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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

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「さて、焼きイモが焼けたぞ」
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は焼きイモを取り出し、真菜に差し出した。
「もらっていいの……かな?」
 おずおずと手を出す真菜を見て、ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)がその背中を押す。
「折角の食欲の秋です。食べなきゃ損損ですぞ」
「あ、ありがとう……」
「さ、林田さんも食べてくれ」
「……そんな呼ばれ方普段しないから、なんだかくすぐったいな」
 佑也の呼び方にそう答えながら、林田 樹(はやしだ・いつき)は焼きイモを受け取り笑う。
「うちのジーナが作った弁当があるからさ。良かったら食べてくれよ」
「え? ボクもいいの?」
 目線を向けられ、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が自分を指さして尋ねる。
「もちろんさ、軽く10人前はあるからな。メガネやグラサンがいて、魔法使いのお嬢ちゃんには近寄りがたいかもしれないが、これもいるから安心してくれ」
「いや、私は自分がなぜここにいるのか分からないんだが……」
 レーゼマンが何か言いたげだが、樹は聞こえないふりをしていた。
「こたです。よろしくれ」
 かえるのゆる族の林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が、丁寧に挨拶をする。
「あらあら、可愛い」
 八坂 トメ(やさか・とめ)が楽しそうにコタローの手を触る。
「おべんととおちゃもあるれす。みんなれもみいをみるれすよ」
「そうだね、紅葉見ようね」
 泣くだけ泣いて、だいぶ落ち着いた真菜が微笑みを見せる。
「まにゃがわらってくれるなら、こたもあんしんらーお」
「あんた飲める年齢見たいだな。どうだ、一つ?」
「ああ、それじゃ少しもらおう」
 佑也は樹から渡された日本酒を受け取る。
「いっぱい持ってきたな。どうやって持って来たんだ」
「担いだ。コタロー担ぐのと一緒に」
「……体力あるな」
「そりゃ教導団の踏破訓練で慣れているからな。それにこうやって紅葉の中で飲む酒なら最高さ」
 ニッと樹が笑い、真菜にも日本酒を差し向ける。
「娘もどうだ?」
「え?」
「くだらないヤツのことなど、飲んで忘れるのが一番だぞ」
「こーら、ねーたん」
 真菜に酒を勧める樹をコタローがたしなめる。
「わけてあげるのはおべんとうにするのれす。のみものなら、おちゃをすすめるのれす。のめないひとにおさけあげるのはめーなのれす」
「はいはい、ま、飲める奴が意外と捕まったし、ここは大人同士楽しむとするか」
 樹は佑也と乾杯して、二人でお酒を飲み始めた。
 佑也は日本酒を片手に持ちながら、集まった人たちに焼けた芋や栗を食べる。
「ほら、熱いから気をつけてな。あー、そこの芋、まだ中まで火ィ通ってないから置いててくれ、ラグナ」
「あ、はい」
 ラグナが一度、金串で出したおイモを元に戻す。
「と、真奈、顔に芋ついてるぞ」
 そうやって世話を焼く佑也を見て、樹が笑う。
「父親みたいだな」
「自分でもそう思う」
 樹のツッコミに佑也が苦笑交じりに笑う。
 それに樹は笑みを返し、2人で真菜の方を見た。
「楽しそうで……良かったよ」
「ああ」
 真菜は楽しそうにラグナやコタロー達とお芋を食べている。
 ラグナは話したいことがあったが……真菜の元気な姿を見て、今は話すのをやめておくことにした。
 ラグナが言おうとしていたのは、姉上の話だった。
 姉上を慕うラグナだったが、彼女はずっと自分を姉妹としてしか見てくれず。
 あきらめれば楽になっただろうけれど諦めるのも辛くて……諦める事に苦しむくらいなら、想う事に苦しみたい、と考えていた。
 でも、真菜があきらめることを決めたのを、覆すような、下手すると責めるような真似をするより、ここはゆっくり楽しもうと思うことにしたのだ。
 そんな様子を見て、カレンはボソッとトメに向かって言った。
「恋かあ……」
「どうかした?」
「恋ってしたことある?」
 その問いかけに、トメはうんうんと頷いた。
「あたしも恋人いたよ〜、その人、今はどうしてるかぜんっぜん分かんないけど」
「あ、いたんだ……」
 普段そんな話を語ることがないので、契約してから初めて聞く話だった。
 トメはうんうんとうなずいて話を続ける。
「あたしね、湖のほとりに住んでたんだけど、その人ね、わざわざ湖を渡って、あたしに会いに来てくれてたんだよ」
「へえ、湖を渡って……」
「その人とはらぶらぶだったけど、色々あって生き別れになっちゃった。あれ、死に別れって言うのかな? あたし英霊だし」
 あはは、と笑いながら、トメは普段とちょっと違う表情で紅葉を見上げる。
「その人もこの地で蘇ってるといいなぁって思うけど、でも多分……その人も昔とは違う存在なんだよね、あたしも昔とは違うし」
「昔とは違うかあ」
「恋って多分そう言うモノだよ。毎回自分が生まれ変わるって感じかな〜」
「……生まれ変わる」
 カレンはちらっと真菜の方を見た。
 そう考えると、真菜は生まれ変わったのだろうか。
 でも、そうならば……。
「永遠の愛なんてないのかな?」
 真菜と話した時に「恋をしていた時の気持ちは……今は話したくないかな」と言っていたので聞けなかったが、多分、自分が未知の出来事に出会った時のワクワクするような感覚に似てるのかな、とカレンは思っていた。
 今までいろんな本をたくさん読んでいて、その中には冒険の中に恋があるものもあったけれど。
 でも、カレン自身には恋の経験はなかった。
 恋愛が叶うおまじないがあると聞けば、それこそ色んな事を試してきたし、怪しげな媚薬を作ったこともあるけれど、それは好奇心ゆえに動いたもので、誰かそう言う相手がいるわけではなかった。
 おまじないにしても媚薬にしても、相手を想定したものでなく、具体的な顔など出てこなかった。
「『失恋』が怖いのかな、ボクは……」
 真菜が泣いていた姿を思い出し、カレンはそう思ってしまう。
 恋をした事が無いから、当然、失恋した気持ちも分からないけれど、もしかしたら、それを知りたくなくて、本気で異性を好きになるのを避けているのかもしれない。
 だけど。
「恋をするって事は、失恋する事も含めてかけがえのないものなのかな?」
 そうであるならば、それをすることで、きっと自分の中でも何かが変わるんじゃないかなっとカレンは期待するのだった。