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リアクション
あなたと楽しく秋の山を
「卵サンドとツナサンド。それからこちらは緑茶で……」
「わ、私、あの、軽くつまめるものと思ってサンドイッチを」
お互いが出したお弁当を見て 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と水神 樹(みなかみ・いつき)は笑いあった。
「同じようなの作ってきちゃいましたね」
2人は笑い合い、お互いが作ってきたサンドイッチを食べた。
そして、食後には弥十郎の作ったお汁粉を2人でフーフーしながら楽しんだ。
弥十郎はお汁粉に口をつけながら、ちらっと樹の方を見た。
今日はイルミンスールの制服ではなく、紅葉狩り兼ピクニックと言うことで、動きやすいパンツで、長袖のカーディガンを着て、その下はハイネックという感じだった。
(シンプルで清楚で……似合うなあ)
そんなことを思いながら、弥十郎はリンゴを剥いた。
「弥十郎さん、うさぎ型を作っているのですか?」
「あ、いや、これは。あと少しで完成ですので」
緊張して手を切らないように注意しながら弥十郎が作ったのは、ハート型のリンゴだった。
「わあ、可愛い」
素直に喜ぶ樹を見て、ドキドキしながら、弥十郎はそれを差し出した。
「ええと……」
せっかくのデートだから食べさせたいと思うのだけど、「あーん」という言葉が出てこない。
おろおろする弥十郎を見て。、樹が心配そうに声をかける。
「どうかしましたか……?」
「あ、いえ」
聞かれてますます困り、弥十郎は思わず口走る。
「食べさせてあげたいなと思うのに、なんと言えばいいのか」
「え……?」
弥十郎の口から出た言葉に樹は驚く。
言った弥十郎も驚いたが、そこは樹が頑張って口を開いた。
「あ、あーん……」
ドキッとしながら、弥十郎はその口にハート型のりんごを差し入れてあげるのだった。
その後は2人で、紅葉を見ながら降りた。
「あなたと一緒に来られて嬉しかったです」
樹は赤や黄色の葉をまとった木を見て、照れながら微笑んだ。
「せっかくなので写真を撮りませんか?」
「ああ、思い出になるね」
「すみません、写真お願いしていいですかー」
樹がちょうど歩いてきた渋井 誠治(しぶい・せいじ)とシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)のカップルに声をかける。
「おう、了解。ちょっと待っててな、シャロ」
誠治がカメラを受け取り、樹と弥十郎にレンズを向ける。
「はい、近づいて近づいてー」
誠治がそう笑って言うと、樹は思い切って腕を組んで弥十郎に近づいた。
「え……」
恥ずかしそうにしながらも、弥十郎は樹に腕を組まれるままになり、2人で写真を撮った。
「よーし、もう一枚」
自分たちもデートなためか、テンション高めの誠治が声をかけると、樹は一度、恥ずかしそうに離れた。
せっかくのチャンスだから2人で撮った写真を、できれば近づいて……と思ったのだが、一枚撮ったら急に恥ずかしくなった。
「樹さん……?」
離れてしまって残念なような落ち着いたような気持で弥十郎が、樹を見る。
「はい、お二人さん、こっち見てー」
誠治が声をかけ、俯きがちだった樹が振り向いたとき……。
「あっ」
緊張していた樹が、水に濡れた葉っぱで足を取られ、滑りかけた。
「危ないっ!」
弥十郎が反射的にそれを抱きとめる。
パシャリ。
シャッターが切られる音がした。
「あ……」
今さらになって樹が転びかけたことに気づき、誠治が謝る。
「悪い悪い、写真撮ってる場合じゃないよな」
「い、いえ……自分が悪いので……ありがとうございます」
「どうもありがとう」
樹と弥十郎はお礼を言い、撮ってもらった写真を見て、赤面した。
そこには樹を抱く弥十郎の姿が写っていたからだ。
誠治たちと別れ、山を降りたとき。
すっと弥十郎の手に何かが触れた。
「ん?」
それは樹の手だった。
樹が勇気を出して、弥十郎と手を繋いだのだ。
「くす」
弥十郎は少し照れながらも、その手を握り返す。
2人の体温が伝わりあって、温かい。
「樹さん」
「は、はい?」
自分の方を向いた樹に、弥十郎は空いた手を向けた。
その手が、樹の唇に優しく触れる。
「次はクリスマス。ここは予約ね」
触れられた指と弥十郎の言葉に、樹は真っ赤になる。
「は、は、はははい……」
樹は緊張しながらも頷いた。
そして、二人は駅で別れ、弥十郎は手を振ってそれを見送り。
「…………」
樹の姿が見えなくなった途端、フラフラっとした。
「が、がんばれたかな」
「……いいなあ」
弥十郎と樹が抱きあうのを見て、シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)はぼそっとそんなことを口にした。
「え? いいって何がだ、シャロ?」
「あ、いえいえ」
渋井 誠治(しぶい・せいじ)の問いかけにシャーロットは慌てて首を振る。
「ええと、いいなあ、というか良かったなあって感じです」
「ああ、占いの結果な」
2人は香鈴の占いをしてきたのだ。
結果は『2人の関係はゆっくりゆっくり進展しますアル。もどかしいかもしれないけれど、でも、時間をかけて築き上げたものは、それだけ強固で、崩れにくいものですアル。だから、急がず焦らず、お互いの関係を築いて行くといいですアル』というものだった。
(時間をかけてかあ……)
それは分かるのだけど、シャーロットの心の中はちょっと複雑だ。
2人は蒼空学園とイルミンスールという二大学校の生徒のため、なかなか一緒に行動することがない。
(もう少し関係を深めたいのに)
とシャーロットは思っていた。
一方、誠治はと言うと。
(今日こそ! 今日こそチューを!)
とずっと思っていた。
2人はまだキスしたことがないのだ。
周りにキスしてるカップルがいるのを、誠治は羨ましく思っていた。
始めは誠治がシャーロットから告白されて付き合い出した。
でも、今では誠治はシャーロットにべたぼれで。
あまりに好き過ぎて、少し触れるだけでも恥ずかしいと思ってしまうぐらい、好きで好きでたまらないのだ。
だからこそ占いをしたし、シャロとの関係がゆっくり築かれる分、崩れにくいと言ってもらったのはありがたいかもしれないけれど、でも。
やはり健康的な男子たるもの、ある程度の発展を望みたいのだ。
(一度くらい、やっぱりチューを。く、唇は……時期尚早だ、早い、早すぎる。おでこか頬っぺたにでも……いやいや、は、恥ずかしくてそんな……)
一人、誠治が悶える。
(が、頑張れ渋井誠治! 男を見せろ! ついでにクリスマスの約束も取り付けるんだ! オレなら出来る、出来る! やれば出来る子だって、じいちゃんもばあちゃんも言ってた!)
「あの……誠治?」
一人で握り拳を作る誠治を見て、シャーロットがおずおずと声をかける。
「あ、ああ、シャロ、どうした?」
今までの心の中の盛り上がりを知られないように、誠治が慌てて、顔を向ける。
「え、いえ……紅葉って綺麗で良いですよねぇ。見るの大好きですぅ」
シャーロットが笑顔を浮かべる。
「でも何より、誠治と紅葉を見に来れて幸せなんですぅ」
「シャロ……」
その笑顔を見て、誠治は自分の妄想を振り払った。
このシャロの笑顔以上に、何が必要だろう。
こんなにシャロがうれしそうにしてくれるのに、一緒にいるのを楽しんでくれるのに。「ああ、オレもうれしいぜ」
誠治がシャーロットの手を握り、歩きだす。
2人は仲良く並んで歩き、お弁当を食べられそうな場所を探した。
チーズハンバーグに卵焼き、プチトマトなどの入ったシャーロットのお弁当は、色どりが良く、美味しそうなお弁当だった。
「さすがにその、ラーメン弁当は作れなかったので……」
誠治の口に合うものと思ったが、さすがに誠治がどんなに好きでもラーメンをお弁当には詰められない。
なので、何が口に合うか考えながら、このお弁当になったのだが。
「わあ、うっまそー。いただきまーす」
誠治は喜んでお弁当に飛び付いた。
その様子を見て、シャーロットは喜びつつ、ちょっと考え込んだ。
(「あーん」とかした方がいいんでしょうかぁ)
自分がされるのが苦手なため、悩んだ末にシャーロットはそれは控えて、二人仲良く食べたのだった。
お弁当を食べて、2人で山を降り、お別れになったとき。
シャーロットが誠治にプレゼントを渡した。
「最近寒いですし、良ければ使ってください」
プレゼントは手編みのマフラーと手袋だった。
「わあ、ありがとう、シャロ!」
誠治は感謝し、そして、シャーロットを見つめ。
ちゅっ。
額にキスをした。
「え……」
唇が触れたのに気づき、シャーロットの頬が赤くなる。
「あ、あ、あ、あの」
シャーロット愛しさに思わずしてしまった誠治だったが、自分のしたことに気づいて、シャーロット以上に真っ赤になった。
「あ、あ、あああああああああ、あ、あ、あ、あ」
「あ?」
「ありがとう、シャロ。大事に使うな!!」
誠治は耳まで真っ赤になりながらお礼を言い、シャーロットも真っ赤な顔のまま笑顔を見せた。
「はい、今日はありがとう。楽しかったですよぉ」