりにして、ルカルカはそう思っていた。